マンション駐車場429区画に「WeCharge」の充電設備を設置〜補助金有効活用への懸念も

電気自動車充電サービス「WeCharge」を展開するユビ電が、福岡市アイランドシティの既築分譲マンション「フォレストプレイス香椎照葉ザ・テラス」のマンション駐車棟全429区画にEV充電設備を設置することを発表しました。これからは集合住宅駐車場でもEV充電できて当たり前になっていくのでしょうか。

既設分譲マンション駐車場の全区画に設置

2023年7月4日、電気自動車充電サービス「WeCharge」を展開するユビ電株式会社が福岡市アイランドシティの既築分譲マンション「フォレストプレイス⾹椎照葉ザ・テラス」(福岡県福岡市東区)の駐車棟の全てである429区画に、個別充電可能な日本最大級(ユビ電調べ)のEV充電インフラを導入することを発表しました。

集合住宅駐車場への充電インフラ拡充は、日本のEV普及にとって重要な課題です。EVsmartブログでは今までにも意欲的な事例を紹介してきました。

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【集合住宅EV用充電設備事例】平面駐車場全区画で充電可能~既設分譲マンションに後付け(2022年9月16日)

EV充電サービスの WeCharge がさいたま市の賃貸住宅駐車場全区画にコンセントを設置(2023年1月31日)

おもな例を紹介した記事。2022年9月の広島での事例は早くから集合住宅のEV充電拡充に取り組むユアスタンドが手掛けたもので、さいたま市の県住宅供給公社賃貸住宅は、今回の福岡と同じユビ電(WeCharge)が手掛けた事例です。

広島のケースは既設マンション駐車場85区画の全てで充電可能とするため32基のコンセントを設置(複数区画でひとつのコンセントを共用する)したものであり、さいたま市の公社賃貸住宅は20区画だけ。429区画に429基というのは、まさに今まで前例のない規模といえます。

そもそも、今回のマンションが建つ「福岡市アイランドシティ」は、今までにもEV関連でしばしば目にした地名です。2012年にはエンジン車をコンバートした電動バスの実証実験が行われ、2022年には第一交通が住友商事グループや九州電力とともにEVタクシーを導入して効率的に利益を出すための実証実験を行い、導入したリーフのタクシーが好成績を挙げたことが6月に報じられたり(日経の記事)しています。今回のユビ電のリリースには「2023年6月現在、EVを蓄電池と見立てた場合、本マンションには約500kWhの蓄電池容量があります」という一文があり、ユビ電の広報ご担当者に確認するとすでにこのマンション駐車場には10台ほどのEVがあるそうです。約400台のうちの10台なので、率としては2.5%ほどに過ぎませんが、日本のEV普及率、新車販売シェアなどを考えると上々の数字。このマンション自体がEV普及の先進地であったと言うこともできそうです。

充電設備利用の申込金が10万円

それにしても、400台以上は前のめりだなぁと思いながら、Twitterで「#アイランドシティ」を検索してみると、このマンション住民のEVオーナーとおぼしき方のTweetがありました。

設備利用申込金10万って一度きり?
私が家を売ったら次の入居者が使いたい場合は?支払わないといけない?#アイランドシティ #充電インフラ pic.twitter.com/KHHZzHth4k
— mieisgood (@mieisgood) July 4, 2023

写真を見ると、充電設備を利用するためには「初回のみ設備利用申込金」として10万円が必要で、充電料金は前出のさいたま市のケースと同様にWeChargeの定額制料金プランが適用されることになっています。

集合住宅駐車場に新たな電気を引き込んで充電器を設置する(可能だったとしても最低でも50万円以上は掛かるでしょう)ことを思えば、初期費用の10万円は格安です。充電に必要な電気代をどうやってきちんと「受益者負担」にするかという課題を思えば、充電料金が一般的な電気代よりも割高になるのも「そりゃそうだよね」という話。

