集合住宅へのEV充電器設置事例【3】賃貸マンション平置き駐車場に自費で設置 〜 追記あり

電気自動車(EV)普及のポイントでもある集合住宅への充電器設置について、具体的なノウハウを知るためのシリーズ企画。今回は事例レポートの第3弾。東京都「市部」のマンションで、なんと初の「賃貸物件」です。住民が大家さんを説得し、費用を個人負担。平置き駐車場に200V充電器を設置した事例をご紹介します。

設置事例のレポート企画シリーズでは、設備の概要、導入の経緯、運用方法(課金など)について、共通したポイントを整理してお届けしています。今回もシリーズ共通のポイントは抑えつつ、賃貸マンションに充電器を設置することに成功した「Rayさん(ハンドルネーム)」と、取材した著者(箱守= Hakomori)とのQ&Aの形でまとめてみました。

【集合住宅へのEV用充電器設置関連 〜 今までの記事】

電気自動車を買うには自宅に電気工事が必要?

(2015年1月13日)

東京都の集合住宅などへの充電設備補助金【申請受付中!】

(2019年6月20日)

電気自動車用充電器を設置した都内マンションで最新EV試乗会開催

(2019年3月31日)

集合住宅・マンションに電気自動車用充電器を設置する 【第1回】理事会を通す 編

(2019年8月9日)

集合住宅・マンションに電気自動車用充電器を設置する 【第2回】総会・施工・運用 編

(2019年10月15日)

集合住宅への充電器設置事例【1】大規模マンション「西戸山タワーホウムズ」

(2019年11月21日)

集合住宅への充電器設置事例【2】区分所有者が自腹で設置した小規模マンションの機械式駐車場

(2020年1月7日)

【2/2追記】

『EVsmartブログ』では、集合住宅に充電器を設置した方の体験談をいろいろご紹介したいと考えています。いわゆる「分譲マンション」のほか、「賃貸マンション」や「アパート」の事例をさまざまに提示できるといいな、と思っています。

集合住宅で基礎充電をどうするかはEV普及の大きな課題。取材に応じていただける方は、ぜひ貴重な体験談を教えてください。プライバシーには充分配慮いたしますので、お気軽にお話しください。

取材にご協力いただける方は、下のメールアドレスまでメールでご連絡ください。evsmart-interview@googlegroups.com

お待ちしております。

【以上、追記終わり】

充電設備の概要

【Q】これまで私たちが見聞きしてきた集合住宅への充電器設置の例を考えると、気になるのは、物件が「賃貸」か「分譲」かということです。もし前者なら、事例はこれまで聞いたことがありませんので、貴重な実践報告です。どちらですか?

【A】賃貸マンションです! そこに、大家さんのご理解をいただいて、200Vの普通充電器を設置しました。初めはトヨタ・プリウスPHVを充電していました。

のちにテスラ・モデル3の購入を決意しましたので、テスラ用の充電器「ウォール・コネクター」に付け替えました。じつは、モデル3が納車される前にウォール・コネクターへの付け替え工事が完了してしまいました。モデル3が来るまではPHVに乗っていましたので、ウォール・コネクターを付けてからの10日ほどは、当然ですが、PHVには充電できなくなりました(笑)。

【Hakomori’s Take】

いよいよ賃貸マンションにも充電器が設置され始めました。Rayさんの事例は、いわゆる「アパート」にも応用可能な方法だと感じました。

時系列を整理しておきます

RayさんがプリウスPHVに興味を持って購入に至り、その後にモデル3に興味が出て購入を志し、充電器を設置してきた経過を、簡単に整理してみましょう。

2016年1月

家族の要望も容れ、トヨタ・シエンタを購入。自分だけで自動車を購入できて駐車場を確保できるほと余裕も無かったし(じつはRayさんはまだ20代)、まずはご両親の意向を反映した車種選択でした。人気車種とあって、納車まで結構待たされました。電気自動車(BEV)にはまだ目覚めていませんでした。

2017年2月

電気を使うことでエネルギーを有効利用できるハイブリッド車(HV)に興味を持ち始め、同じトヨタ車であるプリウスPHVに関心を持つ。折り良く、新しいプリウス「50系」をベースにしたプリウスPHVが発表されたので、すぐに購入に動く。

