スズキとダイハツが軽商用事業でのCASE普及に向けて、トヨタが中心に立つ『Commercial Japan Partnership Technologies』プロジェクトに参加することを発表。オンラインでの共同記者会見が開かれました。はたして、軽商用EV開発加速に向けた福音となるのでしょうか?
おもな目標は物流効率化と先進安全技術普及拡大
2021年7月21日、日本における軽乗用車メーカー別販売ランキングで1位のダイハツと2位のスズキが、トヨタが中心となって進める商用事業プロジェクト『Commercial Japan Partnership(以下、CJP)』に参画、トヨタが保有する『Commercial Japan Partnership Technologies株式会社(コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ)※以下、CJPT』の株式を発行済み株数の10%ずつ譲り受けることを発表。トヨタ、スズキ、ダイハツ、そしてCJPTと4社の社長が登壇するオンライン記者会見を開催しました。
【動画アーカイブ】
●スズキ、ダイハツ、トヨタ共同記者会見(YouTube)
このニュース、一見して「いよいよダイハツやスズキ、そしてトヨタも一緒になって、軽商用EVの開発が加速するのか?」と感じた方が多いのではないでしょうか。実は、私も勘違いしそうになりました。
魅力的な軽EVの登場は日本のEV普及の転換点になる可能性があり、EVsmartブログでは今までにも「軽EVの可能性」や、たとえば「佐川急便が開発中の軽EV宅配車」、さらには軽規格への進展も目指す小型商用EV『ELEMO』や、水に浮く軽EVである『FOMM』などの情報をお伝えしてきました。
ダイハツとスズキがトヨタとともに軽商用EV開発を加速するのであれば、日本のEV普及にとって最大級の朗報です。でも。結論からまとめると、残念ながら「軽商用EVを出すぞ!」といった発表ではありませんでした。
そもそも、CJPはいすゞと日野が培ってきた商用事業基盤とトヨタのCASE技術を組み合わせ、輸送業が抱える課題の解決やカーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目標として、2021年4月にスタートしていたプロジェクトです。今回、ダイハツとスズキの参加によって、この協業体制を軽自動車にまで拡大することになります。CJPでの協業による目標は、各社が発行するニュースリリース(トヨタのリリースにリンク)にも明記されています。
CJPでの協業による主な目標
① 物流の大動脈(トラック物流)から毛細血管(軽商用車)までつながるコネクティッド基盤構築による物流効率化。
② 安心安全に寄与する先進安全技術の商用車~軽自動車までの普及拡大。
③ サステナブルな普及を目指す良品廉価な軽自動車の電動化に向けた技術協力。
トヨタのニュースルームでは会見での各社社長のコメント全文が紹介されています。軽商用EVの開発については、協業内容を比較的具体的に語ったダイハツの奥平総一郎社長が「電動ユニットなどの技術協力を実施し、開発リソーセスを集約することで、廉価で魅力的な軽の電動車の開発にチャレンジ」することを示しましたが、具体的に、どんなEVを、どのように開発していくのかという点には言及されていませんでした。
記者たちも具体的な「軽商用EV」像を質問
どんな軽商用EVを開発しようとしているのかという疑問は、記者会見に参加したメディアの記者たちも同様に感じたようで、質疑応答でも多く質問されていました。各社の「軽EV」への姿勢を示すことでもあるので、いくつか問答をピックアップしてみます。
●軽EV開発はいつごろまでに実現するのか。また、3社で軽乗用車EVも共同開発していくのか?
