メルセデス・ベンツから7月に日本発売された7人乗り電気自動車の『EQB』で、東京=兵庫をロングドライブ。復路では、兵庫から東京までの約600kmを途中の急速充電1回で走りきるプランを試してみました。結果は「惜敗」。急速充電2回で到着となりました。90kW器の拡充がニッポンの急務です。
東京まで充電1回で届くじゃん!
メルセデス・ベンツ『EQB』の長距離実走レポート。8月13日にお届けした往路編の速報レポートでは、昨年同じコースを同じ急速充電回数で走ったEQAと比較しても、素晴らしい電費を記録。56%のSOCを残して余裕で走破できたことをお伝えしました。メーター読みで601kmのルート全体での電費は約6.55km/kWh。EQBが搭載する駆動用バッテリー容量は66.5kWhなので、電費を6.5km/kWhとして、満充電からの航続距離は約432kmということになります。
昨年、EQAによる兵庫から東京への復路は、郷里〜名神草津PA(約188km)、さらに新東名遠州森町PA(約210km)と繋ぎ、90kW2本出し器を独り占めして2回の急速充電で、24%のSOCを残して東京ICまで、余裕で走りきることができました。
でも、先日レポートしたように今年のEQBはさらに電費が向上(約25%も!)しています。郷里から、新東名遠州森町PA(上り線)までの距離は約400kmです。往路の電費で考えると、ざっくり10〜20%くらいの電気を残して一発で走りきれるはず。これで、遠州森町の90kW2本出し器を単独使用で30分間の急速充電を行えば、QC1回で、20%程度は余裕を残して約600kmを走破できるはずです。
さらに、いつもは渋滞を避けて夜中に走ってばかりでしたが、EQBの運転支援機能は秀逸だし、お盆時期の急速充電器事情を実際に確かめてみたい思いもあったので、郷里を朝9時頃に出発。2〜3時間の渋滞を勘案して19〜20時くらいに東京の自宅へ帰着するプランで走ってみることにしました。
単独使用でフル出力充電できたのは10分だけ
結果は、残念ながらQC1回での走破を達成することはできませんでした。理由は、遠州森町PAの90kW2本出し器を単独使用できたのが最初の10分だけだったこと。SOC17%から充電を開始。トイレに行ってアイスコーヒーを買い、様子を確認するために充電器へ戻るところで、もうひとつのEV充電用区画にBMW iX3が入ってくるのが見えました。
実は、私が充電を始めようとした時、隣接の充電用区画に普通のプリウスが駐車しようとしたので「そこに停められると次のEVが充電できなくて困るんですよ」とお声がけして移動してもらいました。「あのプリウスが停まっていればもう少し独り占めできたのに」なんてのは冗談ですが、「あ、これでもうQC1回は無理かなぁ」と、少々残念な気持ちを感じつつ。
単独使用時に72kW出ていた出力は、2台同時充電となったことで39kWに低下。30分間での充電電力量は25.1kWh。SOCは51%までしか回復しませんでした。仮に30分間単独使用できていたら、38kWh程度の充電量で、SOCは70%強まで回復できたはず。そうすれば、10〜20%の余力を残して自宅に帰着できた、はずなのですが。
まあ、これも今の日本の電気自動車事情の現実です。御殿場から先は大渋滞の交通情報が出てましたし、足りないのはおそらく最後の20km分程度。ルート上の静岡SAから海老名SAまでのどこかで、15分くらい充電すればOKだろうとプランを変更。iX3のご家族連れに会釈して、再出発したのでした。
少しお話ししたところ、iX3のご家族は島根県松江市から東京へ戻る途中とのこと。SOCは40%くらいからの充電開始だったようですが、「90kW器独り占めなら東京までの電力を充電できたのに」という状況は私と同じ(届いたとしてもギリギリ)だったことでしょう。つまり、この充電器が2本出しというちょっと頼りないシステムであるために、2台の大容量EVが東京へ辿り着くために、さらにもう1回、どこかで急速充電しなくちゃいけなくなったということでもあります。
お盆渋滞の洗礼は各SAPAの急速充電器でも……
大容量バッテリーの余裕で充電場所は選べるし、まあ、問題ないだろうと思っていたのですが。結局、御殿場IC過ぎから横浜ICあたりまでどっぷり巻き込まれた渋滞(事故渋滞が重なりひどくなったようです)とともに、各スポットに設置台数が少ない充電渋滞の洗礼を受けることになってしまいました。
まず、せっかくなら50kW器で充電するのがいいかなと、遠州森町を出発する前に、ジャパンチャージネットワーク(JCN)が提供している「高速充電なび」で確認。すぐ次の静岡SAは使用中だったものの、空いていた清水PAに入ってみたら……。3分前にアウトランダーPHEVが充電を始めたばかりでした。こりゃダメだ、と清水はスルー。
