電気自動車は冬に走行距離が半分になる?

結論:電気自動車は、ガソリン車と異なり、冬には暖房のため走行距離が減少します。バッテリーヒーターが付いている車両では、冬の走行距離の減り方が少なくなります。バッテリーヒーターなしだと最大40%くらい走行距離が減少します。

電気自動車は冬に走行距離が半分になる?

目次

  1. ヒーターの種類と消費電力
  2. 電気自動車ごとの冬の走行距離は?
  3. どうすれば冬、安心してドライブできる?

ヒーターの種類と消費電力

Heizen oder Geld sparen普段ガソリン車に乗っていると、気温で燃費の変化を体感することはありません。しかし電気自動車では、気温が下がると暖房が入り、その熱を発生するエンジンが存在しないため、バッテリーの電気を使ってヒーターを使います。ヒーターにはPTCヒーターという電気ストーブみたいな方式のものと、家庭のエアコンのようなヒートポンプ式があります。
PTCヒーターの場合は、直接ヒーターに風を当てて空気を暖め、暖まった空気を車内に送風する形式のものと、いったんヒーターで水を温水にし、その温水を循環させ、車内で温水の通っている熱交換器(ラジエーターみたいなものですね)に風を当てて温風を出す形式の二種類がありますが、基本的には同じものです。
ヒートポンプというのは、家庭のエアコンと同じ方式ですので、暖房時は寒い外から熱を取り出し(!!)、それを車内に運んで車内で放出させます。寒いところから熱を取り出す、というと不思議な感じがしますが、そのほうが効率がよいのですよね。熱を生み出すより、運ぶほうが楽だそうです。
両者を比較してみると、PTCヒーターはすぐ暖かくなりますが電費が悪く、ヒートポンプのほうは電費はよいですが、気温が氷点下になるなど厳寒時は効きが悪いと言われています。アウトランダーPHEVのように両方搭載することのできる車もありますし、寒冷地でかなり販売されているテスラモデルSなどは、バッテリー容量が大きいこともありますが、PTCヒーターのみしか搭載していません。

Katze auf der HeizungPTCヒーターにしろヒートポンプにしろ、熱を生み出さないといけないわけですからそれなりに電気を食います。i-MiEVのヒートポンプで2.5-3kW程度、一番大きい車であるテスラモデルSのPTCヒーターは7kWも食います。例えばi-MiEV Mのバッテリーサイズは10.5kWhですから、もし2.5kWを暖房に使うと、4時間強で車は動かなくても、バッテリーは空になってしまいます。モデルS 85kWhモデルでは、同様に7kWを暖房に使うと、約12時間でバッテリーが空になってしまいます。
しかし、PTCヒーター・ヒートポンプ暖房をフルパワーでつけていたら車内は灼熱地獄(古?)になってしまいます。外が寒い冬、最初はフルパワーで暖房しても、すぐに暖房は半分以下のパワーに落とすことができるのです。そのため、暖房を入れると走行できる距離、すなわち航続距離が半分になるということはあり得ません。

PHEVでは、暖房が入るとエンジンを始動して、バッテリーを充電しつつ、普段は捨てているエンジンの熱を暖房に利用することができます。そう、ガソリン車は、走行している間はエンジンがかかりっぱなし(当然!)なので、その間、熱を周りにどんどん捨てています。冬はこの熱をラジエーターから取り出せば、暖房はほとんど追加の燃料や電力を使わずに可能となります。

電気自動車ごとの冬の走行距離は?

Winterfestさて、それでは現時点で販売されている電気自動車ごとの、冬暖房を使った場合の走行距離はどのようなものになるでしょうか?テスラはモデルSの走行速度や気温、暖房の使用時の走行距離を公開していますが、私がいろいろなブログ等を拝見してまとめたデータをご紹介します。なお、数値はメーカーの公開している数値とは何ら関係なく、個人の運転スタイルや気温、暖房の強弱などによっても大きく変化しますので、あくまで参考までに留めていただければと思います。

1車種夏100%航続距離冬100%航続距離冬の減少率
2リーフ170100-41%
3iMiEV X14090-36%
4iMiEV M10070-30%
5ミニキャブMiEV 1612075-38%
6ミニキャブMiEV 10.58050-38%
7BMW i315090-40%
8モデルS 60260200-23%
9モデルS 85380290-24%

