2019年6月7日(金)、トヨタ自動車が『電気自動車(EV)の普及を目指して』というメディア向け説明会を東京都内で開催。今まで「遅れている」と言われ続けてきた電気自動車に関する事業戦略を明確に示しました。はたして、トヨタは本気で電気自動車を作るのか? さまざまなメディアでこの説明会について報道されていますが、内容が幅広く、トヨタの真意がわかりづらいのが実情です。EVsmartブログでは、日本におけるEV普及への貢献、そして、トヨタは世界レベルでのEV戦争で巻き返せるのかという観点から、発表の内容を整理してみます。
説明会と質疑応答の動画が公開されています
説明会には、トヨタの電動化戦略を指揮する寺師茂樹副社長が登壇。続く質疑応答には、豊島浩二ZEVファクトリー部長と海田啓司電池事業領域領域長というEVと電池開発のキーパーソンが並び、記者やジャーナリストからのさまざまな質問に答えました。
説明会の内容は、トヨタ自動車の公式サイトで全編をほぼ完全に文字起こししたレポートとして紹介されています。
『EVの普及を目指して』(トヨタ自動車公式サイトニュースルーム)
また、説明会と質疑応答の様子は、プレゼンテーションと1回目の質疑応答、そして2回目の質疑応答の様子の2本に分けて、YouTubeの公式チャンネルで公開されています。時間と興味がある方は、ご覧になってみてください。
「EVの普及を目指して」メディア向け説明会 プレゼンテーション・Q&A①
「EVの普及を目指して」メディア向け説明会 Q&A②
着目すべき「発表」のポイントとは?
電気自動車への立場を今まで明確にしてこなかった一方で、トヨタと電気自動車については、今までにもさまざまなニュースが錯綜していました。パナソニックとの電池の共同開発や新会社設立、EV開発の新会社設立、中国・上海モーターショーでのBEV発表やグローバルで10車種以上のEV展開を発表、スバルとのBEVプラットフォームの共同開発、マツダやデンソーとの電気自動車共同開発、スズキやダイハツとの小型電気自動車共同開発、などなど、2017年ごろから頻繁に伝えられたニュースの数々は、「いったい、いつになったらトヨタは本気でEVを作るのか?」という疑問をかえって深めてさえもいた、といえるのではないでしょうか。
今回の説明会で発表された内容は、今まで積み重なってきた「トヨタはEVに本気なのか?」という疑問を解消し、錯綜していたニュースの意味がひとつの大きな戦略の上で理解できたという点で、とても有意義だったのではないかと思います。どういうことか、私が今回の説明会のポイントだと感じた点を、5つに絞って挙げておきます。
**●EVが新しいモビリティ社会の中心になる。
●2025年までに550万台の電動車が目標。ただし、中心はハイブリッド車。
●EV普及には新しいビジネスモデルが必要。
●日本では超小型EVを2020年に発売。
●全固体電池について2020年中には「発表」する。**
結論としては、トヨタは電気自動車に対してすでに「本気」になっていると捉えることができました。ただし、フォルクルワーゲングループやテスラのように、どんどん具体的な車種をリリースして世界の市場をリードしていこう、というよりも、EVの普及とともに、今までとは違う「ビジネスモデル」を模索、構築していくことを重要視していることがわかりました。
イメージとしては「テスラや日産、BMWやフォルクスワーゲンが切り開いた荒野へ用意周到に乗り込んで、道を固め畑を作ってビルを建て、おいしい果実を収穫していく戦略」という印象です。考えてみれば、文明開化や戦後の高度成長でも、日本、そしてトヨタは欧米のパイオニアが拓いた市場を耕すことで成功してきたのですから、とても日本らしい戦略とみることもできそうです。
では、それぞれのポイントについて、解説と考察を進めていきましょう。
●EVが新しいモビリティ社会の中心になる。
CO2排出量の削減や、中国、欧州、アメリカなどでの規制に対応するためにも、地球規模でEVをはじめとした電動車の普及は必要であることを、トヨタも強く認識しています。そして、MaaS(Mobility as a Service=マース)やCASE(ケース)といった今後進展していくであろう社会システムとEVは相性がよく、EVの普及が新しいモビリティ社会構築を促進し、その新しいモビリティ社会ではEVが中心になるという認識が示されました。EVなくしてモビリティの変革はなしえない、ということでもあります。
ちなみに、MaaSというのは、ICTを活用したマイカーに頼らない交通(移動)システムの概念。CASEというのは、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared(カーシェアリング ※Service の意を含むこともある)、Electric(電気自動車)を意味する造語で、今後の自動車産業が取り組むべき課題、とか「あり方」を示しています。
さらに、電動車に搭載する電池の再利用を進めるために、電池の耐久性や信頼性を高める技術開発に注力していることも明言されました。質疑応答のなかで示された「10年後、10万キロ走ったあとの航続距離を比較共有できる方法もつくっていきたい」(寺師副社長)「10年後、トヨタのEVを買って良かったと思っていただける車作りをしていきたい」(海田氏)といった言葉には、トヨタならではの魅力的なEV登場への期待が膨らみます。
