テスラ『モデル3』で広島まで約904kmを充電1回で走破〜「EVは航続距離が短い」はもう古い

7月30日から31日にかけて、テスラ『モデル3』で、埼玉県所沢市から広島県広島市の広島SC(スーパーチャージャー)までの約904kmを「途中充電1回」だけで走破することができました。今でも「電気自動車は航続距離が短い」と言う人がいますが、そんな思い込みはもう古いことを実感しました。

EVsmartチームのモデル3で走ります

さて、今回はいくつかのテーマを掲げた取材のために西日本まで遠征しました。目的地は広島県広島市・三原市、それに愛知県岡崎市です。私自身がまとまった時間が取れたのと、先方のご都合もうまく合ったので。

普通にスーパーチャージャーを使いながら移動してもよいのですが、普段「好電費」を出している筆者としては、「周囲からの期待」も感じていたので、敢えて自宅がある所沢から広島まで「途中充電1回で走りきる」チャレンジをすることにしました。

EVsmartを運営するアユダンテの社有車であるモデル3 Performanceは、テスラは明確に公表していないものの「75kWh」ほどのパナソニック製の二次電池を搭載していると言われています。

また、実はこのクルマは、モデル3では「日本納車第1号」なのです。当初は満充電で「395km前後」は高速道路でも安心して走ることができましたが、2021年7月末現在では平均して「360~370km」あたりに落ちているそうです。さすがのパナソニックのNCAケミカル電池とテスラの管理でも、電池劣化は免れないようです。45,000kmほど走っていますし、いろいろな人が様々な運転スタイルで走らせてきたので、さもありなん、ですね。ただし、これは高速道路を流れに乗って気持ちよく走った場合の目安距離であり、2019年モデル3パフォーマンスのEPA高速距離は499km。少し劣化しているとはいえ450kmは行けるでしょうから、省電費走行を旨とする筆者にとっては「絶対に負けられない戦い」です。

きっかけは Clubhouse での会話

取材旅行のきっかけは、音声SNSサービス『Clubhouse』での会話でした。筆者は2021年2月初めより、広島在住の友人藤井智康さんに誘われて、Clubhouseで電気自動車や環境、再生可能エネルギーを扱うRoomを続けています。毎週日曜の10:00~12:00が基本ですが、13:00近くまで伸びることが多いです。今ではiPhoneだけでなくAndroid端末でも使えますし、「招待制」も終わったので、どなたでも参加できます。よろしかったらお越しください。今度の日曜日もやりますよ。

さて、藤井さんと言えば、あの映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』にタイムマシンとして登場する「DMCデロリアン」を「バッテリー式電気自動車(BEV)」に改造して、10年にわたって改良し続け、様々に情報発信されていることで知られている方です。

じつは藤井さんは「現役」の、そして筆者は「元」のジャーナリストということもあり、どうせClubhouseをやるなら「双方向型ラジオ番組(筆者はこれを『Radio 2.0』と命名)」のような「番組」にしよう、と話し合ってきました。なので、事前取材のレポートや、「時の人」をお呼びしてのインタビュー、話題の現場に赴いて生中継など、単に愉しく喋るだけでは終わらせないように心がけてきました。

ちなみに、藤井さんのデロリアンを詳しくご覧になりたい方は、BS日テレで8月28日(今日です!)に紹介されますので、お見逃しなく!

BS日テレ「おぎやはぎの愛車遍歴」第353回

2021年8月28日(土)21:00~21:54放送予定 GLAYのHISASHIさんのリクエスト

このRoomのモデレーターには藤井さんと筆者のほか、大手電力会社勤務でi-MiEV Gに乗り小型電動モビリティーに詳しい大木広士さん、元・三菱自動車で今は物流・介護福祉関係の会社に務められているエンジニアでi-MiEV M乗りの平賀一洋さん、i-MiEVとminicab-MiEVトラックを自作の太陽光発電パネルで運用している村田良文さん、大手電機会社勤務で日産リーフ・BMW i3・電動キックボードに乗る石井浩一さん、BEVと太陽光発電パネル組み合わせてオフグリッドで養豚にとり組む坂本耕太郎さん、日産リーフを何台も乗り継ぎリーフ・アンバサダーも務める杉本容一さんなど、筆者たちのEV仲間であり、多くの経験と知識をお持ちの方々が参加しています。

