毎月世界各国のEV販売状況を集計して伝えているアメリカのメディア「CleanTechnica」で、1月の世界のEV販売状況が紹介されました。ここ数ヶ月で増えている「失速」や「踊り場」といった見出しが目立つ日本国内メディアの報道は、はたして真実なのでしょうか?
【参考記事】
Top Selling Electric Vehicles in the World — January 2024(Clean Technica)
世界における1月のEV販売状況
2024年1月、世界の新車販売におけるEV(BEV+PHEV)のシェアは16%(BEVは10%)で、2023年1月の11%(BEVは7.6%)と比べると、約1.5倍に増えています。台数ベースでも前年から63%の成長で、1月としては過去最高となる100万台を突破。このうちBEVは+48%、PHEVは+98%の成長で、絶対数では引き続きBEVが多いものの、中国市場で人気のPHEVを中心にEV全体のシェア向上に貢献しています。
なお、中国のPHEV市場には「他国とは異なる特徴」がある点に注意が必要です。中国では多くのPHEVが30~40kWh以上の大容量電池を搭載していて、これらの車種はEREV(Extended-Range Electric Vehicle=レンジエクステンダーEV)とも呼ばれています。EREVは電池だけでおおむね200km以上の走行が可能で、急速充電にも対応しています。
つまり普段はEVと同じように充電して走り、充電インフラの整備が遅れている地方都市や長距離走行では、エンジンを併用することで航続距離を伸ばすことが可能な「エンジン付きEV」と考えるといいでしょう。こうしたEREVは、将来的に地方都市や都市間の充電インフラの整備が進むにつれて、BEVに代替されていくことが予想されます。
また、中国での成長は旧正月の時期によって左右される点にも注意が必要です。2023年は1月が旧正月だったのに対し、2024年は2月が旧正月にあたるため、1月の営業日が前年から増えたことも増加の一因です。逆に営業日が減少した2月は、BYDをはじめ多くのNEVメーカーで前年から減少。ただし1月と2月の合計では多くのメーカーが引き続き成長を示していて、BYDの王会長は3月に北京市で開催された中国EV100フォーラムにおいて「NEVのシェアが先週48.2%を突破」「このペースで増えれば今後3ヶ月でNEVのシェアが50%を超える可能性がある」と発言しています。
一方で、2023年に突然の補助金の廃止によりEVの販売が減少したドイツでも、1月のEVシェアは17.3%(BEVは10.5%)となり、前年の15.1%(BEVは10.1%)からは回復しました。ただしこれにはカラクリがあり、実は2023年の1月も補助金の変更によって前年から大きくシェアが低下していて、この低下が2024年1月に前年比で増加した一因でもあります。実際に2月は19.3%(BEVは12.6%)と、前年の21.5%(BEVは15.7%)からは若干減少しています。この停滞は数ヶ月間続くと見られ、下半期以降の回復が期待されています。
さらにCleanTechnicaの記事ではタイ(前年比+239%)、トルコ(同+219%)、ブラジル(同+263%)など、新興国やこれまでEVへの移行が遅れていた市場での力強い成長にも触れています。国や地域によって成長するタイミングに差があるものの、世界全体で見れば、2024年以降も後述の「値下げ」とともに販売の増加が期待されています。
EVよりもHVの方が増えている?
ところで、最近の日本メディアでは「EVが失速し、代わりにHVが増加している」という趣旨の報道が相次いでいます。例えば日経は2月19日に「HV世界販売3割増でEV逆転 23年、トヨタは過去最高」というタイトルの記事を配信。タイトルだけを見ると、あたかもHVの「販売数」がEVを上回ったかのような印象を受けます。
実際に筆者のXアカウントで実施したアンケート結果を見ても、多くの方がそのように理解されていました。
「HV世界販売3割増でEV逆転 23年、トヨタは過去最高」
この記事タイトルで連想するのは…
— 🌸Sakura Yae/八重 さくら🌸 (@yaesakura2019) February 19, 2024
ところが実際はあくまでも「成長率」が上回ったというものであり、「販売数」においてはEVが1,196万台(+28%)に対して、HVは421万台(+30%)と依然として3倍近い775万台の差があり、この差は2022年の611万台からさらに拡大しています。たしかに日本や(僅差で)米国など一部の市場ではHVの販売台数がEVを上回っているものの、グローバルでEVは売れ続けています。上記で示した販売数や増加数は主要14か国の数値です。2023年は新興国でのEV販売が急増した年でもあり、全世界で見ると「販売数」は当然ながら、「成長率」でも依然として+35%と高い成長率を維持しています。
「失速」や「踊り場」といった表現は、意図的に「HV優勢」を強調したいとしか思えない記事が作り出した誤解であり、適切な表現ではないことは明白でしょう。
なお、日経はその後の3月26日にも「EV普及は踊り場へ 使いやすさでHVが優位に」というタイトルの記事を公開。前述の記事と同様に客観的に優勢なEVの販売数には触れず、「成長率」だけで「世界各地でEV普及が踊り場に HVが加速」とする作為的(と評するしかない)な情報発信を繰り返しています。
これとは別に、メディアによってはHVとPHEVを一括りで計算し、BEVと比較している記事も散見されました。国際的には「充電できるプラグイン車」かどうか、すなわちEV(BEV+PHEV)をまとめて計算する方法が主流であり、このようなガラパゴスな集計方法による情報操作にも注意が必要です。
