東京の公社住宅駐車場で電気自動車充電設備付き区画拡大中〜近隣住民契約可&EVシェアも開始

読者から「東京都住宅供給公社が普通充電設備付き駐車場賃貸募集中」と情報提供をいただき、複数の物件で募集されていることを確認。早速、公社のオフィスを訪ねてご担当者に詳細を取材してきました。集合住宅や賃貸駐車場でも、充電設備は設置できる! の実例です。

東京の公社住宅駐車場で電気自動車充電設備付き区画拡大中〜近隣住民契約可&EVシェアも開始

※冒頭写真はコーシャハイム経堂フォレストのEVシェア区画。

11団地の電気自動車専用区画で募集中

8月25日にお届けした『アンケート実施中! EV充電器の美しい未来を目指す気鋭のベンチャー企業に「あなたの声」を届けよう』という記事に、平井さんという読者から「東京都住宅供給公社が普通充電設備付き駐車場の賃貸募集を始めている」という情報をいただきました。

集合住宅や賃貸駐車場への充電設備設置は電気自動車普及の重要課題。『EVsmartブログ』でも関連する情報をお届けできるよう注力している(関連記事にリンク)ところです。まして、庶民の味方である公社住宅の駐車場に電気自動車用充電器付きの区画が登場しているというのは見逃せません。

東京都住宅供給公社(JKK東京)の公式ウェブサイトで確認すると、たしかに、新宿区高田馬場などの住宅に付属する駐車場に、充電設備付きの電気自動車専用区画があり、近隣の住民や企業も申し込み可能な賃貸募集が行われていました。

早速、問い合わせて取材のアポイントをお願いし、渋谷にあるJKK東京のオフィスに伺ってきました。電気自動車用充電設備設置の経緯など、取材の内容をご紹介する前に、まずはJKK東京が提供している充電設備付き駐車場区画がある物件と、賃貸募集の状況を一覧でご紹介しておきます。

設置住宅名称所在地募集月額使用料(税込)
コーシャタワー佃中央区×
コーシャハイム高田馬場新宿区高田馬場4平面式屋外/35,000円
コーシャハイム千石文京区×
トミンタワー東雲江東区×
コーシャハイム仲六郷大田区仲六郷3平面式屋外/22,000円
コーシャハイム三宿テラス世田谷区×
コーシャハイム太子堂世田谷区太子堂3平面式屋内/35,000円
コーシャハイム芦花公園世田谷区×
コーシャハイム経堂フォレスト世田谷区×
コーシャハイム笹塚渋谷区笹塚1平面式屋外/31,000円
コーシャハイム千歳烏山世田谷区平面式屋外/24,000円
コーシャハイム中野弥生町中野区弥生町6自走式屋上/25,000円
コーシャハイム上鷺宮中野区上鷺宮3平面式屋外/20,000円
コーシャハイム中野フロント中野区中野2平面式地下/35,000円
コーシャハイム杉並和田杉並区和田2平面式屋外/26,000円
コーシャハイム新中野テラス杉並区和田1平面式屋外/27,000円
トミンタワー南千住四丁目荒川区×
コーシャハイム向原板橋区向原3平面式屋外/21,000円
コーシャハイム向原ガーデンコート板橋区向原3平面式屋外/21,000円
コーシャハイム小竹町練馬区×
コーシャハイム北千住足立区×
トミンハイム船堀三丁目江戸川区×

※ JKKから当初記事作成時に参照した公式サイト物件リスト記載漏れの連絡をいただき、コーシャハイム千歳烏山(世田谷区)を追加しました。(2021年9月28日)

電気自動車用充電設備が設置された駐車場があるのは22カ所の物件です。このうち「募集」の欄に「○」を付けたのが、記事を作成している9月20日時点で「地域住民向け有料駐車場のご案内」というページで募集が行われていたところ(11物件)です。

【関連サイト】
地域住民向け有料駐車場のご案内(JKK東京)

