トヨタ自動車の『第2四半期決算説明会』に豊田章男社長が出席。質疑応答でテスラを評した発言について、アメリカの『CleanTechnica』が「トヨタの社長はテスラとその使命を理解していない」と指摘しています。どういうことか? 電気自動車ユーザーの視点で整理してみます。
中間決算への社長出席は「異例」のこと
2020年11月6日、トヨタ自動車株式会社の『2021年3月期 第2四半期決算説明会』が開催されて、第2部の「社長スピーチおよび質疑」に豊田章男社長が出席しました。
スピーチの内容は、香川編集長でおなじみの『トヨタイムズ』でも『速報 トヨタ中間決算 異例の社長出席』という記事で報じられています。自社メディアでありながら「異例の」という外から見た風タイトルにできるあたりが、トヨタイムズのメリットなんでしょうね。あと、「トヨタイムズ」とタイプしてみて、このメディア名はトヨタを語る時にしばしば言われる「トヨタイズム」と掛けてるのか? と今さらながらに気が付きました。
トヨタ社長がテスラに言及したのは、自らのスピーチではなく、質疑応答の中でした。YouTubeの「トヨタ自動車株式会社」チャンネルに動画が公開されています。
2021年3月期 第2四半期決算説明会 Ⅱ部(社長スピーチおよび質疑)( YouTube)
32分あたりから、日刊工業新聞記者の長塚崇寛さんからの「テスラの躍進をどう見ているか、またトヨタの電動化戦略は?」という質問に答えて、豊田社長がテスラへの評価を語っています。
まず、その発言内容を簡潔にまとめておきます。
**●テスラの時価総額は約40兆円。トヨタをはじめ日系7社を合計した時価総額でも約33兆円で、テスラが大きな企業価値を生み出している。
●再エネやCO2削減についての取組にも学ぶべき点は多々ある。
●トヨタも環境課題やCASE対応には先行投資を続けている。トヨタの株価の動きが他の自動車セグメントとは違うのは、リアルな会社のなかでは(そうした対応が)突出している点が評価されているのではないか。
●われわれにあってテスラにないもの。それは1億台を超える保有の母体。リアルの世界。
●言葉を選ばずに言わせていただくと、テスラのビジネスはキッチンやシェフがまだできていない中で、レシピをトレードし「うちのレシピが将来は世界のスタンダードになるよ」という点が評価されている。
●(トヨタには)キッチンがありシェフがいて、料理を食べていただく口うるさいお客様もいる。
●(電動化についても)いろいろなメニューをもっているわれわれが選ばれるのではないか。
●電動化フルラインアップメーカーとして、選ばれる意味ではテスラより一歩先に行っているのではないかと思っている。
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Toyota’s President Clearly Doesn’t Understand Tesla.
この発言に対して、EVsmartブログで翻訳記事を紹介しているアメリカのメディア『CleanTechnica』が、『Toyota’s President Clearly Doesn’t Understand Tesla, Its Mission, Or The Restaurant Industry』、つまり「トヨタの社長はテスラとその使命、あるいはレストラン業界を理解していない」と題した記事(11月8日公開)で批判しています。
当初は翻訳記事でご紹介しようかとも考えたのですが、この話題には、日本にとってとても大事なことが示唆されているように思えたので、独自の視点で整理してみることにしました。
『CleanTechnica』の記事の主旨もまとめておきましょう。
**●死にゆく産業と繁栄する産業を比較するのは馬鹿げている。
●死にゆく産業とは、化石燃料に頼った、つまりトヨタのような会社。
●テスラがトヨタのような会社を目指しているなら豊田社長の比喩も理に適っているかも知れないが、テスラはトヨタと同じ価値観や目標はもっていない。
●トヨタの使命は「未来のモビリティ社会をリードし、人々を動かす最も安全で最も責任のある方法で世界中の生活を豊かにする」こと。
●テスラの使命は「持続可能なエネルギーへの世界の移行を加速する」こと。
●トヨタは伝統的な自動車会社だが、 テスラはそうではない。
●テスラはレシピをトレードしているのではなく、持続可能性を強化することを目的として、食事プラン全体を再設計している。**
豊田社長がトヨタとテスラの比較をレストランに喩えたことを受けて、テスラは「食事のあり方そのものを再設計している」のだから、自分の物差しで「われわれが一歩先を行っている」というのは非論理的だ、という指摘です。
テスラは「伝統的な自動車メーカー」ではない
電気自動車普及がままならぬ日本では、多くの方にとってはあまり納得できない指摘かも知れません。まず理解しておかなければいけないのは、テスラは電気自動車を作って売っていますが、たんなる自動車メーカーではないということです。
『テスラの家庭用蓄電池「パワーウォール」がいよいよ日本上陸。劇的な安さと高機能で持続可能な社会実現へ!』(2019年10月17日)でも言及しているように、テスラはすでに「電気自動車(電池)を軸としたエネルギーソリューション企業」へと進化しています。