また、常連の参加者としては、普通車で世界初の量産車である「日産リーフ」の初代型のプロダクトチーフデザイナーを務められた井上真人さん、e Mobility Power会長の姉川尚史さん、三菱自動車の百瀬信夫さん、災害にEVを活かそうと活動されているパワーエイドジャパンの本郷安史さん、集合住宅への充電器設置の草分けである株式会社ユアスタンドの代表である浦伸行さんなど、EVとその周辺をよく知る方々に参加いただいています。

なかでも井上さんは、現在はイタリア・トリノで自動車デザインの大学で後進の指導をされていますが、真夜中から明け方の時間帯に当たるにもかかわらず、頻繁に参加していただいています。

そんななか、2021年の晩春、ちょうAndroid端末でも Clubhouse に参加できるようになった時のRoomで、EVsmartブログチームのリーダーであり、アユダンテのCEOである安川さんから、「i-MiEVでかなりの好電費を出している箱守さんなら、モデル3に乗れば東京から広島まで途中1回の充電で行けるんじゃない?」と言われたことがきっかけでした。東京から広島市までの距離はざっと880km(Google Mapの経路検索)、途中の充電は大阪?岐阜羽島?などと急に考え始めた、という事情がありました(実際に走った距離は、約904kmに達しました)。

充電1回を前提にプランを作成

首都圏から広島までのルートを普通に考えると、浜松SCあたりでまず継ぎ足し、大阪SCでさらに充電、その後必要であれば岡山倉敷SCで継ぎ足し、といった形に落ち着くことでしょう。浜松SCで充電したあとは、岐阜方面を経由せずに、伊勢湾岸道を使って名古屋都市圏の南側を通り、御在所から鈴鹿の山なみを越えて琵琶湖南東の草津に抜けるのが便利でしょう。

しかし、今回は「途中充電1回」を自らに課したので、おのずと岐阜羽島SCを中間充電地点に選ぶことにして、7/30の昼過ぎに首都圏を出発し、日が暮れる頃には岐阜市内の宿に入れる行程にしました。

Google Mapとテスラのナビで岐阜羽島SCまでの距離を見ると、400km前後の値が出て来ます。車両を管理するスタッフから「最近は370km程度しか走れない」と聞いていた現状のモデル3ですが、クルマが少ない場所で巡航速度を80km/hほどに下げれば到達できると予測しました。

地図アプリでルート検索してみると、所沢を起点にしていたためか、八王子JCから中央道を通るように指示されます。でも今回は電費優先でアップダウンは避けたいので、海老名JCTまで南下して東名・新東名を選びます。

さらに、後半の岐阜から広島がチャレンジです。こちらはどう見積もっても500km近くあります。一充電370kmくらいというEVで「500kmを走ろう」というのは、私にとってもかなりのチャレンジです。

とはいえ、岐阜羽島SCから広島へ向かう途中の倉敷SCまでは350km程度なので、最悪でもなんとかそこまでは到達できるでしょう。さらに厳しいようであれば、神戸市圏を過ぎたあとで一般道に降り、どこかのCHAdeMOで継ぎ足し充電することにします。

実際の走行レポート【前半】所沢〜岐阜羽島

前半の首都圏から岐阜羽島SCまでを走る7/30は、昼前で仕事が終わって(EVsmartとは別の仕事)、15:00ごろには首都圏を脱出するつもりでしたが、雑用が多く仕事場から抜け出すのが遅れてしまいました。結局、所沢を夕暮れ近づく時間帯に出ることになってしまいました。

EVsmartチームの石井さんが気を利かせてモデル3のガレージ(賃貸のビル地下駐車場)に設置してあるウォールコネクターで普通充電しておいてくれたので、アユダンテを出るときは100%でした。その後自宅に寄って荷物を積み込んでいるうちに電気を使ってしまったので、QCが複数ある小手指で100%まで入れてチャレンジ開始です。

最寄りの入間ICから圏央道に入り、海老名JCTを目指します。月曜の夕方ということもあり、クルマはそれほど多くありません。海老名から東名に入るころには夕暮れが訪れました。登り終えた足柄付近では、例によって霧が少し出ています。また、周囲の山には雷雲がいくつも出ているらしく、所々が光っています。