2024年はコスト減少と値下げの年(世界では)
EVの普及には車両性能や充電インフラ整備など多くの要素が関係していますが、多くの調査において、車両価格が重要なファクターであることが判明しています。
そしてEVの車両価格がHVや内燃機関車よりも高い最大の理由は電池のコストであり、2020年ころから供給不足により原料価格が高騰し、高止まりが続いていました。ところが供給の増加に伴い2023年に入って徐々に低下、この傾向は2024年も続くと見られています。
例えばBloombergNEF(BNEF)によると2023年に$139/kWhだった電池の平均コストは2024年に$133/kWh、2025年には$113/kWh、2030年には$80/kWhまで下がると予想されています。さらにゴールドマン・サックスからは2023年から2025年にかけて40%下落し、$100/kWh未満まで下がるとの予想も公開されています。
【参考記事】
Lithium-Ion Battery Pack Prices Hit Record Low of $139/kWh(BNEF)
一方で、BNEFは「電池コストの低下が車両価格に反映されるには一定規模の量産が必要で、テスラやBYDのような年産数百万台のメーカーを除き、値下げの効果が表れるまで数年のタイムラグがある」とも指摘しています。
そんななか、2023年に年産300万台を突破したBYDは、2024年に入ってから「NEV(中国でBEV+PHEV+FCVを指す)を内燃機関車よりも安くする」という目標のもとに、多くの車種で改良新型の発売と同時に大幅な値下げを敢行。例えば日本でも販売されているATTO 3(元Plus)は135,800元(約288万円)から119,800元(約254万円)に、同社のEVラインナップで最も安価なDolphin Mini(Seagull)は73,800元(約156万円)から69,800元(約148万円)に値下げされました。BYDが迅速に値下げできた背景として、原価が高い鉱物の使用を減らしたLFP電池の採用や、電池の100%内製化が関係しているのかもしれません。
中国ではメーカーにより時期や金額に差はあれど、ZeekrやLi Autoなど、多くのNEVメーカーがこの流れに追従しています。これらの多くのメーカーは2024年に欧州や新興国などの海外市場で拡大を計画していて、2024年のEVの成長に寄与することは間違いないでしょう。
なお、安価な車両の必要性は新興、既存問わず多くのメーカーが認識していて、例えばテスラは25年に2.5万ドル、Fordは26年に2.5万ドル、VWは26年に2.5万ユーロ、さらに27年に2万ユーロクラスの小型EVの発売を計画しています。この他にも多くのメーカーが同様の「安価なEV」発売の計画を発表していて、2025年以降はさらに多くのメーカー、そして消費者が電池コストの低下の恩恵を受けられるようになるはずです。
既存メーカーはEVの拡大に注力を!
多くの海外メーカーがEVへの移行に注力する一方で、日本の既存メーカーはEVの拡大が遅れていることが指摘されています。さらに国内に限らず、欧州ではBMWやVW、ルノーなど一部の既存メーカーが2035年の完全EV移行に反対し、米国では約30%のディーラーがEPAの新規制に緩和を呼びかけるロビー活動を展開しているとの報道もあります。逆にこれに対して欧州自動車工業会(ACEA)や一部のメーカーからは規制を支持する声もあり、業界内も決して一枚岩ではありません。
【参考記事】
Big Auto is begging governments to let them go bankrupt as Chinese EVs loom(Electrek)
上記の記事では中国のNEV市場の成長を念頭に、政府に対して規制緩和を呼びかける既存メーカーは「破産させてほしいと懇願している」と厳しく批判しています。仮にBNEFやゴールドマン・サックスの予想通り電池のコストが下がれば、いち早く生産規模を拡大してきたテスラや中国勢がより低コストでEVを生産できるようになります。反対に、もし前述のような不正確な報道により国内の既存メーカーのEV拡大が遅れれば、コストの低減は遠のくでしょう。
もちろん国内メーカーも、悲観的なニュースばかりではありません。例えば世界最大の自動車メーカーであるトヨタは、新たなBEVファクトリーを通じて多くのBEVを投入、2026年~2027年にはLFP電池も活用して現行(bZ4X)比で40%のコスト削減を予定。いち早くEVを量産した日産は3月25日に発表した経営計画「The Arc」において、2028年ころに国産LFP電池を実用化し、現行(サクラ)比で30%のコストを削減、さらに2030年度に内燃車と同価格を目指すという心強い目標を示しました。
一方でその時期については、既に内燃車と同等まで値下げを実施したBYD、そして2025年~2026年ころの投入を予定しているテスラ、Ford、VWなどの海外勢と比べると、決して迅速とはいえません。
前述の通り、電池のコストは2024年から急速に下がることが予想されている一方で、一定規模の量産を達成できなければ車両価格には反映できないとしています。グローバルな市場で競合他社に対しより有利な立場に立つためにも、国内の既存メーカーにはEV開発のさらなる拡大を期待したいところです。
取材・文/八重さくら
※冒頭写真はジャパンEVラリー白馬2023におけるEVパレードの様子。

