FCVと1カ月生活記【第1回】静かなる燃料電池まつりが始まった

自動車評論家の塩見智さんが「燃料電池車はEV所有を望む集合住宅民希望の星か!?」をテーマに、ホンダ『クラリティFUEL CELL』と1カ月をともにした生活レポートを短期集中連載でお届けします。第1回は「なぜ今、燃料電池車を取り上げるのか」を説明します。

FCVはEV所有を望む集合住宅民希望の星か!?

私の自宅は集合住宅で、新しい物件でもないため、住民用駐車場に充電設備がない。加えて自宅をベースに働くフリーランスであり勤務先もない。そのためEV(電気自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)といった外部充電可能なクルマをメインに乗る意味がないとまでは言わないが、旨味を味わうこと、真価を発揮させることができない。EVsmartブログに参加してあれこれ書く機会をいただきながら、そういう環境にとどまっていることに気後れしている。

いや行動はしたのだ。駐車場を大規模修繕することになった際、いくつかの区画に普通充電設備を付けてはどうかと。実現したらモデル3を買うぞ! と、EVスマートライフを夢想した。けれども自治会に時期尚早とのことで却下された。

その事情もわかる。なにしろEV乗用車の保有率は2018年で約10万6000台だ。PHEVが約12万2000台。合わせて23万台弱。乗用車全体の保有台数はざっと6000万台だから、EV/PHEV率は0.4%に過ぎない。当然販売比率はもっとずっと高いので、今後は保有率も上昇するだろうが、現状EV/PHEVはまだまだ特殊なクルマだ。

この仕事をしていると最新のクルマに触れる機会が多い。EV/PHEVでモーター駆動の静かでスムーズで力強いフィーリングを味わうたび、自分もモーター駆動のクルマを所有したいと思ってきた。しかしそのためには住環境を変えるしかない……待てよ。あれがあるじゃないか! 充電しなくてもモーター駆動の魅力を存分に味わうことができるカテゴリーが。

というわけで、この夏のひと月の間、燃料電池車(以下、FCV)と過ごした。ホンダ『クラリティFUEL CELL(以下、FC)』。単に外部充電なしでモーター駆動を味わうということなら、日産のe-power各モデルやBMW i3レンジエクステンダーなどのシリーズハイブリッド車でも可能だが、EV/PHEVに並ぶ次世代感を味わうならFCVしかない。幸い自宅から1km未満のところに水素ステーションがある。FCVこそ次世代車を求める集合住宅民のソリューション! かどうかを確かめた。何回かにわたってリポートしたい。

燃料電池車も着々と広がっている

クラリティFCは2016年3月に発売された。2014年に世界最初の量産燃料電池乗用車として登場したライバルのトヨタ・ミライが4人乗りなのに対し、スタックを小型化してフロント部分にまとめ、大小ふたつに分割した水素タンクの形状を工夫することで、5人乗りを実現したのがトピックだった。

ただし当初は官公庁や企業向けのリース販売のみだった。生産可能台数や水素インフラの整備状況などを考慮したとのこと。今年6月、ようやく個人ユーザー向けにリース販売が始まったのを受け、借り出して試すことにした。

第一印象を伝えると、挙動はEVそのものだ。FCVはFCEVのことなので、燃料電池車も電気自動車の一種である以上、正確には“そのもの”という表現自体おかしいのだが、走行中の振る舞い、すなわち加速フィーリングや静かさもがバッテリーEVと変わらない。

自宅で充電できなくてもこれが手に入るのか。乗り始めて数時間、希望に満ちあふれてうれしくなった。しかし何日間も乗り続けると、燃料電池の不満な点、不安な点、解決してほしい課題も見えてきた。次回以降、それをお伝えしたい。

折しも昨秋の東京モーターショーで新型の姿や基本情報が発表されたミライが年内にモデルチェンジする(東京オリンピック2020やその関連イベントで大々的にプロモーションされるはずだった)。同じように昨秋発表されたメルセデス・ベンツGLC F-CELLの日本でのリース販売も、このほどそのデリバリーが始まったばかり。2020〜2021年、実は静かなる燃料電池乗用車まつりが始まっている。

【短期集中連載インデックス(予定)】

第1回●静かなる燃料電池まつりが始まった(2020年9月8日)

第2回●岐阜=東京往復レポート(2020年9月20日)

第3回●水素ステーションの現状

第4回●まとめ

(取材・文/塩見 智)