目的地充電とは?なぜホテルや旅館に普通充電器が設置されるのか

目的地充電とは、電気自動車で移動した先の目的地で、目的を達成する間に充電することです。ホテルや旅館、ショッピングセンターなどでの充電が該当します。最近は、ホテルや旅館への普通充電器の設置が相次いでいますが、これがまさに目的地充電です。この記事では、目的地充電の重要性や活用法について書いてみます。

目的地充電とは?なぜホテルや旅館に普通充電器が設置されるのか

目次

  1. 自宅充電と経路充電
  2. 目的地充電の重要性と活用法
  3. 目的地充電の実際と課題

自宅充電と経路充電

電気自動車やプラグインハイブリッド車(PHEV)は、電気を外部から充電してその電気で走行することができます。この充電は自宅で行うのが一般的で、自宅充電と呼ばれています。ガソリン車と異なり、充電には時間がかかりますので、寝ている間に充電しておくわけです。電気自動車の場合、もし出発した時点であと10kmしか走れない「電池が空の状態」だったら、そこから充電しなければならなくなり、予定通りに移動できなくなります。自宅充電があれば、毎朝電気自動車はほぼ満タン(実際には80%-90%程度充電しておくことが多いです)ですので、近距離であれば出かけた先で充電する必要はなく、逆にスタンドに行く必要が全くないので便利です。私もガソリン車に乗っていた時は、冬の寒いときにセルフのガソリンスタンドで給油するのが億劫だったのですが、電気自動車にしてからはそういうのからサヨナラしました。

自宅充電は、電気自動車にとってほぼ必須であるのですが、PHEVでは、ガソリンで走行することも可能ですから、自宅で充電設備がなくても何とかなってしまいます。しかし、自動車が一番長時間置いてある自宅で充電しないわけですから、自宅から出発する時点ではバッテリーはあまり充電されていない可能性が高く、PHEVのメリットである、近距離の移動にはガソリンを使わない、という点を享受できにくくなってしまいます。

経路充電 アクアライン海ほたるPA上り
経路充電 アクアライン海ほたるPA上り

ここで経路充電についても少し説明しておきましょう。経路充電とは、自宅や会社などの、車の常置場所から移動して、目的地にたどり着くまでの間に充電することを言います。自宅や会社では満タンにされているわけですから、目的地が近い場合には経路充電は不要です。となると、往復100km-300km以上の長距離を移動するためにするのが経路充電ということになりますね。
自宅充電では、その日通勤や買い物などで使った分だけを充電しますので、毎日ごく少しずつ充電することになります。それに対して経路充電では、電池が足りなくなったから充電するわけですから、電池は空に近い状態から80-90%まで充電することになり、充電する時間も長くなります。したがって経路充電では、充電時間を短くするためにハイパワーな急速充電器が使われます。比較のために、東京都内のコンビニの契約電力30kWと比べてみると、50kWの急速充電器はコンビニ1.7軒分、テスラが設置しているスーパーチャージャー120kWはなんと一基でコンビニ4軒分の電力が必要となります。
経路充電は高速道路のSAPAなどに多く設置されていますが、高速を降りてからも道の駅や自動車ディーラーなど、様々なところに設置されています。経路充電中の待ち時間は食事時間や休憩に充てるのが一般的ですが、SAPA以外の場所ではパワーが十分でなかったり、営業時間が24時間ではなかったり、お店やトイレ・自動販売機すらもなかったりなどの課題がある場所も。電気自動車では充電計画を事前に立てて、うまく食事や休憩時間に充電できるようにする、ちょっとした工夫が必要となります。

目的地充電の重要性と活用法

テスラの目的地充電設備
テスラの目的地充電設備

往復100-300km以上、すなわち電気自動車の航続距離以上の旅行をする場合、経路充電以外にもう一つ頼りにできる充電、それが目的地充電です。例えば東京に住んでいて、箱根は往復約200km程度となります。日帰りでなく宿泊する場合、旅館やホテルに充電器が設置されていれば、チェックイン後からチェックアウト後までの長時間、電気自動車を充電することができます。これなら自宅充電と同じ、待つことなくバッテリーが満タンになります。もちろん、目的地がショッピングセンター・アウトレット・道の駅などであれば、買い物や食事の間にも充電できるわけです。

