日産からサクラ、三菱からekクロスEVと、軽規格のBEVが発売されて好評です。EVシフトの新たなステップが進む中、10年以上前に発売された軽EVの『MiEV』シリーズが中古市場で人気。この秋にはミニキャブMiEVの販売が再開されることが決まっています。はたして人気の秘密は何なのか。中古車MiEV専門店でお話しを伺いました。
軽EVの『MiEV』シリーズが中古市場で根強い人気
日産&三菱から新登場した軽EVは当初予想を超える数が発注され、手頃で実用的なEVが求められる時代がすでに来ていたことを実感します。軽EVといえば、2010年に三菱が世界に先駆けて発売した『i-MiEV(アイミーブ)』が「元祖」軽EVというべき存在です。そして、アイミーブに続いて登場した『ミニキャブMiEV(ミーブ)』という「ミーブシリーズ」が、実は中古車市場で根強い人気を維持しています。
いま国内には、BEV(バッテリー式電気自動車)を中心に扱う中古店がいくつかあります。その中でも軽BEV、具体的にはアイミーブやミニキャブミーブ(バンタイプのほか軽トラタイプもあります)を販売するところが数店舗あります。
はたして、ミーブシリーズが根強い人気をもつ理由とは何なのでしょう。そこからは皆さんがBEVに求めるものが見えてくるかも知れません。今回は中古ミーブ専門店のなかで、茨城県つくば市にある「ゼクス ミニキャブミーブ・アイミーブ専門店(以下、ゼクス)」にお邪魔して、代表の本間光哉さんにお話しをお聞きしました。
自然とMiEV専門店に
取材に訪れた筆者が目にした当日の在庫車は30台ほど。アイミーブで77〜180万円、ミニキャブミーブで150〜199万円という値札が付いていました。180万円もするアイミーブとはビックリですが、これは軽規格の最終型で、パドルで回生度合いがコントロールできて、充電中もエアコンが使えるアイミーブの「最終進化形」です。またミニキャブミーブは驚きの199万円ですが、こちらは最終型でパワーウィンドウまでついた、これまた最終進化形でした。
伺ったのは、前述の日産・三菱による軽EVが発売になる前の2022年4月下旬のことでした。その後、両車の発売・納車が始まった時期を越えて、サクラの納車がネット上でよく見られるようになった9月現在までの様子を紹介します。
ゼクスの店舗は、茨城県つくば市東部、土浦市西部と隣接した田園の中にあり、両市中心部の中間地点といった場所にあります。近くには都市部もあるものの周辺には田園が広がり、戸建てに住む方が比較的多く、敷地にも余裕があります。公共交通機関はあるものの、都市部以外ではバス路線は縮小が続いており、「1人1台」が現実的という環境でもあります。アイミーブ/ミニキャブミーブの中古車はこうしたなか、セカンドカーの需要に合っているようです。
特にミニキャブミーブは積載力があるため、農家や兼業農家で「下駄代わり」に1台持っておくという購入者が少なくありません。家族の誰かが買って、必要に応じて使い分けるそうです。農作物を積んでJAの即売所に納品に行ったり、ホームセンターで肥料や材料を買ってくるなどです。大きなホームセンターが結構あるのも、この地域の特徴と言えるでしょう。関東圏にお住まいの皆さんでしたら一度は名前を聞いたことがあるであろうホームセンターチェーンの「ジョイフル本田」は、このつくば市に隣接する土浦市が発祥の地です。
価格面で落ち着いてきたことも販売を後押ししています。2022年前半には、たとえば東芝SCiBを10.5kWh積む「i-MiEV M」は50〜70万円台でしたが、その後年末から2022年1月あたりにはオークションでも価格が高騰し、中古での売値が150〜160万円台くらいまで上がってしまいました。それが夏にはかなりこなれてきて、アイミーブMでも60万円台の個体が増えてきました。
