中国製電気自動車 ORA R1 を世界が絶賛! 100万円で200km以上を実現

中国の自動車メーカー『Great Wall』(長城汽車)が、100万円以下で買えて一充電で200km以上走れる小型電気自動車(EV)『ORA R1』を中国国内で発売。世界中で話題となっています。「EVは高価」という常識を覆すORA R1の登場を、はたしてどのように評価するべきなのでしょう。

中国製電気自動車 ORA R1 を世界が絶賛! 100万円で200km以上を実現

たとえば、アメリカのウェブメディア『Clean Technica』は、2019年1月4日付けのニュースとして ORA R1 の発表を紹介。中国国内の補助金制度を利用した場合、約8700ドル(1ドル110円として約96万円)〜約1万1000ドル(約121万円)で発売されることを、驚愕しつつ好意的に伝えています。

『Great Wall ORA R1 — An Electric Car With ~140 Miles Of Range For Less Than $10,000』(Clean Technica)

中国の自動車メーカーは日本であまり知られていません(私自身もあまり知らない)が、長城汽車は1980年代に設立、2003年に香港証券取引所に上場。公式ウェブサイトの会社概要では「China’s largest SUV and pickup manufacturer」を自認するなど、注視すべき実績があるメーカーです。2017年には『ジープ』ブランドの買収に意欲を示しているとしてニュースにもなりました。

公表されている ORA R1 のボディサイズを軽自動車の規格(カッコ内)と比較してみましょう。

全長/3495(3400)mm
全幅/1660(1480)mm
全高/1560(2000)mm

全長と全幅が少し軽自動車規格より大きいですね。軽自動車と日産ノート(全長4100×全幅1695mm)などコンパクトカーとの中間的なサイズです。充電口は、リーフのようにフロントグリル中央のロゴが入ったカバーの中にあります。

33kWh(想定外の大容量!)と伝えられている電池は床下に搭載。最高出力35kW(約48PS)のモーターによるFFレイアウトを採用しています。航続距離は351km(200マイル以上!)と発表されていますが、Clean Technica の記事でも「現実的には140マイル(約225km)程度だろうと推測されています。ともあれ、100万円で200km以上です。モーターが小さいし、条件がよければ本当に300kmくらいは走れてしまうのかも知れません。

軽自動車として市販された三菱i-MiEVのモーターは、軽自動車規格最大の47kW(約64PS)ですから、ボディサイズは軽自動車より大きい(i-MiEVも軽ではなくなりましたが)けれど、モーターのパワーはやや控えめというイメージです。

『ロケットニュース24』さんも絶賛

ORA R1については、かつて『ロケットニュース24さん「電気自動車は今は買い時ではない」への反論?』で取り上げたように電気自動車に関する情報をしばしば紹介している『ロケットニュース24』でも、『これは安い! 中国の車メーカーが約94万円の電気自動車を発売 / デザインもスペックも実用的で言うことなし!!』と絶賛する記事が掲載されています。

この値段、そして33kWhもの電池を搭載したスペックはともかく、デザインも「言うことなし!!」かどうかは、これまた意見の分かれるところですが。

欧米や日本で、こういうブサカワ系デザインの自動車が大ヒットすることは少ないですし、中国においても「価格で勝負!」する、日本でいうなら軽自動車的ポジションのEVということになるのでしょう。

日本では発売されないのか?

ORA R1 の発売は、今のところ中国の国内向けのみと発表されています。日本はもちろん、欧米での発売も予定されていないようです。

そもそも、日本で中国製の乗用車を買うことは、現状ではほとんど不可能です。中国政府が乗用車の輸入を規制していたりするのが主な原因かと思っていましたが、実情としては、中国のメーカーが国内向けの対応にまだ手一杯で、日本の車検に対応した安全基準を満たす検査などをやる気がない、ということのようです。つまり、中国メーカー側の姿勢として、日本の市場は眼中にない、ということですね。

中国製乗用車の信頼性に対する、日本のユーザーの疑念もあるでしょう。実際、中国版テスラと呼ばれ、フォーミュラEに参戦するなど話題になっている NIO でさえ、2018年に国内向けの納車を開始したものの、かなり深刻なトラブルが頻発してクレーム対応や車両の改良に追われていると聞きます。仮に日本の車検に適合しても、日本の幅広いユーザーに支持されるのは難しいでしょう。
(中国や韓国製EVを日本国内で購入する可能性については、別途調べてみたいと思います)

したがって、 ORA R1 が日本で普通に買えるようになることは、当面の間ありません。

軽自動車が一番売れる日本でこそこういうEVを!

