トヨタ新型『プリウスPHEV』試乗レポート/サーキットでのトルクフルな走りが印象的

トヨタが新型プリウスPHEVのジャーナリスト向け試乗会を開催。サーキットでの試乗となり、電動車ならではのトルクフルな走りが印象的だったという、モータージャーナリスト 諸星陽一氏のレポートをお届けします。

トヨタ新型『プリウスPHEV』試乗レポート/サーキットでのトルクフルな走りが印象的

PHEVモデルの発売は2023年3月頃を予定

1997年に登場したプリウスにプラグインハイブリッドが設定されたのは2009年のこと。ベースは1.8リットルエンジンを搭載する3代目で、車名はプリウスプラグインハイブリッド。リースのみという状況であった。このプリウスハイブリッドがトヨタ車として初めて駆動用リチウムイオン電池を採用したモデルとなった。2011年にプリウスがマイナーチェンジされたタイミングで車名をプリウスPHVに変更、一般販売が開始された。2012年の一部改良ではプリウスPHVにヴィークルパワーコネクターがオプション設定され、V2Hが可能になる。2017年にはプリウスPHVをフルモデルチェンジ。2代目に移行。2019年の一部改良で、それまで4名だった乗車定員を5名に改める。2022年11月、プリウスとプリウスPHVのフルモデルチェンジを発表。プリウスPHVはプリウスPHEVと車名が変更された。

HEVの新型プリウスについてはすでに発売が開始されているが、プリウスPHEVの発売は3月頃になると予定されている。今回のプリウスの試乗会ではHEVを一般道で試乗したが、プリウスPHEVについては袖ヶ浦フォレストレースウェイを3周のみという限られた試乗となった。試乗は新型を3ラップ、先代を3ラップというかたちである。

最初の1ラップはEVモードでの走行と決められた。ピットロードからコースに入る。アクセルを踏んでいくと、かなり力強さを感じる。トルクフルという言葉がまさにお似合いで、ボディがグイグイ引っ張っていかれる。袖ヶ浦フォレストレースウェイは、発表前の新車試乗などでよく使われるので走り慣れたコースだが、アイポイントの低いクルマに乗るのは久しぶり。いかに最近はSUV系が多いかを思い出す。それにしても、スラントしたフロントウインドウ越しにみるサーキットの風景はなんとも気持ちのいいものである。

1コーナーに向かってフル加速し、アクセルを離してインベタでコーナーを回る。後続車が来ていないことを確認しつつ、アウトへとプリウスPHEVを導きつつ加速を続ける。改めて加速感が強いことを感じる。下り気味のストレートの先にはキツいS字があるので、減速はキッチリ行いたい。アクセルを戻すと回生ブレーキが働き強い減速感を得られる。プリウスPHEVには回生量を調整する「回生ブースト」と呼ばれる機構がある。回生量を強い状態にして走り出したので、より力強い減速感を得られた。

回生ブーストの使い勝手を高めて欲しい

ところが、この「回生ブースト」は、ステリングスイッチを何度か操作して現れる、けっこう奥の階層に潜んでいる。試乗会場ではスタッフに手伝ってもらって設定画面に行き着いたが、今この場で設定しろと言われても簡単には行き着けないだろう。つまり「回生ブースト」は運転スタイルに合わせてあらかじめ決めるモードであって、パドルスイッチで回生量を選べるような機構ではないということになる。なぜ、こうなっているか? 聞き損なってしまったのだが、いずれ訪れる公道試乗会の場ではこの理由を確認するつもりだ。

サーキットでは「回生ブースト」を使うことで、アクセル操作による荷重移動を積極的に使うことができ、アクティブな走りが可能だ。大きく回り込んでいるコーナーではステアリング切れ角はそのままでアクセルをオンオフすることで、ラインを変えることができる。この感覚はレスポンスのいいレーシングカーのエンジンのようでもある。

まだプロトタイプであることもあって、最高速は80km/hまでと指定された。この速度まではあっという間で、プリウスPHEVの本領発揮とはいかない。全体的に静粛性は高く快適だが、タイヤからのノイズが気になるところ。EV走行ではエンジンノイズはなく、きれいに整流されたボディは風切り音も少ない。タイヤのノイズが目立つのも仕方ないところだろう。

