セグ欠け30kWhリーフで東京=名古屋日帰り往復で「電気自動車の航続距離」を考察

中国で大ヒットしている45万円電気自動車『宏光MINI EV』分解イベントに参加するため、中古で購入した30kWhの日産リーフで、東京=名古屋を日帰りで往復してきました。急速充電を繰り返す道中で考えを巡らせた「EVの航続距離」についての持論を語ってみます。

片道2回の充電を「不便」と感じますか?

充電記録の説明ばかりじゃマンネリなので、ロングドライブしながら考えたことを、読者のみなさんに問いかけてみたいと思います。

最初の問いは「東京から名古屋への約350km。片道2回の急速充電を不便だと思いますか?」です。

私のマイカーは、EVsmartブログ編集長を引き受けることになったのをきっかけに購入した、中古の日産リーフです。初度登録2016年の初代後期と呼ばれるモデルで、バッテリー容量は30kWh。「150万円で150km走れるBEV」を条件にして選びました。

リーフ30kWhモデルの一充電航続距離は、カタログスペックで280km(JC08)とされていましたが、より実用に近いアメリカのEPA基準では172km。実際に日本で高速道路を普通に走れば、おおむね150km程度が急速充電を繋いでいく最大距離の目安になります。

ただし、これも以前レポートしたように、私の30kWhリーフは昨年12月、バッテリー劣化を示す12段階ある容量メーターの目盛りが1段階消えてしまう、いわゆる「セグ欠け」で「11セグ」となりました。

セグごとの容量について日産では公表していませんが、セグ欠けレポートの記事でも紹介したように、アメリカのユーザー情報が流布しています。11セグのSOH(state of health=残容量の目安)は85%で、推計すると25.5kWh。10セグでSOHは78.75%、残容量推計は23.6kWhです。

日産リーフ「セグ欠け」電池容量の目安

劣化度SOH目安推定総電力量

(30kWhの場合)

推定総電力量

(24kWhの場合)

11セグ15%85%25.5kWh20.4kWh
10セグ21.25%78.75%23.6kWh18.9kWh
9セグ27.5%72.5%21.75kWh17.4kWh
8セグ33.75%66.25%19.9kWh15.9kWh
7セグ40%60%18.0kWh14.4kWh
6セグ46.25%53.75%16.1kWh12.9kWh

私のリーフはセグが欠けてから1年近く経過するので、まだ10セグにはなっていないとはいえ、残容量は初代初期型新車時と同じくらいの、24kWh前後になっているのではないか、と思っています。したがって、満充電からの航続可能距離は6km/kWhとしても144km。高速走行なので5km/kWhで計算すると120km程度です。

細かいプランニングの説明は割愛しますが、東京から名古屋へ到達するためには、新東名の駿河湾沼津あたりで1回、さらに浜松あたりでもう1回、計2回の急速充電が必要、ということになります。

エンジン車の常識で考えると「東京から名古屋へ行くまでに、2回も充電しなきゃいけないの? 不便だなぁ」となるでしょう。でも、私はそうは思いません。そもそも「150万円で150km」をターゲットに選んだ電気自動車です。むしろ「急速2回だけでちゃんと名古屋まで行けるんだ!」と、喜びすら感じます。少し胸を張って上から目線で言わせてもらうと、それが「手頃な電気自動車の常識」です。

今回の名古屋日帰りは丸一日スケジュールを空けたので、片道2回程度の急速充電=休憩によるタイムロスは何も問題ありません。休憩なしで走れば4時間で着くのが5時間ほどになるだけです。エンジン車でかっ飛んでいたころは「名古屋? よし3時間で着いてやる!」みたいな発想をすることもしばしばでした。でも「150km電気自動車」ユーザーとなった今、そんなに急ぐのであれば新幹線で行くことを選択します。

つまり、エンジン車から電気自動車に乗り替えるのは、たんに車両を入れ替えるだけでなく、新しく購入する電気自動車の性能に合わせて、自分自身の「マイカー移動の常識をシフトすること」だと思っています。

無充電で「そんなに走ってどうするの?」

2つ目の問いは「電気自動車で、無充電で、いったい何km走れれば満足ですか?」という命題です。

2009年、日本EVクラブの舘内代表が、ダイハツ『ミラ』をコンバートした手作り電気自動車に、当時の三洋電機の協力を得て、テスラにも採用された「18650」というリチウムイオン電池、74kWhを搭載して東京〜大阪間の555.6kmを走破。ギネス世界記録に認定されました。

このチャレンジの合い言葉が、まさに「そんなに走ってどうするの?」でした。チャレンジの特設サイト制作も私が担当したのですが、確認するとなんだかトップページがうまく表示されなくなっているので、舘内さんによる「意義提言」から少し引用しておきます。

