電気自動車もだんだん増えてきましたが、初めて急速充電器を使ってみると、充電が速かったり遅かったりに気づきます。急速充電器の出力の秘密を詳しく、可能な限り分かりやすく解説します。
※冒頭写真は海老名SAの90kW器で日産リーフe+を充電中の表示。379V×176A=約67kWでの充電になっています。
急速充電の「出力」は車種によって違う?
初めて急速充電器を使った方は「出力? なんだそれ?」と思われるかもしれません。急速充電器はすべて同じ「急速」ではなく、低速、中速、急速、さらに超急速などと、充電器によって性能が異なります。この出力は大きいほど高性能で、速く充電できます。充電スポット検索アプリ『EVsmart』では、日本国内のほとんどの急速充電器の出力を調査して掲載していますので、お出かけ前にご確認いただくと、効率良く充電を完了できると思います。
さて、今日はアプリ説明の話ではありません。
実は同じ急速充電器を使っても、車が違うと充電速度が違うことがあるのです。なぜ、車種によって充電速度が違ってしまうのか。その理由について解説します。
充電の基礎
急速充電器の最大出力と実際の充電出力が違ってしまう最大の理由には、EVが搭載している駆動用電池の電圧が関係しています。どういうことか、順を追って説明していきましょう。
チャデモ規格の充電器では、充電器の最大出力は、電力単位のkW(キロワット)ではなく、電流の単位であるA(アンペア)で規定されています。といっても、普通の方にはkWもAも良く分かりませんよね?
kWというのは、仕事率と呼ばれ「1秒間にどれくらいの仕事ができるか=車をどのくらい加速したり充電できるか」を示す単位になります。2倍のkW・仕事率なら、2倍速で充電できます。
そして……
kW = V x A
kW: 仕事率(キロワット)、V: 電圧(ボルト)、A: 電流(アンペア)
という式が成り立ちます。理科の授業のようでとっつきにくいかも知れませんが、必ず分かるように説明しますので、もう少しお付き合いください♪
次に電圧を理解します。
電圧とは、電気が流れる速度みたいなものです。水に例えると、水流の速度です。リチウムイオン電池を使った電気自動車の場合、電圧は電池で決まります。例えば、1個4.2Vの電池を96個(セル)直列にすると、4.2V x 96 = 403.2Vとなります。多くの電気自動車の満充電時の電圧は、この403.2V以下になっていることが多いです。
直列ってのも分かりにくいですね。この図を見てください。右側のつなぎ方が直列で、左側のつなぎ方を並列と言います。電池を直列に繋ぐと、電気の勢い=電圧は、一つ一つの電池の電圧の和になります。電池がホースみたいに見えるとイメージ付きますでしょうか。
電流とは、電気の流れる量です。水に例えると、川の幅や、パイプの太さに当たります。充電時の電流は、基本的には車に搭載されている、バッテリー管理を行うソフトウェア=BMS(バッテリー・マネジメント・システム)が決定し、充電器に指示することで充電が行われます。もちろん充電器の能力以上の充電はできません(ポンプの能力以上の水は流せない)ので、BMSは充電器の能力を照会し、「じゃこのくらいでお願いします」と指示を出すのです。
先ほど出てきた仕事率にちょっと戻ってみましょう。
先ほど、電圧は水流の速度、電流はパイプの太さに当たる、と言いました。仕事率は、それを掛け算したもので、1秒間に流せる水の量、すなわち、1秒間に充電できる電気の量を示します。実際に充電は1秒では終わりませんので、kWを何分間も継続して流し続けて充電を行います。例えば1時間、3kWで充電を継続すると、3kWh(三キロワット時)の電力量が充電できます。2時間なら6kWh、10分なら0.5kWhです。この、kWhの単位を仕事量、と呼びます。仕事率kWが「1秒当たりの仕事の量=電気の量」であるのに対し、仕事量kWhは「トータルとしての仕事の量」となります。kWが大きければ、同じ1分充電しても、よりたくさんの仕事量が手に入るので、充電量も増えます。
要するに、kWが大きい充電器=高性能な充電器、なのです。太いパイプの中を高速で水を流せるポンプ=高性能な急速充電器です。
急速充電器の出力〜電圧と電流
電気自動車の中に入っているリチウムイオン電池を充電するには、充電器と電池の電圧を合わせる必要があります。例えば充電器のほうの電圧が電池より高いと、電気は行き場がなくなるので熱に変わってしまいます(=水がこぼれる)し、逆に電池の電圧のほうが高いと、電気は逆流して充電器が故障(=水も逆流しますね)してしまいます。この機能は、充電器側に備えられています。
次に重要なのは、電池の電圧です。多くのリチウムイオン電池は、満充電で4.2Vになることが多く、放電するに従って電圧が下がります。電気自動車では、電池の寿命が大切なので、電池を傷めないよう2.8V程度で放電を停止するようにBMSが設計されており、この電圧に達すると車が止まってしまいます。例えば電池が96個直列になっているバッテリーを搭載する電気自動車の場合、**
