2026年5月20日から22日まで「Busworld Southeast Asia 2026」がインドネシア・ジャカルタの国際展示場にて開催された。インドネシアや東南アジアでも着実に進むEVバス普及について、印象的だったポイントを紹介する。
「右ハンドル市場」としての東南アジア
第4回「Busworld Southeast Asia 2026(バスワールド)」には9カ国から47社が出展し、41カ国から5,133人の来場登録を記録。展示車両は25台に達し、前回2024年開催時よりも出展規模・展示車両数ともに拡大した。次回開催は2028年5月を予定している。
Busworld Southeast Asiaは、ベルギーの「Busworld Europe」(関連記事)と交互開催となっており、ASEAN地域におけるバス産業の存在感向上を強く印象付けるイベントとなっていた。筆者にとっても、インドネシアは40カ国目の訪問となり、記念すべき取材となった。
インドネシアは日本と同じ左側通行、右ハンドルの国である。Busworld Europeでは左ハンドル車が大半を占めるため、「右ハンドル市場ではどのような車両が主流なのか」という点も今回の大きな関心事だった。
展示全体を通じて感じたのは、東南アジア市場において「快適性」と「乗客体験」が急速に重視され始めていることである。
会場では、航空機のビジネスクラスを思わせる高級シート、高品質な内装、そしてスリーパーコーチ(寝台バス)が大きな注目を集めていた。
特に長距離輸送では、通常座席と個室型スリーパーキャビンを分けた“複数クラス制”を導入する事業者が増えているという。まさに航空機や鉄道のようなサービス形態であり、鉄道網が乏しい東南アジア独自の進化を感じさせる。
また、日本でいう観光バスに相当するダブルデッカー(二階建て車両)も数多く見られた。
EVバスはまだ少数派だが確実に増加
今回展示されたEVバスは6台。Busworld Europeと比較すれば比率はまだ低いものの、全展示車両の約5分の1がEVであったことを考えると、ASEAN市場でも確実に電動化が進み始めていることが分かる。
その背景には、インドネシア政府が掲げる「2030年までにバスを100%EV化する」という目標がある。しかも右ハンドル市場である以上、中国製のみならず、今後はインドネシア製EVバスが日本市場へ入ってくる可能性も十分あると感じた。
実際、ジャカルタ市内では既に400台以上のEVバスが走行していると現地で聞いた。市内を移動していてもEVバスを頻繁に見かける。その要因になっているのが、世界最大級とも言われるBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)の存在である。このBRTはジャカルタ市内の慢性的な交通渋滞対策として発展してきた。
ジャカルタでは、市民の移動手段として鉄道以上にバスの存在感が大きい。専用レーンを持つ巨大BRT網が都市交通を支えているのである。
最大の注目はHYUNDAI製EVシャシー採用車
今回の展示で最も注目を集めていたのが、韓国HYUNDAI製EVシャシーを採用した12m級インターシティEVコーチであった。これまで中国製のシャシーを使っていた架装メーカーが採用したのである。
この車両は、インドネシアの人気サッカークラブ「ペルシージャ・ジャカルタ」に納入されるもので、同クラブは2026/2027シーズンからEVのチームバスを導入するインドネシア初のサッカークラブになるという。
ベースシャシーはHYUNDAI「ELEC CITY」、ボディ架装はインドネシアの大手ボディメーカー「LAKSANA」が担当した。
車両スペックは以下の通りである。
全長:約12m
定員:38席
バッテリー容量:290kWh
最大航続距離:約420km
都市間輸送向けでありながら、ベースシャシーは本来路線バス向けの「ELEC CITY」である点も興味深い。
今回、LAKSANAのテクニカルダイレクターであるStefan Arman氏に話を聞く機会があった。同氏によれば、ジャカルタの公共交通機関「TransJakarta」からは、現在年間100台以上のEVバス受注が継続的に入っているという。
TransJakartaは現在約5,200台のバスを保有しており、そのうち約80%近くがLAKSANA製ボディ車両とのことだった。さらに、2030年に向け、EVバス需要はさらに急拡大するとの見方を示していた。
「床が高い路線バス」という衝撃
今回、筆者が最も驚かされたのは、ジャカルタ特有とも言える「床の高い路線バス」の存在だった。日本ではノンステップバスが一般化しているが、ジャカルタのBRT用バスは、乗降口が地上から約1m近い高さに位置している。
最初は理由が理解できなかったが、現地で説明を受けて納得した。
BRTの停留所自体が鉄道駅のような高床プラットフォーム構造になっており、乗客はその高さからノンステップで乗降するのである。なぜ高床式になったのかについては諸説あるようだが、かつてジャカルタでは冠水被害が多かったためとも、低床技術が普及する以前の高床バス時代の名残とも言われている。
さらに興味深いのは、運転席が完全に独立空間になっている点である。ドライバーは専用ドアから数段の階段を上がって乗車し、客室とは隔離された構造となっている。
筆者はこれまでアジア各国でバスを見てきたが、このような構造は他国ではほとんど見たことがなく、インドネシア独自の進化形と言えるだろう。
日本市場にも影響を与える可能性
展示車両の中には、8m級のEVミニバスもあった。
この車両は台湾WINTRONE製シャシーを採用し、インドネシアで架装されたノンステップ仕様である。
さらに興味深かったのが、中国GOLDEN DRAGON製の16人乗りEVコミューターだ。正直なところ、日本のトヨタ・ハイエースによく似たデザインであり、会場でも強い存在感を放っていた。
右ハンドル仕様であるため、日本へそのまま導入されても一定の需要はありそうだが、一方であまりに「ハイエース的」であるため、別の意味でも注目を集めそうである。
ASEAN市場は既に2030年へ動き出している
今回のBusworld Southeast Asiaで感じたのは、インドネシアには既に独自進化した都市交通文化が存在しているということだ。
高床式BRTバス、豪華スリーパーコーチ、EVコミューターなど、日本にはないラインアップが既に市場として成立している。そして何より印象的だったのは、「2030年EV化」という数値目標に向け、市場全体が既に動き始めていることである。
日本でも、こうした具体的な数値目標と産業政策が必要なのではないか――そう感じさせられる展示会であった。
次回は、ジャカルタ市内で実際に見たEVバス運行や巨大BRTシステムについてレポートしたい。
取材・文/福田雅敏