それだけではありません。電気自動車に使われているリチウムイオン電池は80-90%までは比較的短時間で充電できますが、そこから先100%までは、さらに時間がかかるのです。そのため、経路充電では80-90%までしか充電しないのですが、目的地充電では時間がありますから100%充電も可能で、これにより航続距離をさらに伸ばすことができるのです。例えば航続距離150kmの電気自動車で先ほどの東京から箱根まで行った場合、目的地充電がないと、目的地到着時点で30分間急速充電しても120kmまでしか回復しないため、家に着いた時には残20kmになってしまいます。目的地充電があれば、家に着いたときに50kmの余裕があり、安心につながります。電池容量の大きい電気自動車では、80%と100%の差は80km以上に及びます。

「ゆうみ」目的地充電設備(J1772ケーブル付き充電器2基)
「ゆうみ」目的地充電設備(J1772ケーブル付き充電器2基)

さて、目的地充電の重要性についてはお分かりいただけたかと思いますが、実際に活用するのはなかなか難しいものです。普通は旅館やホテルを選ぶ場合、充電器があるかどうかでは選ばないですよね?もし、選んだ旅館やホテルに充電器が設置されていない場合、宿に確認してみることもできます。宿によっては200VのEV専用コンセントとまではいかなくても、100Vを連続で使用できるコンセントを貸してくださるところもあります。コンセントを利用できる充電ケーブルを用意しておき、宿に確認の上で利用しましょう。無断で利用すると火災の危険性があります。また、コンセントの配線があまり安全ではない場合、使用するケーブルによっては充電ができなかったり、途中で停止することもあります。私は比較的制限の緩いプリウスPHV用の充電ケーブルを使用しています。
ポイントとして、もし車両側で充電電圧が見られるなら、もし200Vや100Vから5V以上電圧が低くなっている場合、長時間の充電には十分な注意を払うか、そのコンセントは使用しないでください。モデルSの場合には車両側で自動的に充電速度が遅くされてしまいます。電圧が低くなるということは、その分だけどこかで熱を持っているということ。気を付けて充電しましょう。もちろん、EV専用コンセントやケーブル付きの普通充電器などは安全な配線がされていますから、気にする必要はありません。

目的地充電の実際と課題

ゆうみ
ゆうみ

先日、東京から千葉の南房総のホテル「ゆうみ」に行ってきました。東京からはアクアライン通ってわずか90km。アイミーブXやリーフでも自宅から満充電で出発すれば、楽に到着できます。そしてここには目的地充電が!ケーブル付き充電器が2基、そしてテスラ専用のウォールコネクター(WC)も1基設置されています。今回は、他の電気自動車ユーザーがいらっしゃる可能性も考えて、テスラWCを使いました。ちなみに、この普通充電器はJTBコーポレートセールス様が設置、テスラWCはテスラ様が設置しており、JTB様は旅行会社という観点から、テスラ様は車メーカーという観点から、目的地充電の充実に力を入れていらっしゃることがわかります。

ゆうみ ラウンジ
ゆうみ ラウンジ

この「ゆうみ」は温泉リゾートホテルで目の前が海!屋上には露天風呂があり、旅館とホテルのハイブリッドなお宿です。近くには鋸山(のこぎりやま)や鋸山ロープウェー巨大な31mの大仏がある日本寺など観光スポットもあり、今回はこの辺りをうろうろドライブしているうちに残64kmに。チェックイン後、目的地充電を利用させていただきました。ここのテスラWCは200V 80Aなので16kW。数時間で90%まで充電できてしまいます。

「ゆうみ」スタンダードプランに含まれる鮑の踊り焼き
「ゆうみ」スタンダードプランに含まれる鮑の踊り焼き

ここのオーナーは地元の港の入札権をお持ちなので、料理は新鮮な、地元で採れた海の幸。地魚に伊勢海老もアワビもあり!今回は伊勢海老の解禁記念プランを利用したので両方付いていましたが、通常のスタンダードプランにもアワビの踊り焼きが付いている。。何だか尋常ではない雰囲気のお宿です。まだ今年の三月にオープンしたばかりなので内装はモダンで綺麗な感じ。私が宿泊したときはあいにくの雨で何も見えませんでしたが、どの部屋からも正面に浜と東京湾、夕日が見え、晴れていれば富士山も望めるそうです。
翌日の朝食には前日の伊勢海老の頭が味噌汁になって登場。食事をする個室レストランからも海が見えます。

目的地充電中!
目的地充電中!

