電気自動車へのシフトは一気に急加速するか? スローペースで進むのか?

日本政府も遂に2030年代半ばにガソリン車販売を禁止する方向を明示しました。注目が集まる電気自動車ですが、どんな速さで普及するのでしょうか。日本のシェアは1%以下と非常に低いのですが、欧州では今年通年で10%を超える勢いです。CleanTechnicaから全文翻訳記事でお届けします。

元記事:Electric Vehicle Adoption — About To Explode? Or Slow & Steady? by Zachary Shahan on 『CleanTechnica

(※記事中に出てくるテクノロジーカーブ、S字曲線などに関する詳しい解説は『オズボーン効果でもうすぐエンジン車が売れなくなる?』をご覧ください。)

10年前にはほぼ存在しなかった電気自動車市場

以下のレポートは1年ほど前、ある企業向けにEV市場とその可能性について私が書いたものですが、今回修正・加筆を加えて、記事として発表する事にしました。

このレポートには4つのメインポイントがあります。

• 電気自動車、特にテスラは特定の市場部門において「競争力がある」というレベルをとうに越えている。

• 今日の電気自動車市場を拓いたテクノロジーの転換は今後の10年も継続する。

• EV販売数はほとんどの人が現在考えているよりも急激に増える。

• テスラはコア部分の競争優位性により市場をリードし続ける。

10年前、電気自動車市場は基本的に存在しませんでした。成長性のある電気自動車スタートアップを探している市場アナリストや投資家は皆無に近かったのです。2020年に電気自動車が主な国や地域で自動車のベストセラーになると予測できた人は、100人、1,000人、いや1,000,000人に1人もいませんでした。あなたもシリコンバレーの自動車メーカーが、アメリカの高級車市場でBMW、メルセデス・ベンツ、アウディよりも売れるなど予測できなかったと思います。しかしこれが私達を待っていた未来で、現実となりました。テスラ・モデル3は2019年にオランダで2位の倍以上の台数を売り上げ、最も売れた自動車となりました。アメリカでは、モデル3は他すべてのラグジュアリー車両よりも相当な差をつけて売れました。BMW2シリーズ、3シリーズ、4シリーズ、5シリーズすべてを合計した台数よりも売れたのです。

2010年時点での予測から考えると、今日の電気自動車市場は巨大なものですが、そのピークにはまだ達するどころか、近付いてすらいません。電気自動車を今日の地位まで押し上げたテクノロジーのトレンドは今後も続くでしょう。市場は過去の5~10年間驚かされ続けましたが、これから先5~10年も驚きの連続となります。人々が考えるよりも、またしても変化は早く訪れます。テクノロジーの進化は止まっておらず、(電気自動車製造販売の)コストはまだ下がりきっていません。

2019年の世界の自動車販売において約2%がプラグイン車両になっています。2年ごとにそのシェアが倍になっていくとしたら、2025年には16%、2029年には64%のマーケットシェアになります。成長がその半分のスピードだとしても、10年以内に新車販売の32%がプラグイン車両になるのです。

自動車メーカーによってはこの予測に沿った目標を公にしています。例えば、フォルクスワーゲングループは2025年までに新車販売の25%、ボルボも同年までに50%を電気自動車にする目標を掲げています。

自動車業界のように変化が遅く、複雑で巨大な産業においてはそのような急速な成長が起こると信じるのは難しく見えます。しかしその一方、テクノロジーの変化はコスト面で競争力を一度持つとスローペースになったことがほとんどありません。伝説的なテクノロジー採用のS字曲線を見ると、Sと言うよりも山の急斜面のように見えます。

多くの業界で起こった“問題”とは、業界の専門家、予測家、トップのCEOなどが予測するよりも速くテクノロジーの変化が起こり、市場が混乱することでした。慣れというのが大きな問題になります。「業界はこのやり方をしてきた、だから将来もそのようになるだろう」という考え方です。このマインドに従って大きな投資をしていれば、そこ(慣れが支配する状態)を突破するのはさらに困難になります。ある会社が30億ドルを費やして新しい工場を建てたり、新しい商品をローンチしたとすると、リタイアさせる前に多くの利益を生んで欲しいと考えるのは当然でしょう。投資を回収したいという欲望により、市場が予想よりも速く動いていることが受け入れられなくなるのです。

