メルセデス・ベンツ『EQC』で東京=朝霧高原を往復〜長距離試乗記

先日お伝えした「あさぎりフードパーク」(静岡県富士宮市)で開催された『Japan EV Meetup』に、メルセデスベンツが日本で初めて販売した電気自動車(EV)『EQC 400 4MATIC』で行ってきました。往復約240kmで電力使用量は約59kWh。快適な電気SUVのドライブでした。

メルセデス・ベンツ『EQC』で東京=朝霧高原を往復〜長距離試乗記

「電気になってもベンツ」という乗り心地と操作感に納得

EVsmartブログの寄本編集長がすでにお伝えしているように、あさぎりフードパークで行われたJapan EV Meetupには、できるだけいろいろな車種があった方がいいですよねという希望もあって、寄本編集長はジャガーの「アイペイス」、筆者はメルセデスベンツに『EQC 400 4MATIC』をお借りして参加することになりました。おかげさまで、日本ではまだあまりお目にかかれないEQCを初体験することができました。

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すでにEVsmartブログでは短い試乗記を掲載しているので、細かな点は抜きにしますが、ぱっと乗った印象は、「あ、ベンツだ」というものでした。アクセル開度に応じた自然な加減速や少し固めで疲れなさそうな乗り心地、ゆったりしたシートもそうなのですが、大きい車体の割には小回りがきくので東京の細かい道でも乗りやすいという、真っ当なベンツでした。

乗り味は従来のベンツでも、パドルシフトで回生ブレーキの効きを変えていくと、EVらしい運転感覚になります。回生ブレーキの強弱の段階は、回生ブレーキが強い順番に、D- -、D-、D、D+の4段階です。D+はコースティングになります。

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一番強いD- -では、アクセルから一気に足を離すとドスンと効きます。といっても、最終的にはブレーキを踏まないと止まれません。個人的には止まるまでワンペダル制御ができればと思うのですが、このへんは好みの違いがあるのでしょう。エンジン車からの乗り換えなら、このほうが自然かもしれません。

オートパイロット機能は十分な性能だと思いました。レーンキープについては、高速道路は中央高速の相模湖周辺のコーナーが続く道でも安定して走ることができていました。ただ、追走していた前の車がいなくなって加速するときに、心持ち、加速Gが強いように感じることがありました。あとは、渋滞中に停止すると、停止時間によってはアクセルを少し踏まないと再スタートしないので、注意しながら操作していました。

再スタートなどは注意力を維持するための制御かもしれません。でも欲を言えば、自動で動いて欲しいかなとも思います。人間の欲望には際限がないのです。

快晴の中、中央高速を快調に走行

ということで11月15日朝6時前、EQCに乗って出発です。出発時点でバッテリー残量は87%、メーター表示の走行可能距離は260kmでした。カタログ値の通りならWLTCモードで4.3km/kWh、バッテリー容量は80kWhなので87%=69.6kWhとなって、計算上の航続距離は約300kmになります。

あさぎりフードパークは往復約240kmなので単純計算なら無充電でも余裕のはずですが、ずっと行きはずっと登りだし、今回は急速充電も試してみたいので、中央高速富士吉田線、河口湖ICの少し手前にある谷村PA(出力50kW)で充電することにします。

ただ、メルセデスベンツで車をお借りしてから自宅まで約28kmを走ったときに、ひどい渋滞の中だったこともあると思うのですが電費が3.0km/kWhになっていたことも気になりました。これだと航続距離が200km程度になってしまいます。

なにはともあれ中央自動車道に乗って、一路、西を目指します。気温は低いものの快晴で、途中で富士山がきれいに見えました。走っていると、前日の渋滞の中よりはだいぶ電費が改善していました。それでも、基本的に登り基調なので4.0km/kWhになることはなく、3km/kWh台の半ばくらいで推移していました。

EQCには走行モードを「エコ」「コンフォート」「スポーツ」「インディビジュアル」から選択できますが、いちどシステムを停止させて再びスタートスイッチを押すと「コンフォート」になることに、後から気がつきました。なので、今回はほとんど「コンフォート」で走っています。

道中は渋滞もなく、1時間ちょっとで谷村PAに到着。ところが、充電器を目にしたときには、先客のリーフが充電場所に駐車しようとしているところでした。よくある話ですが、まだまだEVが少ない日本で充電待ちが頻繁になるのは、充電器が1カ所に1台しかないことが最大の理由です。この設置の仕方はEV普及の妨害工作か? とか思ってしまいます。

