2019年8月7日付の日経新聞に、「EV充電器、従量課金もー経産省が規制緩和」と題した記事が掲載されました。先日の『充電器ネットワーク「NCS」解消へ』が電気自動車ユーザーにとってはビッグニュースでしたが、急速充電器の従量課金に言及したニュースも気になります。
記事の内容は、現在は高出力の充電器が主流になっていることから、利用が集中すると「電力系統への負荷が高まるため、ゆっくり充電することも選択肢に入れて、負荷を軽くする」ために、経産省が従量課金制を導入できるよう規制を緩和するというものです。
『EV充電器、従量課金も 経産省が規制緩和』(日本経済新聞)
同日配信の日経電子版では『EV充電「ゆっくり安く」も選択肢に 経産省が規制緩和へ』と題して、もう少し具体的に、利用者が「『高いけど早い』充電器と『ゆっくりだけど安い』充電器を選べる」ようになると説明しています。そして、従量制になれば「短時間で電力を多く使う充電方法が割高と感じて、住宅などにある普通充電器を使うよう促す効果も見込める」という効果を強調しています。
要するに、出力に応じて料金に差をつけることで低出力充電へユーザーを誘導して、電力系統への負荷を減らすということのようです。一方で、高性能な充電器を使う時には料金が割高になると言うことですね。
性能の良い急速充電器は料金を高めに設定する?
それにしても、なぜ今、このような記事が出たのでしょうか。そもそも、今さら低出力の充電器を増やすのはユーザーにとってマイナスになるようにも思えます。経産省資源エネルギー庁に電話で聞いてみました。
結論をひと言で言ってしまうと、規制緩和の議論はまだこれからで、記事にあるように「規制緩和するという事実はない」というものでした。議論はこれからなので、いつ頃従量制課金になるのか、その時に料金をどのように設定するのかなどの議論はまだ始まっていません。とはいえ、後述するようにこの提案をしたのは資源エネルギー庁の担当部署なので、議論の方向性は定まっていると考えていいとも言えます。
EVsmartブログの読者には言うまでもないことですが、現行の急速充電器は時間制課金なので、ユーザーが充電した電力量とは関係なく料金が決まります。従量課金制なら使った分だけの料金を支払うので、今のように中速充電器で30分入れたときのモヤモヤは解消されます。
では議論はどこまで進んでいるのでしょうか。電話で話を聞いたのは、資源エネルギー庁電力産業市場室です。
まず、この記事の出所がどこなのかと聞くと、総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会の中に設置された、「脱炭素化社会に向けた電力レジリエンス小委員会」という審議会とのことです。長いので、ここからは「電力レジリエンス小委」にします。
電力レジリエンス小委は、再生可能エネルギーを「大量導入」した時に電力系統にかかる負荷をどうするかや、昨年9月の北海道胆振東部地震でのブラックアウトのように、災害時の復元力(レジリエンス)をどう確保するかを議論する場です。
委員会は、2019年2月21日から7月30日までに6回が開催され、8月20日に「中間整理」というとりまとめが公表されました。日経新聞の記事は、7月末時点での「中間整理(案)」などをまとめたものでした。
中間整理の14ページから始まる「EVを題材にした「需要側コネクト&マネージ」の在り方と検討の方向性」の項目では、時間制課金だとユーザーはより高出力の充電器を使うようになり、「電力ネットワーク設備に過度の瞬間的な負荷がかかる可能性がある」と指摘しています。そして以下のような考え方が示されています。
《こうした課題の解消方法の一つとして、従量制課金(円/kWh)がある。例えば、「早くて安い」現在の高出力の急速充電器ではなく、「早くて割高の」高出力の急速充電器と「相対的に時間がかかるが安い」急速充電器の双方のメニューを事業者が提案できるようになり、EVユーザーの選択肢を広げつつ、電力ネットワークへの瞬間的な負荷を平準化することに寄与できる可能性がある》
「EVユーザーの選択肢を広げつつ」という書き方は、いかにもユーザー目線で考えているように見えますが、「中速充電器」と揶揄的に呼ばれる20〜30kWの出力が低い充電器を増やすことが、賢明な「選択肢」だとは思えません。
また、充電器の性能(出力)によって料金差をつけるといっても、急速充電器の需要は長距離を走る場合に最大になるので、同じ場所に性能差があるものが並んでいる場合に充電速度の遅い方を進んで使うユーザーが増えるというのが、どうもピンときません。
そもそも、今でも高速道路上では前の人が終わるのを待つことがあることを考えると、充電器を高出力化して充電時間を短くするならわかりますが、欧米から見るとひと時代前の50kWという出力のまま据え置き、さらに低出力な充電器を増やす考え方はユーザーにとって、また電気自動車普及のためにマイナスではないのかとも思えます。