このようなショックと混乱に直面した大企業はいくつあるでしょうか? 数えきれない位です。皆さんも聞いたことがあると思われる例をいくつか挙げると、コダック(写真用フィルム)、ブロックバスター(動画ソフトレンタル)、アタリ(家庭用ゲーム)、ゴットリーブ(ピンボール)などがあります。

2019年、ノルウェーのプラグイン車両市場シェアは56%でした。2020年に入り、今のところ72%になっています。オランダでは2019年に15%でしたが、これはノルウェーの2014年の数値になります。2020年に入ってからは17%となっています。英国では、2019年のEV市場シェアは3%でした。2020年では、9%を少し超えたところです。2019年、世界のEV市場シェアは恐らく2%ほどでした。2020年にはどうなっているのでしょう。2021年、2022年、2023年は?(※2020年10月時点のプラグイン車両シェアはノルウェー79%、オランダ29%、英国12%とさらに増えています。)

それを決定付けるのに重要なのが、金融と経済になります。ノルウェーとオランダでは政府の補助金によりカーブの先を行っていますが、カーブは今も動いており、他の地域では少し遅れが出ているだけです。ここで重要なのはバッテリーの価格が安定して下がり続けており、電気自動車の競争力が上がってきている、という点です。ちょっとしたサポート(補助金)を出している国や地域では、ガソリンやディーゼル車よりも電気自動車を選ぶ層を厚くしています。最終的には、旧式のテレビとフラットスクリーンのテレビで競争がすでに無くなっているように、補助金の有無にかかわらず、電気自動車とガソリン車の間での競争はなくなるでしょう。

今まで既存自動車メーカーにとってバッテリーの改良とは、多くの消費者にとって十分ではなかった航続距離を伸ばすことを主に意味していました(下のチャートをご覧ください)。しかしテスラにとってはコストを下げ、ハイエンドモデルの航続距離を上げるというものです。モデル3はマス市場クラスにおける電気自動車では初めての非常に競争力のある車で、2019年のアメリカ自動車販売台数トップ10の中では唯一の価格4万ドル(約420万円)~の車となります(9位でした)。ただ、私達は今だけを見ているわけにはいきません。すぐそこまで何が来ているのか、トレンドを見る必要があります。

適切な航続距離と充電設備さえ手に入れたら、電気自動車とガソリン車のメリットとデメリットを比較できます。

客観的に見て、電気自動車の方が安全で、速く製造できることが分かっています。トルクはすぐに働き、静かで、交換や修理の必要がある部品もかなり少ないからです。また維持費が安いため、トータルのコストは価格が似たような車種で相当安くなるか、購入時のイニシャルコストが高い車でも(同程度のエンジン車と)同じになる場合もあります。

2019年のバンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのレポートによると、国外市場においてもテスラ・モデル3のコストはBMW3シリーズよりもかなり安いことが分かりました。このトピックをさらに詳しく見ると、アメリカでは消費者の興味がテスラ以外の高級車からどんどん離れてきているため、ラグジュアリーブランドの中古車価格が大幅に下がっていると、キャピタル・ワンは書いています。これらの車の価値が下がったので、リース会社は長期で損をしないためにもリース価格を上げざるを得ないのですが、価格が上がれば競争力はさらに下がってしまい、死へのスパイラルに入ってしまっているのです。

さらに、ここでは詳しく書きませんが、完全自動運転とロボタクシーからくる利益の話もあります。2019年オートノミー・デー(株主総会)からいくつかの数字だけご案内しておきましょう。

バッテリーが鍵を握る

バッテリーのコストが下がり、ノートパソコン市場はできあがりました。スマホやタブレットも同じです。その後、テスラ・モデルSやモデル3が登場しました。

何年か前、マッキンゼーは電気自動車が既存ガソリン車とコストで競合するようになるのはいつか試算しました。現実世界で実際に起こったことは興味深いもので、元々のレポートはそれを言い当てていました。上で書いたように、テスラはバッテリーコストが下がるにつれ、コスト競争力を一気に増し、販売記録を打ち立てました。様々な国で、ガソリン車の競合をあっという間に追い抜いたのです。