とにもかくにも、航続距離に余裕はあるものの、帰りの充電渋滞はもっとひどくなりそうだったので、30分待って充電することにしました。

ここまでの走行距離はメーター表示で85km、電費は3.6km/kWhで、残り走行距離は164kmになっていました。出発時のメーター表示の走行可能距離より13%ほど短くなっています。

バッテリー残量は55%なので、計算上の電力使用量は25.6kWh。これに電費をかけ算すると、約92kmを走ったことになります。少しメーター表示の距離の方が少ない感じですが、このくらいは誤差の範囲でしょうか。

気温が低くても充電は安心

リーフの方が出発してすぐ、自分の分を充電です。ちなみに外気温は、車の表示で3.5度。さすがに肌寒く感じます。標高約500mなので、東京からだと450m以上登っています。

気温が低いのと、止まってから30分以上経っているのでバッテリーの温度は下がっていそうです。でも欧州ならこのくらいの気温は当たり前。だからEQCなら余裕で50kW出るだろうと期待していましたが、だいたいその通りでした。

急速充電器の表示では、スタート時に出力電圧367V、出力電流120Aと、ほぼいっぱいまで流れています。車載の表示では、充電器の出力は42kWと出ています。CHAdeMO(チャデモ)だと50kWと言ってもこんなもんでしょうか。残念感はありますが。

終了間際は、出力電圧392V、出力電流108Aの約42kWというところでした。充電電力量は21.8kWhなので、計算上の充電器出力は43.6kWになり、概ね、合っています。

これでバッテリー残量は81%、残り走行距離は248kmまで回復しました。ここからは、いざ、富士山の登りです。

登って下って電費は大きく改善

谷村PAを出て河口湖ICで高速を降り、一般道に入ったところで、登りの電費を見てみようと思ってメーターをリセットしてみました。標高は約860mです。

リセット前まではほとんど高速道路で、走行距離101km、電費は3.3km/kwh。前日の渋滞走行ほど悪くないので、渋滞がよほど苦手な車なんだろうかと思いました。

ここからは、いちど1100mくらいまで登って、あさぎりフードパークのある900mくらいまでアップダウンをしながら下ります。距離は約21kmです。すると、登っている間はあまり電費が悪くなる印象はありませんでした。中央高速の登り坂の方がきつかったのかもしれません。

なので、この区間では電費がどんどん回復しました。EQCはパドルシフトで回生ブレーキの強弱を4段階で調整でき、いちばん回生が弱い『D+』モードでは、コースティングになります。

だから、先に少し登り坂があることが見えている時にはコースティングで一気に降りて、惰性で登るようにしていました。昔、コンバートEVの日本一周の旅に同行していた時、少しでも距離を伸ばすためにいろいろ工夫した結果、これがいちばんいいんじゃないの?という結論になったのを思い出したからです。

実際にはどうなのかわかりませんが、電費が良くなると信じてコースティングと回生ブレーキの強弱調整を頻繁に繰り返しながら、約30分で「Japan EV Meetup」の会場、あさぎりフードパークに到着しました。

この区間の電費は4.3km/kWh。信号はほとんどないもののアップダウンがきつい道でしたが、やっぱり渋滞路よりはるかに電費がは良くなっていました。

ということで、東京からの道中は約123km、トータルの電費は3.4km/kWh、バッテリー残量は66%でした。バッテリー総容量80kWhから計算してみると、電力使用量は37.6kWhになります。帰りは下りとはいえ、最終的にメルセデスベンツまでEQCを返却に行くことを考えると、途中で1回、急速充電をしておくのが無難なように思えてきました。


ところで、この日は気温が低かったこともあって、設定温度23〜25度でヒーターをつけっぱなしにしていました。。EQCはエネルギーの使用量を、走行、ヒーター/クーラー(エアコン)、その他の電装品それぞれの割合を表示することができます。それによれば、走行が全体の86%、エアコンが10%、その他の電装品が4%でした。

電装品は仕方ないとして、エアコンを使わなければ1割ほど、電費が良くなることになります。そうすると電費は3.74km/kWhくらいまで向上しそうです。上り坂であること、また2.5トンという車重を考えると、そこそこの電費かもしれません。でも、このあたりはもう少し検証が必要そうです。

