「トヨタ系全店に急速充電器設置」で考えた「EV充電インフラ」の理想像

4月14日木曜日。「トヨタ系全店に急速充電器設置へ」という共同通信のニュースが流れてきました。国内約5000店の全店に電気自動車用急速充電器設置を進める計画です。はたして、本格的なEV普及のためにどんな充電インフラが必要なのか、改めて考えてみました。

急速充電器は「EVの性能」そのものでもある

共同通信では動画ニュースも配信しています。

※冒頭画像は共同通信配信の動画から引用。

急速充電器の性能、そして充電インフラの利便性は「電気自動車の性能そのもの」でもあります。既存マスコミのニュースを取り上げ、あえて評論記事を発信するのは、トヨタディーラー5000店への急速充電器設置計画が、数年後、日本の電気自動車用充電インフラのあるべき姿に大きく関わることだと感じたからです。

簡潔に論じてみたいと思います。まず、共同通信が4月14日の夕刻に報じたニュース、短信なので全文を引用しておきます。

トヨタ系全店に急速充電器設置へ EV強化で5000カ所計画

トヨタ自動車は、全国の系列販売店と連携し、2025年ごろまでに約5千の全店に電気自動車(EV)の急速充電器を設置する計画を進める。専用シリーズ導入などEVの本格展開に動き出しており、普及の鍵となるインフラにも力を入れる。海外勢も含め拡充の機運が高まってきた。

トヨタによると、高級車ブランド「レクサス」の店舗を除く系列店で普通充電器を置くのは約4200店に上る一方、急速充電器は約30店舗にとどまっている。

レクサスの既存車種では普通充電器による完全充電に7時間以上かかるが、急速充電器を使うと50分で75%たまるなど、顧客の利便性向上に役立つ。

(引用ここまで)

端的に、理解を進めていきましょう。

「2025年ごろまでに約5千の全店に電気自動車(EV)の急速充電器を設置する計画を進める」

このニュースの主題である「2025年までに5000店」は、昨年末の『バッテリーEV戦略に関する説明会』でもすでに表明されていたことです。トヨタ公式サイトのニュースルームでは、ここ数日の間に改めて「ディーラーへの急速充電器設置」といった情報は発信されていませんが、名古屋のレクサスディーラーが撮影に協力していることから察するに、トヨタ(レクサス)が、EVへの取り組み本格化を改めて訴求するために、特定の報道機関に提供した情報、と解釈することができます。

「高級車ブランド『レクサス』の店舗を除く系列店で普通充電器を置くのは約4200店に上る一方、急速充電器は約30店舗にとどまっている」

トヨタブランドで急速充電が必要な電動車はまだ売っていなかったのですから、当然といえば当然のこと。普通充電器と急速充電器の設置コストは、電動アシストサイクルとプレミアムな輸入車くらい違います。

「レクサスの既存車種では普通充電器による完全充電に7時間以上かかるが、急速充電器を使うと50分で75%たまる」

普通充電で7時間以上、急速充電なら50分で75%って、電気自動車を知らない人には、そのまましか伝わらないですね。

おせっかいに説明すると、「普通充電(200V×15A=3kW)×7時間=21kWh」が、50分で75%、ということは、好意的に拡大解釈して出力30~40kWくらいの急速充電器を設置することを想定しているのではないかと推察できます。「レクサスの既存車種」が『UX300e』を指すのであればバッテリー容量は54.4kWh。75%で約38kWhなので、やはり想定している急速充電器出力は50kW程度と推計できます。

でも、トヨタディーラーが今から設置するのであれば、bZ4Xのスペックが最大出力150kWに対応していることを考えると、出力90kW以上(できれば150kW)が望ましいと思われるので、「急速充電器を使うと50分で75%」というのは曖昧だし、少々的を外した情報だと感じます。

