MIRAIの開発責任者である田中義和氏によれば、EVは電力を大量に消費するため、今以上の急速充電が可能になったとしても、将来性はないという。
本当でしょうか?事実かどうか、検証してみましょう。
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EVで500kmの距離を走るために必要な電力を12分間で充電できる?
田中氏がロイターに語ったところによると、「例えば、EVで500kmの距離を走るための電力を12分間で充電したとすると、その消費電力は1,000戸の家庭に供給する電力量と同程度になる(英語記事)」とのこと。Autoblog日本版の記事はこちらです。
2012年に最初のオーナーに納車され、2014年から日本でも販売されているテスラモデルSの実データを使って検証してみましょう。モデルSの夏の標準的な電費は200Wh/km。500km走る場合は、200×500/1000=100kWh。現時点で、100kWhのサイズのバッテリーを持っている電気自動車は存在しませんが、仮にこれを急速充電するとしましょう。電気自動車の急速充電速度は、バッテリーの技術の種類によって異なります。東芝のSCiBという素晴らしい電池が急速充電性能は最も高いのですが、サイズが大きくなる点(容量密度といいます)と価格が課題で、大容量の利用は主にグリッドストレージになっています。車ではアイミーブの10.5kWhバージョンがこのSCiBを搭載しています。
通常のリチウムイオン電池と仮定すると、モデルS 85kWhバッテリーは80%までの充電時間が出力120kWの急速充電器で約40分。すなわち、100kWhのバッテリーの80%までの充電には約47分かかるということになり、その時の最高出力は141kWとなります。また100%まで充電するには、94分かかります。リチウムイオン電池の急速充電では、0-80%までの充電時間と、80-100%までの充電時間はほぼ同じくらいになります。
あれ?そうなんです。いくら急速充電器を高出力化しても、500kmを12分で充電するのは、現在の技術では目途のついていない、超未来のテクノロジーなのです。これは、リニアモーターカーを時速2000kmで走らせれば15分で大阪に着くけど、電力供給が間に合わないからうんぬん、という議論と同様、意味のないお話であることがお分かりいただけると思います。田中氏は技術者ですから、おそらくそういう意味で発言されたのではないと思いますが、メディアが取り上げる際に改悪したのでしょうね。
12分で充電する必要性
そもそも500kmの距離を走行できる電力量を12分で充電する必要はあるのでしょうか?
電気自動車は、充電スポットなどにわざわざ行かなくても、自宅で充電ができます。12分が12時間でも、その間、長距離を移動する用途で車を使用しないなら別に困らないのです。この自宅充電というコンセプトは従来の自動車とは大きく異なるので、なかなかイメージができないだけでなく、既成概念をベースとして考えるとデメリットが大きく感じるものです。もちろん充電は速いほうが遅いよりはよいですが、速いほうがお金もかかります。皆さんも、常に最も高速に移動できる飛行機や新幹線「のぞみ」ばかり選んで乗車しているわけではないですよね?ケースバイケースです。寝ている時間に移動できる、寝台特急や夜行バスを利用する方も多いのです。
ちなみに、先ほどの100kWhバッテリーを普段は80%運用したとして、ほぼ空から80%まで家庭用の6kWの電力で充電すると、充電時間は約14時間。12時間で自動停止させれば東京電力なら半日お得プランが使えます。電気自動車のために、本来は従量電灯B 40A(1,123円20銭)だったところを、半日お得プラン10kVA(2,160円00銭)にし、仮に夜間に80kWh充電すると1kWhあたり12円59銭なので電気代は1回1007.2円。基本料金は月間で1036円80銭高くなります。これで400km走行するわけですから、130円あたり51.6km走行できます。
これで十分じゃないですか?
- 急に50km以上離れた場所に、夜出発しなければならなく、かつ途中で30分急速充電できる余裕もない
- 毎日400km以上走行する
- 家にいる時間が12時間以下で、かつ毎日車を使い、一日200km以上も走行する
こんなケース、皆さんに当てはまりますか?
そうなんです。12分で急速充電は、もちろんできたら便利。しかし、現時点において、最新の技術をもってしても実現不可能であり、実際には不要なのです。もちろん、それが電気自動車の弱点の一つですから、無理に乗り越える必要はないのですが、電気自動車のメリット、例えば排気ガスを出さないことや加速がスムースでパワフルなこと、そして給油やオイル交換が不要なことが気に入っているなら、乗り越えられる不便さであるといえるケースもあるのではないでしょうか。
電力インフラへの影響は?
皆さんは一日にならすと、平均何キロくらい運転しますか?国土交通省の道路交通センサスによれば、自家用の普通乗用車はの1日の平均走行距離は32.3km(営業車は179.8km)です。32.3kmを走行するのに必要な電力量は、テスラモデルSの場合、200×32.3/1000=6.46kWh。ちなみに一世帯当たりの家庭の月間電力消費量は300kWhくらいですから1日当たり10kWh、6.46kWh/日はおおよそ65%にあたります。すなわち、電気自動車化することにより、車を持っている家庭の消費電力は、約1.65倍になるということになります。確かに家庭の電気がそんなに増えたら発電所はどうなる、、と思われるかも知れません。ちょっと待ってください!その車はガソリンを使っていませんから、その分の石油は発電に回すことができますし、もちろん再生可能エネルギーを使ってもよいのです。必要な分だけ発電所を増やし、できる限り再生可能エネルギーを増やすことによって、二酸化炭素だけでなく、窒素酸化物・硫黄酸化物・PM2.5などの排気ガスを減らすことも可能になるのです。
冒頭の表現では、「電気自動車1台で、1,000戸の家庭に供給する電力量が必要になる」とのことでしたね。しかし実際には、電気自動車を1戸が導入すると、必要な電力量は1.65倍に増加するが、ガソリン車の燃費を20km/lと仮定すると、1か月あたり48.45リットルのガソリンを使わなくなる、というのが正解なのです。ずいぶんとスケールの違う話ですね。元のストーリーがどのくらい、現実的でない、事実に基づかない、架空の話であるかがお分かりいただけるかと思います。