最初の1ラップはメインストレートを走らずにピットイン。続いてハイブリッドモードでプリウスPHEVを走らせる。ハイブリッドモードでは、ピットアウトしてアクセルを強く踏むと割とすぐにエンジンが始動した。ゆっくりアクセルを戻すとエンジンは停止しEV走行となる。アクセルペダルをゆっくりと、そして浅めに踏み込むようにすればエンジンは始動せずにEV走行が可能だ。エンジンが動いているときのノイズも先代と比べるとかなり低くなっており、快適性は十分に向上している。

正確なEV走行可能距離は発表されていないが、従来型の50%以上に改良されているという。従来型が50~60kmだったので、75~90km以上にはなりそうである。毎日の通勤や通学、買い物などはエンジンを始動することなく使えるユーザー層がより厚くなったといえる。また、ソーラーパネルを装備することによって、1年間で1250km分の電気を充電可能としている。走行に可能な充電は停車中に行うもので、走行中は補機類専用となるとのこと。しかし、ソーラーパネルに充電するには露天に駐車する必要である。

新型プリウスPHEVの車両価格は「Z」のワングレード、2WDのみで460万円〜(税込)とアナウンスされている。補助金を活用しても400万円を超えるであろうクルマをカーポートもない露天に駐車するユーザーがどれだけいるか? には疑問が残る。ソーラーパネルは日本よりも、アメリカの西海岸などで効果を発揮するアイテムだと言える。

急速充電には非対応

従来、プリウスPHVにはCHAdeMO規格の急速充電に対応するポートが装備されていたが、今回のプリウスPHEVからは急速充電を廃止し、普通充電にのみ対応することになった。おしなべて充電対応出力が低いPHEVの急速充電器使用で充電待ちが増えてしまうことはBEVユーザーにとって悩ましいところだっただけに、今回のプリウスPHEVでの急速充電ポート廃止は、現状の日本の急速充電インフラを考えると賢明な選択であろう。そして、PHEVのあり方としても普通充電のみの対応で必要十分だと感じる。また、普通充電ポートにはビークルパワーコネクターを装着することで、V2L(AC100Vの出力)への対応が可能となっている。

今回はプロトタイプのサーキット試乗という、特殊な状況であった。プリウスPHEVは3月に発売が予定されているので、その後には生産モデルの一般道試乗があるはずである。その際には、また新たなレポートをお届けしたいと思う。

取材・文/諸星 陽一

この記事のコメント(新着順)5件

  1. 「おしなべて充電対応出力が低いPHEVの急速充電器使用で充電待ちが増えてしまうことはBEVユーザーにとって悩ましいところだっただけに、」とのことですが、実際急速充電がこみあっているのを見たことがなく、逆に急速充電できるのにあえて普通充電(追加料金がかからないので)をしているために 普通充電が込み合っているのをよく見ます。

  2. ディーラーで触って来ましたが、後方視界や見切りの悪さ、大きさの割に狭い室内と、プラグインハイブリッドの走り云々を語る前に、車としての基本性能に疑問符が付きました。
    いくらスタイリング優先と言ってもココまで実用性を斬り捨てて良い物なのか?
    実用性を確保した上で人目を引くデザインを実現するのがエンジニアやデザイナーの腕の見せ所だと思うのですが。

  3. 知りたいことが書かれていなくて残念。
    たとえばバッテリーの種類(パナのリチウムイオン電池だと思いますが)、容量、充電時間、6kW対応など。
    急速無しは6kW対応なら有りかと思いました。

  4. 初めてコメントさせて頂きます。
    新型プリウスのデザインはとてもカッコイイと思います。
    今のところ車を買う予定はないですが、この車(特にPHEV)は欲しいと思いました!
    最近のトヨタさんの戦略には賛否両論ありますが、今後もっとワクワクするようなBEV・PHEVを造ってくれることを期待して、これからも応援していきたいと思います!

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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