新型日産リーフの磯部博樹CVEインタビュー 『e+』が目指した航続距離信仰からの脱却

新型日産リーフのCVE(チーフビークルエンジニア)である磯部博樹氏にインタビュー。電池容量62kWhで大幅に航続距離が延びた『e+』の開発では「航続距離信仰から抜け出して、EVの長所を磨くことを重視」したということです。その真意とは?

チーフエンジニア自身が前期型ZE0のオーナー

電気自動車専門誌『Eマガジン』で、『歴代日産LEAFで理解する(ピンからキリまで)電気自動車購入ガイド』という特集の企画制作を担当し、その中で新型日産リーフのチーフエンジニアである磯部博樹氏にインタビューさせていただきました。もちろん、雑誌の特集でインタビューの内容は記事にしているのですが、文字数制限が厳しい雑誌には書ききれなかったこともあり。『Eマガジン 02』発売(3月30日)のお知らせとともに、磯部氏の言葉をさらにお伝えしたいと思います。

まず、日産本社でのe+メディア試乗会の際に立ち話で聞いて興味深かったのが、磯部氏ご自身が前期型ZE0のオーナーであるということでした。まだリーフの担当になる以前、奥様用のセカンドカーとして中古で購入。電池容量はすでにセグが減っていたそうですが電池交換などはしておらず、それでも「さほど不便は感じることはなく、週末には自宅がある神奈川から埼玉や茨城方面などへ出かけるちょっとしたドライブでも、気がついたらリーフを使うようになっている」そうです。

マイカーとしてすでにミニバンも所有していたそうですが、あえて中古リーフを購入した理由は、まずは「リーフ(EV)は運転していて楽しいから」、そして「駅への送迎など数キロだけ走るような使い方が多いので、エンジン車にはむしろ過酷。暖機運転の必要がなく、始動してすぐにエアコンから暖かい風が出るリーフがいい」と考えたから。さすがに、エンジニアの方らしい賢明な理由だと感じます。

ちなみにご自宅はオール電化住宅。中古車リーフとともに『LEAF to HOME』も導入しているとのことでした。

航続距離信仰から抜け出してEVの長所を磨く

e+の開発で重視したのは「航続距離信仰から抜け出して、EVの長所を磨くこと」というのも、興味深い言葉でした。e+の航続距離はWLTCモードで458km、EPA基準で364kmです。EPAで243kmの40kWhモデルと比較すると、おおむね40%ほど航続距離が延びました。とはいえ、電池は40が62kWhへと約55%アップしています。車重の増加は150~160kg程度。およそ大人2名分ですが、航続距離に大きく関わるほどではありません。

つまり、電池容量が55%アップしたのに航続距離は40%アップに留まっているのは「EVの長所を磨く」ためだったと理解できます。

「EVは航続距離などのネガティブ面が強調されることが多いですが、ガソリン代が掛からない、アイドリングで社会への罪悪感を感じずに済む、加速がスムーズで運転が楽しいといったメリットがたくさんあります。試乗などの機会を活用して、まずはEVに乗ってみて、長所を感じてみてください」

メディア試乗会や雑誌撮影用にe+の広報車を運転してみて感じたのは、あたかも大排気量エンジンを搭載した高級車のような、しっとりとした乗り味を手に入れたことでした。リーフはもとより、電気自動車は電池という重量物が車体中央付近にあることによって、低重心で前後の重量バランスがいいという特長があります。少し車重が増えたことでその長所がさらに明確となり、綿密なチューンによって「しっとり」がわかりやすく感じられるほどになったのです。

また、重くなった車体を力強く走らせるために、最大出力が45%、最大トルクは6%、さらに時速80kmから120kmへの高速域での中間加速性能が13%アップしています。試しに高速道路でちょっとアクセルを踏み込んでみましたが、制限速度まで一気に加速する気持ちよさは、従来のリーフとは別物であると感じます。横浜~東京都内を駆け回る程度では、電池残量もなかなか減っていかないのが不思議なほど。私も中古リーフユーザーで省エネ運転が癖になっていますが、e+に乗っていると、これが電気自動車であることを忘れてエンジン車時代のちょい悪走りが蘇ってしまいそうな誘惑さえ感じてしまいました。