この中で、テスラモデルSは冬季の暖房による走行距離の減少が少なくなっています。モデルSは7kWものPTCヒーターを車内用に搭載しているのに、なぜ走行距離が減らないのでしょうか?もちろんバッテリーのサイズが大きいということが一つのファクターとなります。ヒーターに使う電力量は、相対的に他の車より小さくなるということですね。それと、モデルSは日本国内で販売されている電気自動車では唯一、バッテリーヒーターを搭載しています。これは、気温が下がってくると電気を使って暖房しなければならないだけでなく、リチウムイオン電池の性能も低下するからです。
バッテリーヒーターはヒーターだから電気を食う。だから走行距離は短くなるはず?実はそうではなく、バッテリーを温めることによって回復した性能のほうが、温めるのに使った電力量より大きいということなのです。実際、米国モデルのリーフには全車バッテリーヒーターが標準装備されています。ちなみにバッテリーが温かいと、急速充電も高速にできます。

どうすれば冬、安心してドライブできる?

Winter driving暖房の必要な冬、どうすれば電気自動車でできるだけ走行距離を稼いで、長距離を走れるようにできるのでしょうか?
ブログ等でよく見かけるのは、暖房を切って走行、というものです。そりゃないですよね!こちらのブログをよくご覧いただいている方には「そんなの朝飯前」という方もいらっしゃると思いますが、さすがに家族・友人の同意が得られなさそうですから、考えないようにしましょう。バッテリーの残量の緊急時は、暖房を切るとかなり走行距離を稼げる、というのは知っておいて損はありません。

  • シートヒーターやステアリングヒーターをONにしましょう
    シートヒーターやステアリングヒーターは、体に触れる部分を直接暖めるカイロのような存在です。これらは電気の効率が良いため、暖房より圧倒的に少ない電力で暖かさを得られます。温度が調整できる場合は、暑すぎない程度に最大にしてみましょう。
  • プレ空調を活用しましょう
    自宅や充電スポットなどでプレ空調(車をロックした状態で、暖房だけをONにできる)が使える車種の場合は、出発前に暖房の温度を高めにして、「ちょっと暑いなー」というくらいにしておきましょう。おおよそ15-30分で車内は十分暖まるはずです。この時の電力は車外から来ますので、バッテリーが減ることはありませんし、そのために充電時間が多少長くかかっても、走行距離を増やせますので問題ありません。
  • 回生ブレーキを工夫しましょう
    普段より特に意識して回生ブレーキを使いこなしましょう。加速すると、バッテリーのエネルギーが車自体の運動エネルギーに移る、とイメージしてください。急加速してもゆっくり加速しても、大きなロスはありませんので、急加速は電費への影響は少ないです。しかし、そのエネルギーはできる限り、ブレーキをかけて摩擦熱に変換したり、回生してバッテリーに戻さないほうがよいのです。空力ロス+タイヤの転がりロス>回生によるロス>>ブレーキによるロスです。つまり一言でいうと、いったん加速したら、減速はなるべく回生を使わず、アクセルを微妙に調整して自然に減速するようにします。運転の仕方としては、出来る限り先を見て、流れを読みながら、他の方に迷惑にならないように速度を調整するということです(回生電力が0kWに近づくように)。もちろん、減速が必要な時はしっかり回生するなり、ブレーキを踏むなりして減速しましょう。
  • 暖房の温度は低めにしましょう
    プレ空調を活用していれば、最初の30分などはかなり暖房の温度は低めでもいけるはずです。普段より1-2℃下げてエアコンをかけてください。もちろん寒くなったら温度は上げます。
  • 充電完了タイミングを工夫しましょう
    バッテリーは、ある程度の温度範囲に入っているとき、高い性能を発揮できます。暑くても寒くても、本来の性能を発揮できません。冬には、バッテリーの温度も下がります。バッテリーヒーター搭載車では、バッテリーを温めるためにも電力が必要になります。バッテリーを温かくしておけば、バッテリーの性能が高く保てるので、走行距離も伸ばせるのです。バッテリーを温かくするには、充電するか、走行して電気を使えばよいのですが、この充電というのがポイントです。自宅から出発する場合は、出発直前に充電が完了するようにタイミングを取りましょう。充電スポットでは、充電が終わったら車を寒いところに放置せず、すぐ出発すると効率的です。後者はなかなか難しいかも知れませんが、例えば1時間の食事休憩を取るとき、50kWの充電器で30分充電して30分放置より、25kW-30kWの充電器で1時間充電するほうが、バッテリーが冷える暇がなく、電費が向上するのです。