リストアップされている21カ所の駐車場には、それぞれ2区画ずつ、充電設備が設置された「電気自動車専用区画」が設けられているとのこと。募集中の各物件で、空いているのが1区画なのか2区画あるのかはわかりません。また、募集は先着順なので、すでに埋まっている可能性もあります。「マジで借りたい!」という方は、上記の「地域住民向け有料駐車場のご案内」の各物件詳細ページに記載されている問い合わせ先に電話確認の上申し込むようにしてください。

電気自動車専用区画には「EV」マークを明示。(JKK東京ウェブサイトから引用)

充電設備付駐車場を設置した東京都住宅供給公社とは

集合住宅の充電設備付駐車場を設置した東京都住宅供給公社(JKK東京)は、地方住宅供給公社法に基づき東京都が設立(昭和41年)した特別法人で「住宅を必要とする都民に賃貸住宅等を供給し、生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的」としています。

「令和3年度事業計画」によると、ケア付き高齢者住宅などを含む233団地7万1225戸の賃貸住宅や、団地内にある378施設(52団地)の店舗などの賃貸施設の管理を行っています。

すでに設置されている充電器付きの電気自動車専用区画駐車場は、先のリストで示したように「22団地×2区画=44区画」ですが、JKK東京全体では、なんと、207団地2万3366区画の賃貸駐車場があります。

取材がスタートして電気自動車専用区画の数を確認し「44区画もあるんですね!」と喜んだのですが、割合にすると「0.2%」ほど。日本におけるEV普及の現実と同様に、まだまだ、な感じではあります。

話が逸れますが、東京都住宅供給公社の英語表記は「Tokyo Metropolitan Housing Supply Corporation」です。略称の「JKK」はローマ字表記の略なのでしょう。NHK=Nihon Hoso Kyokai みたいな、ちょっと昭和が薫る略称ですね。

コーシャハイム向原ガーデンコートの電気自動車用充電設備。

駐車場に充電設備を付けたのは?

JKK東京が充電設備付き駐車場区画を一気に拡大したのは、2018年度(平成30年度)に東京都の環境局が、自動車からの二酸化炭素の削減に向け、EVやPHEVの普及を促進していくため、集合住宅に充電設備を導入する補助金制度(充電設備導入促進事業)を開始したことがきっかけでした。

東京都では独自の『ZEV普及プログラム』を策定し、2030年には都内乗用車販売におけるZEVの割合を50%とする目標を示しています。「ZEV=Zero Emission Vehicle」なので、当然ハイブリッド車は含まれず、BEVかFCVということになります。BEV普及のためには基礎充電設備の普及促進が不可欠。具体的な取組のひとつとして、集合住宅などの駐車場への充電設備導入のための補助金を出しているのです。

Click to big.

JKK東京では、東京都の施策と連携し、次世代車の普及と集合住宅の付加価値の向上のために、10ヶ所以上の集合住宅に充電設備を設置しました。

ただし、JKK東京の駐車場で初めて電気自動車用充電設備を設置したのは、都の補助金制度が開始される5年も前の2013年(平成25年)のこと。世田谷区にある「コーシャハイム三宿テラス」に設置されました。

時代に先駆け「環境にも配慮した次世代車の普及に貢献する新しい集合住宅のモデルとして設置した」という、JKK東京がそもそも抱いていた心意気があってこそ、補助金を活用して多くの区画への充電設備設置が実現したといえそうです。

2021年4月30日から地域住民向けにも開放

当初、充電設備付駐車場は集合住宅に住んでいる住民向けでしたが、2021年度(令和3年度)から「駐車場の契約者」が対象となり、東京都住宅供給公社は、2021年4月30日から空いている充電設備付駐車場を地域住民向けに開放。公式サイトなどでの賃貸募集が始まったという経緯です。

つまり、先のリストで募集欄が「×」になっているところは、すでに電気自動車専用区画が埋まっているか、住民以外の賃貸契約募集を行っていない駐車場ということになります。