「内燃機関自動車であれば、補給した燃料は走行距離が伸びるにしたがって減ります。また燃料のエネルギー密度が高いためにそれほど重くありませんし、燃料タンクが大きくて困るほどではありません。航続距離が長いことは、さほどの犠牲を伴いません。しかし電気自動車の電池は、走っても体積が小さくなったり、重量が軽くなったりしません。なるべく少ない電池で走る方が省エネルギーで、コストも安くなります。たとえば私たちのミラEVの場合、日常で20~30キロメートルの距離を走るとなると、およそ530~540キロメートル走るための電池をそのまま載せて走ることになります。大いなるムダです」

私のセグ欠け中古リーフは「150km電気自動車」です。でも、だから「電気自動車はやっぱり航続距離が短い」ということではありません。もっとたくさん電池を積んだ、たとえばテスラ『モデルS』などの高価な電気自動車を購入すれば、今では市販車でも東京〜大阪を無充電で走破することが可能です。

テスラはそもそも「(アメリカで)電気自動車を普及させるためにも航続可能距離500km以上を目指す」という思想をベンチマークにしてきています。現在の普及モデルといえるモデル3のスタンダードレンジプラスでも、WLTPの航続距離は448km。今回私が走った「東京-名古屋」の片道くらいなら無充電走行が可能です。ちなみに「宏光MINI EV 分解大会」が行われた名古屋大学の近くには、星が丘のスーパーチャージャー(高速ICからの通り道でした)があったので、モデル3で行ってたら、とても便利に往復できたはずです。

要するに、「電気自動車は航続距離が短い」のではなく、「手頃に購入できる電気自動車は航続距離が短い」ってだけのことです。

「無充電で何km走れれば満足ですか?」という問いの答えが「500km以上」であればモデルSを買えばいいし、「400km」であれば、モデル3ばかりでなく、走り方によっては日産リーフe+、さらにもうすぐデリバリーが始まるアリア(B6)や、ジャガーアイペイスやポルシェタイカンなど、選択肢はグッと広がります。

でも、切ないことに、軒並み高い。私自身の暮らしっぷりを考えると、現実的に購入を検討できるのはモデル3SR+や、頑張ってアリアのB6くらい、ですかね。先日、ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京でタイカンターボにたっぷり乗ってスポーツ走行を楽しんできて(後日レポート予定)、すっごく良かったですけど、エンジンの911が「憧れるけど買えないマシン」だったのと同様に、なかなか手は届きません。

「150km」だと共感いただける方の幅が狭くなるでしょうから、たとえば「200km」、高速道路でも無充電で安心して走ることが出来れば、「うん、それくらいで十分だよ」という方は、たくさんいるのではないかと思います。来年早々にも発売されるであろう日産&三菱の軽EVには期待したいところではありますが、日本の庶民にとって「欲しくて買える電気自動車」の選択肢は絶望的に少ない(中古リーフやi-MiEVを探すしかない)のが現実です。

どんな電気自動車なら買いますか?

最後の問いは、みなさん自身「どんな電気自動車なら買いますか?」です。選択肢を用意してみましょう。

**●50万円で買える安価だけど品質の優れた電気自動車。

●500km以上の航続距離がある電気自動車。

●自動運転など先進機能を備えた電気自動車。

●100kW程度の高出力で急速充電できる電気自動車。**

どんどんマニアックになりそうなので、選択肢はこのくらいでいいでしょう。で、複数回答可にすると、全部選ぶ人が多いはず。でも、50万円以下と500km以上が矛盾した贅沢な望みであることは前述した通りです。それでも「贅沢な望みが叶えられなきゃ電気自動車なんて買わない」という方は、どうぞ今のままエンジン車をご活用ください。

選択できるのはひとつだけ、にすると、おそらく「50万円で買える安価だけど品質の優れた電気自動車」がダントツの1位になることは想像に難くありません。そうです、宏光MINI EVはこの目標を実現したからこそ、中国で大ヒットしているのです。

昨年の販売台数はテスラモデル3の方が多かったですが、『CleanTechnica』に紹介されていた2021年上半期のモデル別プラグイン車販売台数ランキングではモデル3にダブルスコア以上の差を付けて第1位。モデル3とモデルYを合わせても、宏光MINI EVには届きません。

今回の『宏光MINI EV 分解大会』は、名古屋大学パワーエレクトロニクス研究室の山本真義教授が日本能率協会のサポートを受けて開催したもので、参加は無料、誰でも参加できたのですが、メディアの取材は受けていないということで、私も個人的に参加してきました。

「当日のイベントで知り得たディテールは公表しない」という誓約書にもサインしたので、詳しく説明することは控えます。

端的に言って、かなり衝撃的でした。

今回、長距離ドライブレポートをこんな能書き提言記事にしたのは、宏光MINI EVから受けたショックを「なんとか多くの方に伝えたかった!」からです。

すでに「発売早々大ヒット中」の記事などでお伝えしているように、バッテリー容量9.3kWhの宏光MINI EVの価格は日本円換算で約45万円〜。分解大会のサンプルは、詳細なグレードはわかりませんが、9.3kWhのモデル。開始直前には少し試乗(中国の大学院在学中の学生さんと乗り合わせたので運転はお譲りしましたが)する機会にも恵まれました。正直、私自身抱いていた「値段なりにチープなクルマなんだろう」という先入観は、木っ端みじんになりました。