このコロナ禍と歩調を合わせるように、じつは新車販売は伸びていないそうです。その結果、中古車に流れ込んでくる「タマ数」もコロナ前のような規模には戻っていないとのこと。まして、ミーブシリーズはすでに新車販売が行われていませんでした。タマ数は限られているけどニーズはある、というわけで、ミーブシリーズは遠方から「指名買い」で来るお客さんの割合が増えてきました。
以前は、中古の日産リーフを扱ったこともあるそうです。初代の24kWh搭載のZE0型でした。しかし思ったほど距離が走れないことや、電池劣化などの心配があり、購入後ほどなくして再度買い取りという例が何度がありました。「買ってくださって、その後買い取った人たちのご意見をお聞きしていて、ファーストカーとしてのBEVはまだ難しいのでは?」と感じたそうです。そんな折、MiEVシリーズと出会います。試しにアイミーブの16.0kWh(LEJ製バッテリー搭載)の中古を1台買ってみて、社員の皆さんと試してみたそうです。社員ひとり一人に1週間ずつ乗ってもらって話し合ったところ、「セカンドカーならいける」との確信が生まれました。
土地柄も考え、乗用車タイプのアイミーブではなく、荷物もたくさん積めるミニキャブミーブを優先して仕入れて売るようにしました。すると、興味を持って買ってくれたお客さんの口コミで、販売が伸びていったそうです。「軽トラの電気のやつはないの?」と問い合わせてくるお客さんも出てきました。そうしたお客さんのオーダーに応じて仕入れをしているうちに、ふと気づいたら「MiEV専門店」に自然になっていたとのこと。2021年度は120台ほどのMiEVシリーズを販売。周辺には自宅に太陽光発電パネルを設置している住宅が多く、「卒FITが需要を後押しした」との感触もあるそうです。
今ではすっかりSCiB搭載車ばかりを扱うゼクスつくば店ですが、本間さんの言葉で印象に残ったのは、「買ってくださったお客さんの『財産を守る』という視点で考えていたら、電池劣化の心配をほぼする必要がないSCiB搭載車に専門化するようになった」ということでした。
本間さんとEVの出会いは『ハイパーミニ』
顔写真は勘弁して欲しいというシャイな本間さんですが、EVとの出逢いはかなり早く、最初のEV体験は「ハイパーミニ」でした。
2000年に登場した2人乗りBEVで、リチウムイオン電池とネオジム磁石同期モーターを搭載したシティーコミューターでした。「いっぱい走れる1km、1円。100km走って、たったの100円」というキャッチコピーを覚えていますが、筆者がアイミーブMを自宅充電すると、まさに「1km、1円」近くまで下がるので、時代を先取りしていたと言えるでしょう。
オークションで入手して乗ろうとしましたが、充電ソケットが特殊ではたと困ってしまいました。ダメ元で近くにある日本自動車研究所(JARI)に連絡してみたところ、困っているなら来てください、と充電器を使わせてもらえたそうです。行ってみてビックリしたのが、ありとあらゆるEV用充電器が揃っていたそうです。
ハイパーミニはその後、紆余曲折がありましたが、日産が回収するということで、それに応じました。聞くところによると、その後はとある高専の研究用に回ったそうです。
ハイパーミニに触れたことで、「EVってすごい!」という印象を強烈に刻み込まれてしまった本間さん、ちょうどその頃2011年に「つくば市地球温暖化対策地方公共団体実行計画」が策定され、つくば市がEVの先進地になろうという方向が示されました。
つくば市の母体は、初めは桜村という自治体でした。ここに国立大学や国の研究機関が大挙して移ってきて「研究学園都市」が形作られました(筆者も以前は筑波大学の教員だったことがあるので、事情はよく知っています)。
そうした学園都市がEVを推進しようと言うのだから、自分の会社でも何かそれに沿ったことがしたい、と思い続けてきたそうです。その後、EVに関わる技術者や、電池に関わる東芝の技術者との出逢いもあり、EVを扱う方向はずっと模索していました。それが日産リーフを扱い、その後は三菱MiEVシリーズを扱う現在へと続きます。
購入者からクレームではなく喜びの電話が!