加えて、充電時間が長くなればそれだけユーザーが滞留することになり、解消のためには充電器の設置台数を増やす必要が出てきます。ただでさえ設置場所に苦労してる印象があるのに、低出力の充電器を増やすのは、労多くして功少なしになってしまうのではないでしょうか。
などと、モヤモヤした疑問が浮かんできます。
そんなことをエネ庁担当者に突っ込んで聞いてみると、「(急速充電器の)出力を下げるというよりは、従量制課金を導入することで早くて割高の高出力充電器、時間はかかるが安い充電器という、メニューの幅を広げてユーザーの選択肢を広げるとともに、平準化をするという観点」だと言います。
なるほど、滞在時間の長いレクリエーション施設や食事をする場所などでは、中速充電器の需要はあるかもしれないので、その充電料金が安く設定されるのはユーザーにとってはありがたい話だと思います。
一方で、安く充電をするために中速充電器のある場所に行くというのは、移動の目的からすると本末転倒なので、エネ庁が言うように料金体系で負荷低減が図れるのかは未知数ではないでしょうか。
ここで、そもそも従量制課金なら使った分だけ支払うので、料金が高くなったり安くなったりはしないのではないかいう素朴な疑問が浮かびました。この点についてエネ庁担当者は、**「従量制と言っても単に使った電力量だけではない。高性能の場合は充電器の設置コストがかかるので単価には乗ってくる」**と言います。つまり、単なる従量制課金というよりは、電気料金を自由に設定できるという意味合いが強いようです。
レジリエンス小委が目指すのは電力系統負荷の低減なので仕方ないのですが、ユーザー目線とはちょっと違う印象を受けました。
レジリエンス小委がいつ結論を出すかは、まだ決まっていないそうです。とはいえ、委員会の開催頻度は比較的高く、6回の開催で中間整理まできているので、本年度中か、遅くても来年度の早い時期には結論が出るかもしれません。
案を出したのはエネ庁なので、議論の方向性は決まっているのかも
ところでこの案は、だれがレジリエンス小委に提出したのでしょうか。
従量制課金の提案が出たのは6月7日の第4回会合で、提出したのは電気の需給調整などを所管する電力基盤整備課でした。
【資料】系統形成の在り方について ※PDFファイル(資源エネルギー庁)
配付資料を見ると、記事とはちょっと違う視点の記述が目を引きました。資料には、複数の急速充電器を同じ場所に設置してある場合、同時に充電器を使用したときに出力制御をすることで負荷が増大しないようにすることが書かれています。
例えば50kWの充電器が4台ある場合、同時利用での最大出力は200kWになります。これに対してエネ庁の提案は、この200kWを、100kw×1台、50kW×1台、25kW×2台のように分散させ、各充電器に料金差をつけて低出力に誘導しようという考え方です。インターネット通信の場合は料金差はありませんが、充電器のベストエフォートということですね。
この方法であれば、もし必要に応じてユーザーが出力をセットできるようになっていれば、それほど悪くないかもしれません。でも最初から各充電器の出力が決まっているとしたら、低出力の充電器が場所を占拠することになり、ユーザーにとってありがたくない状況が生まれるかもしれません。
またこの想定は、1ステーションでの最大出力がどの程度になるかにもよります。エネ庁は、現行制度で大規模な配電線工事が必要のない最大出力の600kWを想定しているようです。これで十分かどうかはともかく、欧米のようにさらに出力が上がっていくと法規制の緩和について別の議論が必要になりそうです。
冒頭でも指摘したように、この議論は基本的に電力系統への負荷低減を目的にしていることもあり、ユーザーメリットはあまり考えられていないと感じました。エネ庁はユーザーの選択肢が増えると主張していますが、前述したように低出力の充電器が増える可能性もあり、モヤモヤが消えません。
実は従量制課金やベストエフォートの考え方については、レジリエンス小委でエネ庁担当課が提出したものと同じ内容の資料が、デロイトトーマツ(社会課題解決を支援するコンサルティング会社)の名前で、エネ庁の別の研究会にも提出されています。
【資料】EV化社会を見据えた電力分野の論点※PDFファイル(有限責任監査法⼈トーマツ)
こうしたことを考えると、従量制課金や、そのために必要な規制の緩和という方向性は定まっているようにも見えます。ただし、その中身はこれからの議論で決まっていきます。できれば、本当のEVユーザー目線を採り入れた議論になってほしいと思います。
(木野龍逸)