2.8V x 96 = 268.8V
4.2V x 96 = 403.2V
充電器はこの範囲の電圧の電気を、BMSの指示に従って供給することになります。
チャデモの急速充電器のA(アンペア)は、その充電器の機種で決められています。多くのメーカーの急速充電器は50kWタイプが125A、40kWタイプは100A、30kWタイプは75A、20kWタイプは50Aまで出力することができます。これを「私は」400V基準と呼んでいます(標準の用語ではありません)。
| 公称出力(kW) | アンペア数(A)
400V基準の場合 | アンペア数(A)
500V基準の場合 |
|---|---|---|
| 50 | 125 | 100 |
| 40 | 100 | 80 |
| 30 | 75 | 60 |
| 20 | 50 | 40 |
400V基準のほかに、500V基準の充電器があります。良く知られているのはニチコン社製で、多くの充電器が500V基準になっていますが、最近のニチコン社製急速充電器は400V基準に改められています。
ここから分かることは、同じ50kWの充電器だとは言っても、片方は125Aでもう片方は100Aなわけですから、(電圧は車両側の電池電圧で決まるので)出力が25%も違うという事実です。EVsmartでも、この部分について現時点では統一できておらず、メーカー指定の出力を表示していますが、今後は400V基準に統一したほうが実用的にわかりやすいのかも、と検討しています。
さて、実際に充電するということになると、電池の電圧はどのくらいになるのでしょうか?
電池がほとんど空でも、充電が始まると一個の電池、すなわちセルの電圧はすぐ3.4Vくらいになります。この時点での電池パックの総電圧は、96個直列の電池の場合、3.4V x 96 = 326.4Vです。
あれ? 随分と400Vより少ないですね。もし、50kW充電器で、バッテリーパックの電圧326.4Vの場合、実際に充電できる電力は……
326.4V x 125A = 40,800W = 40.8kW
です。ええっ! せっかく50kWだと思って選んだ充電器は、電池が空に近いと41kW弱しか出ない**ってことですか?
残念ながらそうなのです。満充電に近くなり、電池電圧が400Vに近づくと、ようやく50kWのフルパワーを出せるようになります。現実的には満充電が近づくと、次の二つのことが同時に起こります。
**・次第に電池電圧が上がり、充電電力も次第に増えて充電器の性能に近づく。
・BMSが充電を制限し、電流が下げられる。**
二点目は、電気自動車ユーザーの方ならどなたでもご存じ、満タンに近づけば近づくほど充電速度は遅くなる、という現象です。つまり、96直列の電池では、相当大きな容量(例えば150kWhとか?)でも搭載していない限り、チャデモ急速充電器で50kWのフルパワーを享受することはできないのです。400Vに近づいたらもう満タン近いわけですから。
また、東名高速の海老名SAなどに設置されている新電元の90kW器では、最大出力の電圧が450V、電流が200Aとなっています。電流は最大の200Aで流れていても、EV側の電池電圧が400Vだとすると、400V×200A=80kWしか出ないということになります。
車両側の電池電圧が上がると……
では108直列ではどうでしょうか? ここからは、直列の代わりに、S(=Series, 直列の意)を使って108Sとあらわすことにします。96直列は96Sです。
108Sの電池の電圧は最大453.6Vです。これはすなわち、50kW充電器で
453.6V x 125A = 56.7kW
まで充電できることを意味します。やはり、満充電に近づくと125Aで充電するのは難しくなりますが、仮に電池セルの電圧が4.0Vだったとして、4.0x108x125=54,000ですから、54kWくらいでは充電できることになります。
そうなんです。電池電圧を高くできれば、充電速度を上げることができます。
※充電器の定格が電流をベースに決められている理由は、発熱が一つの原因となっています。発熱は損失とも言われ、電力会社から来ている電気を電池に送り込む際、充電器の内部で熱に変わって、電気が失われてしまいます。この損失は電流の二乗に比例するため、充電器自体の冷却能力によって、まず電流値で制限を設けて、充電器を設計します。
チャデモ(CHAdeMO)急速充電器の実際
では実際に50kWの充電器ではどのくらいの充電ができるのでしょうか? 私の体験からは、一般的な96Sの車両では、90%くらいの出力だと考えればよいと思います。108Sの車両の場合、95%くらいの数値になると考えられます。
50kWの充電器は45kW、40kWの充電器は36kW程度、と思っておけばよいでしょう。
ちょっと待ってください。
96Sと言いましたが、96Sや108S以外の構成を持つバッテリーもあるのでしょうか?
