神奈川県横浜市と株式会社e-Mobility Powerが、公道上に電気自動車用の急速充電器(QC)を設置してその可能性や問題点を検証する実証実験を開始しました。道路上にQCが設置されるのは日本国内で初のことです。開業翌日の実際に現地に行って試すとともに、担当部署にお話しを伺いました。
設置場所
2021年6月8日、QCが設置されたのは、神奈川県横浜市の内陸部にあたる「青葉区」で、設置された道路は「県道」です。横浜というと港のイメージが強いですが、ここは田園風景の広がるのんびりとした郊外です。
QCは「しらとり台」という地区南西部の県道上に設置されました。この道路は、台地を「恩田川」が削った河岸段丘沿いにあります。
行ってみると、片側1車線の道路のわき、北西に向かう側の車線の、道路が少し広くなっている場所に設置されていました。EVが駐車して充電できる枠が2つ、路上に描かれています。
車線と充電スペースを区切るものはありません。6月8日の開業式では、人が集まるため安全を配慮してか、車線との間には仕切りが設置されていました。
ここは将来的には片側2車線になる予定で、将来の車線になる部分を借りて設置している、と言えます。
充電器の概要
設置された急速充電器(QC)は、e-Mobility Powerが各地に設置しているABB製のもので、充電用ケーブルが2本出ています。EVが1台で充電する際は最大90kWの出力ができて、2台同時充電の場合はそれぞれ56kWの出力となります。
【関連記事】
イーモビリティパワーがABBの高出力急速充電器で電気自動車充電インフラ最新化へ(2020年8月7日)
ただし、今回の横浜市の場合、2021年10月までは1台充電時でも最大56kWまでしか出ません。もっとも、56kWを受電できるEVはまだまだ少ないのが現状ですから、問題にはならないでしょう。また、今回の実証実験は2022年3月下旬までとされています。
実際に継ぎ足し充電してみましたが、筆者のSCiB搭載のBEVも、125Aのフルパワーで充電できました。56kWまでは使っていなかったものの、44kW以上のパワーが出ていたことは間違いないでしょう。
今回、横浜市では「EV」を「BEV(バッテリー式電気自動車、完全に電気だけで走るもの)」と「PHEV(プラグイン式電気自動車、エンジンが付いていて、車検証には『燃料』として電気だけでなくガソリンも並記されているもの)」の両方を含めたものとして定義しています。
余談ですが、ABB社は、かつては「ブラウン・ボベリ」と名乗っていたこともあるスイスの老舗電機メーカーです。鉄道黎明期の日本には、このブラウン・ボベリ製の電気機関車も輸入され、国産電気機関車の模範となったことも思い出されます。国鉄のED12型(西武鉄道に売却されてE51型になる)、ED41(横川・軽井沢間のアプト式軌道時代に活躍)、ED54(東海道本線の丹那トンネル開業後を念頭に、急行列車牽引用として導入)などがありました。
これまでの動き
まず2020年3月に、横浜市と株式会社e-Mobility Powerが連携協定を結びました。EVsmartブログでは、同年4月9日にこれをリポートしています。
【関連記事】
横浜市とe-Mobility PowerがEV普及促進に向けた連携協定を締結 〜 これまで無かった場所にも設置か(2020年4月9日)
同年9月には、国土交通省の「道路に関する新たな取り組みの現地実証実験(社会実験)」に採択されました。こうした流れを受けて、2021年6月8日(火)から実証実験が始まりました。
これまで横浜市では、店舗などといった「QCがあったら良いと考えられるおおかたの場所」には設置をすませてきたので、これまでに無い形の設置に踏み出したいと考えていました。
また、住民の60%ほどが集合住宅に住んでいるという事実からも、自宅にまだ充電設備を付けられていない集合住宅住まいの人たちにも、EVを運用しやすくしたい、という意図もあります。市民のうち、EV用充電器を持っていると回答している人の90%は、戸建て住宅に住んでいるというデータもあります。
検証すべき課題
実証実験で検証したい課題は、大きく分けて4つあります。
1. 周辺交通に及ぼす影響
懸念されるのは、充電する車両が何台か集まったりして渋滞が起きないか、ということです。「交通管理者」である警察も、これを気にしているそうです。道路上に用意されているのは充電用の2区画だけで、待機用のスペースはありません。
2. 利用者のマナー
監視カメラはあるものの、周辺に店舗があるわけでもないので、ゴミなどを散らかす人が出ないか、充電器などにイタズラをする人が出ないか、利用者だけでなく、そこを通る人のマナーも気になるところです。
3. EVユーザーのニーズはあるか
設置はしてみたものの、道路上だと利用しにくいというような感想が出ないか、気になるところです。
4. 事業性
そして、今後を見すえるとき、事業として成り立つかどうかは重要なポイントです。今回の設置に関しては、全てe-Mobility Powerの費用負担で実施されています。
市が行った業務はむしろ、各行政機関との折衝と調整でした。大きなものとしては、「交通管理者」である「神奈川県警」と、「道路管理者」である「青葉土木事務所」との調整がありました。
法的なことを言うと、交通管理者からは「道路使用許可」を、また道路管理者からは「道路占有許可」をそれぞれ貰わなければなりません。今回の実証実験が2022年3月いっぱいとされたのも、道路使用許可と道路占有許可が同じ期限で発行されていることによります。(なお、横浜市は政令指定都市なので、県道でも県ではなく、区の土木事務所が道路管理者としての業務をカバーしています。)
EVsmartブログチームで出た疑問
せっかく取材にお邪魔させていただいたので、いろいろと質問もしてみました。EVユーザーとして聞きたいであろうものをかいつまんで書いてみます。
Q1:最大30分の充電時間が終わっても、そのまま駐車し続けていたらどうなりますか?
A:充電中のみ駐車が可能なので、ふつうの「駐車違反」扱いになる、とのこと。
Q2:充電しないで駐めていたらどうなりますか?
A:上記同様、普通の駐車違反の扱いになる、とのこと。
Q3:今回は郊外の田園地帯での実証実験ですが、市街中心部などでの実証実験も検討されているのですか?
A:検討しています。各所との調整があるので、まだはっきりとは言えませんが、いろいろと検証してみたいと考えています、とのこと。
おわりに
真夏並みの暑さのなか、取材に行ってまいりました。現地では特に立ち寄れる店舗なども近くには無いため、充電中は車内で待つしかなさそうです。そうした意味では、放置される可能性はまず無いと感じました。
ただ、著者の i-MiEV は初期のBEVのため、充電中は空調が使えません。( i-MiEV でも、最後期のものは充電中エアコンが使えます。)おかげで、オーブントースターで焼かれているような気分(焼かれたことは無いですけど)でした。
仕方がないので、近くの木陰に避難していました(笑)。
EVユーザーも、慣れてくると「必要な分だけ充電」が分かるようになります。初めの頃は多くの人はビビって、とにかく上まで充電しがちですが、慣れてくるとそれが馬鹿馬鹿しいことだと分かるものです。そうした意味でも、移動途中に必要な分だけ「継ぎ足し充電」できる機会が増えることは喜ばしいと思います。
こうした実証実験がさらに積み重ねられて、EVユーザーにも街にも地球にも優しいシステムが構築されることを期待しています。横浜市の次の一手も楽しみにしています!
(取材・文/箱守 知己)