いかがでしょうか?バッテリー容量が少なめの電気自動車では、冬のドライビングに工夫が必要ですね!ガソリンエンジンからの排熱がいつでも利用できるPHEVや大容量バッテリー搭載の電気自動車なら、ほとんど心配ないこともお分かりいただけたかと思います。

この記事のコメント(新着順)7件

  1. 寒冷地に強い東芝SCiB搭載車(アイミーブM)に乗っています。
    半年間乗って季節による変動が大方判ってきましたが…やはり冬はリチウムイオン電池の活性が低下して航続距離が減るんですね。
    冬に自宅からギリギリ到達できた場所(残り表示–)では、春は1/4、夏のエアコン動作時は1/8残ったので、実感落差は13~25%です。
    バッテリーヒーターがないのにリーフほど大きく減らないのはSCiB電池の低温特性の良さでしょう…氷点下でも2%→80%まで15分で急速充電できる高性能電池ですから。
    冬の暖房は後付シートヒーター(シガーソケット電源)で凌ぎます…その有無で電力消費が15%は変わった。
    プレ空調が使えないので、自宅から遠出する場合は出発30分前に空調をかけて15分前に切り、残りの15分で再充電してから出発するなど工夫しています。SCiBだからサイクル寿命は気にしなくていいですし。

    コースティングはいわゆる「電流ゼロ制御」ですよね…電車で言う惰行運転。
    ゲーム「電車でGo!」で遊びまくっていたから勘はつかめました(笑)
    回生ロスは充電効率の絡み…自分の趣味でやってる直流12V蓄電式オフグリッドソーラーでも、ソーラーパネルで発電した電力の7~8割しか蓄電しません。それと同じでしょう

  2. 少し前の投稿でしたが このなかに「回生ブレーキを工夫しましょう」の記事
    ※減速はなるべく回生を使わず、アクセルを微妙に調整して自然に減速するようにします
    ※ の意味が分りません。ご教授下さい。

    1. Terry様、ご質問ありがとうございます。
      回生ブレーキは、車の走っているエネルギー(運動エネルギー)を電気に変換して減速するものです。減速には後二つ方法があります。
      – 普通のブレーキをかける。これにより、運動エネルギーは熱エネルギーに変わり、空気中に失われます。
      – ブレーキをかけず、そのままモーターにもパワーをかけず、ちょうどバランスする位置で滑空するように走行する。これをコースティングといいます。運動エネルギーは、車の空気抵抗とタイヤの転がり抵抗により熱エネルギーに変わります。

      回生では、最初にあったエネルギーの30-50%が失われ、バッテリーに戻るパワーは50-70%に減少してしまいます。普通のブレーキでは、エネルギーは100%無駄になります。コースティングでは?空気抵抗やタイヤの転がり抵抗はそもそも走っているときには必ず存在するものですよね。そのため、交通状況さえ許せば、コースティングは最も効率のよい減速方法となるのです。しかし、コースティングによる減速は、特に効率の良い電気自動車の場合、非常にわずかなものとなります。車間距離を十分維持し、後ろの車に迷惑をかけないようにコースティングすることで電費を向上できます。
      例えば交差点が連続する市内のような場所を走行する場合、前の車を絶対に追い上げず、前の車とほぼ同じ速度で走行し、前方が赤に変わ「りそうに」なったり車が詰まって「きそうに」なったら、即、コースティングにします。このタイミングは、早ければ早いほどよいです。その後、実際に車間距離が詰まってきたら、安全な車間距離を保ちつつ、少しずつ回生ブレーキをかけて減速し、最後は普通のブレーキで止まります。

      もし電気自動車にパワーメーターがある場合、このメーターはゼロを指す状態になるよう、アクセルを微妙にコントロールします。

  3. アウトランダーPHEVですが 走行距離が駆動電池で賄えそうなら EV車として使用する為 強制的にエンジンの稼働が有る気温が5度以上なら 車両の温水ヒーター(3~6KW)を使わず 又エンジン熱を使用しないように エアコンはかけずに 又 エンジンを極力かけないようにする為 車内でセラミックヒーター(900W)を使います。 勿論 高速走行や走行距離が有るなら エンジン駆動で暖房を確保します。

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この記事の著者


					安川 洋

安川 洋

日本アイ・ビー・エム、マイクロソフトを経てイージャパンを起業、CTOに就く。2006年、技術者とコンサルタントが共に在籍し、高い水準のコンサルティングを提供したいという思いのもと、アユダンテ株式会社創業。プログラミングは中学時代から。テスラモデルX P100Dのオーナーでもある。

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