帰路は南房総をざっとドライブし、道の駅 富楽里とみやまに寄ったり灯台に登ったりしてから、アクアラインで帰路につきました。この道の駅は急速充電器があるのですが、建物の両側にそれぞれ一般道用の駐車場と館山自動車道(有料道路)用の駐車場があり、車は行き来できないようになっており、急速充電器は一般道用駐車場にしかありません。両側から使えるようになっていると便利ですよね。
帰りのアクアラインで、せっかくなので用事はなかったのですが、海ほたるに寄りました。ここは皆さんご存知と思いますが、東京湾上に作られた人工島で、アクアラインは千葉側から橋でこの海ほたるまで来て、ここから海底トンネルで川崎まで行くのです。ここは海ほたるPA上り線になっていて、急速充電器もあります(下り線はこちら)。ここでは充電の必要はありませんでしたが、お試しで充電してみました。

野島埼灯台からの眺め
野島埼灯台からの眺め

今回はスムースにできた目的地充電ですが、課題も多くあります。いくつかを挙げてみますので、電気自動車/PHEVユーザーの方は気にされておいてもよいかも知れません。また、目的地充電の設置者の方がこれをお読みになった場合には、ぜひこれらの課題が出ないよう、ご配慮をいただけますと幸いです。

  1. タイマー設定が無制限になっていない。テスラWCは基本的にタイマーや課金機がついていませんので、満タンになるまで充電ができます。しかし、通常のケーブル付き充電器はタイマー設定で1時間や3時間などで止まってしまうものが!これでは目的地充電の意味がありませんので、宿の方に頼んで時間を無制限に設定してもらってください。設定にはパスワードが必要なことが多いですが、充電器の説明書に初期パスワードが書いてあります。
  2. 充電停止後の課金がされる場合がある。目的地充電では、夜寝ているうち・買い物をしているうちに充電が完了し、充電スポットはそのままチェックアウトするまで・買い物が終わるまで占有するのが基本です。そのため、「ゆうみ」のように2基以上設置されるのが正しいのですが、充電終了後も課金が続いてしまうと、車によっては充電が終了しているのにお金を払わなければならず、理不尽に感じます。目的地充電の場合は、充電終了で課金も停止すべきです。EVsmartでは、判明している限りスポット情報に充電終了後課金の対象かどうかを記載しています。
  3. 充電スポットにガソリン車が駐車していることがある。これは米国の先進的な州では違法・罰金とされているくらい問題なのですが、日本ではまだ広く認知されていません。充電スポットでは、車にケーブルを接続して充電しますので、隣のスポットではケーブルが届かなかったりして充電できません。丁寧に宿の方にお願いして、別の駐車スペースに移動していただけるよう、依頼してみましょう。ある程度電気自動車ユーザーが来訪している施設なら、そのあたりの対応は経験があるはずです。宿の方におかれましては、充電スポットにはコーンや看板・マーキングなどで電気自動車/PHEV用であることを明示し、他の駐車スペースを先に使うよう誘導していただけるとありがたいです。またガソリン車に充電スポットを使わせる場合には、宿泊施設であればキーを預かるなどの対応をしていただくとよいかも知れません。

ちなみに、NCS対応カード(ZESPカード、電動車両サポートカード、JTBおでかけCard等)で課金される充電器は、急速充電器も普通充電器も、旅館やホテル・レストラン等に設置されている場合でも、一般利用が可能です。まあ隣の旅館に泊まっているのに普通充電器だけ使わせてもらう、、というのはなかなか気が引けますが、一応契約でそのように決められている、ということは知っておいて損はないでしょう。