とはいえ、中国国内でしか発売されない小さくて奇抜なルックスをもった電気自動車のニュースが、イギリス、アメリカ、ドイツ、スペイン、ポルトガル、ロシア、ノルウェー(ニュース記事のドメインから推察)など、世界各国で発信されて注目され、賛辞を送られているのは事実です。

サイズや出力、値段も軽自動車レベルの ORA R1。考えてみれば、今の日本で一番売れている自動車は軽自動車です。日本には三菱のi-MiEVがありますが、デビューから約10年が経過して、バッテリー容量や車両価格は ORA R1 とは勝負にならない感じです。

軽自動車は「ガラパゴス規格」とも揶揄されてあまり輸出されていませんが、低速トルクの強さが持ち味のEVであれば、世界に通用する「自動車」が誕生する可能性が高い気もします。

おりしも、日産と三菱自工が設立した「NMKV」が、もうすぐ軽自動車の新しい電気自動車を発表するのではないかという噂を耳にしています。軽自動車は日本のお家芸。まがりなりにも、100万円で200kmを達成した ORA R1 のインパクトに負けない、魅力的な軽電気自動車の登場に期待しています。

(寄本好則)

【関連記事】
「世界で最も安い」 電気自動車『ORA R1』のインド進出が世界で話題(2020年1月21日)

この記事のコメント(新着順)16件

  1. ORA R1、i-MiEVに乗る身として車幅は気になりますがその他は手ごろだと思います。
    日産三菱共同開発のeK/デイズ/ルークス等の電動化に期待していますが正直航続距離問題はあるんじゃないですか!?
    とはいえ今まで出川哲郎の電動バイク状態で電池残量ヤバイよ!生活をしてきたから一日で往復する距離範囲さえ把握していれば20kWh程度でも充分実用になる電動小型車はいくらでも作れるんじゃないかと思いますね。一充電で200km走れるなら220万円でもそれなりに売れるはずですし。
    むしろ問題は高額な車両を売れなくした日本の労働者政策や賃金制度などに本質があると思います。非正規労働とかの問題もあるし。
    もうひとつ教育も問題。クルマを悪者扱いしたりバイク3ない運動をしたりが日本国内向けのクルマを売れにくくしたなら政財官の悪事と言えるんじゃないですか!?

  2. 軽と登録車の中間サイズなんかではなく、200mmも幅広い!
    側面衝突からの安全マージンが取れる車幅であることだけでも、軽よりよほど現代的ですよ。
    価格だって、売れ線のハイト系より大分安い!
    PHVに乗ってますが、電気で走る経済性は軽など問題にしません。高価格だけが欠点なんで、これはスゴイ!日本メーカーの開発はどうなんですかねぇ?
    まだガラ軽でいくんですかね?

  3. 気になるのは、テスラのように燃えるバッテリーを利用しているのか?
    補助金を差し引くといくらになるのか?200万円位ですかね。i-MiEVが300万円。
    本当に33kwhあるのか?(中国のバッテリーによくある容量詐欺?)
    時速100km/hなのは、いいことです。とにかく、80km/h程度に抑えないと、空気抵抗で電費が物理的にどうしても落ちますから。

    1. nobubu様、コメントありがとうございます!
      日本を含む先進国で販売する場合、一番大事なのは車体の安全基準をクリアすること。これが、中国製の自動車があまり他の国で見られない理由です。ただ、Kandi
      https://blog.evsmart.net/ev-news/kandi-ex3-nhtsa/
      のように初めて米国NHTSAの安全基準(日本より厳しいです)をクリアして販売開始される車も出てきていますので、そろそろ先進国市場も視野に入ってきているかもしれません。価格は衝突安全性を強化することで高くなると思いますが、まだ発売が決まっているわけじゃないので何とも言えないですね。

