岡崎五朗氏『EVシフトは誰のため? その裏に潜む投資マネーとユーザー無視の実態』の指摘って本当?

自動車ジャーナリスト岡崎氏による、EV(電気自動車)シフトは「1つの正解のみを押しつける全体主義や、ユーザー無視の環境利権」とする記事が掲載されました。この記事にはいくつか、重要な誤りが含まれています。当記事では政治や金融には触れず、事実誤認だけを指摘したうえで、意見を述べたいと思います。

※冒頭画像はイメージ写真です。

CO2排出がマフラーから火力発電所の煙突に替るだけ?

バッテリーは生産時に多くの二酸化炭素を排出することや、火力発電が主流である限り二酸化炭素を排出するのがクルマのマフラーから火力発電所の煙突に替るだけ、という論はいまや多くの人が知るところとなっている

バッテリーの生産時にCO2排出があるのは事実ですし、日本の火力発電比率は75%で再エネ比率が19%ですから火力発電主体であることには間違いないと思います。しかし……、

この議論はLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)という考え方によってあっけなく説得力を失った。

とまで書いてしまうと誤りと言わざるを得ません。

解説①:バッテリー製造のCO2排出

まず、バッテリーの製造工程からです。電気自動車を世界で一番多く販売しているテスラの場合、ほとんどの電池は米国ネバダ州のパナソニック・テスラ共同の工場と、日本の関西にあるパナソニックの工場、そして中国向けの車両用の電池は韓国LG Chemが韓国内で、中国CATLが中国国内で生産しています。パナソニックやテスラは再エネでバッテリー製造する方向性を発表していますし、LG Chemにはテスラが工場でのCO2排出を再エネ化するように依頼しています。

ご存知のように一定の工場の電力を再エネに切り替えるのはそれほど難しいことではありません。これにより、電池製造にかかる排出はかなり削減され、一説には半分(7ページ目)とされています。

解説②:現時点でもLCAはEVが優位

次に、排出の削減効果についてです。そもそも、火力発電75%の電力であっても、電気自動車はハイブリッド車より排出が少ないです。例を挙げてみましょう。

こちらの表は、米国環境保護庁(EPA)のデータで、左からトヨタプリウス、テスラモデル3 SR+、レクサスRX 450h AWD、テスラモデルX LR+を比較したものです。なぜ日本のデータを使わないのか?というご意見もあると思いますが、実は他の基準には現実に即さないという皆さんもご存知の課題があり、当サイトでは、実燃費・実電費に最も近い基準である米国EPA基準を用いています。

  • JC08:日本独自の基準で、海外の車両は比較できない。また最も基準が甘く、JC08基準で測定した電気自動車の航続距離は、到底一般人では走行が不可能。
  • WLTC:世界で統一された燃費基準だが、実は日本のWLTCと欧州のWLTCの値は基準が異なり、比較ができない。「甘さ」という点では、JC08よりは厳しいが、EPAほどではない。
  • EPA:米国独自の基準。最も厳しく、EPAで300km走行できる、となっていれば、時速100キロで300km走行でき、実燃費に近い。デメリットとしては、日本独自の軽自動車や欧州で一般的なディーゼル車が米国では販売されていないため、それらのデータがない。

【電費に関する詳しい説明記事はこちら】

『電気自動車の燃費=「電費」とは? を徹底解説!』

実際に見やすい形の表に変換してみます。

プリウス

(乗用車代表)

テスラモデル3 SR+レクサスRX 450h AWD

(大型SUV代表)

テスラモデルX LR+
EPA燃費/電費56MPG24kWh/100mi30MPG32kWh/100mi
↑日本の単位へ23.8km/l6.7km/kWh12.7km/l5.0km/kWh
CO2排出

g-CO2eq/km

97g/km69g/km

@463g-CO2eq/kWh

182g/km92g/km

@463g-CO2eq/kWh

電気自動車から見た排出増の比率+41%+98%

一番下の行をご覧ください。乗用車と大型SUVで、それぞれ同じ車格で比較してみると、乗用ハイブリッド車は75%が火力発電の日本において、電気自動車より41%排出が多く、大型SUVハイブリッド車は電気自動車より98%(ほぼ2倍)排出が多いということがデータから分かります。なお、軽自動車はここで出しているプリウスより燃費は悪く、排出もより多くなります。テスラモデル3 SR+は、日本のすべてのクルマの中で、最も低排出の車なのです。

