フォードが1400馬力のEV『マスタング・コブラ・ジェット』を公開

2019年11月に電気自動車(EV)「マスタング・マッハE」を発表したフォードが、今度はプロトタイプのEVドラッグレーサー「マスタング・コブラ・ジェット 1400」を発表しました。ゼロヨン8秒以下を目指します。CleanTechnicaから全文翻訳記事をお届けします。

フォードが1400馬力のEV『マスタング・コブラ・ジェット』を公開

元記事:Introducing Ford’s 1400 HP All-Electric Mustang Cobra Jet by Jo Borrás on 『CleanTechnica

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最大出力1400馬力、最大トルク1100ft-lbsのモンスターEV

フォードは昨日(2020年4月23日)、破壊力のある情報爆弾を投下しました。それは、これまででもっともパワフルなマスタングです。ほんとに、なんて車なんだ!

最大出力1400馬力、最大トルク1100ft-lbs(約1491Nm)を詰め込んだマスタングは、まったく音を立てずに停止状態から時速170マイル(約274km/h)までわずか8秒でぶっとびます。ホンモノに会える、フォード初の電動マスタング、コブラ・ジェット(Mustang Cobra Jet)1400です。

もちろん、読者のみなさんは「マスタング・マッハE」がフォード初の「現実」の電動マスタングだと主張することはできますし、フォードはあなたがそう信じていることをとても喜ぶでしょう。

でも中には、マッハEはマスタングのスポーツカーとしての偉大な歴史を利用して、オーバーサイズの、ミニバンの必要性に反発する若いファミリーのための太りすぎの電動 “クロスオーバー” をつかませようとする悲観的で高価な粗悪品だと言う人もいます。

もしあなたが後者の、より感情的で擬人化する傾向があるグループに属する場合、このコブラ・ジェット1400は重要な電動マスタングです。そして(私を信じてください)フォードはこれを、100%正しい車にしたのです。

フォードGTやコブラ・ジェットを担当するフォード・アイコン部門のグローバルディレクター、Dave Pericakは、次のように述べています。

「フォードはいつも、技術革新を実証するためにモータースポーツを利用してきました」

「電動パワートレインは、私たちにまったく新しい種類のパフォーマンスを提供します。そして完全電動のマスタング・コブラ・ジェット1400は、新しいテクノロジーを絶対的な限界まで押し上げるひとつの例になります」

「私たちがマスタングファミリーに全電動のマスタング・マッハEを追加したエキサイティングな年に、何が可能かを提示できることに興奮しています」

The battery-powered Mustang Cobra Jet 1400 prototype is purpose-built and projected to deliver over 1,400 horsepower and over 1,100 ft.-lbs. of instant torque to demonstrate the capabilities of an electric powertrain in one of the most demanding race environments.

まるで別次元のEV

記録をつけている方たちに伝えたいことがあります。新しいフォード・マスタング・コブラ・ジェットはすでにゼロヨンで、最も新しいハイブリッドフェラーリのフラッグシップモデルや、もうすぐ登場する電動ハイパーカーのロータス・エヴァイヤ、テスラが開発途上のロードスター2.0について主張しているもっとも楽観的な数値すら、上回る速さがあることを証明しています。

つまりこの車は、信じられないほど速いのです。最も似ていてもっとも自然な競争相手、ワンオフで作られた電動のシボレー eCOPOカマロと比較しても、コブラ・ジェットはまるで別次元にいるように見えます。

フォードよ、よくやってくれました。ヘンリー(・フォード)、リー(・アイアコッカ)、そして神は、あなたたちに微笑んでいます。

フォード・パフォーマンス・モータースポーツのグローバルディレクター、マーク・ラッシュブルックはこう言います。

「このプロジェクトはフォード・パフォーマンスの私たち全員にとって挑戦的なものでした。でも私たちは、挑戦に飛び込んでいくことが大好きなのです」

「私たちはコブラ・ジェット1400のプロジェクトについて、私たちがすでにたくさんの経験を持っているレーシングカーのパッケージの中に、電動パワートレインを組み込むための開発をスタートするチャンスだと考えていました。私たちは、いますぐに戦って勝ちたい性能のベンチマークを持っていたからです」