(静岡新聞記者)
【スズキ/鈴木社長の回答】
CJPの役割はお客様の困りごとを解決する、また生活を支える軽自動車がやるべきことを把握した上で、CASE対応の企画を行っていくことが第一。その上で、具体的にどのような車両を開発するかということなので、具体的に細かいところまでは行っていない。
共同開発については、協業でできること、個社でやるべきことを見極めながら取り組んでいきたい。
【ダイハツ/奥平社長の回答】
すでにEV開発については、スズキをはじめ、マツダなども含めたコモンアーキテクチャーの開発などがすでにスタートしている。具体的には「何年にどうする」といった話はできないが、カーボンニュートラル実現に向けて、軽自動車に何ができるか検討する土台ができたと考えている。
(軽EVを3社で共同開発については)このプロジェクトはそういう枠組ではない。プラットフォーム開発は、今述べたように他の枠組で取り組んでいる。
●先進安全技術拡大と電動化について、商用車と乗用車を分けて開発する必要はあるのか?
(日刊工業新聞記者)
【スズキ/鈴木社長の回答】
乗用車と商用車を分けて開発するということではなく、きっかけとして商用車で取り組むことで、使い手の困りごとが把握しやすくなるのではないかと考えており、その解決に繋がる開発を進めていく。そこから、乗用車や大型車へも広がっていくと思っている。
●CASE対応やカーボンユートラルへの対応によって軽自動車のメリットが薄れるのではないか?
(フリージャーナリスト)
【ダイハツ/奥平社長の回答】
もともと、軽自動車はカーボンニュートラルな暮らしに寄り添えるクルマであると考えている。ダイハツでは、1mm、1g、1円にこだわって低価格な軽自動車を実現してきた。CASEや先進安全技術導入でどうしてもコストが上がってしまうところを、各社が協力して取り組むことで解決できるのではないか。それを探るのがこのプロジェクトの目的だと考えている。
【スズキ/鈴木社長の回答】
追求しなければならないのは「下駄代わり」という軽自動車のポジションを極めることだと思っている。(鈴木修相談役はかつて軽自動車を「芸術品」と評したが)バッテリーの量を減らしながらどうやって下駄代わりを実現するか。どうやって芸術品を進化させることができるか。これは軽自動車のメーカーだけでは不可能なことでもある。サプライヤーやユーザーを巻き込みながら、しっかりとやっていきたい。
この発表に感じる物足りないところ
今年3月末、日野といすゞ、トヨタの協業とCJPTの設立が発表されました。今回同様、CASE対応と合わせて、カーボンニュートラル社会の実現に向けてEVなどの共同開発に取り組むとしながらも、具体的な内容がなかったのでEVsmartブログではとくに取り上げませんでした。
今回は、ニッポン庶民の暮らしにとってインパクトが大きい軽自動車がテーマなので、あえて記事として取り上げました。でも、すごく物足りなく感じるのは、やはり、具体的に社会に提言され、実装されていくであろう「商品」や「サービス」の具体像がまだまるで見えないことです。
要するに、何年後に軽商用EV、あるいは軽EVの新型乗用車を発売してくれるのか。私たち(私だけ?)が求めているのはより具体的な軽EVの情報です。
「これから検討する」のだとしても、電池調達や製造方法などへの言及がなければ、どんな新型EVのプランも絵に描いた餅になります。今年5月にはトヨタが『Prime Planet Energy & Solutions(プライム プラネット エナジー & ソリューションズ株式会社』による車載用角形リチウムイオン電池生産能力の拡大計画を発表しました。でも、その規模は「BEV 約8万台」を見込んでいるというものでした。これから数年のうちに登場するであろうトヨタのEV新車種に加え、新型の軽EVを、商用車から乗用車まで展開するには、まるで足りないとしか言えません。
今の状況で電池を調達する方法を確保していないメーカーがいくら「EVやるよ!」とぶち上げたところで、あまりリアリティはないのが現実です。