※ヤリスハイブリッドは64gだ、という意見が出そうです。これは前述のように日本基準WLTC値でのCO2排出量。欧州基準WLTC値でのCO2排出は85g/kmです。欧州基準WLTCでのテスラモデル3 SR+の電費は6.7km/kWh(EPAと同等)ですのでやはり69g。ヤリスハイブリッドはモデル3より23%排出が多いことが分かります。

ライフサイクル(LCA)における電気自動車とガソリン車のCO2排出量の比較を解説した記事では、日本の火力発電比率75%でも、9万キロで電気自動車のライフサイクル排出はガソリン車を下回ることを説明しました。現時点でも、乗用車の廃車時の平均走行距離11万キロを考えると、LCAで見ても電気自動車の優位性は明らかです。

今後、電池製造における再エネ化が進むことで製造時排出が低減すれば、さらにその差は開くことも想定が可能ですね。

※(2020/12/25追記):当原稿で、プリウスのLCAがモデル3のLCAより高い、と読めることが、ミスリーディングだというご指摘を受けました。本文中ではガソリン車と書いていますが、見出しにHVと入っていることが原因だと思います。

実際には、HV車の歴史は長く、様々な車種が提供されています。その中には大型の車両も多く含まれます。HVは大型になると、プリウスほどの燃費改善効果は見込めないため、LCAの改善効果も少なくなります。また、LCAはライフサイクルなので、車両の寿命までを積算して排出量を出します。日本の平均的な登録抹消時の経過年数は13.51年。今日購入した新車は、2033年まで排出を続けます。

EVの排出は、電力網の再エネ率が高まり、排出係数が下がると、過去の車も減少しますので、LCAも低減します。

これらのことから、EVはHVよりLCAでも低排出である、という結論を導き出しました。しかしこれは正確な計算に基づくものではなく、推測を含んでいます。

断定的な内容に読めたことをお詫びいたします。本文はそのまま残しておきます。追加終わり

解説③:発電の低炭素化で差はさらに拡大

LCAにはその先があります。CO2排出量削減は、ガソリン車では、毎年の燃費向上によって行います。電気自動車では、毎年の電費向上に加えて、発電の低炭素化があります。発電網における再エネの増加により、原発事故後も少しずつ電力由来の排出は減少していっています。

イメージを掴んでいただくため、仮にガソリン車の燃費向上の年率と、発電の低炭素化の年率を同じ2%と仮定しましょう。毎年ガソリン車と電気自動車10台ずつ新しい車を販売して、10年後の排出がどう変化するか見てみます。

ガソリン車排出合計電気自動車排出合計比率
2020年97g x 10 = 970g69g x 10 = 690g1.41倍
2021年970g + 95g x 10 = 1921g67.6g x 20 = 1352g1.42倍
2022年2852g1988g1.43倍
2023年3765g2598g1.45倍
2024年4660g3182g1.46倍
2025年5537g3742g1.48倍
2026年6396g4279g1.49倍
2027年7238g4792g1.51倍
2028年8063g5283g1.53倍
2029年8872g5753g1.54倍
2030年9665g6202g1.56倍

電気自動車より41%排出の多かったハイブリッド車の10年後の排出は、同じ台数販売したと仮定すると、41%→56%まで差が開いています。これはなぜでしょう? 電気自動車は、10年前に販売された車でも、発電が低炭素化することにより、その年の排出量が減少するからです。

補助金付きで5〜6%しか売れないのがEVの実力?

岡崎氏はさらに、BEVの販売は難しく世界各国で補助金の大盤振る舞いがされていると指摘しています。

正直、これだけの大盤振る舞いをしてくれれば私もBEVを買うかもしれない。逆に言えば、ここまでしても5~6%しか売れないのがいまのBEVの実力ということだ。

これは本当でしょうか?

BEVが売れていない最大の理由は価格であり、補助金がなくなると売れなくなる、というのは何となく当たっていると感じる方も多いでしょう。実際に補助金がない地域のデータを見てみましょう。

電気自動車の合計比率を出すのは結構集計が大変なので、あまり正確ではありませんが、傾向を見る意味で、欧州で人気のテスラモデル3とルノーゾエ、米国で人気の同テスラモデル3とシボレーBoltをBEV代表として集計してみました。

国と年度電気自動車1新車に占める比率電気自動車2新車に占める比率
スイステスラモデル3ルノーゾエ
2020(-10月まで)

新車販売184,531台

3,1331.70%2,1301.15%
2019

新車販売311,466台

5,0241.61%1,7990.58%
米国テスラモデル3シボレーBolt
2020(-10月まで)

