軽EVの『日産サクラ』でどこまで行ける? 542kmロングドライブレポート【後編】

ジャーナリストの中尾真二氏がマイカーの日産サクラで挑む初体験のロングドライブをレポート。後編では、「静岡駅から新幹線ワープ」で所用を済ませ、宿泊した豊川市内のホテルへの往復での出来事や気付きをレポートします。

静岡駅で活躍した交通系アプリ

前編で報告したように、いったん目的地を静岡駅に変更した。距離が近いのは三島駅だが、「ひかり」が止まる静岡駅のほうが名古屋までは便利だからだ。だが、時間に余裕があるわけでもないので、ここからの移動はプロパイロットを設定するが、前の車に追いついたら積極的に追い越しをかける運転になった。区間電費は7~6km/kWhに落ちた。

静岡駅には午前11時半ごろに到着。駅前のコインパークを探す。時間があれば普通充電が可能なショッピングモールや施設を探すところだが、急ぐので駅前で最大料金設定のあるところをナビと目視で決定(最大料金は880円だった)。新幹線の手配はJRの「EXアプリ」を利用した。ものの5分もあれば交通系ICカード(自分はPASMO)に乗車券や指定券が登録され、そのまま自動改札に入れる。仕事や出張、家族旅行でも(切符情報の転送は家族のICカードも登録可能)機動力が格段に上がる。

余談だが、コインパークは「Times」の直営駐車場だった。Timesのアプリで精算ができるのでこれも便利だ。なにより雨のとき、(駐車場の名称とマス番号がわかれば)車に乗ったままロックバーの解除ができる。精算機の前で濡れながら操作する必要がない。

用事を済ませて再び静岡駅に戻ったのが18時ごろだ。ここから名古屋までのサクラでの移動を再開するのだが、問題は事前に予約したホテル(豊田市)まで130km以上ある。ビジネスホテルなのでチェックインの時間はあまり気にする必要はないが(到着が深夜になることは連絡済み)、あと最低2回(静岡駅到着時のSOCは23%)は急速充電が必要だ。

アプリ等で検索しても、静岡駅周辺でまず充電を行い岡崎あたりで2回目の充電を推奨される。静岡駅周辺で充電スポットを検索すると、日産ディーラー、三菱ディーラー、市役所の他「新静岡セノバ」という施設がヒットした。普通充電と急速充電がある駅前モールのようだ。急速充電が1基だとしても普通充電は複数プラグが期待できる。

新静岡セノバで遭遇した200VだけどDC充電できる機械

夕方なので長時間駐車(充電)と遭遇する確率も低そうだったので、とりあえずの充電を「セノバ」ですることに決定した。立体駐車場の店舗出入口至近のところに充電器が設置されていた。あいにく急速充電器はテスラが使っていたが、普通充電器は2基ありどちらも空いていた。利用は管理人に連絡して使うタイプだが、利用料金は無料。時間も無制限(駐車料金がかかる)。しかも、この充電器は「EV200V」ながら「倍速」という表示がある。ニチコンの「EVパワーステーション」というV2H機器のようだが、充電プラグはCHAdeMOのDC急速充電用と同じ形状で、充電には急速充電口を使用する。

後日、ニチコンのサイトを調べたら、EVへの充電出力は6kW未満の仕様である。「倍速」となっていたのは一般的な普通充電が3kWであるのに対して倍の出力で充電できることを示しているようだ。プラグがDC急速充電用であり、、本体でAC→DC変換を行っている。カタログにも「EV側出力」としてDC150~450Vという記載がある。

利用するのは初めてだったが、この方法なら普通充電(AC)の最大受入出力が2.9kWのサクラでも6kW出力で普通充電に近い感覚の充電が可能になる。このような充電設備はもっと増えてほしいと思った。