「顧客の利便性向上に役立つ」

顧客=EVユーザーは、自宅ガレージで普通充電できるのが便利だし、ロングドライブ時の高速道路SAPAや道の駅で高出力複数台設置の急速充電器があること、また、宿泊する宿など長時間滞在する目的地に普通充電設備があることを望んでいます。ディーラーに急速充電器を求めるニーズには、集合住宅住まいで車庫証明を取った(拠点となる)駐車場に充電設備が設置できないといったケースが多く、駐車場に充電設備があれば日常的にディーラーへ充電に行く必要はありません。つまり、各社ディーラーの急速充電器も、道の駅などと同様に、EVの利便性を高めるための「経路充電」スポットとして計画的に配置するのが理想です。

無計画な「バラマキ」になってしまわないのか?

先日、今年度のCEV補助金についての最新情報をお伝えしました。令和3年度補正予算枠375億円のうち、充電インフラ補助への予算は65億円と想定されています。この記事を書くために取材した際にも、経産省のご担当者は「経路充電のための高出力複数台設置」と「集合住宅への基礎充電設備拡充」などの必要性を深く理解しておられました。

でも、たとえばトヨタ系ディーラーへの急速充電器設置に1店舗当たり平均で200万円(高圧受電設備への補助は考慮せず)の補助金が交付されるとしたら、5000店で100億円。2025年まで、ざっと4年で割って1年当たり25億円ですから、補助金の充電インフラ拡充を想定した予算の多くを注ぎ込む、ということになりかねません。

また、ディーラーさんが急速充電器を設置しておきたいのは、EVユーザーがディーラーを訪れた時や、ユーザーのEVを預かって修理や整備をする際に「急速充電設備がないと不便」を感じることへの対処です。つまり、ディーラーという業態が提供すべきサービスの一部だと思います。EVsmartブログとしては、トヨタに限ったことではなく、今後、ディーラーへの急速充電器設置に補助金を投じるのは、社会インフラ構築という観点からは意義の薄い、いわゆる「バラマキ」になってしまうのではないかという危惧を抱いています。

トヨタから回答をいただきました

共同通信の動画ニュースでは、設置コストについて「充電器は販売店側が設置主体となるが、トヨタが一部費用を負担するなどして導入を促す方針」と説明されています。これもまた従来示されていた既報ですが、今までの発表の内容だけでは、補助金を使う計画であるのかどうかなど、よくわかりません。

充電インフラの理想像を考える記事としてまとめるにあたり、トヨタ広報部に確認したところ、急速充電器設置の考え方などについての回答をいただきました。

【ディーラーへの急速充電器設置についての回答】

今回、一連の急速充電器の設置は『bZ4X』という商品を出すことがきっかけではありますが、根本的な考え方は「全国トヨタ販売店の店舗を活用することで、急速充電インフラ構築に貢献すること」にあります。

**<設置のセオリー>

●周囲に急速充電器がない箇所をピックアップして実施する。

(該当地域の販売店に手を上げてもらい、設置店を検討する)

●24時間365日、自社他社のお客様を問わずだれでもいつでも充電いただける体制を整える。**

つまり、トヨタの販売店は全国各地、色々な場所にあるので、そのロケーションと、急速充電器がない場所の調査を実施したうえで、地域の皆様に極力お役に立てるような場所から順次設置していく、というのが基本的な考え方です。

これは、「トヨタは(販売店も含めて)町いちばんの会社と呼んで頂けるような存在にする」という考え方を体現したものです。

販売店は5000か所あり、あくまで全店舗設置を目指すものの、BEV需要の多寡を判断しながら段階的に設置を進め、最終的に全店舗への設置を目指すということになります。

なお、最終的な設置の判断は地域の販売店が行うことにしています。つまり設置費用は基本的に販売店が負担します。

(回答ここまで)

充電インフラの最適配置には大きなビジョンが必要では?