●2025年までに550万台の電動車が目標。ただし、中心はハイブリッド車。
トヨタは2017年に、2030年にHVやPHEVを含む電動車の販売台数を550万台以上とするマイルストーンを発表していました。今回の説明会では「この目標を上回るスピードで電動化が進展しています。おそらく、5年近くは先行しそうです」(寺師副社長)ということで、2025年には電動車550万台と目標を前倒しすることを示しました。
テスラやフォルクスワーゲンなどの欧米メーカー、そして猛進する中国メーカーの現状をみると、5年前倒しでも遅すぎるのではという印象はありますが、電動車開発への速度をさらに上げる決意表明として、一定の評価はできるでしょう。
とはいえ、質疑応答の中で寺師副社長が「(電動車の台数としては)ハイブリッドが前に出てくる」「ハイブリッドを中心に電動化が進み、CASEやMaaSはEVが中心になる」と回答しているように、電動車のなかでEVが締める割合はさほど多くはならないと見込んでいて、具体的には550万台のうち「EVとFCVで100万台程度」でしかないという予測が示されました。
正直、それはちょっと消極的過ぎるのでは? と感じます。
「2020年に中国を皮切りにEVを本格投入、以降、グローバルに車種を増やしていき、2020年代の前半には、10車種以上にする」という、従来から公表されていた計画は今回の説明会でも繰り返されたし、開発中のクレイモデルまで含めたEVのラインアップを会場にも展示するなど、トヨタの意欲も示されました。
ただし、これは個人的な見解ではありますが、提示されたラインアップのスタイルを見ても、なんだかあまりワクワクしないのが気になります。従来のカテゴリーにEVを当てはめて、プリウスやMIRAIなどで繰り出しているデザインテイストの延長線上に「ひとまず置いてみました」というイメージに留まり、「おっ!」という新しさが感じられないからでしょう。
テスラのモデル3が欧米を中心にこれだけ売れているのは、ユーザーに「おっ!」という新発見や感動をもたらす力があるからこそであり、トヨタがそういうEVを世に問えば、電動化のスピードはさらに加速するはずと確信(個人的に)しています。かつてトヨタ自身がキャッチフレーズにしていた「Fun to drive」は、EV開発でもぜひ忘れないでほしいな、と思います。
●EV普及には新しいビジネスモデルが必要。
つまり、トヨタの思惑としては「電動車普及は急ぐけど、EVはそんなに売れないだろう」ということになります。あるいは「そんなに売りたくない」と捉えることもできるでしょう。その理由も、説明会で明確に示されました。つまり、自動車を作りディーラーを通してユーザーに販売するという現在のビジネスモデルでは、EVを売っても儲からないから、です。
企業ですから、利潤を求めるのは当然です。EVが持続可能なモビリティになるためにも、適切な利益を得られることが必要です。トヨタが構想しているビジネスモデルも示されました。
「耐久性の高い高性能な電池で商品力を向上することをはじめ、製造から廃却まで、EV及び電池を最大限に活用し、普及における課題に対応します。
具体的には、販売に加えてリースも充実、確実に回収し、お客様が使われた後の電池の状態を査定、その上で中古車として流通させたり、電池を補給部品やクルマ以外の用途も含めて再利用し、電池をしっかり使い切る、さらには、お客様に安心して使っていただけるよう、充電サービス・保険等の周辺サービスもEVに最適なものを整備いたします。
このようなビジネスモデルを、様々な分野のパートナーの皆様と一緒に作ることを考えています」(寺師副社長)
EVの特長である「電池」を活用して、さまざまなサービスと結びつけることで、新たな付加価値を生み出していく。そのために、さまざまな分野のパートナーと協力して新しいビジネスモデルを構築していくという決意です。
寺師副社長が「CASEやMaaSはEVが中心になる」と明言したのは、EVを新しいビジネスモデルの必須ツールと位置づけているからと理解できます。
自動車に夢や感動を求めてきた私たちには少し寂しいことではありますが、たとえばシェアリングサービスのツールとしてのEVに「夢や感動」はあまり必要ではなく、パブリックな移動手段として必要最低限な機能を備えた乗り物になっていくのは、仕方ないことなのかも知れません。
●日本では超小型EVを2020年に発売。
さて、EV普及に意欲を明示したトヨタですが、10車種以上をラインアップする乗用車EVの展開は「中国、欧州など」が中心とのこと。私たちが気になる日本で最初に展開するのは「歩行領域」を支援する乗り物を含めた「超小型モビリティ」であることが明らかにされました。
具体的には、2017年の東京モーターショーで発表された『i-RIDE』をベースとした超小型EVです。
また、歩行領域、つまり歩いて移動する範囲をカバーするEVとして、これも2017年東京モーターショーにコンセプトモデルとして出展された『i WALK』を2020年に発売。さらに、座り乗り対応や、車椅子連結タイプのEV(ヴィークルというよりは移動支援ツールですけど)を、2021年に発売予定であるとしています。