実は他に考慮しなければならない点が二つあります。
一つ目は84Sの存在です。テスラモデルSやモデルXの、70/75kWhバッテリーは、96Sではなく84Sとなっています。満充電の電圧は352.8Vとなりますので、125A時の充電電力は44.1kW。つまり、84Sの車両では先ほどの10%と合わせて、約20%くらい、実際の充電速度が落ちることになります。
二つ目は満充電が4.2Vではないバッテリーの存在です。現時点で非常にポピュラーなLFPバッテリーはテスラモデル3スタンダードレンジ(プラス)に搭載されていますが、満充電は3.6Vで、104Sの場合の電池電圧は374.4Vとなります。
※こちらの動画より、テスラのLFPパックは4×26=104に分割されているように見えます。また、こちらの動画では、満充電時でもセル間の電圧のばらつきは大きく、実際には368Vまでしか達していないことが分かります。もしかすると102Sかもしれません。
もう一つ、アイミーブのSCiB搭載モデルに搭載されているLTOバッテリーは、満充電2.85Vとなり、96Sでも電池電圧は273.6Vです。これらの車両でも50kWチャデモ充電器で充電する場合、125Aで充電することはできますが、充電できる電力は96SのNCA/NMCバッテリーより低くなります。
まとめてみましょう。
| 電池のタイプ | 車種の例 | 1セルの電圧 | 満充電時
電池パック総電圧 | 50kW充電器での
推定実効出力 |
|---|---|---|---|---|
| NCA/NMC 96S | 日産リーフ
テスラモデル3 LR テスラモデルS/X LRなど | 4.2V | 403.2V | 45kW |
| NCA/NMC 84S | テスラモデルS/X 70/75kWhモデルなど | 4.2V | 352.8V | 39kW |
| LFP 104S | テスラモデル3 SR | 3.60V | 374.4V | 42kW |
| NCA 110S | テスラモデルS Plaid(日本未発売) | 4.2V | 462.0V | 50kW |
| LTO 96S | 三菱i-MiEV M | 2.85V | 273.6V | 31kW |
| NMC108S | ジャガーI-PACE | 4.2V | 453.6V | 50kW |
| NMC 198S | ポルシェ タイカン | 4.2V | 831.6V | 50kW |
| NMC 144S | ヒョンデ IONIQ 5 58.2kWh | 4.2V | 604.8V | 50kW |
| NMC 180S | ヒョンデ IONIQ 5 72.6kWh | 4.2V | 756.0V | 50kW |
| NMC 192S | ヒョンデ IONIQ 5 77.4kWh(日本未発売) | 4.2V | 806.4V | 50kW |
この表の中で気になるのは、ジャガーI-PACEや電池電圧400Vを遥かに超えているポルシェ タイカン、ヒョンデ アイオニック5ですよね。タイカンは、内部で400Vと800Vを切り替える機能を持っているとされ、400V時でも99Sですから、96Sの電池よりも高速に充電できる可能性が高いと思われます。
またアイオニック(IONIQ)は非常に特殊な技術を採用しており、モーターの巻き線を使用して入力を昇圧することで、3種類も存在する異なるコンフィグレーションの電池パックおよび、400V充電器と800V充電器の両方に柔軟に対応させているようです。このあたりは電気自動車の最先端技術ということができます。
番外編:テスラのスーパーチャージャーはどうなっているのか?
最近ユーザーも多くなってきたテスラですが、テスラジャパンは日本国内にテスラ車両専用の充電ネットワーク「スーパーチャージャー」を展開しています。これはチャデモ規格ではない、独自規格での充電を行うもので、全世界では、テスラ専用コネクター(ここでは正式名称ではありませんが、便宜的にTPCと呼びます)と、CCS2(欧州のコンボ規格)が使われています。日本国内は米国と同様、TPCです。テスラV3スーパーチャージャーは、最大462V 700A程度の出力を持っています。
テスラは充電時、車内のディスプレイに充電電力をリアルタイムで表示してくれます。この表示は、実際にバッテリーに充電されている電圧と電流の掛け算(V x A)になっています。
また、Scan My Teslaなどの追加ハードウェア及びソフトウェアを使用することにより、電池電圧も見ることができます。つまり、スーパーチャージャーで充電しているときに車内で50kWと表示されていたら、実際に50kWで充電されているわけです。
こちらは、バッテリー残量が3%の時のScan My Teslaの画面ですが、“Cell volt avg”=平均セル電圧が3.129Vですから、電池電圧はおおよそ300V程度ということが分かります。
(文/安川 洋)