新東名に入り、クルマも多くないので、80km/h巡航で電気を節約します。前に乗った人が設定していたBBC World Serviceを聴きながら、ゆったりと西を目指します。時おり左手に太平洋沿いの町や港が見下ろせますが、西に向かうと山の中を走るので、こうした景色はしばらく見納めです。

浜松でトイレ休憩し、その後はテスラナビに従って浜松いなさJCTで曲がらずに豊田東JCTを目指します。この区間を走るのはじつは初めてです。名古屋圏の道路もテスラナビの指示通り、快適に80km/h走行で岐阜羽島を目指します。途中からは見慣れた名古屋の景色が見えます。小牧や一宮稲沢北を越えて、いよいよ関ヶ原へ入ります。消費電力は出発時より少ないようで、岐阜羽島まで充分に保ちそうです。

岐阜羽島に着きました。テスラのスーパーチャージャーはインターを降りて、クルマで3分もあれば着ける近さです。まずは翌日に備えてある程度まで充電します。

これは、この夜宿泊する「ルートイン岐阜県庁南」には200V充電器が複数設置されているので、最後の部分は200Vでゆっくり入れようという目算です。朝起きると満充電です。出発前に電池温度も上げずにすみますしね。

ざっと計算したところ、翌朝の出発時までに満充電にするのには70%も入れておけば大丈夫そうだと分かりました。ショッピングモール駐車場の一隅にあるスーパーチャージャー、向かい側には広大な田んぼが広がり、むせかえるような稲の匂いのする蒸し暑い空気のなか、カエルの大合唱が延々と響いています。

岐阜羽島到着時の電池残量は29%でした。実際に走行した距離は約402km。約53kWhの電力を消費した計算になります。

実際の走行レポート【後半】岐阜羽島〜広島

前半の「所沢→岐阜羽島」の走行で予想以上に電費を稼げたので、後半の「岐阜→広島SC」は一気に行くことに決めました。

ルートイン岐阜県庁南を出発する時にテスラのナビをセットすると、到着時の予想残量は「4%」と出ています。かなりヒヤヒヤすることになりそうです。まぁ、Plan BもPlan Cもあるので、到達はできるでしょう。

ホテルの駐車場を出発し、一つ隣りの中州に渡って安八ICから名神高速に入ります。今日も朝から太陽が照りつけて、モデル3のガラスの屋根は触ると熱いです。でも冷房のお陰で頭は暑さを感じません。

琵琶湖の東岸を延々と南下し、いよいよ京都が近づいてきました。今回はテスラナビが指示するように、高槻JCTからは右手の山の上を目指す新名神に乗ってみます。初めは連続登り勾配、川西市のさらに北側のあたりを通ります。雲が迫って来て、少し雨が降ってきました。通り雨でしょう。宝塚のかなり北の山を走り、神戸JCTへ緩やかに下って行きます。交通量も多くないですが、うっかり飛ばさないように80km/hに設定したオートパイロットで走ります。

省電費運転にはアクセルワークなどの「コツ」もありますが、何よりも効果的なのが「ゆったり走る」ことであることは言うまでもありません。

神戸JCTから先は山陽道に乗り、消費電力をたまにチェックしながらひたすら西をめざします。途中、三木という地名を見て、かなり内陸部を走っていることを実感。

テスラの地図は、縮尺を変えようとすると描画にやや時間がかかり、日本の一般的なカーナビとは使い勝手が違います。著者はナビはつねに「ノースアップ」で、日本列島の全体像を想像しながら、自分がいまどの「座標」にいるのかを意識しながら走るのが好きです。元々地図好きなので。そのため、山の中を走っているルートだと、「陸地のどのあたりか?」をたまに確認したくなるのです。たとえば「三木JCT」に至ると、地図を縮小すると「須磨浦海岸の真北あたり」か、と分かるわけです。

順調に姫路、岡山圏を越えました。電費も大丈夫そうです。出発時のテスラナビは「広島到着時4%」と表示していましたが、80km/h巡航が功を奏したらしく「広島到着時14%」まで伸びました。

いよいよ広島県に入りました。最後の難関は三原市付近にある「山陽道最高地点」を越えることです。これさえ越えてしまえば、広島市までは基本的には下りが優勢です。途中、到着時間を早めるために少し速度を上げたため、広島SC到着時の残量予想は11%まで下がりました。