さらに、各地で実証実験が進められていた三輪バイク風の『i-Road』も、まずは日本で、新しいビジネスモデルを探るための超小型EVとして位置づけられているようです。
10年ほど前から国土交通省が提言している「超小型モビリティ」は、安全基準などの課題が山積して暗礁に乗り上げているのかと思っていましたが、トヨタが「2020年発売!」と宣言したということは、着々と準備が進んでいたんですね。ただし、ナンバーなどがどうなるかは「まだわからない」ということでした。
超小型モビリティや歩行領域EV。EVが普及していくためには重要なカテゴリーだと思います。今までにも試行錯誤を重ねながらなかなか広がっていかなかったことを思えば、2020年という具体的な時期をトヨタ自らが明言したのは、着目すべきだと思います。
一方で、いわゆる乗用車EVは「グローバル展開のEV」として「中国、米国、欧州など、EVの需要の高い市場に向けて、普及を念頭に置いた開発を進めています」(寺師副社長)とのこと。
日本ではあまり売るつもりがないのかと気になっていたら、質疑応答の最後の最後で、私も関わっている日本EVクラブ副代表の自動車評論家、御堀直嗣さんが「日本導入の見通しは?」と、ズバリ質問してくださいました。
寺師副社長の回答は「日本国内にもEVが欲しいというお客様は一定数いらっしゃることはわかっています。どのようなビジネスチャンスがあるか日本特有のモデルが必要かどうかなどを含めてラインアップを検討しつつ、お客様が買いたいと思う車をぜひ作りたい。必ず、何かは出します。お待ちください」という内容でした。
数年のうちに、日本でも「トヨタのBEV」が発売されるのは間違いないでしょう。素晴らしいことだと思います。
とはいえ、全体を通じてEV普及の鍵を握るのは「マーケット」であり、日本のユーザーはそれほどEVを待ち望んではいない。日本ではあまりEV(乗用車)は売れない。と認識されていることが伺えました。
個人的には、日本ではEVが売れないなんてことはなく、たとえば、200万円以下で一充電航続距離が150〜200km程度の軽自動車EVがスズキやダイハツから発売されたら大ヒットするに違いないと、数年前から言い続けているのですが。。。
ちなみに、マツダやスバル、スズキやダイハツなどとの共同開発についても「複数のバリエーションについて、それぞれ得意分野を持つパートナー企業の皆様と共同で企画及び開発を進めて」(寺師副社長)いることを明示。『トヨタZEVファクトリー』では、さまざまな関連企業や団体からの出向者が集まって、ZEV普及に向けた開発を進めているそうです。
1ユーザーとしては「もっとシンプルに魅力的なEVを発売してくれればいいんだけどな」とも思いつつ、EVをたんなる「自動車」というよりも「社会の仕組み」として普及させていこうという、トヨタの意思を感じます。
全固体電池について2020年中には「発表」する。
EVに搭載する電池の性能についての言及が多かったのも、興味深い点でした。「私たちは電池メーカーでもあると思っています」(寺師副社長)と明言しつつ、長期間、長距離を乗っても劣化しない、信頼性の高い電池開発に取り組んでいることが語られました。
また、EVの本格的な普及に向けて、従来から協力関係にあったパナソニックをはじめ、中国のCATLやBYDからの供給を受ける体制も確立。リチウムイオン電池供給のおける世界のトップ3を占める会社全てと協調して、電動車の急速な普及に対応することが示されました。このあたりは「さすがトヨタ」って感じです。
さらに、質疑応答のなかで言及されたのが、トヨタが自社開発に取り組んでいる「全固体電池」についてです。
社内で全固体電池開発を担当している海田啓司氏が「チャレンジングな開発ではあったが日々、改善点を発見し、みなさまの期待の時間帯に出していけるよう努力」していることに触れると、隣席の寺師副社長が「来年、オリンピックのタイミングではなんらかの形でみなさんに見ていただければ」と明言。海田氏はちょっと苦笑い気味に「きっついなぁ」という表情ではありましたが、2020年には「トヨタの全固体電池」が登場する、という期待が膨らみました。
実用化されたとしても、当面は価格が高かったりするのでしょうが、現状のリチウムイオン二次電池に比べて圧倒的に優れたポテンシャルをもつ全固体電池が登場すれば、EV普及がますます加速することは間違いありません。世界の自動車市場で、トヨタが一気に存在感を高めることにも繫がることでしょう。車種のバリエーションなどとともに、トヨタの本気に期待したいところです。
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かなり長編レポートになってしまいました。ともあれ、トヨタはEVに背を向けているわけではないということが明確になったという点で、EV普及を応援したいEVsmartブログとしてもうれしいニュースでした。2025年に向けて、トヨタから続々と登場するであろう「本気」の電動車に注目していきたいと思います。
(寄本好則)