大渋滞を避けて談合坂で爆睡……

午後2時半過ぎ、無事に「Japan EV Meetup」の空撮を終えて、少し早めに帰路につくことにします。何しろ日曜日の中央高速上り線です。小仏トンネルや相模湖で大渋滞は必至です。

来たときと同じように、河口湖ICまでの区間記録を見てみました。やっぱりというか、距離22kmで電費は4.3km/kWhと、往路と同じでした。エネルギー保存の法則というか、登りと降りがあれば回生ブレーキでエネルギーが回収できるんだなあと、当たり前のことを思いました。

ここから中央高速道路に入ると、すぐに渋滞につかまりました。前日、あまり寝ていなかったこともあり、睡魔との戦いに勝てる気がせず、たまりかねて談合坂で駐車。ついでなので、少し追加で充電しておこうかなと思ったのですが、同じイベントに参加していたらしきテスラやリーフが列をなしています。

そこに並ぶのはムリ…… と諦めて、近くの駐車スペースに車を止めて寝ることに。リクライニングさせると、あっという間に落ちました。

しばらくして、少し寒さを感じて目が覚めました。するとどうでしょう。あたりは真っ暗です。時間を見ると午後9時を回っています。どうも、4時間以上、沈んでいたようです。ぜんぜん、しばらくしてという時間じゃありません。

ふと急速充電器を見ると、誰もいません。そりゃそうですよね。なので、追加充電をしてる間に顔でも洗って目を覚ましてから、帰宅することにしました。

談合坂での充電は、362Vの92Aで約33kW。約30分の充電で17.9kWhを注入です。充電器出力は40kWなので、まあ、こんなもんでしょうか。外気温は11.5度と、朝よりは暖かくなっていました。

ついでにここで、EQCのカラーコーディネイトを変えてみました。ダッシュボードの縁などに沿って配置されているLEDライトの色を変えられます。カラーディスクを指でタッチするだけの簡単操作です。

行き先を知っていたかのような走行可能距離の正確さ

談合坂を出たのは午後10時前。多少の混雑はありましたが、午後11時前には帰宅することができました。河口湖ICから東京までの距離は94km、ほとんど下り坂で、電費は6.1km/kWhでした。

最終的に、今回の総走行距離は241km、平均電費は4.1km/kWhと、エネルギー保存の法則で往路よりはるかに電費が良くなっていました。EQCはWLTCモードの電費が4.3km/kWhなので、高低差1100mのルートでも、ほぼカタログ値の電費が出たことになります。EVならではのエネルギー効率の良さですね。

また、スタート前の電池残量69.9kWhに対して走行可能距離は260kmだった予測データですが、実際に241km走って電気使用量が59.2kWhだったので、ほぼ、当たっていたことになります。EQCは筆者の行き先を知ってたのか? とか思えてきます。

帰宅後、今後のベンツのEVがどうなっていくのかということを、ボヤーっと考えていました。いや、EQCって、内燃機関を電動パワートレインに置き換えたものなんですよね。だからボンネットの下にはエンジンがすっぽり収まりそうなスペースがあるし、太い金属フレームで剛性や衝突安全を確保したりと、かなりなムリがあるように見えます。

だから良く言えば、載せ替えただけでもこれだけの性能を出せるということは、ゼロからEV専用に作ればもっといいものになるんじゃないかと、思うわけです。

そう思うと、EQCの残念な面と、今後に期待する面がゴチャゴチャと入り交じってきます。自分で買える価格ではないので、遠吠えにすぎませんが。

最後に。実は翌日、メルセデスベンツにEQCを返却に行ったときの電費は4.5km/kwhでした。だとすると、初日の電費の悪さはいったいなんだったのか……です。違うのは渋滞の程度ですが、それにしても3km/kWh台前半というのは、その後の状況と差があります。

そんなナゾを残しつつ、今回のテストドライブ・リポートを終わりにします。ナゾはナゾ呼ぶなんとかです。ナゾが解決した際には、改めてお知らせしたいと思います。それではみなさん、ごきげんよう。

(取材・文/木野 龍逸)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. 私のC350eは、寒くなるとスイッチオンで自動的にヒーターと、シートヒーターがオンになり、1分後には温風が出てきます。電動車のメリットですが、猛烈に電気残量が減ります。
    試乗の時期が寒い時期だったので、同様の現象なのではないでしょうか?
    ヒーターの立ち上がりが早い分、仕方ないですね。

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					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

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