トヨタの考え方は、今年度のCEC補助金(令和3年度補正予算分)の「支援強化ポイント」として挙げられた急速充電の支援対象拡大の内容である「これまで急速充電器設置への補助は、高速道路SA/PA、道の駅、SS、空白地帯(15km圏内に充電器なし)が対象。今般から、個人宅以外は、原則、全てのエリアを対象とする。例えば、15km圏内に充電器がある箇所等への設置なども補助対象とする」という方針に合致しています。

今年度の補助金で補助対象拡充などの支援強化が盛り込まれたのは、昨年6月、政府が『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』の中で示した「公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15万基設置し、遅くとも2030年までにガソリン車並みの利便性を実現することを目指す」という目標に向けた具体的な施策でもあるのでしょう。

急速充電器設置の主体は各地の販売店(会社)とのこと。補助金を使う場合、申請するのも販売店となります。いわば、トヨタディーラー5000店が急速充電器を設置するのは、2030年に急速充電器3万基という国の目標に、トヨタが、そして各地の販売会社が、民間企業として自動車のカーボンニュートラル達成に貢献するためのアクションでもあると受け止めることができます。

一方で、昨年6月に国のグリーン成長戦略が示された際、トヨタの豊田章男社長は、自工会会長としての記者会見で「数だけを目標にすると、稼働率が悪い、使い勝手が悪いインフラになりかねない」と指摘。より効果的なインフラ整備を進めるために自動車業界をアテにしていただきたいとして「成長戦略に対して、(インフラ設置の具体案などを)決める人、エネルギーを供給する人、使う人。すべてがカーボンニュートラルを実現するというゴールに向けて足並みを揃えてやっていくことが必要ではないかと思っている」と提言しました。おっしゃる通りだと思います。

全国のトヨタディーラーに急速充電器を設置するのは、3万基を目標として「数を増やす」ためには効果的でしょう。大きな街道沿いに並んだ各社ディーラーが続々と急速充電器を設置すれば、1カ所の充電ステーションに複数台設置するのにも似た「あのあたりに行けばいっぱい急速充電器がある」という、日本独自の風景を生み出すことができるのかも知れません。

繰り返しますが、顧客=EVユーザーの利便性向上に役立つのは、基礎充電(拠点ガレージでの充電)、目的地充電(宿泊施設などでの充電)用の普通充電設備普及促進と、経路充電(ロングドライブ時の補給充電)の利便を高める高出力急速充電器を複数台設置した急速充電スポットの拡充です。

今回、トヨタの考え方を確認した広報のご担当者からは、「都市近郊や地方においては、販売店という存在が一部、経路充電スポット的な役割を果たす面がある」とした上で、以下のようなコメントがありました。

「ディーラーに急速充電器を設置すること自体が私たちの目的ではない、ということを、ご理解いただければと思います。これから本格的なBEVの時代が来ることは間違いないと思っています。そのために今まず何をやるのが望ましいのか(これは充電インフラだけでなく、弊社が電池3Rといっております、Rebuild, Reuse, Recycle の仕組みづくりについても同様です)、常にその考えに立ち返って進めさせていただきたいと思っております」

「今年は魅力的なBEVが続々と日本でも発売されるメモリアルイヤーだ、とおっしゃる自動車ジャーナリストの方も多いようです。確かに、基本性能が良く、航続距離も十分に確保できており、なにより、クルマとしての乗り味や走りが優れたBEVが続々と日本でも発売されていると、我々も感じております。だからこそ、お客様に安心してBEVにお乗りいただくこと、そしてBEVを気に入っていただいて次もBEVを選んでいただくこと、そうしたうねりでBEVに乗る方々が増えていくこと、そういう流れをつくれるように我々も努力をしてまいりたいと思います」

トヨタご担当者が指摘するように、ディーラーへの急速充電器設置を進めるだけでは、日本のEV普及を支える充電インフラを構築するには足りません。国はもちろん、世界のトヨタ、そして各自動車メーカー(インポーターを含む)には、自社ディーラーがどうこうだけではなく、EV普及のための大義を、そして日本国内における充電インフラのあるべきビジョンを示して欲しい、と渇望します。

(取材・文/寄本 好則)