環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長が、自宅でエネルギー自給自足に挑戦していると聞いて横浜市内のご自宅を直撃取材。太陽光発電と電気自動車、V2Hを組み合わせた最先端の再エネ生活への思いと気付きを伺いました。
持続可能なエネルギー社会を目指す!
飯田哲也(てつなり)さんが2000年に設立して現在も所長を務める特定非営利活動法人「環境エネルギー政策研究所(Institute for Sustainable Energy Policies=ISEP)」は、持続可能なエネルギー政策の実現を目的とする機関としてさまざまな知見の情報発信などを行っています。
私自身は2011年頃、小水力発電について千葉大学の倉阪秀史(ひでふみ)教授を取材した際、倉阪教授の研究室とISEPが調査してまとめている「エネルギー永続地帯」報告書の存在を知り、興味をもっていました。2020年には、ISEP研究員の古屋将太さんがファシリテーターを務める電動モビリティのセミナーに登壇し、その後、ISEPでも電気自動車普及の現状についてお話しさせていただいたりもして。
電気自動車の話をするためにISEPへ伺った際、飯田さんから「エネルギー自給自足目指して建て替えている自宅がもうすぐ完成する」と聞いて、ぜひ取材させてくださいとお願いしていました。その後、コロナ禍でなかなか伺うことができずにいたのですが、先日、ようやく取材することができたのでした。
ちなみに、永続地帯(sustainable zone)というのは、その区域で得られる再生可能エネルギーと食料によって、その区域におけるエネルギー需要と食料需要のすべてを賄うことができる区域のこと。考え方としては「エネルギー永続地帯(電力と熱エネルギー全体を勘案)」と「食料永続地帯」があり、再生可能エネルギーで電力を自給できる市区町村は「電力永続地帯」となります。再エネによる新たなエネルギー社会を実現していくためにも、エネルギー永続地帯は重要なキーワード。飯田さんのご自宅は、いわば個人住宅をエネルギー永続地帯にするためのチャレンジといえます。
飯田邸の電力は100%再生可能エネルギー
飯田さんのご自宅は、どんなシステムでエネルギー自給自足を目指しているのか。まず、その概要を紹介しておきましょう。
太陽光発電パネルは両面発電タイプで出力が10kW。パワーコンディショナーには、HUAWEIの製品を選択。定格出力は4.95kWですが、変換効率が高く、パワコンの定格出力以上の太陽光発電パネルを接続する過積載対応性能が高く、冷却ファンを使用していないので故障のリスクが少ないといった耐久性とコストパフォーマンスの高さが選択のポイントだったとのこと。
蓄電に利用するのはバッテリー容量40kWhの日産リーフ。ニチコンのV2Hシステム「EVパワー・ステーション」を導入して、昼間、太陽光発電による余剰電力をリーフに蓄電し、夜間、家庭の電力として使っています。
外部商用(系統)電力は、再生可能エネルギー由来の電力を供給する生活クラブエナジーと契約。自宅に設置した太陽光発電パネルによる自給自足に電力が足りなかった場合でも、飯田さんの自宅で使う、そしてリーフに充電する電気は100%再エネ由来ということになります。
10kWの太陽光発電で電力の約80%を自給自足
実際に、どれくらいの電力を自給できているのか。自宅が完成して太陽光発電を始めた2020年6月~8月のデータを見せていただきました。
買電量から売電量を引いて、外部商用電力会社から購入した正味の買電量は、6月が33kWhで家全体の電力消費のうち商用電源への依存度が14%、電力自給自足の割合を示す自立度は86%です。同様に、雨が多かった7月の正味買電量は200kWhで、依存度33%、自立度が67%。8月は月間で1000kWhを超える発電量があり、正味買電量は117kWh、依存度は13%で、自立度が87%となっています。
さすがに、オフグリッド(商用電源から独立して電力自給自足できる環境構築)は難しいものの、おおむね80%を超えるような電力自給が達成できているのは素晴らしいこと。飯田邸はオール電化住宅ですが、春から秋にかけての電気代は毎月5000~7000円程度。暖房を多く使う厳寒期には電気代が2~3万円になってしまうことがありますが、マイカーのガソリン代やガス代はかかっていないこともあり「年間で20万円程度は節約できているのではないかと思う」ということです。
太陽光発電パネルをはじめ、エネルギー自給自足のためのシステムに掛かったコストは、事前にマイカーとして所有していたリーフを除いて150万円程度ということですから、自宅で発電することによるエネルギーコストの節約分だけでも、8年ほどで元が取れる計算になります。
ただし、飯田さんが自宅にエネルギー自給自足のシステムを導入したのは、実際の電力自給自足生活がどんなものなのか、また、どのような課題があるのかを確かめる「実験」のため。場合によっては設備の入れ替えをする可能性があるため、行政の補助金などは一切使っていません。また、リーフを充電しても余った電力は生活クラブエナジーに9円/kWh程度で売ってはいますが、あくまでも「自給自足」優先なので、FITもやっていないそうです。
収支の損得勘定を優先するなら、補助金やFITを活用して、さらにお得な家庭用電力システムを構築することもできるでしょう。
飯田さんがご自宅を建てるのは今回が2軒目とのこと。以前の家も大手ハウスメーカーの高性能住宅に、スウェーデン製の木製サッシや、特注した薪ストーブを取り付けていたそうですが、今回の家では「高気密高断熱」の性能にこだわり、冷暖房器機に頼らなくても一年を通じて快適さを保てる「パッシブハウス」を実現することを目指しました。
ISEPで関係のある太陽光発電やパッシブデザインの専門設計者と構想を詰め、実際の施工は高気密高断熱住宅の実績が豊富な地元の工務店へ依頼。リビングとウッドデッキのテラスを仕切る大きな窓には、山形にある「アルス」というメーカーの断熱性が高い木製3層ガラスサッシを導入するなど、徹底的にこだわりました。完成したのが、断熱性能を示す「UA値」が0.42、気密性能を表す「C値」は0.22という高性能住宅です。
100年以上進化してない電気エネルギーを解き放て!