このプロジェクトの第一義に掲げられている「コネクテッド技術導入による物流の効率化」についても、具体的なアプリケーションの機能や姿、改善される課題の内容がもっと明確にならないと、なんとも評することができません。もちろん、これから始まるのだから成果が上がるのはまだ先のこと、ではあるのでしょうが。世界の電動化やモビリティ脱炭素化、コネクテッド技術の進歩や投資拡大の流れの速さを見ていると、こういうタイムラインで大丈夫? というのが率直な印象です。
ダイハツとスズキという、軽自動車の世界で鎬を削るライバル企業が協業するのは画期的なこと。でも、ユーザーとしてはそれぞれの企業が魅力的な軽EV開発でさらに競争を展開し、マーケットにどんどん安価で魅力的な軽EVが増えてくれるのが理想です。
日野といすゞもそうですが、ダイハツやスズキなど、もともとトヨタの資本が入っていたライバル企業がひとつの枠組に組み込まれてしまうことによって、今後のEV開発が「お互いの顔色をうかがいながら」的な、ニッポンお得意の村社会的忖度に縛られてなかなか先に進まない、なんてことにはならないで欲しいと願います。
軽EVに求めたいこと
軽自動車規格は日本のガラパゴス規格といわれます。とはいえ、スズキはインドで、ダイハツはマレーシアでなど、各国の国民車を提供するビジネスを育ててきました。
また、電気自動車シフトは「ちょうどいいサイズ」のモビリティ(自動車)へのニーズを世界中に創出していく大きなチャンスではないか、と個人的に感じています。
中国で宏光MINI EVがモデル3を凌駕するセールスを記録していたり、ELEMO がベース車両とするCENNTRO社の小型商用EVが世界中で支持を広げています。こうしたクルマのサイズは、ほぼ日本の軽自動車並み。軽自動車規格に収まるコンパクトなサイズで、世界に通用する魅力をもったEVを開発することは、急速に進むEVシフトの中で、日本の自動車産業が命脈を繋ぐ重要なポイントでもあると思います。
「軽自動車」というワードに縛られる必要はありません。コンパクトで、搭載電池容量は控えめで、だからこそ安価であり、それでいて信頼できる安全技術が詰め込まれた、そして、ポンと膝を打ちたくなるような「使い方=ライフスタイル」を提案してくれるEVが、ダイハツやスズキから登場したら、素敵なことだと思うのです。
たとえば、スズキの『スペーシア』や『ジムニー』、ダイハツ『タント』や『コペン』のコンセプトを育て、エンジンと電動パワートレインの積み替えというインスタントではなく、EVとしてさらに磨き上げた新型車を発売してくれれば、すごく魅力的なコンパクトEVになるのではないかと思います。
記者会見の中で、トヨタの豊田章男社長は「トヨタのCASE技術を使って、軽をさらに進化させ、人々の暮らしをもっと良くするためのお手伝いができるのであれば、こんなに嬉しいことはありません。これからのクルマは、インフラとセットで考えることが不可欠です」と、軽自動車を進化させるのが重要な課題であることと、カーボンニュートラルは自動車メーカーだけでなく、「全国民・全産業が一緒になって取り組まなければ実現できないみんなの課題」であることを強調しました。
その通りだと思います。だからこそ、自動車メーカーには、できるだけ早くより魅力的なEVの姿を具体的に提示して欲しいと願っています。
さらに、質疑応答で今年6月にスズキの会長を退任した鈴木修現相談役への思いを問われ、「この国に軽を生み、軽を育て、軽を発展させた、軽自動車を国民車に育て上げたオヤジだと思っている。私にとってもオヤジのひとり」と親愛と尊敬の思いを述べた上で、鈴木氏が退任の際に述べた言葉を紹介しました。
「生きがいは仕事です。挑戦し続けることは人生であるということでもありますから、みなさんも仕事をし続けて下さい。バイバイ」
まさに歴史に残る鈴木修氏の偉業といえば「アルト47万円」です。
今、日本の自動車メーカーが成し遂げるべき火急の仕事とは、世界をアッと言わせる魅力的なEVを作り上げることではないでしょうか。
各社の挑戦に期待しています。
(文/寄本 好則)




