軽自動車規格が世界のEV普及のお手本になる?〜欧州自工会会長の発言を読み解く

欧州自動車工業会会長で、ルノーのCEOを務めるルカ・デメオ氏が、電気自動車(EV)の普及について日本の軽自動車規格を手本にすべきという考えを示しました。デメオ会長の発言を見ながら、軽規格の可能性を考えてみたいと思います。夢は、軽自動車で世界制覇です。

※ 冒頭写真はRenault『Twingo Legend』。

EVの販売台数が伸び悩んでいる?

ドイツのハベック副首相兼経済問題担当相は2024年2月12日、ベルリンで記者団に対し、電気自動車(EV)の販売が今のままの伸びであれば、ドイツが目標にしている2030年に1500万台のEVを保有するという目標には届かないだろうという考えを示しました。

ただ同時に、どこかでティッピングポイントを超える可能性はあるとも述べています。ティッピングポイントは、あるしきい値を超えたときに急激に状況が変わる転換点です。

ドイツでは、EVの販売台数が伸びているものの、伸び率は2022年の30%超から2023年には11.4%に落ちています。またドイツは2023年12月にEVへの購入補助金も終了しています。

またテスラ社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は2023年第4四半期の決算発表の際、2024年は次世代車両の立ち上げなどに注力するため、販売台数の伸び率は2023年に比べると著しく低くなるだろうと述べました。

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テスラ2023年Q4決算を発表〜イーロン・マスクCEOが日本市場へのさらなる注力にも言及(2024年1月27日)

EVの市場の伸び率が鈍化する中、もうこれ以上市場は拡大しないのではないか、やっぱりハイブリッド車(HEV)が中心になるのではなどの記事も出ていました。ロイターは2023年8月に、HEVへの関心が持ち直しつつあると伝えています。

切り札は「軽規格」か

そんな中、ルカ・デメオ欧州自動車工業会(ACEA)会長は、2023年11月30日に行われたACEAの今後の取り組み方針(マニフェスト)を発表する記者会見で、日本の軽自動車規格がポイントになるという趣旨の発言をしました。デメオ会長は、ルノーグループのCEOでもあります。

De Meo: Europe urgently needs a holistic approach to automotive industry challenges(YouTube)

デメオ会長は会見の冒頭、欧州と欧州の自動車業界は転換期を迎えていて、2030年までに既成の大幅な強化、CO2削減、原材料の安定供給に関する規制などが予定されているとし、自動車業界、行政などの関係者全員がテーブルを囲む必要があると述べました。

その上でEVについては、小型EVを含むゼロエミッション車を欧州で作ることは自動車関係者全体で取り組むべき課題だとしました。

そして日本の軽自動車を例に挙げて、こう述べました。

「日本が軽自動車でやってきたことを見てみよう。これは、私たちがヨーロッパでもできることの完璧な例だ。経済的な支援はもちろん、車を取得する時の費用を普通車の3分の1に抑えているほか、高速道路料金は20%安い。市の中心部への住民のアクセスも確保されている。スマートな政策設計によって、駐車場の証明は軽自動車だけが免除されている」

市中心部への住民アクセスというのは、もしかすると何か勘違いをしているのかもしれませんが、要するに政策と自動車を連動することで、環境負荷の少ない小さな車を普及しやすくできるということです。

そして軽自動車のような小型車の普及は、ACEAが2023年11月に発表したマニフェストで示した、「手頃な価格で購入でき、ヨーロッパで生産することで利益が得られる小型EVを含む、あらゆる種類のゼロエミッション車を製造するための条件を整備する」という目標を達成する手段のひとつになり得ます。

つまり軽自動車は、ハペック独副首相の言う「ティッピングポイント」になったりするかもなのです。

軽自動車なら価格を抑えることができる

これだけでなく、質疑の中でもデメオ会長は軽自動車を例に出しました。

質疑応答の中で、欧州での自動車価格が長年にわたって上昇していることについての考えを問われたデメオ会長は、自身がCEOを務めるルノーグループが11月15日に、次期『TWINGO(トゥインゴ)』をEVにし2万ユーロ以下で販売する発表をしたことに触れ、小型EVのメリットを強調しました。

ポイントは、「50〜60kWhのバッテリーを搭載するとEVのコストを押し上げる」ことになること、そして小型車なら「すべてをこなす車(大型車)ほどはコストがかからない」ことです。

またルノーの2万ユーロの小型EVについては、「このプロジェクト全体の目的は、ヨーロッパで製品を作り、ヨーロッパで供給すること」にあると述べました。域内での雇用確保を重視していることがわかるのと同時に、中国から安い製品群が入ってくることを警戒しているようにも感じます。

デメオ会長はこのほか、「(小型EVの)使い方を考えたとき、私たちはその車のユーザーに対応したものを提供できると思う」と述べ、そうした車には「OEMメーカーも興味を持つだろう」と話しました。

