6月3日に行われた日本自動車工業会のオンライン記者会見で、会長の豊田章男氏が記者の質問に答えて、EV充電などのインフラは「数だけを目標」にすると「結果として使い勝手が悪い」ことになりかねないと指摘しました。指摘の詳細や背景などを解説します。
もう少し自動車業界を当てにしていただきたい
2021年6月3日、日本自動車工業会がオンライン記者会見を実施しました。会見の概要レポートは自工会のウェブサイトに紹介されており、YouTubeで動画も公開されています。
※冒頭写真は自工会ウェブサイトから引用。
●【中継録画】日本自動車工業会記者会見(6/3)
豊田章男会長の電気自動車充電インフラについての発言は、18分頃、朝日新聞記者からの「政府が成長戦略で2030年に急速充電器を3万基、水素ステーションを1000基に増やす方針を打ち出しました。この数字をどのように受け止めていらっしゃいますでしょうか。また、EVやPHEV、FCEVを本格的に普及させるために、それぞれどんなところにどう増やせばいいと考えていらっしゃるでしょうか。現在の課題や誰が設置を担うべきかのお考えを聞かせてください」という質問への回答として示されました。
豊田会長の回答のポイントを、発言内容を丸めつつ紹介します。
「まず一点目の政府の成長戦略、とくに2030年、急速充電器、水素1000基? 急速充電器は15万基でしたっけ(周囲の方に確認?)を増やすという計画を発表したことでありますけれど、ぜひとも、設置することだけを目標にしてほしくないなと思います」
朝日新聞の記者が示した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(案)」(内閣官房サイトのPDFにリンク)では、63ページに以下のように記載されています。
充電・充てんインフラの不足は、電動車普及の妨げとなる。したがって、充電インフラについては、老朽化設備を更新するほか、既存のインフラを有効に活用できるサービスステーション(SS)における急速充電器1万基等、公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラを15 万基設置し、遅くとも2030 年までにガソリン車並みの利便性を実現することを目指す。この際、充電インフラの普及促進や規制緩和等により、最適な配置やビジネス性の向上を進めるとともに、充電設備の普及が遅れている集合住宅に対する導入を促進する。
また、充てんインフラについては、燃料電池自動車・燃料電池バス及び燃料電池トラックの普及を見据え、2030 年までに1,000 基程度の水素ステーションについて、人流・物流を考慮しながら最適な配置となるよう整備するとともに、規制改革に取り組む。バスやトラック等の商用車向けの充電設備や水素ステーションについては、事業所専用の充電・充てん設備も含め、整備を推進する。あわせて、充電・充てんインフラの設備の技術開発や標準化に取り組む。
2030年までの目標を簡単にまとめておくと、以下のようなポイントになります。
**●公共の急速充電インフラを3万基に。
●うち1万基は既存のインフラを有効活用するためサービスステーションに設置。
●(普通充電を含む)充電インフラを15万基に。
●水素ステーションは1000基程度に。
●商用車向けには事業所専用の充電・充てん設備も含め整備を推進。
●充電・充てんインフラの設備の技術開発や標準化に取り組む。**
豊田会長の発言に戻ります。
「目的はカーボンニュートラルになります。カーボンニュートラルのなかでも、とくにBEVとFCEVはインフラとセットになりますので日本の自動車メーカーが(取り組んでいる)いろんな電動化のメニューのある中で、インフラとセットのものを採り入れていただいたことは大変ありがたいと思っています」
豊田会長はBEVやFCEVのインフラ拡充について政府が政策として採り入れたことへの感謝を述べた上で、以下のように指摘しました。
「ただ、数だけを目標にしてしまいますと、どうしても設置できる場所に設置していくということになり稼働率が悪い、結果として使い勝手が悪いということになりかねないと思います」
