千葉大停電2019を電気自動車とV2Hで乗り切った被災者の体験談

台風15号の直撃が引き起こした千葉大停電は、この記事執筆時点でいまだ進行中ですが、停電を電気自動車(BEV=Battery Electric Vehicle)とV2Hで乗り切った方がいらっしゃいます。千葉市中央区にお住まいのNさんが見舞われた停電は「2日半」。ご自宅を訪ねて電気自動車に蓄えた電力で「冷蔵庫・照明・エアコン等を動かして熱中症を避けて生き延びられた」体験談を伺ってきました。

国と県の初動対応が遅く、現政権の不手際への批判も出ている「千葉大停電」。想定以上の倒木が電力線と道路を断ち切ったことが被害を長引かせている、と言われています。台風直撃は9月9日早朝のこと。それからほぼ2週間経った9月22日(日)、著者はお宅に直接Nさんをお訪ねして、いろいろとお話を伺いました。取材日の正午の時点でも、千葉県内ではいまだ3,100戸が停電したまま(NHKラジオニュースによる)です。

Life PreserverとなったV2Hシステム

今回、Nさん家族を救ったのは2013年に購入した「日産リーフ(24kWh)」と、そのおよそ3ヶ月後に導入したV2Hシステムの「LEAF to Home(リーフ・トゥ・ホーム)」の組み合わせでした。

「LEAF to Home」は「ニチコン株式会社」が製造しているV2H 機器のことで、日産自動車以外が扱うものは「EVパワーステーション」と言う名称で販売されています。いずれにせよ、世界で初めて実用化・市販化されたV2Hシステムであり、2019年9月時点で世界で貴重な「V2Hを実現する製品」です。

【関連記事】

ニチコンが低価格39万8千円のV2Hシステムを2019年6月発売

なお、日本国内では、この「LEAF to Home」「EVパワーステーション」に加え、電気自動車(EV)と太陽光パネル(PV)と蓄電池の3者間で「DC接続」も可能(太陽光で発電した電気を直接EVに蓄えることも可能)な「トライブリッド蓄電システム」も市販されています。実は日本は「V2H先進国」で、「CHAdeMO」方式が世界に優位性をアピールできる大切なポイントです。このところ欧米が提唱するCCS(Combo2)のニュースが目立ち、CHAdeMOの未来に心配が尽きません。

【関連情報】

家庭用蓄電池システム「トライブリッド」

Nさんが体験した大停電の経過

それでは、Nさんの体験を時間順に書いてみます。

9月9日4:00ごろ、前夜からの暴風がおさまらないなか、突然停電になりました。すぐに復旧するだろうと様子を見ていましたが、さすがに6:00を過ぎても復旧しないので、これは対策を取らないといけないと感じました。スマートフォンで東電のサイトにアクセスして、停電の情報を見てみます。

前夜からの暴風で、家にいろいろな物がぶつかる音がしていました。外の様子を見に行ってみると、近くの倉庫の屋根が家の庭や玄関に散乱しています。自転車のスポークには、飛んできた木の枝が突き刺さっています。雨戸を閉めておいて良かった、と思った瞬間でした。

犬小屋も飛んできた屋根材がぶつかっていますが、愛犬は夕方からは毎晩、家の玄関に入れているので、特に被害はありません。本人(本犬)は気楽なもので、玄関で爆睡していました。

家の周りでは、木が倒れていたり、電柱から電線が垂れ下がっているのを見かけました。雨は上がっていたので、もう自転車や徒歩で移動している人もいましたが、電柱最上段の「高圧配電線(3相交流最大6,600V)」の電線が垂れ下がっているので、歩いている人に「危険ですよ!」と声をかけました。この線は、下段の「低圧配電線(単相交流200/100V)」よりもはるかに電圧が高く危険です。すぐさま東電に電話して事情を話しましたが、東電のほうでも深刻に受け止めている様子だったそうです。

家に戻り、リーフを停電時の給電体制にセットします。初めは普通に自宅配電盤につないだところ、すぐにブレーカーが落ちてしまいました。そこで、全てのスイッチを一旦落とし、「冷蔵庫」や「リビングの照明」といった必要なものを1つずつ入れて様子を見てゆきました。幸い、冷蔵庫・照明・エアコンに加えて、自宅井戸のポンプは動かせました。自宅を建てる時に、「外部から給電」できるように、屋内の配線を細かく分けておいたことが功を奏した形です。