下図はマッキンゼーのレポートから抜粋したものです。ガソリン価格が4ドル(約420円)/ガロン(1ガロン=約3.8L、4ドル/ガロンは約110円/リットル)でバッテリーコストが300ドル(約4万5,000円)/kWhであれば、電気自動車はコスト競争力を持ちます。

数年前、私はテスラ初のギガファクトリーがモデル3のバッテリーコストを下げ、このレベルのスペックを持つ車が価格競争力のクロスポイントに立つと主張しました。下の2016年と2019年に関するスライドで見られるように、それは現実に起こりました。

テスラで見られた急激な売り上げ増加は、他自動車メーカーのEV部門でもこれからの数年で繰り返されると見られます。

しかし、テスラはバッテリー開発とコストではリードし続けるでしょう。2021年版テスラ・サイバートラックの、ドル当たり航続距離は、今日市場が出しているものを遥かに超えています。これはテスラ製のバッテリーでブレイクスルーが起こり、今後の数年で生産される車両に使われるようになるからと見られます。

上で書いたように、テスラがこの分野でリードをし続けると見られる一方、他のバッテリー会社や自動車会社も同じトレンドを追っています。また電気自動車の航続距離はどんどん伸び、コストも低くなってきています。昨日私が出した記事を2つ読んでみて下さい。

Volkswagen ID.4 — 250 Mile Range, $32,500 Price After Tax Credit

Ford Mustang Mach-E — 230 to 300 Mile Range for $35,395, $39,500, or $42,300 (After Tax Credit)

人に説明するのが常に難しいのは(正直自分の頭の中でも難しいのですが)、あるテクノロジーが競合できるクロスポイントに達した時に、どれだけ速く変化が起こるのか、ということです。クロスポイントに達するのにかかる時間は永遠に感じられるかもしれませんが、テクノロジーがより良いもので価格も安くなれば、古い産業のリーダーはあっという間に転落するのです。誰がより高価で劣っている商品を買いたがるでしょう。一度しっかりとした、明白で強力なクロスポイントに達せば、一晩で変わることはないにしても、噂が出回るのにそう時間はかかりません。

テクノロジー・カーブで見られるように約2~5%までの成長はそこそこの速さで進みますが、そこを過ぎると急激に伸びるのです。

世界を見ると、電気自動車のシェアは5%に達していません。しかしそこに近づいてはいます。これから何が起こるのでしょうか?

私の主観では、今後の数年間で化石燃料車(エンジン車)の価値がどれだけ下がるか考えると、今それにお金を無駄遣いするのは想像しがたく、2025年までにはガソリン車を買いたがる一般消費者が多勢であるとは考えにくくなるでしょう。2030年までに化石燃料車にほぼ価値が無くなると考えられない人がいるのでしょうか。

ここまで散々に言いましたが、障害になり得るものが1つあります。EVバッテリー用鉱物の供給と、全体のバッテリー生産規模が需要に追いつかないかもしれないのです。そのせいでコストが上がり、採用トレンドのスピードを鈍化させるかもしれません。テスラは今後10年のEV生産革命と成長においてかなり大胆な計画を持っていますが、これが予定通りうまくいったとしても、市場の残りはどうするのでしょうか。炭鉱労働者、他のバッテリーメーカー、自動車会社はそのペースに追いつけるのでしょうか。バッテリー用鉱物の採掘やバッテリー工場開発に障害が出たら? オズボーン効果は私達が予測している通りに起こるのでしょうか。

市場がこの問題を十分に予測し、上で出てきたグラフの動きと同じように、テクノロジー採用カーブの成長に合わせて採掘、バッテリー正極、バッテリー電極、バッテリーセル、そして自動車産業全体の生産量が急激に上昇する可能性もあります。しかし違うかもしれません。自動運転技術とロボタクシーに関する疑問(どれだけ早く市場に現れるか)に加え、採掘とバッテリー生産に関する疑問はこの業界において最も大きいと私は考えます。可能性のある解決策や道は見えるのですが、2014年から2020年にテスラが見せてくれたような確実性ははっきり見えていません。

あなたはどう考えますか? 過去のテクノロジー採用カーブと同じことが電気自動車にも起こると強気でいるべきか、それとも自動車はかなり複雑で、バッテリー用鉱物も採掘が難しく、カーブはもっと緩やかになるのでしょうか。

(翻訳・文/杉田 明子)