おっしゃるとおり! だと思います。今まさに、2013年ごろからの補助金で設置されたEV用充電インフラが更新時期を迎えています。多くの地方自治体などが公的施設など「設置できる場所」に公共の急速充電器を設置しましたが、稼働率が低く、故障などを機に撤去されるケースが増えていて、日本国内の急速充電器設置基数そのものは微妙に減少しつつあったりします。
どんな場所にインフラを設置すべきかという点について、豊田会長は以下のように続けました。
「現実としていろんな駐車場を考えると、自分の敷地内に駐車場をお持ちであればこうした急速充電器等の設置は可能でしょうが、たとえば月極駐車場やタワーパーキングとか、いろんな場所に停める場合はどういう使い勝手があるのか。そういう点で、もう少し自動車業界を当てにしていただきたいと思います」
充電インフラを設置する場所など具体的な展開の策定に「自動車業界を当てにしていただきたい」という指摘です。たしかに、テスラはそもそも自社独自の急速充電インフラ(スーパーチャージャー)を自社の計画に基づいて整備しています。豊田会長ご自身が述べているように「BEVやFCEVはインフラとセット」、いわば「急速充電は電気自動車の性能の一部」なのですから、充電インフラの設置についても自動車メーカーがイニシアチブを取るべきだという考えに、まったく異論はありません。
「どういうカタチで自動車業界を当てにできるかというと、自動車にコネクテッド技術を入れている場合、電動車が多く走る、集まる場所はどうなんだということがある程度特定できると思います。そうすることで、必要な場所へのインフラ設置を優先的に進められることができるのではないか。成長戦略に対して、(インフラ設置の具体案などを)決める人、エネルギーを供給する人、使う人。すべてがカーボンニュートラルを実現するというゴールに向けて足並みを揃えてやっていくことが必要ではないかと思っています」
トヨタをはじめ、日産、ホンダ、三菱という日本の自動車メーカー大手4社は、日本国内の充電インフラ構築を担う『e-Mobility Power』に出資もしています。ぜひ、全社が一丸となり、●高速道路SAPAへの高出力器(できれば150kW級)の複数台設置(できれば最低4基〜10基程度)、●目的地充電設備の爆発的普及や**●集合住宅駐車場の充電設備設置が当たり前**への道筋を切り拓いていただきたいと期待します。
電動車インフラは「成長戦略」のほんの一部
先にリンクを貼ったPDFを見ていただければおわかりのように、今回クローズアップされた「充電・充てんインフラ」に関する具体的な目標は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(案)」の、ほんの一部分でしかありません。
かねて、豊田会長が指摘しているように「BEVだけでカーボンニュートラル」は不可能であり、「成長戦略」で『重要分野における「実行計画」』で冒頭に記されている「次世代再生可能エネルギー」など、電力やエネルギー需給のあり方全体を見直していくことが、2050年カーボンニュートラルの実現には不可欠でしょう。
「重要分野」として挙げられている産業は多岐にわたっています。
**①洋上風力・太陽光・地熱産業(次世代再生可能エネルギー)
②水素・燃料アンモニア産業
③次世代熱エネルギー産業
④原子力産業
⑤自動車・蓄電池産業
⑥半導体・情報通信産業
⑦船舶産業
⑧物流・人流・土木インフラ産業
⑨食料・農林水産業
⑩航空機産業
⑪カーボンリサイクル・マテリアル産業
⑫住宅・建築物産業・次世代電力マネジメント産業
⑬資源循環関連産業
⑭ライフスタイル関連産業**
およそ「自分は関係ない」という方はいないのではないでしょうか。もちろん、仕事として直接関わっていなくても、社会全体の改革の話なので、日本社会で生きている以上「無関係」であることはあり得ません。
2050年カーボンニュートラルを目指す「成長戦略」をざっくりと通読すると、戦略全体が「脱石油(化石燃料)」という方向を示していることがわかります。電気自動車シフトは脱炭素を目指す手段のひとつというだけでなく、世界の「仕組み」が変わることへの対応でもあるといえるでしょう。
私自身、よりよい明日を目指しつつ、好奇心を全開にしていろいろ学んでいきたいと思います。
(文/寄本 好則)