学校卒業後に埼玉県で中古車販売会社に就職した本間さんですが、MiEVを扱い始めてから驚いたことがあるそうです。
「中古自動車販売店に勤めていると、クルマを買ってくださったお客様から電話があるときは、たいていはクレームなんです。だから電話がくるとビクッとするのですが(笑)、MiEVのときは傾向が全然違っていました」
たしかに物販という業態にはよくあることですよね。気持ちは分かります。
「電話に出てみると、『本間さん、○○山にMiEVで登れたよ』や『○○まで行けたよ、案外走れるね』、『電気代はガソリン代の数分の一で済んでるよ』などという、購入した喜びを伝えてくれる内容でした。これには嬉しくなってしまいました」
こうした経験から、さらにBEV販売に興味をもつようになったそうです。
MiEVが人気の理由とは?
本間さんが挙げたポイントは、おもに以下の3点です。
まず「高くないBEV」であること。BEVでエンジン車並みの航続距離を求めるとどうしても電池を大きくする必要があるため、価格も高価になりがちです。そうしたことへ距離を置いていた潜在ユーザーが結構いたのかも知れません。でも、ミーブシリーズをはじめとする軽EVはバッテリー容量を抑え、価格も手頃。中古であればさらに値頃感が高まります。パーツ交換の頻度が減り、修理が高額にならないという点も、中古軽BEVの魅力になっているのでしょう。
次に「小回りが利くBEV」であること。軽BEVは日本の道路事情にピッタリだと、購入者は感じているそうです。もちろん、用途によってはもっと何人も乗れたり、もっと長く走れるBEV(もしくはファーストカー)が必要ですが、小回りよく使える軽BEVのニーズが確実にあることは、日産サクラ・三菱ekクロスEVの好調でも実証されていると言えるでしょう。
そしてやはり、「繰り返し使用に強く、ほとんど劣化しない電池(東芝SCiB)」の存在が大きいようです。アイミーブのMタイプ、ミニキャブミーブの10.5kWh搭載モデル、そしてミニキャブミーブ・トラック(通称「電トラ」)にはSCiBが積まれています。
東芝SCiBとはどんな電池?
東京電力ホールディングス株式会社(本社:東京都千代田区、代表執行役社長:小早川 智明)と、ダイヤモンドエレクトリックホールディングス株式会社(本社:大阪府大阪市、代表取締役社長 CEO:小野有理)の中核企業であるダイヤゼブラ電機株式会社は、太陽光発電・電気自動車・蓄電池の3つの電源を制御する「パワーコンディショナ」と「V2Hユニット」それに「蓄電池ユニット」を組み合わせた「多機能パワコンシステム」を共同開発したと2022年3月に発表しました。当初は2022年内の発売の予定でしたが、2022年夏の時点では「2023年春発売」に変更されています。
このシステムは、これまで各社から市販されているものより安価で販売したいとしています。昨今の半導体不足などもあり、予定通り進むかは予断を許しませんが、このシステムの蓄電池にはサイクル寿命の長さで人気のある「東芝SCiB」が採用されています。やはりここでも電池への人気が、製品全体への注目度を上げているようです。
実は私自身、このSCiBを搭載するアイミーブMのオーナーです。他のケミカルを採用したリチウムイオン電池に比べてエネルギー密度が低い、つまり、大容量電池を搭載すると必要以上に重くなるという弱点はあるものの、前述のように耐久性は申し分なし。急速充電性能も優れています。何度かEVsmartブログでレポートしているように、私自身はロングドライブも厭いませんが、本間さんが実感したように「セカンドカー的な用途に絞って活用する」など、マイカーとしての使い方を工夫すれば、とても魅力的なBEVを支える電池になるのです。
手頃で、小回りが利く、電池劣化の心配をしなくていいBEV。それを実現しているのが、SCiBという電池ということもできるでしょう。
東芝からは、優れた耐久性などは維持しつつ、エネルギー密度を改善した次世代SCiBの開発が2023年(来年!)の量産を目指して進んでいることもアナウンスされています。中古ミーブ人気の「秘訣」であったSCiBがさらに進化して、EVシフトのステージをさらに進める原動力になるかも知れません。期待して朗報を待ちたいと思います。
(取材・文/箱守知己)