「(e+なら)たとえば片道400㎞走る盆暮れの帰省などもほぼ問題なくカバーできます。長所を意識しながら試乗していただければ、これがいいじゃん、ということに気付けたり、クルマに対する考え方が変わるのではないかと思います」と磯部氏。電池容量62kWh、街中での普段使いではかなり乗ったつもりでも残り航続距離が300km以上と表示されているのは、やはり大きな安心感があります。

電池温度上昇についても言及

40kWhモデルで話題になっていた電池温度上昇問題についても質問しました。電池の冷却システムは結局e+でも採用されませんでしたが……。

「制御システムが進化していますし、e+は搭載する電池のセル数が増えて3並列となったことから、急速充電時などの電池温度上昇はほとんど問題ではなくなっています」とのこと。

2018年の夏にネット上で飛び交っていた40kWhリーフで「電池温度が上がって急速充電が遅くなる!」といった課題についても伺いました。

「長距離の高速走行で継ぎ足し充電を繰り返すなどした際に、電池温度が上昇して、電池劣化を防ぐために出力制限がかかる現象は確認しています。現在、40kWhの新型リーフでは、急速充電時のこうした状態を改善するためのソフトウェアを採用しています。新しいソフトウェア採用以前の新型リーフにお乗りの方で、出力制限を緩めたいとお考えの方はディーラーにご相談ください」

リーフの「上手な乗り方」アドバイスも!

ことにロングドライブ時、リーフ=電気自動車の上手な乗り方(充電方法への留意点)についてもアドバイスをいただきました。

「まず、出かける前には普通充電(200V)で満充電にするほうが、電池温度の上昇を防ぐことができます。また、高速道路では法定速度を守ってゆったり走る方が、結果的に電費が延びて急速充電の回数が減り、急いで走った場合と比べても目的地までの所要時間がむしろ早くなることもあります」

高速走行時の敵ともいえる空気抵抗は、速度の2乗に比例して、さらに空気抵抗を突き抜けて加速するために必要なパワーは速度の3乗に比例して大きくなります。法定速度での定速走行が、電気自動車の電費を延ばすためのセオリーです。

「また、ロングドライブ時にはできるだけ40%くらいをメドに継ぎ足し充電をするようにして、電池残量がギリギリになるまで無理して走らないようにするのがオススメです」

巡航速度を抑えたり、残量に余裕を残して充電するのも、電池温度の上昇を抑えることにつながります。

ちなみに、私がe+を試乗して「停止状態からアクセルを踏み込んだ時の飛び出す加速に、少しもったり感があるんですけど」と質問すると磯部氏から「ああ『e-Pedal』をオンにしていませんでしたか」と指摘されました。

アクセル操作だけで停止維持までできる『e-Pedal』。加速の立ち上がりが過激だとアクセル操作によってガクガクとした振動につながってしまいがちなので、ややマイルドに設定されているそうです。今回、改めて撮影のために広報車を借りて試してみると、なるほど、e-Pedalオフの方がガツンと加速が始まる印象でした。とはいえ、e-Pedalオンで改めてちゃんと踏んでみたら、それほど「もったり」なんてこともなく、十二分にパワフルでしたが。。。

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欧州メーカーなどからは電池容量100kWh、価格は1000万円クラスの大容量電気自動車の登場が相次いでいますが、e+に乗ると、航続距離はもう「必要にして十分」なレベルであることを実感しました。従来モデルから大きく航続距離を延ばしたe+ですが、その開発意図に、航続距離よりも大切なことがあるでしょ? という航続距離信仰へのアンチテーゼが秘められていたのです。

磯部さん、お忙しい中お時間をいただいて、ありがとうございました! **「次は軽自動車のEVにも期待してください!」(日産自動車広報部)**というように、このe+をフラッグシップとして、日産の電気自動車がますますバリエーションを増やし、魅力的になっていくことに期待しています。

(寄本好則)