フォルクスワーゲン社の電動化戦略を急激に推進したディース氏が退任し、ブルーメ氏が新しくCEOとなりました。欧州の電気自動車シフトをリードしてきたVWGの電動化戦略はどうなるのでしょうか。全文翻訳記事でお届けします。
【元記事】Oliver Blume Takes Charge At Volkswagen Group by Steve Hanley on『CleanTechnica』
ディース氏が退任してブルーメ氏が新CEOに。
9月になってヘルベルト・ディース氏がフォルクスワーゲン・グループCEOを退任し、代わりにオリバー・ブルーメ氏がその役員室に入ることになりました。ブルーメ氏はポルシェブランドの会長職も引き続き務めます。
フォルクスワーゲンはプレスリリースで「フォルクスワーゲン・グループの役員は整理され、役割も再度振り分けられました。新しい取締役会会長のオリバー・ブルーメは、戦略、クオリティ、設計、ソフトウェア用子会社CARIADにフォーカスしていきます」と書いています。
監査役会会長のハンス・ディーター・ペッチュ氏は「近年、監査役会と取締役会はエレクトロモビリティとソフトウェアを前に進めるための戦略を立ててきました。そして今、新しい役員が計画を実行に移す時が来ました。そのために取締役会の煩雑さを縮小し、焦点をさらに絞っていきます。傑出した取締役会と外部実行委員の面々とともに、オリバー・ブルーメはフォルクスワーゲン・グループが改革への力強い挑戦をし続け、成功するように導いてくれるでしょう」と話しました。
ブルーメ氏は「グループ、ブランドグループ、ブランド同士の相互作用が、フォルクスワーゲン・グループ成功の鍵です。各ブランドはさらなるビジネス的な責任を負うことになります。グループは対象を明確にし、オペレーションの支えを確立して、プラットフォームやテクノロジーにシナジーを与えられるようにします。内部では、ブランドグループがマネージメントの複雑さを意識的に減らすようにします」と話しました。
裏で何が起きていたか
それが何を意味するにせよ、大企業は常に工程を効率化し、責任の所在を移し、シナジーを探しています。しかし結果として、ディース氏はディーゼル不正事件に端を発した混乱からフォルクスワーゲンを脱却させ、電気自動車の未来に進ませるという自らのミッションのために、多くの反発を招いてしまいました。彼の転落はフォルクスワーゲン従業員の不安に適切な注意を傾けなかったところから始まり、彼のマネージメント法が多くの人の神経を逆なでした事により加速していきました。
最大の問題が、彼の輝かしいキャリアの礎がソフトウェアだったことです。ディース氏はフォルクスワーゲンが自身のソフトウェア部門を運用できると主張し、そのためだけに子会社のCARIADを創設しましたが、その結果は芳しくありませんでした。2019年11月にID.3の生産が始まった際、ソフトウェアのプラットフォームが完成していなかったため、車は運転できるものではありませんでした。
それ以降もソフトウェアには常に問題がつきまとい、社が必死に解決しようとする一方で、車のオーナーは地域のディーラーに行き、技術者が新しいアップデートを物理的にインストールするのを待合室で待たなければならないという状況がたびたび起こりました。多くのオーナーは不愉快に思い、苦情の波が組織のトップにまで押し寄せたのです。
突き詰めていくと、責められるべきはテスラです。最初の車で無線アップデートを世に出し、そのほとんどが完璧に動いています。違いはテスラが車を作るテクノロジー会社であったのに対し、フォルクスワーゲンは車をまず作ってソフトウェアを後から突っ込んだということです。ディース氏はテスラがやるように、外部のサプライヤーに頼ることなくソフトウェア開発の少なくとも60%を社内でやりたがっていました。
Handelsblatt紙によると、すぐに手に取れるシステムがそこにあるならば、屋台骨から作る必要は無いとの理論から、ブルーメ氏はContinentalやBoschなどとのパートナーシップにかなりオープンでいます。また業界筋によると、これらの企業は車のソフトウェアとハードウェアのインターフェースとなる、ミドルウェアと呼ばれるものを開発することになるそうです。
明日に架ける橋
オリバー・ブルーメ氏は、より企業人らしいと見られています。彼は成人してからの時間のほとんどをフォルクスワーゲンと共に過ごし、のちにポルシェ・タイカンになったミッション-E 電気コンセプトカーの陣頭指揮を執りました。ディース氏はBMWから移籍した外部の人間だったせいで、特にフォルクスワーゲンに忠実だったにも関わらず軽視されたと感じた人を含め、社内に緊張が生まれてしまいました。ディース氏が独裁的だと評された一方で、ブルーメ氏は広大なフォルクスワーゲン・グループの様々な部署における協力と調和により重きを置く人物だと考えられています。
ブルーメ氏はまた合成燃料も支持しており、参加車両すべてが合成燃料で動くエンジンを使わなければならなくなる2026年のFormula 1で、ポルシェがレッドブルチームにパワートレインを提供する理由がそこにありそうです。
ブルーメ氏が合成燃料を推していることを電動化から退避するサインだと見る人もいるかもしれません。しかしグループCEOとしての初日に経営幹部との会議で彼は「私はe-モビリティのファンで、その道を支持します。現在のペースを維持し、可能であればさらに加速します」と話しました。また合成燃料はポルシェには向いているかもしれないが、フォルクスワーゲン・グループ内の他のブランドも同じようにするわけではない、とも付け加えています。
フォルクスワーゲンに最適なリズムを見つける
Autoblogによると上記のミーティングで、ブルーメ氏はチームワークと協力に多く言及したプレゼンテーションを行いました。安定した変化を起こすために、クリアな戦略を通じてしっかり定義された最適なリズムを見つける必要があると強調したのです。ソースによると先のCEOが戦略を急進的に推し進め、まったく妥協しないアプローチで社の強力な労組を怒らせたことで知られるのに対し、ブルーメ氏はより冷静で意見を聞くリーダーであったというのも選ばれた理由でした。
ディース氏はイーロン・マスク氏を崇拝しており、彼らのマネージメントスタイルも似ていると言えるでしょう。フォルクスワーゲンのドンとしてのディース氏を破滅に追いやった決定的な出来事はないのですが、昨年Zoomを通じて経営幹部会議にマスク氏を招待したことは内部の人間から侮辱的だと捉えられ、それから彼に対する批判的な言説は増えました。その後ディース氏の環境は坂道を転がるように悪化しました。
フォルクスワーゲンは2025年までに電気自動車メーカーとしてテスラを抜く目標を掲げています。同社は自動車の大量生産を熟知しており、そこに疑いの余地はありませんが、根源的にはホイールにコンピューターが乗っている車を作る事に関しては、テスラほどは分かっていません。オリバー・ブルーメ氏は協力者、会社人間、そしてディース氏よりも気さくですが、今の新しいポジションに長く留まりたいのならば、この問題を解決する必要があります。
(翻訳・文/杉田 明子)