子供たちは停電に気付かずシャワーも使えた

お子さんたちが起きてきましたが、リビングには電気もエアコンも点いていたので、停電には気づいていない様子。「なんでテレビ点いてないの?」なんて訊いてきます(取材当日もお子さんたちに訊いてみましたが、「全然気づかなかった!」だそうです)。水道用に使っている自宅井戸のポンプも動かせたので、リビングに居る限りは「普段の暮らし」ができました。

出力4.5kWの太陽光発電パネルが屋根に載っているうえ、エコキュートもあるNさん宅ですが、エコキュートに関しては、内部に貯蔵されていたお湯を「取り出す」ことはリーフからの電気を使ってできたので、2日間シャワーは浴びられました。太陽が出てくれば、太陽光も電力供給に「加勢」してくれます( = 太陽光の自立運転で動かせる機器も出て来ます)。

9日は職場に連絡して、家での片付けをすることにしました。今回の台風被害では、千葉県船橋市あたりから東にかけて、Nさんの職場のある都内東部はなおさら、被害ははるかに軽かったようで、職場の同僚はNさんが被害画像を送るまで、実感が無かったようです。画像を見たら、同僚の皆さんもさすがに驚かれたそうです。

ディーラーにひと声掛けて急速充電

9日午後になっても電気が戻る兆しが無さそうなので、子育て仲間からの情報をもとに、電気が一足先に復旧したらしい「JR蘇我駅近く」にある日産自動車に行ってみました。予想通り電気が使えたので、事情を話してリーフに充電させてもらいます。ディーラーの反応は「もちろん、どうぞ!」でした。NさんはZESPに加入しているので、黙って充電することもできますが、Nさんの感覚としてはZESPの充電は「走行のため」と捉えているので、自宅での電力使用に関しては「いちおうお店に断っておいた」とのことです。

10日朝になっても停電が解決する兆しが無いので、太陽光が動き出したタイミングを見計らって、前日の日産へ「電気を汲み」に行きました。暑さも酷いので、同様に、11日に備えて夕方にももう一度汲みに行きました。この運用のお陰で、冷蔵庫、エアコン、リビング照明、井戸用ポンプ、ネットを動かすことができました。停電や給水所などの情報はポータブルTVで得ていました。幸い、自宅井戸が使えたので、水は汲みに行かずに済みました。

停電発生から2日半経った11日15:00ごろ、やっと電気が戻りました。Nさん宅の辺りでは、途中での電力復旧は一切ありませんでした。エコキュートからのお湯が尽きたあとは、Amazonで、水の中に投入してお湯にする電熱ヒーターを購入して使おうとしていました。この大停電のなか、なぜかAmazonなどの通販は「普段どおり」使えていたそうです。

リーフ購入の理由

Nさんがリーフ購入に至ったのは、通勤に便利そうだったのと、補助金を考慮すると「日産ノート」との差額が40万円程度だったからだそうです。Nさんは仕事上、「こういう経費が掛かるが、こういう節減ができるので○年で元が取れる」というような分析をよくしているので、ご自分のシミュレーションもしっかりとしてみたそうです。その結果、「4年で元が取れて、収支が逆転する」ことが分かりました。3ヶ月後に「LEAF to Home」を導入するときも、収支逆転まで4年と判明したため、設置に踏み切りました。

愛車の24kWリーフは、2018年1月にバッテリーを保証期間内無償交換しました。「8セグ」まで落ちての交換でした。以前は途中無充電で職場まで往復できたものの、最後の頃は職場から帰る時に必ず継ぎ足し充電が必要になっていたそうです。

普段のV2H運用は?

