人の数だけ意見はあります。電気自動車シフトが正しいのかどうか、賛否両論があるのは当然のことですが、日本で「はびこって」いる誤解を集約したかのような記事があったので、突っ込んでみることにしました。著者である平塚さんには、会ったこともないし、何の先入観もありません。
実は半数近くの回答者が本当の電動車を選んでいる
EVsmartブログ編集長の寄本です。私はそもそもフリーランスのライターで、2018年の秋、ネコ・パブリッシングの『E-MAGAZINE』(Amazonにリンク)という紙雑誌から記事執筆のオファーを受けて、以前から自分でも使っていた充電スポット検索アプリ『EVsmart』デベロッパの社長であり、EVsmartブログで情報発信をしていたアユダンテの安川さんへのインタビューを企画。取材ついでの「僕にも書きたいことが山ほどあるんですよぉ」という四方山話から「じゃあ編集長やって」てなことになり、今に至っています。
仕事として関わる以前、EVsmartブログの一読者として面白いと感じていたのが『「騙されるな、空前の電気自動車(EV)ブームは空振りに終わる」は間違いだらけ?』(2018年8月29日)という記事でした。国際投資アナリストが、環境コンシャスなのは電気自動車ではなくてLPG自動車だと論ずる記事の「間違い」を、ひとつひとつ「本当ですか!それは驚きですね」と指摘していく内容でした。
読者として楽しむには痛快ですが、昨年12月、安川さんから自動車ジャーナリストの岡崎五朗さんの記事に対して『岡崎五朗氏『EVシフトは誰のため? その裏に潜む投資マネーとユーザー無視の実態』の指摘って本当?』っていう記事を書きたいと相談された時には少し困惑しました。かなり昔のことですが、週刊SPA! という雑誌で編集部のUさんや今もCOTY選考委員として活躍するOさんらとともに『オートランドSPA!』という自動車情報ページを立ち上げた頃、当時、ジャーナリストとして活躍を始めていた五朗さんと挨拶を交わしたことがありました。その後ご無沙汰はしていますが、五朗さんは電気自動車をことさらに敵視しているわけでもなく、昨年急逝した共通の友人と電気レーシングカートのチームで奮闘していることも存じてました。
てな個人的な事情はともあれ、他人(まして知人)の書いた記事への反論をこっちの記事にすることに、SNSで特定の誰かを批判する(個人的にそういうのは避けるようにしています)ような戸惑いを感じていたわけです。
でも、今夜も仕事を終えて夕食とともに2合ばかりの焼酎をいただき、ベッドに入ってスマホをいじいじしていたら……。思わずベッドから起き出してPCを起動しちゃうくらい「これは誤解に反論しておかねば」と感じる記事に遭遇してしまったのです。もともとエンジニアである安川さんのようにデータを示しつつ理路整然、とはいきませんが、一本書いておきたいと思います。
【その記事】
●電気自動車が「本当にエコ」か疑問の声も!10年以内に買いたいクルマは「ハイブリッド車」が約3000人中で1位
『クリッカー』という自動車メディアに、平塚直樹さんという方が書いた記事です。
記事自体は2000字に満たない短信です。JAFが実施したアンケートで「約9割が(普段の生活で)環境やエコを意識」しているユーザーのうち、41.3%が「10年後の主流になっているのはハイブリッド車」と回答したことをクローズアップした上で、電気自動車は本当にエコなのか? という疑念を提示するコメントを紹介する内容になっています。
まず、その論拠となっているアンケート結果について、回答の内訳を視覚的にわかりやすい円グラフにしてみました。
意図的に電動車の色を濃くしてみました。さすがはJAFのアンケートに回答する方々です。BEVとPHEVの合計は45.9%と、ほぼ半数に達しています。つまり、本当の電動車と呼べるBEVとPHEVが主流になると考えている方が、ハイブリッド車の41.3%よりも多いのですが、この記事では「10年後に主流となるクルマもハイブリッド車が1位」という見出しに集約されてしまっています。
理想はFCVって、誰が言ってるの?