詳細を書けない(秘密保持は3月に解禁になるそうです)のがじれったいところではありますが、宏光MINI EVは、「50万円で買える安価だけど品質の優れた電気自動車」を実現するために、考え抜かれた技術や工夫が詰め込まれたプロダクトだったのです。

今回分解したパーツは、協力各社が持ち帰って分析。11月30日に名古屋で開催する「分解解説セミナー」で詳しく報告されるそうです。セミナーの参加者募集などはまだ始まってないようですが「宏光MINI EV分解大会」の特設ページでそのうち案内があると思うので、興味がある方はチェックしておいてください。

ただし、宏光MINI EVが日本で、50万円で発売されたら買う? と問われたら、私は多分買いません。

バッテリー容量が9.3kWhなので航続距離は100km弱、というのはまあ許容できるとして、急速充電機能が省かれているので、片道30km以上程度のちょっとした用事に使うにも勇気と工夫が必要になってしまうのが少々キツい。マイカー2台持ちできるならアリですけど、我が家のガレージはコンパクトカー1台で満車です。

では、私のようなユーザーが多いはずの日本で、宏光MINI EVのような広い支持を得られる電気自動車ってどんなクルマなんだろう? と考えると、残念ながら500万円近いホンダeやマツダMX-30ではなく、余裕で500万円オーバーの高級車、アリアでもないだろうと思われます。

軽でもコンパクトな登録車でもどっちでもいいけど、やはり、エンジン大衆車並みの200万円以下程度〜という価格は絶対条件として、バッテリー容量はなんとか25〜30kWh(欲を言えば50kWh)を確保。自動運転は目指さなくとも渋滞時に便利なACCは装備して、5人乗り(リアシートを倒せばゴルフバッグ3つくらいは詰める)で、出力100kWの急速充電に対応(4C充電とか厳しそうだけど、バッテリー温度管理システムは「あればうれしい」くらい)した電気自動車が発売されたら、少なくとも私の物欲は全開になるよなぁ、なんてことを、新東名を走りながら夢想していた次第です。

日本のメーカーが「そんなクルマは作れない」というのなら、日本の未来は暗いですよね。中国ではこの宏光MINI EVをはじめ、長城汽車やジーリーからも格安電気自動車が続々と登場しています。欧州でも、フォルクスワーゲンがバッテリー容量57kWhの『ID. LIFE』を2025年までに約2万ユーロ(約260万円)〜で発売することを発表しています。

ポルシェやアウディ、ジャガーなど、欧州メーカーは電気自動車=高級車としてのブランディングを進めていますが、一方で、世界の市場における「電気自動車のコモディティ化」はすでに始まっているのです。

復路「3ストップ作戦」は電池温度上昇であえなく失敗

今回の「東京=名古屋」往復の急速充電記録を表にしておきます。

東京=名古屋 急速充電記録

場所時間距離到着時容量充電時間出発時容量温度充電量
**往路**
自宅04:32---------100%5---
駿河湾沼津SA06:00113km22%30分99%716.8kWh
長篠設楽原PA08:17141km

(254km)

6%30分99%1020.4kWh
愛知日産昭和店10:0775km

(329km)

55%22分100%10不明
**復路**
出発時17:30---------88%8---
浜松SA18:53101km15%30分99%1018.6kWh
清水PA20:1683km

(184km)

26%15分61%116.8kWh
鮎沢PA21:2567km

(251km)

15%30分80%1113.4kWh
自宅23:3289km

(340km)

20%10
※距離はGoogleマップ参照。( )は累計距離です。

※温度はメーター電池温度計の目盛り数。

※充電量は充電器の表示参照。

※復路出発地点は名古屋大近くのコインパーキング。

復路の出発が100%じゃないのは、ディーラーで充電後、八事のウナギ屋さんでひつまぶしを食べるため、市街を駆け回ったからです。

往路を2回QCで走破できたので、復路はちょっと趣向を変えてみようと画策。浜松SAで1回目のQC&夕食を終えた後、新東名を制限速度の120km/h目途のハイペースで走り、清水か駿河湾沼津、鮎沢か海老名で各15分のQCを行う「新東名〜東名 3ストップ作戦」に挑んだのですが……。

清水SAで2回目の急速充電時には、バッテリー温度上昇で出力制限が発動。約15分のQCを終えた時点で温度計の目盛りがレッドゾーンに入ってしまいました。

その後、ペースを90km/h巡航に落としたのですが、鮎沢PA到着時にも急速充電の出力制限は解除されず、結局、ドコモの通信障害でスマホがまともに使えず手持ち無沙汰なまま30分の急速充電を行って、なんとか東京まで帰り着いたのでした。

リーフユーザーのみなさま、今さらですが、やっぱりリーフでの高速走行は95km/h巡航くらいがオススメです(苦笑)。

(取材・文/寄本 好則)