さらに、ちょうど私が清水PAを出る直前に充電が開始された、つまり、私が到着する頃には充電が終了するという情報が得られた駿河湾沼津SA(上り)に到着してみると……。テスラ モデル3がちょうど充電を終えるところだったのですが、隣りの区画でもう1台のモデル3が充電待ちをしていました。で、諦めてスルー。
御殿場あたりから渋滞が始まり、トイレにも行っておきたかったので足柄SAに入ってみました。ここには2台の急速充電器があり、2台はともに使用中。先に充電を始めた充電器の待機スペースにアウトランダーPHEVが待っていました。もう1台の待機スペースが空いていたので、ともあれEQBを入れてトイレに行って。充電器を確認すると、1台は残り5分、私が待機スペースに入れた1台は残り7分くらいだったので、ここで充電していくことに決定。
充電前のSOCは18%。残り航続距離表示は84km。足柄SA上り線の急速充電器は最大40kWです。開始直後の充電器表示では「361V×92A=約33.2kW」、車両側の表示でも「33kW」で約20分間充電。SOC36%まで、充電器表示で12.7kWhを補給して、東京を目指したのでした。
さらに鮎沢PA(ここも50kW器)と海老名SA(ここには90kW器1台と40kW2台の計3台設置)の状況を確認してみようかとも思ったのですが、この区間は大渋滞中で、それぞれのSAPA入口にもたくさんのクルマが行列していたのでスルーしました。
東京都世田谷区の自宅に到着したのは20時30分頃。京都あたりで10km程度、東名で20km以上の渋滞を経て、11時間ほどのドライブとなりました。
到着時のSOCは21%です。遠州森町PAで2台同時使用となったために充電できなかったと思われる約13kWhを、足柄SAでの注ぎ足し充電(12.7kWh)で補充したので、もし、遠州森町PAの90kW2本出し器で30分間単独使用できていれば、急速充電1回で、およそ20%の余裕を残して兵庫→東京を走破できた、と考えることができます。
【復路の急速充電データ】
スタート●兵庫県養父市
SOC/100%
↓ 約398km
QC1回目●新東名 遠州森町PA(最大90kW2本出し)
充電時間/30分(10分間1台のみ以降20分間は2台で充電)
充電電力量/25.1kWh
SOC/17%→51%
↓ 約128km
QC2回目●東名 足柄SA(最大40kW)
充電時間/約22分
充電電力量/12.7kWh
SOC/18%→36%
↓ 約85km
ゴール●東京都世田谷区
SOC/21%
ちなみに、渋滞もあってややのんびり走った復路。メーター表示の平均電費は6.9km/kWhと良好でした。
(充電データのSOCなどで計算すると往路とほぼ同じ6.52km/kWh程度でしたけど)
くどいけど、90kW器の複数台設置は急務です
先日の往路編をはじめ、いろんな記事で繰り返していることなのでくどいですけど、日本の高速道路網、すべてのSAPAに90kW器の複数台設置を進めることが急務です。
「50kWで十分」というのは、初代リーフ時代の思い込みに過ぎません。今回、遠州森町でEQBとiX3が並んだように、高出力急速充電対応の車種はどんどん増えています。かといって「150kW以上の超高出力器を増やせ」とは言いません。大容量の高出力対応EVであっても、バッテリー保護などの理由から100kWを超える高出力で充電可能な時間はさほどではないですし、90kWで30分フルに充電できれば、おおむね200〜250kmを走行する電力を補給できます。
なので、「90kWをシェアする」という考えに基づいた、今回使用した遠州森町などの「ダイナミックコントロール」や、大黒PA新型器のような「ブーストモード」は、充電インフラのポテンシャルを下げる機能とさえいえます。「高速道路網の急速充電器は、デフォルトを90kWとするべき」というのが、本格的なEV時代到来を願う私の思いです。道の駅などを中心に、一般道にも計画的に有効な90kW基準の急速充電インフラを整えることも必要でしょう。
初期コストや維持費(電気代)の関係で、EVの急速充電が儲かりにくいサービスであることは承知しています。したがって、民間企業である e-Mobirity Power だけに理想的な充電インフラ構築の責任や負担を強いるのは難しいとも思います。充電インフラの設置と維持に必要なコストを透明化して、EVを販売する自動車メーカーがきちんと自社EVの性能を活かすために理想的なインフラのあり方を提言し、合理的にコストを負担できる仕組みを構築することが必要になってきているのではないでしょうか。また、政策として充電インフラの理想像をきちんと示し、そのための税金を創設してEVユーザーが負担するような仕組みが必要なのかも知れません。