「これは素晴らしいプロジェクトになりました。そしてフォード・パフォーマンスから、たくさんの「初」のことが生まれることを願っています」

ゼロヨンを8秒以下、270km/hで走り抜ける

下に掲載した初公開のビデオでは、まったく音のしない8秒間、1/4マイル(約403m)のティーザーだけですが、ショッキングな走りを見ることができます。

Introducing The All-Electric Mustang Cobra Jet 1400

フォードは4月26日に、より多くの情報と真新しいビデオを公開します。それまでは、あなたがこのプロジェクトをどう感じたか、そしてラスベガスで行われるコブラ・ジェット対テスラ・ハイパーポッドのドラッグレースでどんなオッズがつくと思うかについて、コメントをください。楽しんでください!

耳が痛くなったり、一滴の燃料も使ったりしませんが、これは1/4マイルを8秒以下で走り、170mph(約274km/h)以上をたたき出すプロジェクトです。

史上初めて、フォード・パフォーマンスは完全な電気駆動のファクトリー・ドラックレーサー、1台限りのマスタング・コブラ・ジェットをお披露目します。

バッテリー駆動のマスタング・コブラ・ジェット1400プロトタイプは、最も厳しいレース環境の中で電動パワートレインの能力を証明することを目指し、出力1400馬力、瞬間最大トルク1100ft-lbs以上を引っ張り出すプロジェクトのための専用設計なのです。

ドラッグレースはEVの天下になりそう

ここからは訳者の木野の個人的な感想です。木野が初めてEVのドラックレーサーを見たのは、確か1996年でした。土曜日の夜に、アリゾナ州フェニックスにある、フェニックス・インターナショナル・レースウェイに併設されたドラッグレース場に集まった車の中に、その車はいました。

名前は確か、「デニス・キロワット」でした。週末のドラッグレースはアメリカ人のお祭りです。デニス・キロワットも、地元のおっちゃんが手作りした、いわゆるコンバートEVでした。といっても、形はドラッグレース専用の、ロングノーズに小さなフロントホイールがついたスタイルです。

当時は、一般に手に入る電池は鉛電池しかありません。デニス・キロワットは、オプティマの電池を大量に搭載していました。さらに、当時としてはえらく高電圧のシステムだった気がします。

これが、一般のドラッグレーサーと同じクラスに出場していたのです。当時は、手作りコンバートEVでも、トヨタやホンダ、GMが市販していたEVでも、電池の性能から航続距離はたいして長くありません。でも400mだけを走るなら、十分な容量があります。そのことを実証していました。

デニス・キロワットのタイムは、正直なところ、覚えていません。10秒前後だったような気がします。ところでこのレースには、日本から6輪のEVカートを手荷物で持ち込んだ若者が2人、参加していて、15秒前後のタイムを記録しました。

ヒューン!というモーター音やギアの鳴る音、タイヤノイズだけを残して400m先に消えていくEVドラッグレーサーの衝撃は今も胸に残っています。

その後、たくさんのメーカーや個人がEVでドラッグレースに参加してきました。この、ムスタング・コブラ・ジェット1400は、もしかしたらその最高峰になるのかもしれません。

記事を翻訳して気がついたのですが、アメリカ時間4月26日に、ラスベガスでテスラと対決するようです。もし結果がわかったら、ご紹介したいと思います。

最後に、デニスの写真がないかと思って探したら、ありました。正式な名前は「Dennis “Kiiowatt” Berube」なんですね。これは2007年の記事ですが、タイムは、7.956秒となっています。速度は約160mph(約257km/h)ですね。アタマのネジがとんでます。

Dennis ‘Kilowatt’ Berube sets world record for fastest electric dragster

(翻訳・文/木野 龍逸)

【4月29日追記】
本文中に「4月26日にフォードがビデオを公開」とある部分について、走行シーンを収録したビデオが有料会員向けに公開されていました(Motor Trendの記事にリンク)。フォードの公式発表では、マスタング・コブラ・ジェット1400は2020年後半にお披露目されることになっているので、現時点でこれ以上の情報が出てくることは考えにくいかも知れません。

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この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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