さらに、記事の中盤では電気自動車への「懐疑的な声」を紹介しています。
「電気自動車に関していうと、燃料を燃やしている場所が、車内か発電所か、というだけでどこかで燃やしていることに変わりがない」
「クルマでCO2を出すか発電所でCO2を出すのかの違い」
そうですね。だから、発電も脱炭素へ向けて進むべきなのだと思います。
さらに、「理想は燃料電池自動車なんだろうが、水素ステーションがガソリンスタンド並みの数になるのは今世紀いっぱいかかると思う」というコメントが続きます。
脱炭素社会実現に向けて、広く普及する自動車の「理想」が燃料電池車(FCV)というのは、このアンケートに回答した誰かの個人的意見なのでしょうけど、今のところあまり正しくありません。水素ステーションを「ガソリンスタンド並みの数」に増やすのは経済的合理性に反しているし、天然ガスから二酸化炭素を排出しつつ水素を生成していることや、700気圧で高圧タンクに水素を充填するための冷却や圧縮に消費する電力を考慮すると、脱炭素に向けて理想的な大衆車の動力とはいえません。これは話せば長いことですし、エネルギー多様化の方策としての水素活用を否定するわけではなく、よりベターな活用方法もあるんじゃないの? と思うので、改めて別記事でまとめてみたいと思います。
次に提示されるのが「電気自動車に興味はありますが、地方だとまだまだ充電のことも外出先でどこでも出来るわけではない」という意見です。
記事ではさらに「充電スポットなどの設備がまだまだ整備されていない地域もあり」と論じているのですが、…… えっと、それはどこのことでしょうか?
そもそも、電気自動車のメリットはガレージにコンセントがあれば自宅で充電できることです。個人的に新潟県の奥只見にある「ランプの宿」には何度か泊まったことがあり電気無しで過ごす夜も嫌いではないですが、電気が来てない家って、日本にそんなにあるのでしょうか。
「充電スポット」がいわゆる急速充電器だとしても、日本国内のチャデモ規格急速充電スポット数は現時点で約7700カ所。年々減少しているガソリンスタンドの数が全国で3万くらいなので、ざっくり1/3くらいのイメージで、「整備されていない地域」を探すのはなかなか難しいことです。
私は2013年に一充電航続距離が120km程度の改造電気自動車で日本一周しました。急速充電スポット数は全国で1300程度だったと記憶しています。当時はさすがに北海道を急速充電だけで駆け巡るのは難しく、苫小牧から札幌〜小樽〜ニセコ〜長万部〜函館と、道南エリアを「かろうじて」という感じで走り抜けました。でも、今ではそれのほぼ6倍、北海道でも宗谷岬、知床あたりまで「ちゃんと走れるな」という充電スポットが整っています。実際、兵庫の片田舎の実家に帰省する際も、急速充電スポット(探し)で困ることはありません。
「充電スポットなどの設備がまだまだ整備されていない地域もあり、電気自動車を使うのは難しいと考えている人」が多いというのは、意外と近所にある急速充電器の存在を知らない人が多い。また、執筆者である平塚さんがご存じないだけではないかと思います。
一方で、日本の電気自動車用充電インフラにはまだまだ課題があるのは事実です。わかりやすく例示すると「高速道路SAPAへの高出力器複数台設置」と「集合住宅と、宿泊施設など目的地充電用の普通充電設備の普及」を急ぐべきという点に集約できます。
若い世代ほど、興味なし
この記事で「とどめの一撃」とばかりに示されているのが、日本政府が発表した「2030年半ばまでに国内で販売する新車からガソリン車の販売をなくす」という目標に対する意見です。「かならず達成できる」から「達成できない」まで、5段階に分けた選択肢で、「達成は難しい」「達成できない」というネガティブな回答を選んでいる割合が、以下のようになっています。
**20代/65.9%
30代/61.3%
40代/56.9%
50代/46.6%
60代/35.6%
70代/27.5%
80代以上/20.1%**