続いて、自宅充電できるように、「電気とガソリンで走るクルマを購入する予定」であり、「自宅で充電できることが重要」であると、大家さんに説明を始める。

2017年5月末

プリウスPHVが納車される。

これに合わせて、少し前から大家さんに対して説明してきたものをまとめ、充電器設置を本格的にお願いする。ポイントは…

**1/壁面に極力穴を開けない。

2/引っ越しで出て行く際は、全て撤去して傷を残さないようにする。**

であった。

乗り始めてみると快適で満足。特に電気の良さに大満足。ただし、それに比例して、エンジンが掛かるとガッカリする気持ちも高まってくる。

2018年3月

アメリカ旅行。旅行のなかで、テスラを初めて知る。テスラのショールームを見学し、モデルSの良さを学ぶが、価格的に全く手が届かないため、意識の中には入らなかった。

ただ、最後にテスラのスタッフから、より価格を抑えたモデル3が出ることを聞き、強い印象を受ける。

帰国直後、青山のテスラを訪問し、モデルSに試乗。「こんなクルマがすでにあるのか!」と強い衝撃を受ける。試乗したのはモデルSのP100Dだった。しかし、金額は全く手が届かず、ここでも購入対象には入らなかった。

2019年11月

東京モーターショーに行ったところ、テスラではなくドコモのブースにモデル3が展示されていたのに遭遇。すぐにテスラに連絡を取り、モデル3の試乗を予約。

2019年11月17日

モデル3に実際に試乗。自分で購入するのは「ロングレンジ」がいいと思っていたが、試乗車は「パフォーマンス」だった。パフォーマンスを知ってしまった身としては、ロングレンジでは不満に思わないか気になったが、とにかく大満足したので、その場で購入を予約する。

モデル3購入に際して、「CHAdeMOアダプター付き」か「ウォールコネクタ(設置付き)」にするか選択することになる。現状の自宅200V充電設備を考慮し、前者を一旦選択する。

直後に大家さんに対し、再びお願いに行く。既設の200Vを、テスラのウォールコネクターに替えさせて欲しい件、今後は「全て電気で走るクルマ」になるので、「エンジンが付いていてエンジンでも走れるハイブリッド」とは自宅充電の重要性が大きく増すことを丁寧に説明する。

2020年1月12日

プリウスPHV用に使っていた200V普通充電ソケットを、テスラのウォールコネクターに付け替える。

2020年1月23日

テスラ・モデル3・ロングレンジ納車。

2020年1月30日

現地取材。納車から1週間経ったテスラ・モデル3はもちろん快適で、自宅充電も快調。友人を送りに成田空港まで往復、初の長距離(中距離)となったが、東京都市部から途中無充電で充分に往復できた。

充電器導入検討から設置へ

【Q】自宅充電の必要性を感じた理由は?

【A】プリウスPHVの注文を決めた段階では、自宅充電はあまり視野に入れていませんでした。駐車スペースも、自宅と隣接していない場所でした。道路に面している場所を避けたかったので、奥のほうにある枠を借りていました。

当時は、普段の充電は、商業施設やディーラーなどで行う運用を考えていました。

当初は「コスト面」よりも、「モーター走行での性能と静粛性」を求めてPHVへの乗り換えを決めました。ところが、調べていくうちにコストや利便性において、自宅で充電できることに大きなメリットを感じました。そこで、納車前に充電器の設置完了を目指し、大家さんと交渉をしようと決めました。

【Q】大家さんには、どう提案しましたか?