この記事のコメント(新着順)7件

  1. 電気技術者(電工一種電験三種資格保有)としてホテル旅館ペンション民宿オーベルジュ等の電気配線を見ていると家族経営の旅館等が低圧受電であるなど電力事情の良くない施設が数多く見受けられます。
    サイトリンク欄にEVテクニカ100V充電器を張っておきましたが、これなら一泊中動かなければ何とかなる程度の充電ができそうです。大がかりな工事がネックなら、施設が古く電気配線の容量が少なければ100V9A程度で済ませる方法もありますよ!?
    もちろんテスラ車やリーフe+等で満充電は期待できませんが、ないよりはマシでしょう。問題は電気配線で、VVFケーブル1.6mmでは最大17Aの規定がありますが分岐回路であれば発熱も考慮して連続9Aが関の山。他に100V6A電熱器を使えばそれで定数いっぱい、他に負荷があるとブレーカーが飛んでしまいます…既存配線流用が推奨されない最大の理由。
    さらに電気技術者暗黙の了解として、連続負荷を想定する場合は電線容量の半分程度に収めることもポイント。仮に17Aまでなら9Aがギリギリともいえますよ。
    あと600W(100V6A)を境に電気器具の区分も配線施工方法も変わりますので覚えておくといいでしょう。https://www.meti.go.jp/policy/automobile/evphv/material/pdf/guidebook.pdf
    電気のシステムは難しいですが、過去の経験や法令に基づくと判ることもありますよ。

  2. 普通充電も一般利用が可能なのは驚きでした。
    そうなると隣の宿の客が充電することにより、自分が泊まった宿でも充電できなくなるリスクもあるように思います。
    その場合はなかなか納得できないですね。充電も予約ができると良いんですが。

    1. TEKO様、コメントありがとうございます!横から失礼いたします。
      仰る意味よくわかります。なぜ宿泊だからこそ必要なのに使えないのか?これは過去の記事で書いたことなのですが、
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/setting-up-destination-charging/
      旅館やホテルは、普通充電器を補助金を使用せず、自費で設置すべきだと思います。そうすれば予約時に追加のオプションで普通充電器の予約も可能になりますよね。実際私が帰省するときは、自社設置の宿を使います。コンセント一個で充分。

  3. 最近出張や旅行などでEV充電器のある宿泊施設を見かけるようになりました。
    ただ、じゃらん・楽天などの宿泊施設予約サイトにはあまり記載されておらず、さほど重視されていない気がしますが。

    自身は和室を好み、古い木造日本家屋のリーズナブルな商人宿(ビジネス旅館)・民宿を多用しますが…EV充電設備がある宿には巡り合えません.(T_T)
    実際、配線容量が足りない・宿の前の充電スペースが少ない・普段の経営が苦しい…など、自分が見繕っても不利な条件が多く、簡単に付けれる宿は多くないです。
    もし付けれてもタイマー式200V充電コンセント1個が関の山。タイマー設定時間に応じた現金課金(1時間100円とか)にせざるを得ないでしょう。利用する側も事前に電池残量を見て満充電になる時間を予測して申告するのが得策。
    もちろんEVなんて考えもつかなかった時代の設備だから自分の要求に無理があるのは承知ですが…各種都合でEV充電器のある高い宿に泊まれない場合も少なくないはず。
    まして自分はEV充電できる宿がない地域に泊まる機会が多いので、常連になり宿の主人と話が通じるようになれば格安設置のノウハウを教えることになりそうです。
    では。

    1. ヒラタツ様、そうですね、まだまだ認知度が低いので、充電器の重要性も理解されていないように思います。ただ、案外ご存じのホテル・旅館オーナーや支配人の方もいらっしゃるようでして、フロントで聞いてみたり、事前にメールしたりすると、「○○のところにある100Vコンセントなら使ってよいよ」とおっしゃっていただけるケースもあったりします。その際の料金体系について、私は「お金払います」とお伝えしています。
      https://blog.evsmart.net/electric-vehicles/setting-up-destination-charging/
      こちらの記事に、旅館等での料金体系のサンプルを載せていますので、余計なお世話だと思いますが(笑)、よろしければこちらのページを教えて差し上げてください。

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この記事の著者


					安川 洋

安川 洋

日本アイ・ビー・エム、マイクロソフトを経てイージャパンを起業、CTOに就く。2006年、技術者とコンサルタントが共に在籍し、高い水準のコンサルティングを提供したいという思いのもと、アユダンテ株式会社創業。プログラミングは中学時代から。テスラモデルX P100Dのオーナーでもある。

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