トヨタが人気の高級ミニバンである『アルファード/ヴェルファイア』をフルモデルチェンジして発売。後日、PHEVモデル投入予定であることを発表しました。試乗会で「PHEVには急速充電口を搭載」と聞いた自動車評論家、御堀直嗣さんが感じた懸念と提言を紹介します。
プリウスで廃止した急速充電機能を再び搭載
トヨタの高級ミニバンであるアルファード/ヴェルファイアが、7年振りにフルモデルチェンジした。後日、プラグインハイブリッド車(PHEV)の販売も予定している。それはアルファード/ヴェルファイアでは、初のPHEVとなる。
まず市場導入されたガソリンエンジン車とハイブリッド車(HV)の新車試乗会で、チーフエンジニアと懇談した。そのなかで、PHEVには急速充電口が設けられることがわかった。
トヨタは、3代目プリウスで同社初のPHV(トヨタは現行プリウスの発売までプラグインハイブリッド車をPHVと表現してきた)を2009年に設定し、現行の5代目まで継承されている。モデルチェンジの過程で、モーター走行距離は、26.4km(JC08モード)、68.2km(JC08モード)、87~105km(国土交通省審査値/タイヤ寸法により異なる)と伸ばされてきた。2020年には、現行のRAV4にPHVを追加設定した。
アルファード/ヴェルファイアは、それらに次ぐトヨタのPHEVとなる。ちなみに、同社のレクサス銘柄では、RXやNXにPHEVがある。ほかの自動車メーカーでは、三菱自動車工業が、アウトランダーとエクリプスクロスでPHEVを販売している。
なかでもSUVでの4輪駆動制御など含め三菱自工独自の技術が活かされたアウトランダーPHEVは人気を得たが、経路充電でEVとの充電重複という摩擦を生じさせてきた経緯がある。そこでトヨタは、急速充電口を設けたPHEVの付属品として、「急速充電をお急ぎのEVユーザーの方へ」と表記した札を添え、「約20分で充電完了します。充電譲れますので声を掛けてください」と記し、対応を講じた。
その札が、どれほど効果を上げていたかは未確認だ。そのうえで、現行プリウスPHEVになって、急速充電口の設定がなくなった。その前、RAV4のPHVでも急速充電口は設けられていない。
海外市場において、PHEVへの急速充電の設定は基本的に考えられておらず、日本仕様を中心とした一部車種に急速充電口を設けることは原価の上昇につながる可能性がある。海外市場の背景から、ほとんどの輸入車のPHEVには、CHAdeMO対応した急速充電口は設けられていない。世界的潮流として、PHEVに急速充電口は不要という考え方となっている。それにトヨタも準じたようであった。
なぜ、PHEVに急速充電口は不要なのか
ではなぜ、PHEVに急速充電口は不要なのか。その原点を改めて振り返ってみよう。そもそも、PHEVとはどのようなクルマなのか?
PHEVは、電気自動車(EV)での経路充電という不安材料を解消するため、長距離移動ではHVとしてエンジンを活用しながら低燃費で移動し、二酸化炭素排出量を抑えようと考えられたクルマだ。一方、都市部においては、EVと同様にモーター駆動で走ることにより、脱二酸化炭素を日常的に実践し、人口が密集する都市部での大気汚染にも効果を上げ、快適な住環境を取り戻そうとする乗り物である。このため、PHEVのモーター走行距離は、世界的に人々が一日にクルマで移動する距離の大勢を占める50キロメートルほどを基準としてきた。
燃費や電費の性能基準として使われているWLTCでは、総合性能と別に、市街地/郊外/高速道路の3つの走行モードでの性能も表記されている。新型アルファード/ヴェルファイアのHVやガソリンエンジン車においても、郊外モードがもっとも燃費がよく、次いで高速道路モードで、もっとも悪いのは市街地モードだ。
この現実を見ても、長距離移動で利用する郊外の道や高速道路では、エンジンを併用して走った際の燃費のよさが明らかで、PHEVの長距離移動ではHVとして走る根拠を理解できる。一方、市街地モードはもっとも燃費が悪いので、ここでモーター走行を行えば、クルマの利用全般において二酸化炭素排出量を抑えられることがわかる。
さらに、一般的にPHEVは、限られたバッテリー車載量に対し、走行中に充電を行うチャージモードや、バッテリーに充電された電力を温存するセーブモードを備え、限られた電力を有効活用できる仕組みがある。これらを適宜選択すれば、長距離移動後の市街地走行のため、モーター走行用の電力を、自ら蓄えたり温存したりできる。
EVの一充電走行距離が世間の話題となるように、EV経験のない人や経験が少ない人にとって、経路充電は一つの不安材料だ。すでにEVを利用している人にとっても、経路充電での順番待ちは不満の要因になる。それらを解消する存在として、PHEVの価値がある。
