舘内端氏のアウディe-tron 試乗インプレッション~エンジンでは到達できなかった究極の自動車

日本におけるEV普及のパイオニアである自動車評論家の舘内端氏と、アウディe-tron スポーツバック55クアトロに試乗してきました。舘内さんの評価は「エンジンでは到達できなかった自動車の究極の姿を具現化している」という言葉に集約できます。

日本における電気自動車普及のパイオニア

2014年の著書『トヨタの危機』(宝島社)で、舘内さんはハイブリッド車と燃料電池車に重点を置き電気自動車開発を「封印」しているかのように見えていたトヨタや日本の自動車産業に警鐘を鳴らしています。

「もしハイブリッド車が神通力を失ったら……。トヨタは、どこへ行くのだろうか。すべての自動車を燃料電池車に置き換えるのだろうか。それとも……。(中略)日本一、いや世界一の自動車メーカーの行く末である。世界一の自動車メーカーの行く末は、世界の自動車の行く末でもある。21世紀に自動車はどこへ行くのか。それは私たちにとって重大な問題であり、関心ごとでもある。私たちは自動車を失うわけにはいかないのだ」

舘内端さんは日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を1980年の第1回から務めてきた(現在は評議委員)自動車評論家の重鎮です。もともとレーシングカーのエンジニアで、1977年に開催されたF1日本グランプリでは高橋国光さんのマシンのチーフ・エンジニアだったほどのエンジン好き、レーシングカー大好きな方なのですが、環境問題が深刻化する中で自動車とレースの未来に危機感を抱き、1994年に電気自動車普及を推進する市民団体である日本EVクラブを設立。一般社団法人となった現在も、代表理事として精力的に多彩なイベントなどを発想&実現しています。

私が舘内さんと深く関わるようになったのは、1994年9月、週刊SPA! のライターとして『電気自動車がル・マンを走る日~EVの夢が見えてきた』をいう記事でインタビューしたのがきっかけでした。当時、舘内さんは愛車のジャガーXJ-Sを売却して『電友1号』という電気フォーミュラーカーを製作、アメリカのフェニックスで開催された電気自動車レースに参戦したばかり。SPA! では、4つのモーターで800馬力、給油よりも速い電池交換システムを搭載して「電気自動車でル・マン24時間レースに勝つ!」という舘内さんの先駆的なプランを記事にしたのです。

以来、日本EVクラブ設立当初から私も活動に協力するようになり、電気自動車の魅力に惹きつけられていったという次第。先日、EVsmartブログでも紹介した『ジャパンEVフェスティバル』は、2020年で26回目となりました。

いわば、舘内さんは私にとって電気自動車に関する、いや、物書きとして人生の師匠ともいえる人。最近、個別車種の評論は封印していると伺ってはいたのですが、アウディが満を持して日本に導入した『e-tron』を舘内さんがどう評価するのか聞いてみたい! と、箱根で開催された試乗会に同行。インプレッションをインタビューしたのが、今回の記事となります。

高級車というのはでかくて重いクルマのことだ

試乗会は御殿場側から箱根に上る途中、乙女峠の『FUJIMI CAFE』という眺望抜群でオシャレなカフェを貸し切って開催されました。試乗時間は約1時間。芦ノ湖スカイラインの三国峠までのワインディングを往復で駆け抜けるドライブでした。

どうでした? インプレッションを確認する質問に対する舘内さんの最初の答えは「一番上のクラスから出してきたね」という言葉でした。以下、e-tron に乗って舘内さんが何を感じたのか。東京への帰途、車中で話した内容のポイントを紹介します。

アウディe-tron スポーツバック55クアトロは、実際に見ると写真で見て想像していたよりも大きいことが印象的だった。実際にハンドルを握って感じたのは、大きくて高級なモデルだからこそ、思う存分理想を込めたEVに仕上がっているということだ。
今は亡き徳大寺有恒さんが言っていたけど、高級車というのは、でかくて重いクルマのことなんだよ。エンジン車でも高級車は大排気量のエンジンを搭載した重い自動車になる。エンジン車の場合はその重さを払拭するためにいろんな無駄が積み重ねられていく。でも、e-tron はでかくて重いけど無駄がない。
つまり、高級車のセオリー通りに作ったら、エンジンの高級車を凌駕してしまったということだ。このクルマは、エンジン車では到達できなかった自動車の究極の姿を具現化している。

電池の重さはEVの弱点ともいえますが、EVを想定したプラットフォームを開発して洗練することで、低重心で安定した走りや、信頼感の高いハンドリング性能といった「高級車」の要素を具現化する強みにもなる。これは、自動車評論には素人である私ですら、峠道を少し走っただけで実感できたことでした。同様の印象は、ポルシェタイカンを走らせた時にも痛感しました。

アウディやポルシェといったドイツメーカーが「本気で電気自動車を作るとこうなるのか」という驚きです。言葉で表現するのはとても難しいのですが、静粛性や振動の少なさといった電気自動車ならではのメリットに、長年のクルマ作りで培ってきた剛性感や操作への反応といった要素が絡み合い、圧倒的な「気持ちよさ」を実現しています。

これは、電気自動車で世界をリードするテスラにもまだ実現できていない、究極のクルマ作りの伝統をもつ自動車メーカーだからこそ到達できた「究極の姿」であるといえます。

まず、自動車メーカーとして電気自動車をどう位置付けるのか。「エンジン車では到達できなかった自動車の究極の姿を具現化」するために「一番上のクラスから出してきた」アウディの選択は、とても賢明な判断といえるでしょう。

いよいよ本当に、電気自動車時代がやってくる

欧州、ことにドイツの自動車メーカーが相次いで電気自動車のフラッグシップを揃えたことで、2020年は世界の「電気自動車時代元年」になったと評することができます。1994年の日本EVクラブ設立以来、何度も「電気自動車時代が来るぞぉ」と叫び続けてきた舘内さん&私たちEVクラブメンバーですが、いよいよ本当に、電気自動車の時代がやってくるのです。

今回日本に導入されたアウディe-tron スポーツバック55クアトロ、試乗したモデルの車両本体価格は1346万円。ポルシェタイカンもエントリーモデルで約1500万円~という高級車です。

でも、同じグループであるフォルクスワーゲンは、Cセグメント『ID.3』やコンパクトSUVの『ID.4』を投入、Bセグメントの『ID.1』も数年のうちに発売するとされています。上級モデルで具現化した「自動車としての究極の姿」を、安価な普及車種に広げていこうとしているのです。

大衆車として魅力的な電気自動車を作るためには、電池生産や調達方法の確保、求められる性能と提供する性能や機能のパッケージングなど、一朝一夕では実現できない準備やノウハウの蓄積が不可欠でしょう。

「もしハイブリッド車が神通力を失ったら……」という、冒頭で紹介した舘内さんの危惧は、いよいよ日本の自動車産業にとって深刻な課題になりつつあると考えるしかありません。

2021年、日本にも「電気自動車時代の夜明け」が訪れることを願っています。

(取材・文/寄本 好則)