JKK東京各所の駐車場に設置されているのは、パナソニックの200Vコンセント対応充電スタンド。充電器にケーブルは付属しておらず、車載の充電ケーブルを使うタイプが現状では中心です。次世代自動車振興センターが所管する「補助金の対象となる機種から選んだ」ということです。

充電料金は今のところ毎月1000円の定額制

充電料金の課金方法はシンプルで「各区画の駐車場月額使用料+1,000円」という仕組みです。つまり、電気自動車専用区画は同じ駐車場のほかの区画より月額使用料が1000円高くなっているということです。

各団地の電気代までは確認していませんが、一般的な電気料金を「1kWh=25円」と仮定して、「200V×15A」で1時間に3kWh。1000円は約13時間分の電気代ということになるので、毎日クルマを使うユーザーであれば、かなりお得に充電できることになりそうです。担当者に「損しちゃいませんか?」と伺うと、「現状はあくまでもモデルケースとして、充電状況や電気料金などを確認中」ということでした。

電気自動車の電費が「5km/1kWh」として、毎月1000km走るユーザーが全て駐車場で普通充電をする(レアなケースですけど)場合、「1000km÷5km=200kWh」なので、月間の電気代は5000円。実際に平均すると、おおむね毎月2000円分(80kWh)くらいじゃないかな、と思います。

課金機能付きの充電器は高価だし、アプリなどによる課金システムを導入するにも、電気代以外のコストが掛かります。月額1000円ポッキリという価格設定は今後見直しがあるかも知れませんが、2000円、もしくは3000円とかの定額で、設置者、契約者双方の手間や負担を減らすのは、賢明で現実的な方法かも知れません。

世田谷区経堂ではEVシェアサービスも!

さらに驚きだったのが、JKK東京では充電設備付駐車場のみならず、EVシェアも展開しています。EVシェアは、2021年3月16日からコーシャハイム経堂フォレストで開始し、カーシェア事業者である『カレコ』との連携によって実現しました。

担当者にカーシェアサービスを導入したきっかけを聞くと、「入居者へのアンケート調査の結果、カーシェアサービスがあると便利という声が多かったため」とのこと。また、環境問題に前向きに取り組む東京都住宅供給公社の幹部が「カーシェアサービスを導入するのであればEVにしよう」と提案し、電気自動車のカーシェアサービスを展開することになったそうです。

これからも充電器付き駐車場は増えるのか?

PDFで公表されている『JKK東京アクションプラン2021年度版』によると「カーボンニュートラルの実現に向けた取組など環境配慮行動の推進」の具体的なアクションとして、「ZEV等の普及促進」を掲げ、具体的に以下のようなプランが示されていました。

●EV、電動バイク等に対する駐車場使用料等のインセンティブ制度(割引等)の導入。
●業務用⾞両のEVへの順次切替え、JKK東京の事務所へのEV用充電設備の設置。
●住宅駐⾞場等へのEV用充電設備(居住者用、公共用)の設置。
●住宅駐⾞場のEV用充電設備設置済み空き区画を⽉極駐⾞場として近隣へ開放。
●住宅敷地内でのEV・HVカーシェアやサイクルシェアの導⼊推進。

これを見ると、そもそも電気自動車専用区画の充電料金が毎月1000円というのは、「EVへのインセンティブ」と言えるのかも知れません。

はたして、充電器付き駐車場やEVシェアは、これからもどんどん増えていくのでしょうか。

まず、充電設備付駐車場については、「新築の物件には充電設備付駐車場を設置する予定です。また、既存住宅の駐車場に充電設備を設置するかどうかは状況次第ですが、今年度中に既存の3団地に充電設備を追加設置する見込みとなっています」との回答でした。

