TECHNO-FRONTIER 2023 トークセッション「パーソナルEVの可能性」をレポート

東京ビッグサイトで開催されたTECHNO-FRONTIER 2023で、主催者セミナーEV特別セッション「パーソナルEVの可能性」のモデレーターを務めました。EVsmartブログでも注目する「小さなEV」開発を進めるキーパーソンに聞いたポイントをダイジェストで紹介します。

小さなEVをテーマにしたトークセッションを提案

2023年7月26日〜28日、東京ビッグサイトで「TECHNO-FRONTIER 2023」が開催されました。TECHNO-FRONTIER は、メカトロニクス、エレクトロニクス関連の最新技術や製品が一堂に集まるアジア最大級の専門展示会です。

EVに関連する出展も多く、例年、主催者企画として注目すべきEVの実車展示を行っており、今年はシトロエン『AMI』が展示されました。フランスなどでは14歳以上であれば免許なしでも乗れる小型の2人乗りEVで人気ですが、残念ながら日本では該当する規格がなく、公道を走ることはできません。

今回、TECHNO-FRONTIERを主催する一般社団法人日本能率協会のご担当者から「このシトロエンAMIの実車展示を絡めて、主催者セミナーを企画できないか」とオファーをいただいたのが6月初旬のことでした。

AMIが象徴する「価格を抑えた、でも魅力的で小さなEV」は、EVが社会に普及するためにとても重要なファクターだと、私はかねて考えていました。日本では超小型モビリティや原付四輪の規格でいくつかの小型EVが発売されてはきましたが、なかなか、社会にインパクトを与えるほどのヒットに結びつく車種はありませんでした。

とはいえ、望みがないわけではありません。かねてEVsmartブログで注目している、KGモーターズの「ミニマムモビリティ」や、アパテックモーターズが日本導入を目指している「大熊Car」には、多くのユーザーから「これでいいじゃん」と支持される可能性を感じていました。

そこで、主催者実車展示にAMIを選んだキーパーソンでもある名古屋大学の未来材料・システム研究所でパワーエレクトロニクス研究を進める山本真義教授と、アパテックモーターズの孫峰社長、KGモーターズの楠一成社長とともに、「価格を抑えた小さなEV=パーソナルEV」の可能性について語り合うことを提案。登壇を依頼したみなさんに快諾いただき、僭越ながらEVsmartブログ編集長として私がモデレーターを務め、26日(水)16時からのトークセッションが実現したのでした。

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パーソナルEVはどうすれば普及するのか?

いくつかのテーマに分けて登壇したキーパーソンに聞いた内容をダイジェストでご紹介します。

パーソナルEVの価格や性能は?

価格を抑えた魅力的な小型EVを「パーソナルEV」と位置付けて、最初のテーマは「パーソナルEVの価格や性能はどうあるべきか?」です。

KGモーターズ 楠社長

われわれは、一充電航続距離100kmを想定して開発を進めています。というのも、国土交通省などのデータによると、日本の自動車ユーザーのほとんどは1日に10km以下しか走っていません。つまり、日常的なモビリティとしては100km走れば十分ということです。

車両価格は100万円以下にすることを目指しています。買いやすい価格にすることで、より多くの人の「足」となるモビリティになることを想定しています。

アパテックモーターズ 孫社長

大熊Carの価格は、わかりやすく喩えると「iPhone3台分」くらい(45〜60万円程度)にすることを目指しています。そのために、スピーカーの数を抑えたり、急速充電には対応しないなど、装備は合理化しながら、でも、若い世代の人たちに楽しんでもらえるEVにしたいと思っています。

山本教授には、実車展示後に予定されているAMIの分解時、どのような点に注目したいかを伺いました。

山本教授

お2人の社長のお話しにもあったように、今後はコスト競争が、日本の自動車業界にも牙を剥いてくるポイントです。AMIの場合、グループのフィアットからもAMIをベースにした「トポリーノ」というEVシティコミューターが発売されましたが、どのくらい共通部品があるのかといった点など、コスト削減のノウハウを解析してみたいと思っています。

日産はサクラで頑張ったし、今後はスズキが投入を予定している軽EVでもコスト削減の工夫が凝らされています。コスト削減のノウハウの評価は、今後のEV開発にとって重要なポイントになるでしょう。