なんにせよ、本格的なEV時代を迎えるために、ことに日本の高速道路網の急速充電インフラが脆弱過ぎる現実を、改めて認識する長距離実走となったのでした。
メルセデス・ベンツの電気自動車という価値を実感
今回のEQB長距離試乗。往路編を含めて電費や経路充電のことを中心にレポートしてきましたが、最後に、EQBに感じた「自動車」としての完成度についてのインプレッションに触れておきたいと思います。
まず、広報車を借りてすぐに実感できたのが、段差や路面の変化に応じた乗り心地の上質さと安心感の高さです。「エンジン車から乗り替えても違和感がなく」と説明されてもいますけど、エンジン車と比較してどうこうではなく、「メルセデス・ベンツが電気自動車を作るとこうなるんだ」と納得できるEVに仕上がっています。
そもそも、エンジン車はエンジンの振動や騒音を抑え排ガスをクリーンにするための進化を遂げてきました。メルセデス・ベンツの高級車はより上質な静粛性を追求してきたのでしょうが、それがEVになった瞬間にエンジン車ではあり得なかった静粛性や振動の少なさを実現できます。そこからさらに「ベンツならでは」の上質さを加えた乗り心地が、EQBで、さらにはEQCやEQAで具現化されているのです。
「D-」「D」「D+」という回生ブレーキ3段階のパドルシフトは、電気自動車としての特性を活用して操る楽しさを提供しつつ、使い勝手もシンプルです。「D+」ではコースティングとなるので、高速道路走行時など、効率よく走りたいというEV運転の上級者にも満足感が高い操作が可能でしょう。完全停止までするワンペダルドライブのモードは備えていませんが、そのあたりは「ワンペダルドライブは本当に必要ですか?」というベンツからの提案とも受け取れます。
今回、私はあまり使いませんでしたが、回生ブレーキの強さを状況に応じて調整してくれる「D AUTO」モードは、普段、あまり細かいことは気にせず電気自動車ならではの走りの気持ちよさを効率良く楽しみたいという方には便利だと思います。
また、今回の長距離試乗は高速道路をひた走る時間が長かったので、アクティブディスタンスアシスト・ディストロニック (自動再発進機能付 ※いわゆるACC機能)や、アクティブステアリングアシストといった安全運転支援システムをたっぷりと活用しました。停止して30秒以内なら自動で再発進してくれるACCの機能は、ことに復路の大渋滞でとてもありがたく、京都周辺と御殿場以降、合わせて40kmほどの断続渋滞もそれほど苦痛には感じませんでした。
さらに、全体として安心感が高く、とても完成度の高い運転支援システムなのですが、たとえば、テスラのオートパイロットや日産のプロパイロット2.0を使っているときの「自動運転を使いこなしたい」という感覚ではなく、あくまでも「安全運転支援」なんだと感じながらストレスが少ない運転を楽しむことができる印象でした。言葉で説明するのは難しいところもあるのですが、たとえばステアリングアシストが介入する際のステアリングの振動やアシスト動作などに急激さが少なく、ジェントルな印象を受けました。言うなれば「運転はちゃんとドライバーがやるんだよ」と諭されている感じ。先進の運転支援機能とドライバーとの関係について、メルセデス・ベンツの姿勢とか哲学を提示されているような思いまで感じつつ、往復1200km余りのドライブを楽しむことができました。
7人乗りSUVだけに外観デザインはどちらかというとミニバン的などってり感がありますが、前後ともに横一直線に輝くLEDライトのアクセントや、EVならではのオーバーハングの短いレイアウト(つまり室内空間の広さ)、このフォルムにして最少で0.28という優れたCD値を実現するなど、オーナーとなれば満足感を得られるポイントには事欠きません。
今回試乗した「EQB 250」の価格は788万円(税込)〜。前後にモーターを搭載した全輪駆動の「EQB 350 4MATIC」は870万円(税込)〜。日産 アリアやヒョンデ IONIQ 5といったEVもそれぞれに魅力的な高級EVではありますが、EQBにたっぷり乗って「さすがベンツ」という上質さを実感することができました。もうすぐ、さらに上級車種となる『EQE』や『EQS』も日本に導入されるはず。メルセデス・ベンツがどんな高級EVの世界を見せてくれるのか、ますます楽しみになりました。
(取材・文/寄本 好則)










