EV普及はまちづくりである〜トークイベント「EV充電インフラの現状と課題」ポイント解説

先日レポートした「自転車・電動モビリティまちづくり博」のステージで、ふたつの興味深いトークイベントがあったのでダイジェストで紹介します。まずは、EVsmartブログ執筆者でもある箱守知巳さんが登壇した「EV充電インフラの現状と課題」で語られた「EV普及はまちづくりである」というポイントを考えます。

日本発の「チャデモ」はダメ規格なのか?

2023年5月12日〜13日に東京都新宿区で開催された「BICYCLE-E・MOBILITY CITY EXPO 2023~自転車・電動モビリティまちづくり博~」。興味深い出展が多く集まっていたことは、5月12日の速報レポートで紹介しました。会場の特設ステージでは、さまざまなテーマでトークイベントが行われました。その中で、13日に行われたふたつのプログラムで、興味深い内容が語られたのでポイントを考察してみたいと思います。

はじめに紹介するのは、午前中に行われた「EV充電インフラの現状と課題」をテーマにしたトークです。ジャーナリストの沖一幸さんがモデレーターを務め、EVsmartブログ執筆陣のひとりで、先だってチャデモ協議会広報部長となった箱守知巳さんと、建築マネジメントを手掛ける株式会社山下PMCシニアマネージャーの高木啓司さんでした。

「電気自動車をエンジン車に置き換えるだけではない」というのは、EV普及を語る際に見失いがちなポイントです。「EV充電インフラの現状と課題」のセッションでは、まさにそこがポイントになりました。

トークイベントの前半は、箱守さんがスライドを使いながら「充電インフラの現状」について説明しました。チャデモ協議会広報部長という立場から、おもにチャデモ規格による経路充電(急速充電)を中心に日本と世界における普及の推移などを紹介。その中で、箱守さんが強調したのが「チャデモ規格は出力が低くてダメ」という、最近、SNSなどで見受けられる批判に対する反論でした。

箱守さんが「チャデモの長所」として挙げた重要なポイントは、欧米のCCS(コンボ)規格では車両と充電器(ネットワーク)との通信方法に、電力線を利用する PLC(Power Line Communication)を採用しているために、ノイズが発生しやすいなどの理由で、数年前から対応することを表明しつつ今に至っても「V2H(Vehicle to Home)に対応できていない」ということです。

一方、チャデモ規格では専用の通信線を備えたCAN(Controller Area Network)通信を採用しており、精度の高い制御が容易で、V2Hにも当初から対応しているというメリットがあります。

また、欧米のCCS(北米はCCS1、欧州はCCS2と、基本的な規格は共通しているもののAC充電用のコネクター形状が異なっている)による急速充電スポットでは、350kW級の超高出力器が積極的に設置されているのに対して、チャデモ規格を採用する日本国内では50kW以下が中心で、ここ数年で90kW、今年になって150kW級の急速充電器がポツポツと設置され始めたという現状で「チャデモは遅い!」といった論調があることに触れました。

以前の記事で紹介したように「チャデモ1.0」規格は最大出力50kW(125A×500V)の規格でしたが、最近主流となりつつある「チャデモ1.2」では最大200kW(400A×500V)、まだ実機は少ないものの規格としてはオーソライズされている「チャデモ2.0」では最大400kW(400A×1000V)のスペックがあります。

つまり「チャデモは遅い!」というのはそもそも誤解。実際の充電スポットに350kWといった超高出力のチャデモ急速充電器が設置されないのは、おもに「自動車メーカーが慎重に対応しているから」という見解です。

350kW器が増えている欧州でも、ドイツのコンサルが発表したデータを例に挙げ「実際に350kWのフル出力を活用できるEVの車種は少なく、350kWは作っても使えない。喩えると、時速1000kmの新幹線を想定した線路を1000kmで走れる新幹線より先に作るようなもので、お金やリソースの無駄ではないか」(箱守さん)ということです。