通勤は今もリーフだそうですが、平日は19時ぐらいから24時ぐらいまでリーフにある電力を自宅に給電して、系統からの使用を抑えます。深夜2時半ぐらいから5時半の間は「電化上手」の割安な電力を使ってリーフへ充電します。わずか3時間だけですが、「LEAF to Home(V2H)」は充電が速い「倍速充電」ができるので、出勤前までに80%まで充電できます。ちなみに、V2H(L2H)機器とリーフとは、CHAdeMOプラグを使って接続します。直流(DC)で電気をやり取りするためです。直流と、家庭で使う交流(AC)との変換(整流)は、V2H(L2H)機器の内部で行われます。

80%で自宅を出て、リーフから降りるまでがおよそ20km。着くと残量は60%くらいになります。そこで20分ほど急速充電して、仕事場に行きます。もしくは帰りにリーフに乗るときに充電してから自宅に向かいます。ここで充電しておくのは、万が一の停電や帰路の電力使用に備えてのことです。

自宅に着くと、だいたい75%くらいから自宅へ供給開始ができて、10%まで使い切る設定にしています。その後、また深夜電力で充電して、翌朝に備える、といった運用の繰り返しです。

土日は、19時からでなく、夕方から給電します。筆者がお邪魔した日曜日も、夕方16時ごろにリーフからの給電が動き出す場面を見ることができました。ちなみに、Nさん宅の「LEAF to Home」は太陽光発電から直接リーフへの充電はできません。もし、今年発売された「トライブリッド蓄電システム」であれば、天候次第では、ディーラーに電気を汲みに行く回数を減らすこともできたでしょう。

おわりに

Nさん宅を辞して、進路を南に取りました。じつは、86歳になる著者の叔母(母のすぐ下の妹)が、Nさん宅から9kmほどのところ(市原市北部)に住んでいるからです。叔母も今回は「3日強」の停電を被りました。叔母の娘たちの家のうち、電気の復旧が早かったところに転々とお世話になって難を逃れていました。高齢の叔母にとって、食糧を冷蔵庫から移動したり、着替えなどをまとめるのも大変だったそうです。小さい頃から母と同じように私を可愛がってくれた叔母は、無事に生き延びていました。少しの間でしたが、久し振りの再会を愉しみました。

ついでに、ローソン・ハーバーシティー蘇我店で「放電」もして帰宅しました。EVから店舗へ充電する実験に筆者が参加しているのは、以前に当ブログ記事にてお伝えした通りです。

【関連記事】

電気自動車(EV)から給電するローソンでの実証実験 — V2H & V2G 経由 VPP へ!

筆者は以前、市川に転勤していた時期がありますが、この辺りは道路が混んでどうしようもなかった印象が強いです。今回も、船橋や津田沼でひどい渋滞に遭遇して辟易しました。市川の悪名高い渋滞ポイントは、新しくできた外環道を使ってパスできました。トンネルが多く、外の混雑を尻目に迅速に通過できて快適でした。ただし、三郷より西は土砂降りに近い雨の洗礼を受けましたが…。

日産・ニチコンのBEVとV2Hによる被災地支援

なお、日産自動車本社では、停電の直後より7台のリーフを千葉県各所に派遣しました。さらに日産の販社にも依頼して23台を追加し、計30台のリーフが給電に活躍。また、日産自動車が所有するものだけでなく、製造しているニチコン株式会社にも要請して、リーフからAC100Vの電気を取り出せる機器である「パワームーバー」もリーフとセットで千葉県に派遣しました。現場ではそれこそ、必死に「掻き集めて」送り出した、という実感だったようです。

パワームーバーがあれば、1,500Wが3系統同時に取り出せるので、避難所の電力ニーズにもある程度対応できることでしょう。また、PHVも含めてエンジンで発電するのとは違い、危険な一酸化炭素を発生させるリスクがゼロなので、理想的な電力支援の形だと言えます。NHKの報道によると、9月20日までに、一酸化炭素中毒が疑われる緊急搬送が少なくとも10件確認されている、とのことです。

なお、三菱のBEV・PHEVであれば、筆者も持っていますが、1,500Wまで取り出せる「MiEVパワーボックス」という機器があり、避難所には小さいですが、冷蔵庫と灯りを動かし続けることくらいはできそうです。冷蔵庫をちょっと停めて、電子レンジを使うなどもできそうですね。(冷蔵庫はあまり停めてはいけないのでしたっけ?)

この情報は一般メディアがほとんど伝えていませんし、日産もニチコンも控えめに活動しているので、ここで敢えて紹介させていただきました。千葉に縁のある著者としても、1日も早い復旧を心より祈っております。

(取材・文/箱守 知己)