      リチウムイオンバッテリーの安全性については、結局エネルギー密度との兼ね合いになっています。パナソニック・テスラが使用しているリチウムイオン電池はNCAであり、他社はすべてNMCですが、NMCにもいろいろな種類があり、NCAと同等のエネルギー密度を得ることはできていませんでした。これがテスラと同時期に他社が同等の電気自動車を開発できなかった理由の一つです。しかし各電池メーカーはNMC811というケミストリーにシフトしていっており、NCAと同等以上のエネルギー密度を達成しようとしています。
      ただ問題なのはNMC811はやはりNCAと同様に、安全上のリスクを抱えています。そのため、ここ数年で多くの電気自動車に使われるNMC811は、火災のリスクは多少なりとも受け入れたうえで使用されると考えられています。「釘を刺しても安全」なんて誰ももう言いません。
      リスクはリワード(利益)と必ず連動します。例えばスマホに使われているリチウムイオン電池はLCOで、当然釘を刺したり折り曲げたりしたら発火し、爆発します。じゃなんでスマホに、LCOより安全なNMCが使われていないのか?様々な理由がありますが、コストやエネルギー密度などもその理由に挙がります。

  4. 中国製の電気自動車は低価格ですね。これが世界市場に何れは広まるのではと思います。電気自動車の充電料金も安いですし、オイル交換の必要もないですからランニングコストは安上がりになりますね。公害もないし、地球温暖化対策は世界の課題ですから電気自動車は普及させなければならないことです。電気自動車の自動運転も市内なら安全にできそうですね。お年寄りにも乗れるとしたら高齢化していく世代に買い物の不安がなくなりますね。世界に普及している電気自動車に日本も頑張って欲しいです。

    1. 奥田竹志さん、コメントありがとうございます。

      私見ですが、たとえばドローンがエンジンだったらこんなにブレイクしなかったでしょうし、乗り物としてEVの優位は疑いようがないところまできていると思います。別に、ライフスタイルに合った中華EVが安く買えるようになるならそれでもいいのですが、将来的に、私たち日本人が豊かに暮らしていけるようにするためにも、自動車メーカーや電力会社、インフラ設置(ことに高速道路)関係者には、現実をかみしめてほしいと感じます。

      微力ですが、吠え続けるので、一緒に吠えましょう!

  5. 杉原さま、コメントありがとうございます。

    日本でEVがなかなか普及しない最大の要因は「車種のバリエーション、選択肢が少ないこと」だと思っています。日本メーカーの軽EV、個人的にはとても期待しているんですけどねぇ。

    1. 日本でEVがなかなか普及しない最大の要因は「車種のバリエーション、選択肢が少ないこと」ではなく、価格が高くガソリン車より欠点が多いことだと思います。例えば、価格は電池分高価です。それは、100万円以上です。
      そして、電池分に応じた航続距離しかなくて、充電にも時間がかかります。
      中国では、国策でEV普及への政策補助金を色々ばら撒いています。それで、高価の欠点を打ち消しつつあります。
      現実というか、世界各国の仕組みを理解しながらコメントしましょう。

    2. 川村さま
      コメントありがとうございます。
      >価格が高くガソリン車より欠点が多いことだと思います。
      という点、たとえば、日産のリーフe+は約416万円〜、個人的にエンジン車で同車格と感じるスカイラインも、約416万円〜です。スカイラインを舐めるなということでティアナと40kWhモデルのリーフを比較しても、価格帯に大差はありません。EVが高価という印象は、大容量電池を搭載した高級車が目立っているからではないでしょうか。

      航続距離や充電はさほど重大な「欠点」とは思わないので、エンジン車より長所が多く欠点は少ない、とも感じています。主観的なことなので、意見が違ってもやむを得ないところではあると思いますが。

      ともあれ、すでに大衆車EVを発売できる状況になっているのに、日本メーカーからポンと膝を打つような「提案」がないことを、じれったく感じています。

  6. 今の日本では中国の車はパクリカーというイメージだと思いますが、急激な進歩を遂げていると思います。中国が本気で輸出しだしたら、他の家電や電子機器、通信機器のようになってしまうのではと思っています。日本の自動車メーカーも売れるからではなく一歩先行くような車を出してほしいです。

    1. 内藤さま、コメントありがとうございます。

      同感です。

      いっそ中国製であっても、より多くの人が買いやすいEVが増えるといいなと思いますし、EVならではの使い方、社会的な機能(お手軽V2Gとか)を提案してくれるプロダクトの登場に期待しています。

  7. やはり中国のメーカーが先行、注目してます。アッパレです。
    日本のメーカーにはEV軽は期待出来ませんが、早く日産、三菱両社からの発売に期待したいと思います。
    ORA R1サイズならパッソ、EVならあの3気筒エンジンにうんざりする事も無くなります(笑)

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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