販売好調が伝えられる軽EV、三菱『eKクロスEV』で、モータージャーナリストの諸星陽一氏が東京=白馬の長距離公道試乗を敢行。おおむね100kmごとに30分の急速充電も「これならイケる」と実感したレポートをお届けします。
77%からの急速充電で100%まで回復
今年発表されたEVのなかで私がもっとも注目しているのは、軽自動車の日産サクラと、三菱eKクロスEVだ。サクラについてはメーカーが開催した試乗会での印象を伝えたので、eKクロスEVはジャパンEVラリー白馬に参加の際に走った長距離移動をメインに率直な印象をまとめてみたい。
ジャパンEVラリーは7月23日〜24日の2日間の日程で開催された。eKクロスEVはジャパンEVラリーのコンテンツのひとつとして23日に実施された「最新EV・PHEV試乗会」で使われる試乗車でもあるため、22日中に白馬に届ける必要があった。そのため、21日にピックアップし22日早朝の出発に備えた。
まず、少し驚いたのが21日の出来事だった。試乗車をピックアップした時点でのバッテリー残量は99%。自宅まで移動する途中で77%まで減っていた。翌日の移動を少しでも楽に、そして確実にするために自宅近くの三菱のディーラーで急速充電を行った。真夏の走行直後、しかも、バッテリー保護のためにSOCが50%を超えると出力が制御されると聞いていたにも関わらず77%からの急速充電だったので「30分で90%以上になればいいか」程度の思惑で、あまり期待はしてなかったのだが、これがなんと、100%まで充電できてしまったのだ。
車両返却時にこのことを広報車管理会社担当者に報告したところ、eKクロスEVは試乗会や研修会などで急速充電した際も100%まで充電されることがあったという。モータージャーナリストという仕事柄、新型EVに試乗する機会は多い。しかし、実際に急速充電を行うチャンスはさほど多くはないし、私自身の体験として急速充電で100%まで入ったのを見るのは初めてであり、少々驚いたわけである。
これが、たとえば60kWh以上の大容量バッテリーを搭載したEVの場合、40〜50kW出力の急速充電器30分で得られる電力量は20kWh前後であり、おおむね容量の30%程度でしかないので、おいそれと100%に達することはない。急速充電で「たっぷり入った」実感を得られるのも、総容量20kWhという程よいサイズのバッテリーを積んだ軽EVのメリットではないかとさえ感じた。
ちなみに試乗会の際、満充電にするのはバッテリーにダメージを与えてしまうのではないかと技術担当者に質問したら「まったく問題ありません」と自身満々の回答だった。eKクロスEVはエアコンの冷媒を使って走行用バッテリーを冷却している(サクラも同様)が、そのマネジメントが非常にうまくいっていることの現れだろう。
往路は関越→上信越道ルートを走行
往路の移動は関越道と上信越道を使うと決めていた。自宅から関越道入り口まで一般道で移動。このタイミングでのバッテリー残量は88%、走行可能距離は123kmであった。なお走行モードは基本「ECO」に設定し、エアコンは常時作動。高速道路ではACCを使い、速度は80km/hにセットした。左側の車線を走って、極度にペースが遅いクルマいた際には追い越したが、速度差が10km/h程度の場合は追従して走ることもあった。
最初の充電は甘楽PAで行った。充電待ちはなしで、データは下記の通り。
甘楽PA充電記録
走行距離(オドメーターベース)関越入口→甘楽PA:95km
バッテリー使用量:61%(12.2kWh)
電費:128Wh/km
充電量(30分):56%(27%→83%)※充電器表示の充電量は10kWh
次の充電スポットは東部湯の丸SAを目指して走る。途中、横川SA通過時のバッテリー残量は60%。甘楽PAから23%使ったことになる。もし甘楽PAでの充電をあきらめて横川SAまで足を伸ばしたとしても4%バッテリーが残っていた計算となるが、充電できる量はおそらくそれほど変わらないはず。であれば充電待ちのなかった甘楽で充電したのは正解である。東部湯の丸SAに到着した際も先客のEVはなく、即充電が可能となった。データは下記のとおり。
東部湯の丸SA充電記録
走行距離(オドメーターベース):73km
バッテリー使用量:61%(12.2kWh)
電費:167Wh/km
充電量(30分):59%(22%→81%)※充電器表示の充電量は10.5kWh
甘楽PAの標高は175mだが、その先八風山トンネルが上信越自動車道の最高標高地点で932mにもなる。このためこの区間の電費は167Wh/kmと、前区間の半分以下という悪い数値となったわけ。東部湯の丸SAから長野インターまでは下り中心の勾配での走りとなったので、電費はそこそこよくなっている。
東部湯の丸SA→長野インターの距離はオドメーターで37km。バッテリー使用量はSOCにして18%(3.6kWh)で、区間電費は97Wh/kmと再び良好な数値となった。
この区間で気付いたのはACCで走っているとやたらとブレーキランプが点灯すること。eKクロスEVはメーター内にクルマの形を模したモニターがあり、ブレーキランプが作動した際にはモニターのブレーキランプも点灯するので判別が可能だ。ブレーキランプは摩擦ブレーキ(通常の物理ブレーキ)が作動した際のほか、回生ブレーキで減速Gが大きくなった際にも作動する。走行モードをDからBに変更したところ、ブレーキランプはほとんど点灯しなくなるとともに、回生によるエネルギー回収も増加する印象があった。回生をしているのにブレーキランプが点灯しなかったので、ACC使用時のブレーキランプ点灯は摩擦ブレーキが作動していたと予想できる。