ところが、PHEVに急速充電口を設けることにより、経路充電しなくても走行可能なPHEVが、急速充電器を利用する事態が生じた。これにより、EV利用者はさらに余分の充電待ちを想定したり、移動時間の延長を覚悟したりしなければならない状況となった。
トヨタが、現行プリウスPHEVやRAV4PHEVに急速充電口を設けない措置を取ったことは、EV所有者などから評価されてきた。ではなぜ、アルファード/ヴェルファイアで、再び急速充電口を設ける開発が行われたのか。トヨタ広報部の回答は次のとおりである。
「昨今国内外でインフラが拡充されつつあること、またお客様から急速充電機能設定のご要望の声を多く頂戴していること。そして、アルファード/ヴェルファイアのお客様のニーズなど、総合的に勘案し、アルファード/ヴェルファイアに急速充電機能を設定することといたしました」
国内の経路充電は、イー・モビリティ・パワー(eMP)の努力によって進展しつつある。しかしEVの国内販売シェアが伸びていることなどにより、急速充電口の複数化が進んでも、充電待ちの懸念がなくなったわけではない。
顧客からの要望で一つ考えられるのは、国内ではマンションなど集合住宅で、基礎充電用200Vコンセント、または普通充電器の設置が進んでいない状況がある。普通充電口しか持たないPHEVでは、日々自宅で充電できなければただのHVでしかなく、HVより高額なPHEVを選ぶ理由がなくなる。急速充電口があれば、自宅近くの急速充電器で充電することにより、モーター走行を利用できる。
もう一つは、万一の災害時にチャデモ規格に対応した外部への給電機能を利用するうえで、急速充電口が必要になることだ。
しかし外部給電について、トヨタは独自に普通充電口から電気を取り出せるアクセサリー「ヴィークルパワーコネクター」を販売している。これを使うことで100V/1500Wの電気製品を利用できる。また、車内に100Vコンセントがある場合、コードを車外へ引き出す際に開いたままとなってしまう窓ガラスの隙間を塞ぐ用品もトヨタは用意している。PHEVの車載バッテリー容量からすれば、これまでトヨタが行ってきたやり方で、外部への給電はほぼ満たされるのではないだろうか。
三菱自動車工業は、急速充電口があることにより、ヴィークル・トゥ・ホーム(V2H)の利用が可能になると説明する。だが、そのためには専用機器の設置が必要だ。V2Lの場合も、外部へ電気を取り出すための機器が必要になる。一方アウトランダーPHEVには、100V/1500Wのコンセントが車内に設置されており、外部への給電という点において、オートキャンプなどでの余暇を含め、PHEVでは多くの場合それで用が足せるのではないだろうか。
初代アウトランダーPHEVが開発された折、軽自動車のEV(i-MiEV)のモーターとバッテリーを活用し、大柄なSUVのPHEVを実現させた着想に驚かされた。そうしたPHEVの先駆者としての貢献は大きい。だが、この先のEVの増加を考えれば、PHEV本来の価値を見極める時期に来ているのではないか。
急速充電機能搭載のためにトヨタがやるべきこと
そのうえで、トヨタが新型アルファード/ヴェルファイアのPHEVに急速充電口を設けて発売するのであれば、全国のトヨタ販売店に急速充電器を整備し、PHEVを所有しながら自宅に基礎充電を設置できない顧客に対して、販売店での充電を主体に考えてもらうよう促すのが、余計ないさかいを避ける一つの手立てとなるのではないか。トヨタの販売店すべてに急速充電器が整えば、それだけで約5000か所の拠点になる。
ただし、街なかにある販売店の急速充電器はすでに他メーカーの整備が進んでおり、先日発表された充電インフラ補助金予備分の配分概要(関連記事)でも、急速充電器への補助金は高速道路SAPAなど経路充電拡充を優先する方針が示された。自社顧客サービスのための販売店への急速充電器設置は、フォルクスワーゲングループのPCAがそうであるように、国の補助金を使わずに行うのが望ましい。
2026年までにトヨタはEV攻勢を掛けるのであろうし、レクサスはEV専用の銘柄になっていくはずだ。同じトヨタの顧客同士でEVとPHEVが経路充電の取り合いになる懸念さえ、いまのままでは考えられなくもない。その解決を、eMP社に任せればよいということではない。
充電を必要とする電動車両は、よいクルマづくりだけでなく、脱二酸化炭素社会を総合的に構築していく目線を自動車メーカーに求めている。つまり、EVやPHEVの市場導入と充電基盤整備は一体の事業なのだ。そのことにトヨタは早く気づき、自動車業界の盟主として未来への範を示してもらいたいと期待する。
文/御堀 直嗣