自動車販売のビジネスモデルも、既存メーカーとは一線を画しています。テレビコマーシャルなどの広告宣伝費は使わない。ディーラー網を広げず自社によるECに一本化。定期的なモデルチェンジやマイナーチェンジを行うのではなく、オンラインによるソフトウェアアップデートなどで機能を向上させる。電池性能などのイノベーションを臨機応変に導入し、車両性能のアップデートや値下げを実践している、などなど。あまりにも違いすぎて、テスラを今までの「自動車メーカー」の物差しで評価することにはほとんど意味がないのです。
また、トヨタ社長が「学ぶべき点」として挙げた「再エネやCO2削減についての取組」ばかりでなく、こうした自動車製造販売のビジネスモデル転換=食事プラン全体の再設計こそ、既存自動車メーカーがテスラに学ぶでき点ではないかとも感じます。
ハイブリッドからFCVまで、電動化フルラインアップでテスラの「一歩先を行っている」と豊田社長は評しています。でも、テスラにとってモビリティがEVであるのは必然的な前提に過ぎず、電気自動車が貢献できるカーボンニュートラルなエネルギーソリューション構築を目指しています。つまり、トヨタとは進んでいる道が違うのですから、「一歩先」という評価はあまり的確とはいえないでしょう。
もちろん、豊田社長はもろもろご承知の上で、トヨタの社長としてトヨタのビジネスを軸にテスラを評したのでしょうから、テスラ=電気自動車に視点を変えて批判するのは、ややお門違いではあります。はたして、豊田社長はひとりの自動車好きとして、電気自動車にどんな印象やビジョンを持ってらっしゃるのでしょうか。また、イーロン・マスク氏からプレゼントされたロードスターを運転して、どのように感じたのでしょうか。もしも機会があれば、ぜひ伺ってみたいところではあります。
電気自動車は一朝一夕に大量生産できない
決算説明会の質疑応答で、トヨタの電動化戦略については『トヨタ自動車が開催した「電気自動車の普及を目指して」説明会の意味をじっくりと考えてみた』(2019年6月23日)でもご紹介した寺師茂樹氏が説明しました。そのポイントも整理しておきます。
**●菅総理が明言した「2050年にカーボンニュートラル」はゼロエミッションの自動車でないと実現できない。
●2050年の目標を実現するためにはいろいろな技術が必要。
●水素が余っているところでは水素、再生可能エネルギーが豊富なところでは電気を使えばいい。
●お客様(の嗜好)や規制のレベル、地域の環境などがモビリティを選択する。
●トヨタは、どのお客様でも選択できるクルマを提供する。
●しばらくの間、実効性があるのはハイブリッド。次にプラグインハイブリッドになるだろう。
●(フルラインアップで)その都度、環境変化に対応できるようしていきたい。**
もはや日本の基幹産業そのものともいえるトヨタとして、とてもクレバーな姿勢だと思います。
とはいえ、いざ電気自動車を大量生産する必要に迫られた時、いかにトヨタでも、すぐにはテスラを上回るような台数(テスラはあと1〜2年のうちに年間100万台を実現しそうな勢いです)の生産はできないだろうという点が気がかりです。電気自動車の大量生産とは搭載するリチウムイオン電池の大量生産であり、今の状況を見る限り、トヨタはもちろん、日本の自動車メーカーは世界の後塵を拝していることが否めません。
エンジン車でも、日本が躍進してきたのは小型大衆車の性能を高める技術が原動力でした。本来は、電気自動車でも日本は電池価格の低廉化や、大衆的な電気自動車開発で世界をリードすることを個人的には期待しています。でも、今はそうではありません。
トヨタが今年中にも発表すると言っていた全固体電池が、電気自動車開発競争の地図を書き換えてくれるのでしょうか? 客観的に考えて、新たに開発された全固体電池が、進化を続け価格が下がりエネルギー密度が向上しつつあるリチウムイオン電池を凌駕するには、まだ長い年月が必要になるはずです。
イーロン・マスク氏が先日のバッテリー・デーでチラ見せした「モデル3よりもさらに安価な25000ドルのコンパクトカー」が出てきたときに、トヨタには戦うツールがあるのでしょうか。
コロナ禍に負けず、大幅に上方修正し、営業利益は1兆3000億円を見込む業績を達成しているトヨタの企業努力とポテンシャルには敬意を表します。でも、今から数年後、電気自動車開発競争でテスラや、フォルクスワーゲンをはじめとする欧州メーカー、あるいは中国の自動車メーカーに、トヨタをはじめとする日本の自動車メーカーが駆逐されていく姿は見たくありません。
私が、上京して働き始め、初めて新車で買ったのはトヨタのランドクルーザーでした。一人の日本人として「トヨタ」は愛着のあるブランドです。世界一の自動車メーカーとなったトヨタのことですから、いざという時の電気自動車大量生産に対しても、密かに盤石の手を打っているのではないか、とも思います。『CleanTechnica』の指摘や私ごときの心配が、杞憂に終わることを願っています。
テスラとトヨタ、電気自動車開発で提携 (テスラモーターズとの共同記者会見)
YouTube トヨタ自動車株式会社チャンネル(2010年5月)
(文/寄本 好則)