飯田さんはなぜ、自宅でエネルギー自給自足を実践することを目指したのか。その理由として、自らが翻訳を手掛けた一冊の本を示してくれました。
アメリカの実業家であるビル・ナッシー(Bill Nussey)という著者による『Freeing Energy』という本で、飯田さんの翻訳による書籍の邦題は『エネルギーを解き放つ』。アマゾンでペーパーバックが2778円、Kindle版なら1150円で発売されています。
端的にまとめると、飛行機や電話など生活に関連した技術と比べてみると、電力の仕組みはエジソンやテスラが切り拓いた100年以上前からほとんど進化していない。だからこそ、一気に変えられるポテンシャルがあるということです。
大規模な発電所で作った電気を遠くまで運ぶ中央集権的な方法ではなく、地域地域で発電した電力を「おすそわけ」する電力地産地消の仕組みを広げるためにも、個人宅でのエネルギー(電力)自給自足が重要になってくる。飯田さんは、自らの自宅でそれを実践しているのです。
開発担当者は自分でも使ってみて欲しい
実際に使ってみると、いくつか気付きもあったとのこと。
まず、V2Hシステムの効率の悪さです。先に挙げた自立度のグラフを見ると、EVへの充電量と放電量を比べた充放電比が、6月は65.4%、7月が57%、8月が62%と、おしなべて約60%でしかないことがわかります。つまり、ざっくり考えて充放電それぞれの過程で20%近い電力がロスされていることになります。
さらに、飯田邸に導入しているのはスマホの専用アプリで充放電設定などができるプレミアムモデルということですが「Wi-Fi接続で操作するこのアプリのユーザーインターフェースがなんとも使い辛い」とのこと。
また、家庭内の電気機器が消費する電力をユーザー自らが把握し、管理するためのシステムであるHEMS(Home Energy Management System/ヘムス)は、大手家電メーカー数社が独自にローンチしているものの、各メーカーでクローズドなシステムとなっているのがひとつの課題。飯田邸では、採用したかったダイキンのエアコンをHEMSに組み込むことが可能な「ミエルコ mini」という製品を導入しました。
省エネ&創エネのための最先端の仕組みを導入するのですから、ある程度実験的になったり、施主や設計者の工夫が必要なのはやむを得ないところではあるでしょう。でも、せっかくの技術がわかりにくかったり使い辛いのはいかがなものか。
飯田さんは「V2Hなどの機器を発売するメーカー開発者の方には、ぜひ自分でも使ってみて欲しい」と指摘します。とくに日本では電気自動車の付加価値としてV2Hがアピールされていますが、充放電の効率やアプリの使い勝手が悪いままでは、本格的な普及を妨げることにもなりかねません。
早い時期から孤軍奮闘状態でV2HやV2Lの機器を発売してくれているニチコンのチャレンジは応援しています。でも、たとえば日産がリーフを「走る蓄電池」と呼ぶのであれば、価格、性能、使い勝手ともに、本当にEVの「魅力のひとつ」になるよう、自動車メーカー自身がニチコンととともに機器の開発にもっと関与してくれるといいのにな、と感じてしまいます。
EVをクルマとして使いにくくなるのも発見だった
V2Hシステムではリーフに残す電力量を10〜90%で選択できるので、翌朝出かける予定がある際には、おおむね50〜60%を残して運用しているとのこと。とはいえ、晴天でどんどん発電している時には蓄電池であるリーフで出かけるのをためらうし、電力を自宅に供給している夜は「出かけるのがもったいない」と感じるなど、「EVをマイカーとして使いにくいメンタルになってしまう」のも、実際にシステムを運用してみて痛感したことだったそうです。このあたり、EVはEV、蓄電池は蓄電池として展開するテスラの方法が、やはりスマートなのかも知れません。
3月終わりの昼下がり、1時間ほどお邪魔しただけではありますが、飯田さんのご自宅は居心地のいい素敵な空間でした。家の新築や改築、再エネ設備の導入は大きなコストがかかることなので、誰もがすぐにでもできることではありません。でも、機会があれば、ぜひ自らいろいろ調べ、飯田邸に負けないエネルギー自給自足生活を目指す人が増えるといいなと願っています。
飯田さんによると、高性能住宅の設計やプランを固めた後、信頼して施工を任せられる工務店を探すのが最初のハードルだったとのこと。EVsmartブログでは、九州で「太陽光発電&EV&V2H」を組み合わせたスマートハウス開発へのチャレンジを続けるリフェコの事例を紹介したことがあります。個別の製品やシステム構成がまだ混沌としているだけに、合理的なプランを提案してきちんと施工できるようにすれば、工務店やハウスメーカーにも大きなビジネスチャンスが広がりそうな気がします。
私自身は、2004年に自宅を建て替えて数年前にローンを完済しましたが、もう大規模なチャレンジは、無理かなぁ。。。いや、頑張って2軒目の新築を目指したい! と日記には書いておきます。
(取材・文/寄本 好則)