長野市内から白馬までは山越えルート
長野インターで上信越自動車道から下りたあと、長野市内を走行し白馬村に向かった。途中、善光寺で7年に1度のご開帳が行われていることを思い出し、寄ってみることにした。善光寺近くのコインパーキングには普通充電器を備えているところが2カ所あり、少しでも充電できればラッキーだと考えたのもひとつの理由だ。しかし、1カ所目のパーキングは満車で、EVスペースにエンジン車が止まっていたため充電は不可。2カ所目は充電器が故障で、結局充電できずとなっていた。
さて、ここで迷いが生まれた。白馬村までの残り距離は40km程度である。走行可能距離は85kmとなっている。とはいえ、山をひとつ越えないと白馬村には到着しない。どこかで急速充電して安心を手に入れてから白馬村に向かうか? 一気に行ってしまうか? である。私は後者を選んだ。せっかくなら、東京から白馬村まで2回充電で到着できたという記録を作りたい。
ナビが表示した道順は国道406号線を使うルートと、国道19号線とオリンピック道路と呼ばれる県道を使うルートの2パターンである。オリンピック道路沿いの道の駅中条には急速充電器があるようだが、善光寺から20kmほどとやや中途半端な距離であり、チャレンジするルートとしては面白みに欠ける。
だったら国道406号線ルートである。なにやら、そこそこの勾配がありそうだが、まあ行くしかないだろう。最初はよかった、さほど勾配もキツくないし、ときどき下りもあるので回生しながら進むことができた。ところが途中から状況は一変し、上り勾配の連続である。バッテリー残量はみるみる減っていく。道路脇の樹木が覆い被さっている状況から、少し開けた景色になると「おおっ、頂上に近づいたか?」と思うものの、悲しいかなまた樹木が覆い始め頂上ではないことが知らしめられる。そうしたことを繰り返しているうちに、ついに残量が20%を切り、警告灯まで点灯した。もはやこれまでか? と思った刹那、空が大きく開け本当の頂上に到着した。ここまで来てしまえばあとは下りだけだろう。
思ったとおり、この先の道路は下り勾配がメインとなった。Bモードで回生を積極的に行いながら、白馬村を目指した。村内に入ってもまだ少しバッテリー残量に余裕があったので、まずは駅前に行って記念撮影。その後、白馬村役場の急速充電器で充電となった。この区間でのデータ下記の通りだ。
白馬村役場 充電記録
走行距離(オドメーターベース)
高速区間(東部湯の丸SA→長野インター):37km
一般道区間(長野インター→白馬村役場):58km
合計走行距離:95km
バッテリー使用量:67%(13.4kWh)
電費:141Wh/km
充電量(30分):56%(14%→70%)※充電器表示の充電量は10.23kWh
復路は一般道で走ってみた
さて、イベントを終えて帰京日となった24日。宿泊した宿のペンションミーティアで普通充電したので、朝、出発時のバッテリー残量は100%である。24日は60台のEVが白馬村内を巡るパレードなどを行った後に白馬村を出発した。復路は一般道で東京を目指すが、往路で使った国道406号線ではないルートを使ったため、白馬長野有料道路を利用した。白馬長野有料道路料金所からは県道384号線を通り、国道19号線方面に抜け、その後、国道18号線を通って長野日産上田店にて急速充電を行った。今回の行程ではこのタイミングのみ、先客の充電車があり約10分の待機となった。ここまでのデータは下記のとおり。
長野日産上田店 充電記録
距離/白馬村→長野日産上田店(オドメーターベース):95km
バッテリー使用量:60%(12kWh)
電費:126Wh/km
充電量(30分):47%(40%→87%)※充電器表示の充電量は確認できず(推計9.4kWh)
長野日産上田店からは軽井沢を経由して高崎方面を目指す。この行程でもっともハードだと覚悟を決めたのが碓氷バイパスの上り勾配だ。碓氷バイパスの入り口でのバッテリー残量は53%、頂上での残量は50%でさほど減らなかった。というのも軽井沢側から碓氷バイパス頂上までは3kmしかなかったのだ。一方、碓氷バイパス頂上から高崎方面への下り勾配は長く松井田妙義インターチェンジ付近までの下り勾配約16kmでは4%程度のエネルギー回収ができた。
この日は藤岡まで走って、普通充電器のあるルートイン藤岡に宿泊した。長野日産上田店からルートイン藤岡までのデータは下記の通り。
ルートイン藤岡 充電記録
走行距離(オドメーターベース)長野日産上田店→ルートイン藤岡:96km
バッテリー使用量:52%(10.4kWh)
電費:108Wh/km
充電量(一晩):64%(35%→99%)※充電量推計12.8kWh
翌日、バッテリー残量は99%に復活、走行可能距離表示は175kmとなった。ひたすら一般道を走って、葛飾区にある試乗車基地に着いたときのバッテリー残量は19%、走行可能距離は29kmと表示されていた。ルートイン藤岡からの距離は105km。80%(16kWh)の電力を消費して、電費は152Wh/kmという数値となった。
今回の白馬村移動で実感できたのはeKクロスEVの場合、約100kmごとに30分の急速充電で走り続けられるということだ。つまり、最初に満充電であれば2回の急速充電で300kmの移動が可能となる。
このパターンで、高速道路SAPAなどで充電渋滞に遭遇しない限りは決して辛い行程ではなく「片道300km程度のロングドライブでも普通に使えるクルマである」という印象だった。シティコミューターとして認識されているeKクロスEVは、実は長距離もイケるクルマだった。要するに、使い方次第なのである。
(取材・文/諸星 陽一)










