ヤマト運輸がDHL傘下企業とEVトラックを共同開発、の「謎」を解く!

3月27日、ヤマト運輸が「ドイツポストDHLグループ傘下のストリートスクーターとヤマト運輸が日本初の宅配に特化した小型商用EVトラックを共同開発」というニュースが飛び込んできました。「日本郵便が電気自動車1200台を導入」に続き、連日の気になるニュースです。ヤマト運輸のニュースに関しても、一般紙などでの報道では「謎」がたくさんあったので、ヤマト運輸広報戦略部に質問してみました。

ヤマト運輸がDHL傘下企業とEVトラックを共同開発、の「謎」を解く!

2019年度中に500台を導入

まず、リリースされた情報を整理しておきましょう。

ヤマト運輸株式会社は、ドイツDHLグループ傘下のストリートスクーター社(本社:アーヘン※以下STS)と小型商用EVトラック(新型電気トラック)を共同開発し、3月27日に購買契約を締結。2,019年度中に500台の導入を予定しており、首都圏の一都三県(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県)で秋以降、順次稼働させます。

ヤマト運輸ニュースリリースより転載。

導入車両スペック

公表された車両のスペックを、参考のため日産『e-NV200』の2人乗りバンタイプと比較して表にしてみました。

ヤマト運輸 新電気トラック日産 e-NV200
全長4,700mm4,560mm
全幅1,830mm1,755mm
全高2,250mm1,855mm
車両重量非公表1,590kg
車両総重量2,850kg2,250kg
最大積載量600kg550kg
車両価格非公表約396万円(税込)

発表された車両イメージにあるように新型電気トラックはボンネットタイプで、e-NV200とはボディ形状が異なりますが、車両のサイズなどを比較してみると、e-NV200よりひと回り大きいことがわかります。一点、公表されていた「車両重量」が2850kgとやたらに重いのがまず最初の「謎」だったのですが、広報戦略部から車両開発の担当に確認していただいたところ、積載量や乗員を含む「車両総重量」の間違いだったことが判明。スペック表の表記を修正しました。ヤマト運輸からのリリースも、週明け(この原稿は週末の3月29日に書いています)には修正されるそうです。

導入の背景

ヤマト運輸では2017年から「働き方改革」を経営の中心に据えた「デリバリー事業の構造改革」を行っています。その一環としてアンカーキャストと呼ばれる配達業務を行う契約社員など多様な人材の採用を進めており、安全性・操作性・作業性に優れ、地域のオペレーションに最適な大きさの「働きやすい車」の開発と導入の検討を進めてきました。

今回の導入車両は小型で扱いやすいことを重視して開発。中型免許を保有していないドライバー(つまり普通免許で運転できる)でも乗れる車両とすることで、働き方改革の推進と集配キャパシティの向上に向けた体制構築をさらに加速させる狙いがあるということです。

また、電気自動車を導入することには、CO2排出量や走行時の騒音の低減という意義があり、電気自動車ならではの自動運転やAI機器搭載との相性の良さを活かし、環境課題の解決と次世代の物流構築をリードし、持続可能な社会の実現を目指すとされています。

導入車両に関する「謎」を質問してみた

ヤマト運輸では、2017年度に三菱ふそうの電気トラック『eCanter』を導入するというニュースもありました。

【ヤマト運輸ニュースリリース】
『ヤマト運輸が三菱ふそうの電気小型トラック「eCanter」を導入』

国内宅配業者の最大手であるヤマト運輸が電気自動車導入に積極的な動きを示すのは、素晴らしいことだと思います。とはいえ、日本国内にもさまざまな自動車メーカーがある中で「どうしてこの会社なのか」を始め、リリースや一般紙の報道だけではまだまだ「謎」がいっぱいです。発表直後で多忙なご様子でしたが、ヤマト運輸株式会社広報戦略部に電話でいろいろと質問してみました。

搭載電池容量と一充電航続距離は?

「電池容量は公表していません。航続距離については、7時間の充電で100kmの実用となっています」

各営業所に整備していく充電設備は急速充電ではなく200Vの普通充電ということです。一般的な3kWでの充電とした場合、7時間で充電できる電力量は21kWh。電費が5km/kWhとして航続距離が105kmです。とはいえ、今回の開発車両は冷蔵と冷凍、常温という三温度輸送にも対応しているとのこと。冷凍庫などの消費電力を考えると電気が足りなくなりそうです。ということは、6kWで7時間、42kWhの電力で電費が2〜3km/kWhくらいでの運用を想定していると考えたほうがよさそうです。その場合、搭載している電池容量は50kWh程度ではないかと予想できます。
(EVsmartのFacebookページにて「冷蔵冷凍庫には駆動用電池からは電源供給しないはず」とご指摘をいただき、ヤマト運輸広報戦略部に改めて確認しましたが、その点を含めまだ開発中であり最終的な仕様は公表できる段階にないというお返事でした。電池容量などはあくまでも私の推察であることをご了承ください)

1台あたりの車両価格は?