あまりにも年代による差が明確で面白いので、JAFのグラフを引用しておきます。
若い人ほど、ガソリン車をなくするなんて「無理!」と思っているという結果です。これは、何を示唆しているのでしょうか。思いつくことを箇条書きしてみます。
**●環境破壊のツケを次世代に押しつけてるんじゃねーよ。
●どーせ、政府の「方針」なんて実現しないでしょ。
●まだまだ、ぼくらの世代にもエンジン車を楽しませてくれよ。**
といったところでしょうか。さらに考察すると、若い世代ほどモビリティ電動化、ひいては自動車への興味がないということかも知れません。
そんな若者のみなさんに、電気自動車にぞっこんの50代オヤジである私からいくつか提言しておきます。
**●電気自動車はエンジン車より気持ちいい乗り物ですよ。
●世界はエンジン車から電気自動車にシフトしてますよ。
●日本のユーザーが求めないと、日本のメーカーは僕らが欲しいEVを作ってくれないですよ。**
実は、ゼロエミッションであることは電気自動車の魅力のほんのひとかけらでしかありません。静かなままに、意のままに操れる加速感の気持ちよさ。自動車で移動するために消費するエネルギーの大きさに気付き、それまでよりも少しは地球に優しい行動をしようと気付かせてくれること。ちょっと大袈裟に言うと、ライフスタイルを環境コンシャスにしようという気付きとモチベーションを得られることが、 簡単に言うと「楽しくて気持ちよくて、臭くない」のが、電気自動車の本当の魅力だと、私は思っています。
(再読してわかりにくいと感じたので、少し修正しました。2021.3.5)
サーキットで100分の1秒を競うような走りのポテンシャルではまだまだガソリンエンジンの魅力が勝っている点があるのはわかりますけど、普通の人の日常生活で使うモビリティとして、電気自動車のほうがエンジン車より優れている(個人的見解です)のです。
てなことを、ちゃんと電気自動車に乗ったこともない若者や、電気自動車ガー! の先入観に凝り固まっている人に言ってもまったく伝わらないんですけどね。
と、改めて元情報ソースとなっているJAFのアンケート結果のリリース(2021年2月26日)を確認すると、クリッカーの記事はほぼリリースのコピペだったことに気が付きました。ただし、リリースでは「機能性を追求するだけでなく、見て運転して楽しいクルマが増えるといいと思います」といった意見も紹介されていましたが、記事では触れられていませんでした。つまりは、執筆者である平塚さんご自身が、電気自動車ガー! とか、ハイブリッドで十分でしょ、という思い込みを前提としてこの記事を発信されたのだろうと推察します。
でもね、「見て運転して楽しいクルマ」としては、エンジン車より電気自動車のほうが気持ちよくて魅力的(おまけにデザインやパッケージングの可能性もでかい!)ですよ、という私の思い込みも、ぜひEVsmartブログ読者のみなさんや平塚さんにお伝えしておきたいと思うのです。
そもそも、私たちユーザーにとって自動車は、メーカーが発売してくれたモデルから自分のライフスタイルや目的、予算に合った車種を選ぶことしかできないプロダクトです。また、過去の事象に回答者の思いが左右されるアンケート結果から未知の「針路」を見出すのは困難で、マーケティングの名を借りたポピュリズムを繰り返すうち、気が付くと日本のディーラーではミニバンと軽自動車が幅を利かせるようになっていたりします。
自動車のように人生や社会への影響が大きい製品の、進むべき正しい未来を見出すには、ときに消費者のニーズがまだ気付いていない「正解」を創出して突き進む、大きな意図や戦略が必要なのだと思います。
おっと、気が付くと5000字近く、かなりエモーショナルな反論記事となってしまいました。日本でもひとりでも多くの方が、少しでも早く電気自動車の魅力に気付いてくださることを願っています。あ、あと、できればメイドインジャパンで、お手頃で魅力ある電気自動車の選択肢が増えますよーに。
(文/寄本 好則)