EVシェアは、すでに実施している経堂では「ほぼ毎日利用されている」と好評です。とはいえ「EVシェアの導入台数を増やすためには、事業者の協力が不可欠です。利用頻度が低い場合、多くの駐車場に単独でEVシェアサービスを展開するのは採算的にも難しく、コインパーキングと併設するなど工夫していく必要があるでしょう」ということでした。

前述のアクションプランを見ても、ZEV普及に向けた取組は、脱炭素社会やSDGsの実現を目指す多様な取組のごく一部であることがわかります。幅広く具体的なアクションプランを掲げ、着実に実行しているJKK東京の取組は素晴らしいと感じます。

また「JKK東京が充電設備付きの電気自動車専用駐車場区画を拡大中」という実例は、世の中の多くの集合住宅オーナー、居住者のヒントになるのではないでしょうか。いや、ぜひヒントにして欲しい! と願います。

(取材・文/齋藤 優太、寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 既設の分譲マンションに充電器を設置する場合、問題になるのは設置が住民全体の利益につながるかですが、最近はEVを購入したい人も増えているので、この壁を突破するのは難しくないかもしれません。
    実際に運用する場合に問題なのは、駐車区画の移動です。ある区画を充電区画にした場合、もともとそこにいた人がEVでなければ他に移動してもらわなければなりません。また、充電区画にいた人がEVをやめた場合も、他の区画に移動してもらわなけれななりません。交代する充電区画希望者がいればよいのですが、そうでなければ移動ができなくなります。せっかく作った充電区画が無駄になります。充電区画を増設した場合も同じ問題が生じます。
    分譲マンションの場合、駐車区画は共用部なので個人所有ではありませんが、ずっと同じ場所に駐車している場合が多く、それが既得権益みたいになっています。駐車区画はすべて同じでなく場所によって車の乗り入れの容易さに差があり、エントランスへの距離も違います。条件のよいところに駐車している人は、移動したがらないのです。これも問題です。このあたりは、駐車区画が設けられた場合は円滑に駐車区画が移動でき、充電区画が無駄にならない規約を設けなければならないのです。
    もうひとつの問題は利用料金です。記事にある定額月1,000円は破格に安いので、これならEVに乗り換える人も出てくるかもしれません。しかし、分譲マンションの場合は電気代は利用者の負担になります。九州電力は、従量電灯B・50Aで最も高い従量料金が26.06円/kWhです。もちろんこの価格に納得する人もいるかもしれませんが、同時に太陽光発電を設置すればもっと安くすることは可能でしょう。太陽光発電で売電した場合、19円/kw (21年10kWh以下の蓄電池、売電10年)または12円/kw (21年10kWh以上の蓄電池、売電20年)なので、これより高い価格にすれば管理組合の利益になります。もちろん、太陽光発電では電気代の一部あるいは全体が無料です。太陽光発電の初期投資は大体10年前後で回収できるので、早めに回収できれば他の住民も納得するかもしれません。
    価格設定の場合、周辺の充電施設の価格も参考になります。私のマンションの近くにはイオンがあり、ワオンカードで300円で30分の急速充電が利用できます。30分で15kWh充電できれば20円(税込)/kWhです。一方、普通充電は120円/時(3時間まで)です。1時間に6kWh充電できれば、こちらも20円(税込)/kWhです。駐車場に置いたままとわざわざ充電スポットに移動するのは、使い勝手がまったく違いますが、同じか少し高い価格なら駐車場の充電を優先するでしょう。これは初期投資の回収を早めることになります。
    せっかく充電器を設置しても利用されなければ意味がありません。もっとも利用されやすい価格に設定することが必要です。

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この記事の著者


					齊藤 優太

齊藤 優太

静岡県静岡市出身。大学卒業後、国産ディーラー営業、教習指導員、中古車買取を経て、フリーランスへ。現在は、自動車ライター、ドライビングインストラクターとして活動をしている。保有資格は、教習指導員(普通自動車一種・普通自動二輪)、応急救護指導員、運転適性検査指導員。

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