新車販売2,934,197台

99,9003.40%16,6390.57%
2019

新車販売4,914,791台

146,4502.98%16,4180.33%

欧州で補助金がない国の代表はスイスです。ご覧の通り、今年はコロナによる影響が大きいですが、それでもBEVが新車販売に占める割合は、二車種とも増加しています。

米国では、2020年の1月にテスラの補助金がゼロに、2020年の4月にGMの補助金がゼロになりました。補助金がゼロになると売れなくなるでしょうか? 実際には、同様にコロナの影響は見られるものの、両車種とも昨年より新車販売に占める割合が増加しています。

つまり、補助金がゼロの地域・ゼロになった地域でも、電気自動車のシェアは増大しているのです。

今も価格の高さがBEVの弱点であるという岡崎氏の指摘はその通りでしょう。見方を変えると、EVはまだ高級車が中心でエンジン車に比べて選択肢の車種が少ないにも関わらず、ことに欧州では10%に迫る新車販売シェアに到達しようとしています。現状でさえ「5〜6%も売れている」のが、EVの実力の片鱗であるというのが、EVsmartブログとしての見解です。

中国でさえハイブリッド車を容認した?

一党独裁の中国でさえBEVの普及は達成できずハイブリッド容認へと舵を切ったほどにBEVの販売は難しい。

中国は「ハイブリッド容認へと舵を切った」のでしょうか?

中国の電気自動車に関する規制の記事にもありますが、中国ではハイブリッド車をNEV(=新エネルギー車、これにはBEV/PHEV/FCVが含まれます)ではなく、低燃費車という新カテゴリに分類しています。そして、通常BEVを1台販売すると2-2.5点程度がもらえ、ガソリン車を1台販売すると1点減点。ハイブリッド車を1台販売すると0.5点減点となります。

そうなのです。決してハイブリッドを優遇・もしくは容認しているわけではなく、「2023年までの間」は減点を減らしてあげますよという政策です。2024年以降、どうなるかは発表されていません。

トヨタはもっとも二酸化炭素排出量の少ないメーカーとなった?

その結果、トヨタはもっとも二酸化炭素排出量の少ないメーカーとなっている。【中略】しかし様々な事情で買えない人はハイブリッド車を選んで環境に貢献すればいい。そのほうが全体としての二酸化炭素を効果的に減らせるし、事実欧州でもそういう流れになっているのだ。

まず、欧州で一番CO2排出量の少ないメーカーはテスラであって、トヨタではありません。

ハイブリッド車を選ぶのは、消費者の自由であって、それについては全く同意見です。

でも欧州ではハイブリッド車が普及し、「全体として二酸化炭素を効果的に減らして」いるのでしょうか? 表で見てみましょう。

2020(1-10月)2019(1-12月)増加率
欧州トヨタ

ハイブリッド車

372,893550,000-32%
欧州EV/PHEV合計918,919564,206+63%
欧州全乗用車計9,696,92815,805,752-39%

ここでは、欧州における今年2020年の1-10月期と、2019年一年間の、トヨタ社のハイブリッド車の販売台数と、完全電気自動車(EVまたはBEV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)の合計販売台数を比較しています。

2019年にはトヨタ車のハイブリッド車は約55万台販売されましたが、EV/PHEVも同じくらい貢献していますね。2020年にはコロナの影響でハイブリッド車のみならず、全自動車販売が減少しましたが、EV/PHEVの合計は減少するどころか、逆に63%も増加しています。

2020年度にはEV/PHEVの合計台数はトヨタ車のハイブリッド車の2倍以上に及び、低炭素化に貢献していると言えるでしょう。つまり、ハイブリッド車の低炭素化貢献増大が「事実欧州でもそういう流れになっている」という指摘は事実と異なります。

急激な変化が日本の自動車産業の競争力を削ぐ?

環境問題も大切だが雇用も大切だ。十分な移行期間を設けて部品メーカーに時間の余裕を与え、ソフトランディングを図ることこそが真っ当な企業戦略である。

これはもちろんそうなのですが、EVシフトを急ぐよう求めるのが「環境ファシスト」というのは言い過ぎではないかと思います。というのは、今、一部の米国・中国・欧州メーカーはBEVに真剣に取り組み、雇用の変革を開始しています。企業は「現在の雇用」を守るだけでなく、「将来に渡る継続的な雇用」を守らなければなりません。

日本の自動車産業は、鎖国しているわけではなく、全世界が市場です。全世界の流れが少しずつ変わってきているときに、他国に先駆けて自身が変化し、その際に起きる混沌を受け入れたうえで成長していかないとならないのではないでしょうか?