急ぐときに充電は時間をとられるのでまったくの無駄に思えるが、こういうときは冷静になる意味でも発想を切り替えたい。焦りがちで判断を誤ったり危険を冒すより、食事をとったりプランB、Cを考える時間ができる。セノバでは夕食をとりながら約40分ほど充電を行った。SOCは23%から52%まで上がった。メーターの走行可能距離は35kmから82kmになった。すぐに東名高速の静岡ICに戻りそのまま西に向かう。電費走行に切り替えようかとも考えたが、充電を終えたころは午後7時を回っており、倍速とはいえSOCは52%までしか回復していないので、最悪はもう2回の充電が必要になるかもしれない。

【今回の充電記録】

時間場所区間距離SOC

(増加量)

充電時間

推計電力量

航続可能距離(表示)区間電費
往路(1日目)
8:46神奈川県川崎市0---START152km
10:29新東名高速道路

駿河湾沼津SA下り

急速充電

103.1km21→78%

(57%)

30分

9.12kWh

40→130km8.2km
11:30静岡駅前

コインパーキング

18:14新静岡駅前

セノバ

倍速充電器

64.5km23→52%

(29%)

約40分

4.64kWh

35→82km7.3km
20:04東名高速道路

牧之原SA下り

急速充電

37.8km14→78%

(64%)

30分

10.24kWh

18→115km6.2km
21:53ルートイン

豊川インター

普通充電

77.4km14→100%

(86%)

約360分

13.76kWh

23→138km7.6km
復路(2日目)
8:42ルートイン

豊川インター

0Return to Home138km
10:24新東名高速道路

静岡SA上り

急速充電

98.5km31→87%

(56%)

30分

8.96kWh

50→136km8.9km
11:47新東名高速道路

駿河湾沼津SA上り

急速充電

58.5km47→88%

(41%)

30分

6.56kWh

47→146km9.1km
14:28神奈川県川崎市102.1km0.21GOAL35km

移動再開:豊川ICで再び高速を降りる

東名高速に乗ってから充電スポットを検索すると牧之原SA(下り)がヒットした。そこまではなるべく急ぐ(左車線で前車に追いついたら追い越す)ことにした。距離は約38kmあり、残りが10kmを切ったくらいでSOCが20%を下回ってきた。サクラの場合、SOCが20以下、19%、18%になると「バッテリー残量警告」が表示されるようになる。走行可能距離は20~30kmくらいで表示される。

のこり14%で牧之原SAに到着。自宅周辺を乗り回しているときはSOC14%やバッテリー残量警告がでても電欠を心配することはない。自宅に戻ればすぐに充電できるからだ。なんなら1km圏内に24時間の急速充電器が少なくとも2基はある。

牧之原SAでは30分の急速充電でSOC78%まで回復し走行可能距離が115kmとなった。予約したホテルまでとほぼ同じ距離だ。とりあえず若干急ぎながら行けるところまで行って、SOCが30%を切ったらSAPAに入って充電するつもりで移動を再開した。

と、移動が順調だったので、ここで判断ミスを冒してしまった。充電スポットが確実にある浜名湖SAを通過してしまったのだ。SOCが40%を切ったくらいだったこともあり「次のSAPAでいいだろう」と思ったのだ。

だが、新城PA、豊橋PAには充電器の設置がない。それどころか20km以上先の美合まで行かないと高速道路上には充電器がなかった。豊橋PAの時点でSOC16%くらい。2.56kWhの残量として8km/kWh以上の電費で走行する必要がある。気温は3°C。ヒーターをOFFにしても微妙な距離だ。アプリでの充電スポット検索では豊川ICを降りた「ルートイン豊川インター」が最寄りの充電スポットとなった。急速充電は三菱自動車のディーラーだった。

ルートインはEVオーナーの味方

まずはルートイン豊川インターに行って、とりあえずの充電をしながら次の行動を考えることにした。なお、豊橋PAからの走行はエアコンをOFFにした。

ホテル到着時、駐車場はほぼ満車だったが2基の普通充電器はどちらも空いていた。フロントで確認をとり充電を開始。予約したホテルに連絡を入れつつ、ルートイン豊川インターのロビーで戦略を練る。じつは事前予約したホテルは「ルートイン豊田陣中」だった。