「車両価格も非公表です。ただ、500台の新型車両と各営業所に設置する充電設備の合計で、約40億円であることは発表しています」

報道によると、充電設備を整備するのは首都圏の営業所約100カ所が予定されているようです。充電設備の設置コストは少し余裕をみて1基15万円、営業所1カ所に5基設置するとして、15×5×100=7500万円です。大雑把で恐縮ですが、約40億からなんだかんだでざっくり1億円は充電設備。車両コストは残り39億円で500台、ということで、39億÷500=1台当たりの車両価格(諸経費含む)は、約780万円程度ではないかと思われます。

これまたざっくりと1台当たりの車両本体価格は750万円程度と考えると、宅配用の特別装備の価格や独自開発にかかったコスト、燃料費などの維持コスト軽減のメリットなどを勘案すると、なるほど、理にかなった導入計画であることが理解できます。

なぜ、STS社との共同開発だったのですか?

「今回、普通免許で運転できる小型商用トラックを検討するに当たり、国内外に適当な車種がなかったことが、独自開発を選択した理由です。STS社との共同開発に至ったのは、STS社がドイツDHL(国際的な物流企業)グループの傘下企業で、DHL社向けにすでに多くのEVトラックの納入実績があったこと。また、物流向けの小型トラック開発の知見とノウハウがあり、ヤマト運輸からの要求にレスポンスよく応えていただけたことが理由です」

ストリートスクーター(STS)社は、DHLが自社で使用する電気商用車を生産するために傘下に収めた生産子会社で、ドイツのアーヘン工科大学から立ち上がったベンチャー企業。2018年6月、日刊工業新聞によるファビアン・シュミットCTOへのインタビュー記事によると「1車種あたり1万~2万台の生産規模で、個別企業のニーズに合う車をゼロから生産できる」ことが同社の強み。「モーターやインバーターは外部調達。電池はセル単位で購入し、自社でシステムを組み立てている」とのこと。

現在、ドイツでは約7000台のDHL向け車両がすでに走っていて、全ての車両を電気自動車に更新する計画を推進するDHLのために、年間3000〜8000台を生産。さらなる新規顧客を獲得して企業として成長することを目指しています。

インタビューの中でシュミットCTOは「日本は海外と比べ冷蔵や冷凍輸送が活発で、体の大きさも違う。DHLのように、ビジネスの基盤になる企業を探したい」と述べています。その基盤となるパートナーが、ヤマト運輸だったということですね。

共同開発した車両の具体的な「強み」は何ですか?

「普通免許で運転できる小型商用車であるということはもとより、運転席への乗降時に身体への負担を軽減したり、荷台をあえて高めにして荷扱いの際の腰への負担を軽減するなどの工夫がされています」

リリースを見ると、荷台ボディに錆びることがなく傷に強い着色プラスチックが使用されており、ディーゼル車に比べてメンテナンス費用が削減できることなども、この車両の特徴として挙げられています。

自動車のビジネスモデルも激動期!

「今回の新しい小型EVトラックは従来の車両を置き換えるのではなく、新しい車種として追加するものです」という広報戦略部ご担当者の言葉も気になりました。宅急便の配送といえば2トントラックか軽トラックという常識(思い込み?)さえも、ベンチャー発の電気自動車によって覆ろうとしているのかも知れません。

個人的に、このニュースから感じるのは「日本メーカーは何してるんだ?」ということです。商用EVトラックとしてはヤマト運輸も導入した三菱ふそう『eCanter』が孤軍奮闘しているという話を地方の運送業者さんの状況として伝え聞いたこともありますが、宅配最大手であるヤマト運輸のニーズさえ見過ごしているという状況に、激しいじれったさを覚えます。

少し話が飛びますが、テスラ社は従来のディーラー網を軸にした自動車販売という常識をすでに過去のものにしてしまいました。今回、ヤマト運輸が導入するのはまだわずか500台です。でも、これから様々な業種や企業で多くの電気自動車が導入されていく中で、採用されるべき日本メーカー製の電気自動車はまだ存在していないといっていいでしょう。このニュースから読み取るべき最重要ポイントは「自動車のビジネスモデルは、電気自動車によってすでに大きく変貌している」ということではないかと思います。

【関連記事】
『日本郵便が集配車に電気自動車1200台導入「その先」を考えてみる』

(寄本好則)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 今、ヤマトは働き方改革の一環で、午後からラスト(21時)までの契約社員ドライバー(アンカーキャスト)を大量採用しています。短期間での大量採用には、受付やメール便を配達していた女性も多く含まれます。そのため、夜間の個人宅への少量の荷物を積む車も大量導入しています。それは主に、冷凍冷蔵庫つきの1t車(ボンゴなど)と軽トラック、あとは軽バンです。もし日本のメーカーがこの時代の流れに応えるならば、軽トラックはMinicab Mievトラックのバッテリー強化版(冷蔵庫も駆動するため)、1t車は、e-NV200のトラックバージョンあたりになるでしょうか。ヤマト向け(オンリー)に開発できるでしょうかね。してほしいですね。

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この記事の著者

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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