少なくとも私自身が企業の経営者として、この部分については、「子供の世代に問題は先送り、と、おじいちゃんが言ってる」ように聞こえます。

「BEVはガソリン車より安くなる」はウソ?

数年前の「2021年にはBEVはガソリン車より安くなる」というご立派な予言はいったいどこにいってしまったのだろう?と思わずにいられない。そしていまでも彼らは懲りずに「数年後には下がる」と言い続けている。

Bloomberg New Energy Finance(BNEF)は、2022年にBEVとガソリン車の価格は同等になると、2019年に予測しています。実際に軽自動車やコンパクトセグメントではまだ電気自動車のほうが高額であるものの、毎年、価格は下がり続けています。

例えば日産リーフは以下のような価格推移になっています。

発売年価格(万円)電池容量(kWh)1kWhあたり価格
20104062416.9
20123752415.6
20132732411.4
20153193010.6
2017315407.9
2019416626.7

では実際にもう少し上のDセグメントやD-SUVセグメントではどうでしょうか?日本仕様の、カタログ一番下のグレードで比較してみます。

モデル名税込価格全長x全高x全幅(mm)車両重量(kg)出力(kW)トルク(Nm)燃費(日本WLTC - km/l)CO2排出(g-CO2/km)
レクサスIS 3004,800,0004710x1435x1840164018035012.2190
BMW 318i4,890,0004715x1440x1825154011525013.4173
メルセデス C1804,890,0004690x1445x1810149011525012.7182
テスラモデル3 SR+5,110,0004694x1443x18501611202404149Wh/km

欧州WLTC

69

@463g-CO2/kWh

レクサスNX3004,546,0004640x1645x1845171017535012.6184
BMW X3 xDrive20i6,750,0004720x1675x1890183013530011.5201
メルセデス GLC 220 d 4MATIC7,000,0004670x1645x1890186014340015.1173
テスラモデルY LR Dual Motor6,724,000 想定価格

(国内未発売)

4751x1624x19212003258527171Wh/km

欧州WLTC(推測)

79

@463g-CO2/kWh

最後のテスラモデルYはまだ欧州で発売されておらず、以下の方法で価格を想定しています。

37990(米国内モデル3 SR+の価格):49990(米国内モデルY LRの価格)=5,110,000(日本国内モデル3 SR+の価格):x(日本国内モデルY LRの想定価格)

なかなか評価は難しいかもしれませんが、Dセグメント、およびD-SUVセグメントにおいては、すでに電気自動車のほうが同等の価格で、性能は上になってきていると言えるのではないでしょうか?

もちろんまだまだ一般に普及する価格ではありませんが、テスラはEセグメントからDセグメントまで降りてくるのに5年かかっています。これから先、2022年に本当にそうなるかは分かりませんが、Cセグメント、Bセグメントと価格が下がってくるのは間違いないと言ってよいと思います。

むしろ、日本メーカーには安価で小型の魅力的な電気自動車開発で、欧米や中韓メーカーに負けないように奮闘していただきたいと願っています。

BEVは思ったより二酸化炭素排出が減らない?

ハイブリッド車という、リーズナブルな価格で使い勝手がよく燃費もいいクルマをユーザーに提供する企業が「時代遅れのガラパゴス」と非難され、高くて不便で思ったより二酸化炭素が減らないBEVをつくれば「よき企業」と賞賛されカネが集まる。

時代遅れのガラパゴスかどうかは全く分かりませんし、触れませんが、高いという点でも、不便という点でも、思ったより二酸化炭素が減らないという点も、ここまでお読みいただければ誤りであることが分かりますね。不便というのは人によると思いますので抜いたとしても、こちらの記事は、BEVについて根本的に誤った認識に基づいて書かれた記事だということが分かります。

一方、最後の結論部分で岡崎氏は「BEVの押しつけは良くない」と論じており、この点については当サイトも同意見です。あくまで、車両の選択は消費者に任せられるべきではないでしょうか。そして日本でEVに乗りたいという「クルマの選択権」を守るためにも、日本メーカーにはぜひ多様なEV開発に尽力していただきたいと願っています。

●元記事のスクリーンショット

元記事

リンク『EVシフトは誰のため? その裏に潜む投資マネーとユーザー無視の実態』岡崎五朗(Yahoo! ニュース個人)

(文/安川 洋)