パーソナルEVの使い方や所有のカタチ

価格を抑えて航続距離などの性能もそれなりにするのであれば、使い方にも制約が生まれます。そのあたりのイメージを伺いました。

アパテックモーターズ 孫社長

たとえば、通勤用のEVとして福利厚生の範囲でカバーできるようにしようと考えています。具体的には、月額1万円以内でのリースですね。充電は勤務先の駐車場でできるようにしてもいいし、社員が自宅に充電設備を設置するのをサポートしてもいいですよね。

遠距離を走るときは、カーシェアなどを活用しやすいようにすればいいと思っています。

KGモーターズ 楠社長

今年のオートサロンでモニターを募集してアンケートを実施しました。その中で、家族構成やどういう使い方をしてみたいかといったデータを集めたんですが、やはり通勤に使いたいというニーズは多かったですね。

とくに地方の場合、複数台のクルマを所有する家庭が多いのですが、電車などの通勤費は支給されるけど、自動車を所有するためのコストは自前になることに苦痛を抱えてる方が少なくありません。安上がりにするために旦那さんが原付を買ってみたけど寒さや雨でくじけてしまうというケースが多い。

ミニマムモビリティであれば原付と同じコストで、1人乗りだけど、屋根があってエアコンも効く移動手段が手に入る。

日本の法規や固定観念の壁

小型モビリティの開発には、日本特有の法規や固定観念が壁として立ちはだかることもあります。そのあたりの事情はどうなのでしょう?

KGモーターズ 楠社長

具体的に挙げると、われわれが開発している原付四輪という規格では、原動機(モーター)の定格出力が0.6kW以下というルールがあります。定格出力というのは「この出力を出し続けられます」という数値であって、最大出力とは異なります。じゃあ、最大出力はどの程度まで許容されるのかという明確な基準がなくて、トヨタ車体が出したコムスが5kWだったのが事実上の上限のようになっています。

AMIが日本の公道を走れないように、日本のルールがガラパゴスになっている一面は否めませんね。

アパテックモーターズ 孫社長

中国の例を挙げると、自家用車を登録するためにエンジン車では高額な費用がEVでは無料だったり、街中での駐車料金が無料だったり、EVの場合は走行距離に応じて政府から奨励金が出たりします。

国を挙げて、EVシフトに本気になることが重要ではないでしょうか。

中国製のクルマやパーツへの信頼感は?

大熊Carは、中国製のクルマを日本に工場を建設して組み立てて販売する計画を進めています。KGモーターズのミニマムモビリティも、コストを下げるためには中国製パーツを活用することも必要になるでしょう。日本では、まだまだ中国製品に対する警戒感も根強くあるように思いますが、そのあたりはどうなのでしょう。まず、中国製EVをたくさん分解して解析している山本教授に、日本の技術は安泰なのか? について伺いました。

山本教授

信頼性や高品質という点では安泰だと思いますが、コスト的にどうかという点では安泰とは言いがたい状況ですね。コストを抑えたパーソナルEVに、高価な日本の技術をどのくらい盛り込めるかは課題になるでしょう。

KGモーターズ 楠社長

われわれの拠点は広島なので、マツダさんに関連した企業の協力もいただいて、できるだけ広島プラス日本の製品を使ってやろうとしています。ただ、コスト的に厳しいのは事実ですね。

まだ詳しいことは言えないですが、実は、日本製の素晴らしいモーターに出会ったんです。値段は正直安くはないですが、付加価値として採用する意義はあると考えているところです。

以上。

45分という限られた時間でのトークセッション。少し幅広くテーマを設定したこともあり「そこ、もっと聞きたい」という点が多かったですが、小さなEV普及のためのポイントがいろいろと示唆されていたと感じます。そのあたりは、引き続きEVsmartブログで取材を進めていきたいと思います。

ともあれ、アパテックモーターズの大熊Carや、KGモーターズのミニマムモビリティなど、安くて小さい魅力的なモビリティが、日本のベンチャー企業から生まれてきそうな状況に期待して応援したいと思います。

今回実車展示されたAMIは、数カ月後には山本教授による恒例の「分解大会」でバラバラになる予定。分解大会については、山本教授のTwitter改め「X」などで告知されると思うので、要チェックです。

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取材・文/寄本 好則