実際、トゥインゴ・レジェンドについては、フォルクスワーゲンが共同開発に関心を持っているという報道がありました。フォルクスワーゲンも低価格EVの必要性を公言しています。

そしてデメオ会長は、日本で軽自動車が市場の40%を占めるのは、日本が貧しいからではなく都市部でもっとたくさん自動車を走らせた方がいいという認識があるからだ、と述べました。ここは、たくさんというか、便利に走らせるという意味かもしれません。

そして、そうした小さな車の使い方を考えれば、「高速道路を時速130kmで走るようなことはしない、大きなバッテリーも必要ない。これはとてもいい例だと思う」と強調しました。

それに対して「欧州の規制はこの20年間、車の重量と寸法を押し上げるだけだった」と評したほか、「今は大型のEVが多い。だから、私たちは下へ下へと降りていかなければならない」と述べました。

まったくもって同感です。ふに落ちることが多くてびっくりです。

「私がEVについてよく書くのは、楽しいから」

デメオ会長は小型EVの今後について、まず「(VW)ポロや(ルノー)クリオのようなBセグメントの小型車が登場し、完全に電動化されるだろう」とし、ルノーは2024年半ばに『5』を投入することを紹介。これらの車は「価格が下がるだろう」と述べ、「もし私たちが技術革新に取り組み、小型車が市場の40%、私の国のように45%を占めるようなら、多くの人が小型車を購入するようになると思う」と続けました。

さらに、「EVは欧州のパワートレインミックスの中で支配的になると思う」という見方を示した上で、「私がEVについてよく書くのは、とても楽しいからだ」と述べました。

デメオ会長は、EVの場合は充電の問題もあり、旅行の計画は少し心配しなければならないと言いつつも、「EVは静かだし、よく加速する。環境への影響とは別に、電気技術はとても興味深い」などとEVの魅力を語りました。

デメオ会長は、自分でもちゃんと乗ったことがあるのかもしれないですね。

充電の問題があるから使えない、ではなく、問題はあるけども楽しいし快適だ、という前向きの見方が日本の自工会からも出てくるようになったら、将来に希望が広がりそうだなあと思ったりしたのでした。

軽自動車で世界市場を席巻とか

日本の自動車登録台数は、2023年11月末時点で、登録車が約4700万台、軽自動車が約3200万台です。デメオ会長が指摘したように、軽自動車の割合は約40%です。なるほど、欧州での小型車の割合と同じくらいです。

軽自動車規格はよく、日本独特のものと言われ、海外に出すことができないガラパゴス製品と見られてきました。

でもよく考えると、欧州にはさらに小型の自動車規格があります。16歳以上なら免許なしで乗ることができるマイクロモビリティーは、欧州では昔からあるものです。もっと言えば、欧米では珍しくないし、筆者はメキシコシティーで業務用の超小型EVが走り回っているのを見ました。今から15年くらい前です。

そんなふうに見ていくと、特殊なのは軽規格があることよりも、日本の車のバリエーションの少なさではないかとも思います。

翻って軽自動車の規格は、車のサイズとしては欧州でも違和感がないことがわかります。問題は660ccという排気量で、その非力さにはいかんともしがたい部分があります。

でもこの問題は、EVになることでほぼ完全に解決するわけです。EVなら静かだし、パワーもあります。EVにすることでアッパークラスの車と勝負できる乗り心地を実現できます。

それなら、日本独特のガラパゴス規格とは言えないのではないでしょうか。仮に『サクラ』を欧州に持っていったらどうなるのでしょうか。今年は軽商用EVも出ます。来年はホンダから『N-ONE』のEVバージョンも出てくる予定です。

ということで、『サクラ』登場以降、強く思っているのが、「軽自動車を世界標準にする」ことです。これでいいじゃんと思うのです。

もちろん、5人乗り、7人乗り、9人乗りの車があってもいいです。高級車も否定しません。

でも、EVが持つポテンシャルのうち、内燃機関(ICE)の車にはない環境性能をフルに発揮するのなら、やっぱり小さい方がメリットは大きいです。デメオ会長も指摘したように、小型車で十分という使い方をしている人は少なくありません。その市場はあるはずです。

それに、安全性だって超小型モビリティーに比べたらはるかにしっかりしています。

それならもう、軽自動車を世界で売ってみればいいんじゃないかと思うわけです。

いっそ、「サクラ」とセットでAESCの工場もヨーロッパに作ってサプライチェーンを構成すればいいのにとか、考えてしまいます。

夢は、軽自動車で世界制覇です。

そんな大胆なことが今の日本にできるかどうかはわからないのですが、妄想というか願望としては十分にアリだなあと自画自賛的には思うし、最近は一寸先は闇だし、何かの拍子に実現したら車の価値観が激烈に変わりそうで楽しそうだなあって考える今日このごろなのでした。

文/木野 龍逸