集合住宅駐車場にEV用充電設備を拡充していくためには、EV充電サービス事業者の活躍が不可欠であり、経済的合理性の高い事例が積み上がっていくことが大切です。

補助金がまったく足りないのは課題

さて、経済的合理性が大切という観点で考えると、全429区画に設置というのはどうなんでしょう。

まず気になるのは、このように大規模な充電インフラ設置が広がると、経産省の「充電インフラ補助金」が追いつかないということです。

実際、EV普及の機運が高まりEV充電サービス事業者が意欲的に充電器設置拡大に取り組むようになった今年、予算額にして175億円用意された充電インフラ補助金のうち、普通充電器(目的地充電)分の約25億円は6月12日に、普通充電器(基礎充電)分の約30億円も6月29日には予算額に到達したことが発表されて、すでに新規申請の受付が停止しています。

ユビ電に確認したところ、今回の429基設置についても補助金を活用するということでした。同時充電が可能な台数や、1基当たりの設置コストは未公表(改めて発表を検討中)ということです。

6月15日に公開した『充電インフラ補助金「目的地充電」分が申請受付終了〜宿泊施設等限定で追加できない?』という記事では「申請1件当たりの補助額平均が100万円と仮定」しました。今回のケースで設置するのはおそらくスマートコンセント(単価はそんなに高くない)ですし、工事費もまとめてやればコストパフォーマンスが高まるでしょうから、1基当たりのコスト(補助金額)が40〜50万円としても、このマンションだけで2億円くらいの補助額になりますから、基礎充電分に用意された30億円の補助金が、受付開始からわずか3カ月程度で底をつくのも、これまた「そりゃそうだよね」という話です。

日本政府は2030年にEV充電器15万基、うち12万基を普通充電設備という目標を設定しています。現状の普通充電設備は3万強なので、目標達成のためには今年から年間で1万2000〜1万3000基を増やしていく必要があります。今年度の普通充電分(基礎と目的地の合計)補助金額は55億円(予備分は含まない)なので、1件100万円として5500基分しか賄うことはできません。

そもそも、カーボンニュートラル社会の実現に向けてEV普及=EV充電インフラ拡充という目標を掲げる以上、今年度規模の補助金ではまったく足りないのが現状です。

また、現在の充電インフラ補助金では、駐車場施設当たりの設置基数上限がありません。EV普及率が伸びるにはまだ時間がかかるでしょうし、エンジン車を停める駐車場に充電器を設置しても使われることはありません。つまり、補助金が無駄になるし、EV充電サービス事業者はその充電設備からの収益が期待できません。

今回の全429区画に設置というニュースには、関係各所から「とんでもない!」「補助金の無駄使いだ」といった声も聞こえてきます。予算には限りがあって、効率的に活用しなきゃいけないわけですから、補助金のルールを定める際に、基数や出力などについても、しっかりと理想的なEV普及のあり方を見据えたビジョンやロードマップが必要ではないかと感じます。

高速道路SAPAにNACSの急速充電器を設置?

429基設置のニュースリリースが発信された7月4日、ユビ電は一般メディア向けの「戦略発表・製品説明会」を開催しました。基礎充電の重要さを解説し、パナソニックやオムロンと協業して、「EVと電力網を接続して、EV普及が電力網に貢献する」といった意欲的な内容だったようです。また、2024年には話題のNACS(テスラ規格=北米標準充電規格)による急速充電器を高速道路SAPAなどに設置するとした発表を、日経新聞が報じていました。

NACS? 高速道路SAPA? と謎は多いですが、詳細はまだよくわかりません。この「戦略発表・製品説明会」については、別の執筆陣に取材に行ってもらったので、改めて詳細をお伝えします。

また、ユビ電だけでなく、最近のEV充電界隈はさまざまな動きが起こっています。一度状況を整理しておくためにも、おもなEV充電サービス企業のキーパーソンに、そのビジョンや目標を伺うインタビュー企画の準備を進めています。

なにはともあれ、EV普及「前進あるのみ」です。

取材・文/寄本 好則