個人的に共感できるポイントでした。公共の急速充電インフラとしては、90kWの出力があってEV側の充電性能がそれに対応していれば、30分間で200km以上を走れる電力が補充できるので実用的に十分です。350kW級の設置を進める欧州のIONITYや、北米のElectrify Americaといった充電インフラ企業には、フォルクスワーゲングループなどのEVメーカーが出資しています。EVのパイオニアとなったテスラでは現在の規格で最大250kWの出力を誇るスーパーチャージャーネットワークを独自に構築しています。350kW、さらに言うと150kWを超えるような高出力急速充電インフラは、その出力で充電可能な高性能EVを発売する自動車メーカーがコストや機能を主導して整備していくべきではないでしょうか。

とはいえ、EVユーザーのひとりとして、現状のチャデモ急速充電器で良いと考えているわけではありません。

たとえば、チャデモのアドバンテージであるはずのV2Hも、専用機器はニチコンが発売しているだけで、EVへの充電時と放電時のロスが大きいという難点があります。災害時などの非常用電源として使うのであれば少々効率が悪くても「電気がある」ことが重要ですが、日常的に太陽光発電との組み合わせで電力自給自足に近い暮らしをしようとする場合、効率は高い方がいいに決まっています。このあたりも、EVを発売する国内自動車メーカーがもっと改善にコミットして欲しいところだと感じます。また、新設される公共の急速充電スポットでEVとの相性問題で不具合が多発している状況も、自動車メーカーがしっかり関与してなんとかしてほしいと切望します。

集合住宅へのEV用充電設備導入のポイントは想像力

建築をプロデュースする専門家である高木さんは、まず「分譲マンション」におけるEV用充電設備設置の難しさを指摘。分譲マンションでは駐車場収入を管理費に充ててきたものの、近年、都市部におけるマイカー所有率が減少する傾向があり、駐車場の契約率が下がり、管理費の見直しを迫られるといった例を挙げ、「区分所有マンションの資産価値をいかに高めるかという共通の意識をもつことが大事」であると指摘しました。

高木さんの指摘を受け、箱守さんが以前EVsmartブログで取材した新宿区内の分譲マンションで地下駐車場にEV用充電器を設置したら、充電器の通信用にWi-Fiも整備され住民の利便性が高まった実例や、広島市で全区画で利用可能なEV充電用コンセントを設置した実例を紹介。

高木さんは、そうした先進的な事例は、住民の方々の意識が高く、粘り強く取り組むキーパーソンがいてこそ実現できるとして、「多くの方は、実際にできてみないとその便利さや必要性がわからない。でも、今後の変化や可能性を想像して実現に向けて進めていくことが重要」であり、そうした想像力はEV普及に限ったことではなく「まちづくり」にとってとても大切なポイントであることが説明されました。

「たとえば、マンションの各部屋までEVで乗り入れられるマンションがあれば、きっと売れると思います。また、ある程度の規模以上のマンションには非常用発電機を設置しますが、月に一度は試運転をしなければいけなくて手間が掛かるし、軽油タンクも必要になります。でも、V2Hに対応したEVを非常用電源として活用できる仕組みを備えておけば、発電機は不要になる。EVはただの自動車ではなく電気製品であると考えて、EVを活かした新しいまちづくりを想像していかなければいけない時代になってきているのではないでしょうか」(高木さん)

「EV充電インフラの現状と課題」というトークのテーマから、EV用充電インフラについて「足りないねぇ」といった課題が語られるのかと思っていたら、最終的には「EVそのものが新しい社会インフラ」という夢のある結論となりました。電気という汎用性が高いエネルギーを貯めることができ、排気ガスが出ないから屋内でも走行できる。電気自動車ならではのメリットを活かした新たな社会ツールとなり得ることは、実はEV普及の最も魅力的な可能性ではないかと提言するトークセッションとなったのでした。

取材・文/寄本 好則