【A】まず、トヨタ・プリウスPHVの購入にあたって、大家さんに駐車場使用許諾の書類を記入して頂く際に、私自身が直接、「これから充電ができる車に乗り換える」ことをお話しし、「極力外壁に傷が付かない方法で工事をすることを条件に、マンションに充電器を設置する許可を頂けないか」と交渉しました。

また、「引越しで出て行く際には、全て元通りに撤去・修復する」ことも約束して、許可を頂きました。

大家さんはあまりクルマに詳しくないご様子だったので、丁寧に説明することが重要だと感じました。そこで「自宅の配電盤から配線するため、他の居住者には影響がない」こと、「外観を大きく損なうようなサイズではなく、比較的コンパクトに設置できる」ものである点、「私の自宅の場合は、通気口から配線を出せたため、穴あけ工事が不要」な点などをご説明しました。

この賃貸マンションには、私の両親と私との3人で、これまで15年ほど住んでいる(居住歴最古参の一人であった)ため、大家さんとの面識もあり、度々お世話になっている間柄なので、コミュニケーション自体のハードルは低かったです。

【A】テスラ・モデル3への買い換えに際しても、前回の設置の際にご了承を頂いていたので、特に懸念するようなことはなく話が進みました。

「PHV購入の際に、充電器設置を許可頂けて非常に助かった」こと、「次の車は電気のみで走るため自宅での充電がさらに重要になり、それにともないブレーカーのアンペア変更をさせていただきたい」点などもお話ししました。

やはり、今の世の中を見渡したとき、「少しでもEV導入のハードルを下げたい」という思いもあり、今後、私の住むマンションに居住されている他の方が(充電器を設置したいと)相談するような際にも、大家さんにはある程度の(電気自動車に関する)リテラシーを持った状態で話に応じていただけるよう、ここでは敢えてEVについて少し詳しくお話ししておきました。

【Hakomori’s Take】

今回、Rayさんには取材のお願いに対してご快諾をいただきましたが、お忙しいなかを縫っての取材対応を通して一貫して感じたのが「私の実践が、今後の皆さんにご参考になれば嬉しいです」という、Rayさんの公共を意識した姿勢でした。icebreakerでありpioneerであるという気概が感じられました。ぜひ、参考にして、後に続いていただけると私も嬉しいです。

費用負担について

【Q】工事費用は誰が負担しましたか?

【A】プリウスPHVのときは、工事費用は自分自身で負担しました。およそ10万円だったと記憶しています。

Model 3のウォール・コネクターのときには、テスラのクーポンを利用して、プリウスPHV用充電器の設備撤去と、ウォール・コネクターの設置を含めて、無料で済みました。実際にかかったのは、CHAdeMOアダプターを同時に購入した際の55,000円だけでした。

【Q】利用できる補助金はありましたか?

【A】プリウスPHVのときは、トヨタの担当者に自宅に充電器を設置することを相談し、必要な手続き等のご案内をいただきましたが、特に補助金等の話が出なかったので、無いものと認識しておりました。特段自分自身で細かく調べることはしておらず、車両購入に伴う補助金の方しか気にしていませんでした。

モデル3のときには、もともと無料でしたので、特にありませんでした。

利用料金設定と運用方法

【Q】料金徴収の方法は?

【A】今回の充電器の電源ですが、じつは「自宅の配電盤」から配線しています。そのため、料金も普段の自宅の電気料金に合算されている形です。

【Q】充電に掛かる電気料金は、いくらぐらいですか?

【A】プリウスPHVでは、充電回数や充電量にもよりますが、特段電気料金が大きく上がっていないとのことだったので、以前との差を勘案すると、充電にかかっていたのは1,000円程度だと認識しています。

今後、モデル3では自宅充電がメインになるため、充電費用の大部分が自宅の電気料金での支払いとなると思われます。金額としては、プリウスPHVのガソリン代が1ヶ月あたり3,000〜5,000円程度だったので、これより2〜3割安く(2,100〜3,500円ほど)なれば良い程度かと思っています(取材時点ではモデル3納車直後のため電気料金などのデータは未判明)。

プリウスPHVはもともと燃費が良く、自宅充電だけで50km程度は走行可能だったため、今までの燃料代も比較的安く済んでいました。

【Hakomori’s Take】

今回のRayさんの場合は、住戸がマンション建屋のいちばん端にあり、なおかつその外壁の外に駐車場が位置していた幸運もあります。

建物にはアルミ製の雨よけの付いた換気用のダクトがよく設置されていますが、その穴を利用して屋内から電線を引き出すことができました。よって、コンクリートの外壁に新たに穴を開けるような工事は不要で済んでいます。