ルートインは、EVオーナーにはおなじみのホテルだ。チェーンのたいていのホテルにはEV充電器が設置されている。ほとんどが普通充電器だが、宿泊が前提のホテルにはそのほうが都合がいい。またビジネスホテルだが大浴場設置率が高く、朝食付きプランがデフォルトなのも個人的には評価が高いポイントだ。

同じチェーンならひょっとして直前のホテル変更は可能かもしれないと考え、フロントに確認してみる。旅行サイトではなくルートインのホームページからの予約なら、キャンセル料なしでいまから変更は可能だという。「豊田陣中」には事情を説明してキャンセルし、そのまま「豊川インター」でチェックイン。シングルの禁煙室が満室だったためツインのシングル利用となったが差額は1000円以下だった。

復路は順調そのもの

ホテルの柔軟対応のおかげで日付が変わらないうちに就寝することができた。翌朝の復路は、ドライバーも車両も満充電の状態でスタートできた。また、往路でサクラの長距離移動の感覚をつかんだので、復路は非常に順調だった。特筆する部分はあまりない。

充電ポイントは、行程表にあるとおり、およそ100km先の新東名高速道路 静岡SA(上り)、さらに60km先の同駿河湾沼津SA(上り)の2か所。パターンとしてはSOC50%を切ったくらいから充電ポイントの目途をつける。30~40%の間で急速充電器が見つかれば70~80%まで回復でき、次の100~120kmあたりの移動が担保される。

駿河湾沼津SA(上り)の充電により、SOCは88%、予想走行可能距離は146kmとなった。ナビによる自宅までの距離はおよそ100km。自宅へは10%台でもたどり着ければ問題ないので、あとは一気に帰ることにした。晴天で気温も10°Cを超えてきたので、途中ヒーターをOFFにもできたのでかなり余裕もあった。高速走行ばかりでは電費のテストにならないので、綾瀬スマートIC(上り)で一般道に降りた。渋滞や信号によるストップアンドゴーもあったが電費に大きな影響はでなかった。

案ずるより産むがやすし

2日間、541.9km、走行時間9時間47分という移動全体の平均電費は8.4km/kWhとなった。筆者が軽自動車を所有(購入)したのは、このサクラが最初だ。だが、もともとサクラは「軽自動車」と思って購入はしていない。EVの走行性能や静粛性、プロパイロット他の追従型クルーズコントロールの利便性は理解していたので、ほしい車、所有できる車がサクラだっただけだ。唯一航続距離の不満(不安)があったが、今回の検証で一定の感触を得ることができた。

EVに対してさまざまな不安や懸念はあるが、所有すると、ガソリン車やHVにもそれぞれの使い方や運用スキルが求められるのとじつはあまり変わらないことがわかる。トータルでの利便性や性能はじつは大して変わらない。必要な知識やスキルが変わるだけだ。あとはそれに馴染めるかどうかでEV、いや車との相性が決まるということだ。

ところで、最後にひとつ補足させてほしい。バッテリー容量の小さいサクラは、急速充電器の出力はあまり気にする必要がない。充電の入力制限も入っているので、20kW出力の急速充電器なら30分の充電で充電量の差はあまりない。日本を走るEVがすべてサクラと同等の充電性能であれば「国内EVには50kWでも十分」という論も間違ってはいない。

しかし、だからといって「50kW以上の充電器は不要である」という根拠にはならない。入力制限は最小限で充電器の出力を最大限活用しようとする輸入車EVや国産EVの進化を考えると、ディーラーや経路充電の出力強化は急務である。また、国内事情だけでインフラや規制を考えるのは海外市場からは貿易障壁とみなされるリスクを考慮する必要がある。

経路充電インフラのさらなる拡充への願いを、「サクラでロングドライブレポート」のまとめとしたい。

取材・文/中尾 真二