中国が化石燃料車工場への投資を規制、新エネルギー車で世界をリードへ

中国政府は2019年1月10日から、化石燃料車工場の新設だけでなく既存工場の増設への投資も厳しく規制し始めました。CO2排出を抑えるだけでなく、電気自動車を中心とした新エネルギー車市場で技術・国際競争力を高め、世界をリードする狙いがあります。

中国が化石燃料車工場への投資を規制、新エネルギー車で世界をリードへ

化石燃料車だけを生産するメーカーの開業は原則的に禁止

世界の経済情報などを伝えるサイト「QUARTZ」が伝えていたように、2017年9月に中国で開かれた自動車会議では、業界を牽引する、あるメーカーのトップが「中国は化石燃料車(ガソリン車・ディーゼル車)を段階的に廃止するだろう」と述べたことがありました。

このとき詳細は語られませんでしたが、この流れが明らかになったのは、「国家発展改革委員会」が2018年12月10日付けで出した「自動車産業投資管理規定」(中国語)でした。この中では、「2019年1月10日以降、化石燃料車だけを生産するメーカーの開業は原則的に禁止する」と規定されています。既存の自動車メーカーが工場を拡張するなど生産能力を増やす場合も、認可は「過去2年間の設備利用率が業界平均より高い場合」などに限る、と厳しいハードルを設けています。

中国はすでに台数で世界一のEV王国になっている。中国政府の公式サイトより転載。
中国はすでに台数で世界一のEV王国になっている。中国政府の公式サイトより転載。

ご承知のように、中国はすでに世界最大の電気自動車市場であり、世界最多の電気自動車・電気バスなどが走っています。電気自動車の普及を強力に進めるため、「都市部でガソリン車・ディーゼル車の新規取得を制限」したり、「電気自動車だけに日本円で100万円にもなる多額の補助金を支給」したりしています。

特に大都市部では、自動車の取得に必須な「ナンバープレート」が抽選制になっていて、なかなか「当たらない」のですが、電気自動車なら取得がはるかに容易になっていますし、「ガソリン車などは通行が禁止されている通行帯を電気自動車なら走れる」といった優遇策が採られています。一見極端な電気自動車優遇策に見えますが、「公害の早急な抑制」と「先端技術で世界を凌駕し、リードしよう」という中国政府の明確な目標がそこにはあります。

今回の新しい規定によって、既存の自動車メーカーがガソリン車・ディーゼル車といった化石燃料車を製造する工場を「拡張」することも難しくなりました。もし拡張したいなら、以下の条件を満たさなければなりません。

1. 既存の製造能力を用いて自動車を製造する際の効率が、産業全体の効率の平均値より高いこと。

2. その自動車メーカーの「新エネルギー車(NEV)」の製造数が、産業全体の一企業あたりの平均生産数より多いこと。

3. 収益のうち少なくとも3%を、研究と開発に費やしていること。

ハードルはこれだけではありません。この自動車メーカーが「世界との競争力があることが認められないと、認可は下りない」としています。ただし、今のところ中国政府の定義する「NEV」には、「電気自動車(BEV)」と「燃料電池車(FCV)」だけでなく、「ハイブリッド車(HV)」も含まれているようです。

Logistics and transportation of Container Cargo ship and Cargo import/export and business logistics,Aerial view from drone top view new cars lined up in the port for import and export.

この規制のハードルはあまりに高く、中国の自動車メーカーでこれを満たすことができるのは、2018年2月にダイムラーの株を大量に買って筆頭株主になったことでも有名な、浙江省をベースとした民間の「吉利汽車(Geely Automotive)」と、中国版「ビッグ5」の一角を占める国営の「上海汽車集団(SAIC :Shanghai Automotive Industry Corporation)」ぐらいのものだろう、と言われています。電気自動車を基軸とした「新エネルギー車」製造でも、中国政府がメーカーをコントロールし続けたい、という意図が感じられます。

メーカー間に電気自動車の「生産数取引システム」を導入

この規制開始とほぼ同時に、中国政府は自動車メーカー間の「CO2排出量取引システム(Cap-and-trade System)」に似た「電気自動車製造数取引システム」とでも呼ぶべき制度も始めました。従来のように電気自動車を製造するメーカーに国が補助金を出す代わりに、企業間で電気自動車の「余剰生産数」と「不足生産数」を売買させることで、利潤確保をインセンティブに積極的に競争させ、電気自動車の総生産数を増やそうという政策です。さらに、この「製造数」は毎年段階的にハードルが上げられてゆくとしています。

EV底面に搭載したバッテリーを固定
作業員がEV底面に搭載したバッテリーを固定しているところ。安徽省にある「江淮汽車集団(JAC Motors)」の工場にて。中国政府の公式サイトより転載。

中国政府としては、化石燃料車の段階的廃止だけでなく、既存の化石燃料車の「売れ残り在庫」をどうするかといった問題にも対処しなければなりません。自動車販売は減速してきています。最近のデータによると、1990年以来膨張し続けてきた中国の年間自動車販売数は、初めて「収縮」を経験する可能性が出て来ました。

2018年11月までの時点で100万台以上の新エネルギー車販売を記録した中国ですが、政府公安部のデータによると、これは道路上の自動車総数のわずか0.6%に過ぎません。新エネルギー車の普及には、まだ長い道のりが残っているようです。

(文:箱守知己)

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この記事の著者


					箱守 知己

箱守 知己

1961年生まれ。青山学院大学、東京学芸大学大学院教育学研究科、アメリカ・ワシントン大学(文科省派遣)。職歴は、団体職員(日本放送協会、独立行政法人国立大学)、地方公務員(東京都)、国家公務員(文部教官)、大学非常勤講師、私学常勤・非常勤講師、一般社団法人「電動車輌推進サポート協会(EVSA:Electric Vehicle Support Association)」理事。EVOC(EVオーナーズクラブ)副代表。一般社団法人「CHAdeMO協議会」広報ディレクター。 電気自動車以外の分野では、高等学校検定教科書執筆、大修館書店「英語教育ハンドブック(高校編)」、旺文社「傾向と対策〜国立大学リスニング」・「国立大学二次試験&私立大学リスニング」ほか。

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