屋内の配電盤から200Vを分岐し、それを屋外に設けたEV用充電器に繋いだ形です。配線カバーも施され、見た目にもすっきり施工できました。この形なら、EV充電に使用した電力量を測る機器を途中に入れる必要もありません。

利用者の評価

【Q】この部分は、今回はRayさんご自身の感想をお聞きすることになりますね。取材時点ではモデル3納車からちょうど1週間なので、PHV時代の感想が中心になりそうですが、教えてください。

【A】やはり、モーターで走行することの楽しさは非常に大きいですね。個人的に一番気に入っているのは、車内が静かなところです。

また、自宅では給油できませんが、充電ならできるため、「バッテリー式電気自動車(BEV:エンジン無しの純粋な電気自動車)」になれば、さらにその利便性が増すと思うと、これからが楽しみです。充電に多少の時間がかかったり、外出時の充電はガソリンスタンドでの給油よりは場所を選びますが、プリウスPHVの時も極力充電をして乗るようにしていたので、EVに対する不安感みたいなものは、ほぼありません。

ただ、プリウスPHVを経験したからこそ、BEVへの乗り換えを決心できたのだ、とも思います。まさに「ガソリン車とBEVを繋いでくれるクルマ」としては、非常に使いやすかったです。

2020年1月30日に、モデル3納車「1週間後」のRayさんにお会いしてお話しをお聞きしてきました。モデル3は、予想に違わず快適かつ愉しいクルマだそうです。プリウスPHVも良かったが、モデル3は別次元だとか。

モデル3が来てからは、1回だけブレーカーが落ちたことがあったそうです。200V充電器導入の際に、ブレーカーを40Aから60Aへ上げることを大家さんに相談に行ったそうですが、他の住戸でもすでにそうしているところがあるとかで、すんなり認めていただけました。そこからA数をよく考えて運用してきましたが、計算間違いをしてしまったようです。

今はモデル3側から、充電は24Aまでに制限しているそうです。ただし、たとえば朝の7:00までは24Aで良いものの、家人が起きて活動が活発になる7:00以降は15Aにアプリで変えられるような機能があると嬉しいと実感するようになったそうです。今のところ、モデル3は車内から設定はできますが、外からアプリで設定を柔軟に変えることは出来ていないので、そこが改善してもらいたい部分だとか。

【Hakomori’s Take】

やはりPHEVは、電動車両に興味はあるものの、一足飛びにBEVまでは踏み込めないユーザーを、BEVに緩やかに移行させる機能もあるのですね。「PHEVはBEVに誘い込む『ブービートラップ』だ」という冗談を言う人も居ますが、まさにそれですね(笑)。でも世界のBEVの動きを見ていると、今後は「BEVへの敷居」も次第に低くなってくることでしょう。高級価格帯だけでなく、プジョーがめざしているような普及価格帯のBEVもどんどん出てくるでしょうし。

今後への課題

【Q】何か、発展の方向性や改良点があれば、お教えください。

【A】おそらく今後、自宅充電に関して何か問題が起こる、あるいは課題が残っている、といったことはないと思います。ただ、大家さんも含めて、日ごろの丁寧なお付き合いと意思疎通はかなり重要だな、ということは感じました。

【Hakomori’s Take】

なるほど。「コミュニケーション」の力は、ここでも大切なんですね。大家さんに対して、電気自動車がどんなもので、環境やユーザーや他の住民にどういうメリットとデメリットがあり、どう対応するのが妥当か、という情報を提供して丁寧に説明することも、充電器設置の大きな力になるようですね。

Rayさん、お忙しいなかいろいろとありがとうございました。また、モデル3をさらに乗っての感想なども、近いうち追加取材させてくださいね。よろしくお願いいたします。

賃貸の集合住宅にお住まいの皆さんも、大家さんに丁寧に説明することで、充電器設置を実現することは不可能ではないかも知れません。電気自動車の仕組みと意義、自宅充電の重要性、充電設備が建物にどう影響を与えるか(与えないか)、万が一撤去する際の様子、そして電気代の明快な支払い処理の説明がカギでしょう。

(取材・文/箱守 知己)