高屋JCT* で山陽道から広島高速に乗り換えます。あとは驚くほどの下り坂の連続で広島市街を目指します。この広島高速では、かなり発電(回生で充電)できたようです。

*ご指摘をいただきました。高屋ではなく広島東JCTで降りて、広島高速の1号と3号を乗り継いでLECTに向かいました。最初は高屋を考えていたのですが、テスラナビは広島東を選んでいました。

日本最難関のスーパーチャージャーの洗礼

残り11%で広島SCのあるショッピングモール「LECT」に到着できました。

まずは充電と思いSCを探すのですが、これがかなり難しい。誘導の係員にお訊きすると、「充電器は地上にもあるが、地下にもある」とのこと。そこで地下に行くと、確かにありました。ただし200Vと、「テスラ充電不可」と書いてあるCHAdeMO機です。

再度地上に出て別の係員にお訊きすると、「いったんショッピングモールから外に出て、再度入る時に地下に向かい、地下から出て来ると、外に出る手前の左手にある」とのこと。言われたとおりにしましたが、地下からの出口が2つあり、どちらか表示も何も無い状態。ええい! と選んで地上に出ましたが、「1/2の賭け」に負けて「ハズレ」の出口を選んでしまったようです。

再度外に出て、LECTの周りを半周し、再度LECTに入って地下に向かい、今度は「廿日市方面」ではない出口から外に出ました。

ありました! このmazeというかlabyrinthを巡っているあいだに、なんと4%も電力を空費してしまいました。ネットで調べてみたら、「日本最難関のSC」との意見がいくつも見つかりました。侮りがたし広島SC!

おわりに

後半の走行距離は約502km。100%で出発して到着時は8%。92%のSOCを使ったので、概算の消費電力は約69kWhということになります。

今回の行程は合計で実走904kmに達しました。これだけの距離を、途中わずか1回* の充電で走り切れてしまったので、今やBEVでもかなり長距離を走れることが証明できました。もっとも、速度を80km/h巡航中心にするなど、それなりの工夫もしています。

*実際には岐阜羽島SCのとホテルの2回の充電ですが、「1回の満充電」という意味でご理解ください。

この行程の消費電力を『TeslaFi』というアプリの記録で確認したところ、平均電費は「129Wh/km」と出ました。私たち日本のBEV乗りが使い慣れてる形で表記すると「7.75km/kWh」ということになります。

筆者はふだんi-MiEV M(10.5kWh搭載)で11km/kWh台後半を出せていますが、さすがに7倍の電池を積んで車重が重く、モーターも2基搭載しているモデル3 Performanceでは10km/kWh台に乗せるのは無理だったようです。

今回の省電費運転のポイントをまとめておきます。

**1. 空気抵抗は大きな要素なので、急ぐとき以外は80km/hで左側車線をのんびり走る。

  1. 合流点や車線の少ないところなどは、100km/hあたりなど、法規と周囲のクルマの流れに合わせる。

  2. 自動運転、無ければオートクルーズを使うほうが、アクセルに乗せた足の疲労も減らせて、平均電費も良くなる。**

といったところでしょうか。

テスラ車で走るときに限りませんが、途中で適宜充電しながら走るほうがスムーズにに目的地に着けることもわかりました。今回の筆者のチャレンジのように無理に長距離を走ると、トータルでは到達時間を遅らせることになります。

テスラ車に関して言えば、全国に点在するスーパーチャージャー(SC)をうまく繋げて走ると、かなり快適に移動できることを実感しました。また、BEVのバッテリー大型化に対しては、CHAdeMOの高出力化も意味があると感じました。

ただし、優先すべきは高速道路のSAPAに複数のQCが設置されることであり、そのうちの一部が90kWや、将来的には100~150kW程度の物が設置されることが理想的だと感じました。市中のカーディーラーやショッピングモール、道の駅に高出力QCが整備されるのは、そのあとで良いでしょう。

日産・三菱合弁のNMKVの軽規格BEVの登場も2022年前半に予定されているなか、高速道路SAPAへのQC複数台設置と、出力の広範囲化を望みたいところです。

(取材・文/箱守知己)