充電インフラ補助金「目的地充電」分が申請受付終了〜宿泊施設等限定で追加できない?

経済産業省と次世代自動車振興センターがEV普及に向けた『充電インフラ補助事業「普通充電器『商業施設及び宿泊施設等への設置事業(目的地充電)』等」における交付申請受付終了のお知らせ』を発表しました。宿泊施設などさらなる拡充が求められる場所への影響が懸念されます。

充電インフラ補助金「目的地充電」分が早々に申請受付終了〜宿泊施設等限定で追加できない?

申請受付開始からわずか3カ月弱で予算額を超過

2023年6月12日、電気自動車普及を見据えた補助事業を所管する経済産業省と、補助申請受付の執行団体である一般社団法人次世代自動車振興センター(NeV)が『充電インフラ補助事業「普通充電器『商業施設及び宿泊施設等への設置事業(目的地充電)』等」における交付申請受付終了のお知らせ』を発表しました。

今年の補助金額は、令和4年度補正予算事業として約200億円、令和5年度当初予算事業として100億円の合計で300億円の規模。このうち、充電インフラ整備補助には約175億円が割り当てられており、充電設備の種類ごとに以下のような配分となっていました。

●急速充電器/約90億円
●普通充電器(マンション、事務所などの基礎充電)/約30億円
●普通充電器(商業施設、宿泊施設などの目的地充電)/約25億円
●予備分/約30億円

今回の発表は、商業施設及び宿泊施設等への設置事業(目的地充電)について「6月12日にNeVに届いた交付申請をもって予算額を超えた」ということなので、目的地充電用の約25億円を使い切ったということになります。

申請受付が始まったのは3月31日だったはずなので、3カ月経たずに予算枠を超えたことになります。

目的地充電設備の拡充は歓迎すべきことですが……

予算額は約25億円ですから、申請1件当たりの補助額平均が100万円と仮定して、およそ2500カ所(複数台設置の事例も多いでしょうからおそらくは3000基以上!)の目的地充電(普通充電)設備が増えることになります。

日本のEV普及を考えるとそれはそれで素晴らしいことなのですが、早々の補助金受付終了には、少し懸念すべきことがあります。

今、日本国内ではEV普及の機運が高まり、EVユーザーとして目的地充電設備拡充を期待したい宿泊施設やゴルフ場などの長時間滞在型施設へのEV用充電設備設置の動きが加速しています。

一例の関連記事を挙げておきましょう。

アウディが宿泊施設にEV用普通充電器を無償設置〜2023年度中に50カ所100基から(2023年5月18日)

エネチェンジの普通充電器受注台数が3000台突破/ホテルチェーンにも6kW器設置が進展(2023年4月10日)

長野県が宿泊施設などに充電設備設置を進める条例を制定(2022年6月12日)

市販EVが搭載するバッテリー容量が10年前に比べて格段に大きくなってきた今、基礎充電と目的地充電の設備拡充は、ことによっては急速充電による経路充電設備拡充よりも重要な意味をもっています。とはいえ、意欲的な拡充プランは基本的に補助金活用を前提としています。今年、早々に申請受付が終了してしまうことで、具体的に設置を検討していた施設としては「じゃあ、来年まで待とう」となり、設置加速の流れが止まってしまうのではないか、というのが「懸念」です。

今年、すでに申請を受け付けた設置先の内訳といった詳細は、経済産業省にも確認しましたが今のところ公表予定はないとのこと。以前『続々とEV用普通充電器100基導入〜自治体ご担当者と設置事業者へのお願い』という記事で懸念したように「使われない充電器」が大量に補助金で増えるのではないことを願います。

本当に必要な「目的地」とは?

予算額の内訳には「予備分/約30億円」とあります。「交付申請受付終了のお知らせ」には、「予備分の扱いについては他の充電設備にかかわる交付申請の状況を踏まえた上で、配分先を決定し、後日公表」とされています。

改めて、EVユーザーとしての見方で「使われない(目的地)充電器」はどういう場所にあるものか、具体的に考察しておきます。

●自宅から近い場所にある低速の普通充電器
基本的に、EVは自宅ガレージで基礎充電できる環境で使うのが理想。基礎充電が可能であれば、自宅から数キロ程度でバッテリー残量に不安のない出先で、わざわざ有料(自宅の電気代より高く)の普通充電をしようとは考えません。かといって、自治体(公費)負担で無料充電というのも、すでに時代遅れで不健全です。マンション住民などの利用を想定する基礎充電代替設備であれば、使い勝手からして急速充電が適していて、それも集合住宅が多い都市部に限ったニーズと考えられます。

●わざわざ充電に行かなければいけない場所
自宅で基礎充電できるのは、EVの大きな魅力でありメリットです。もちろん、生活圏内で日常的に訪れるショッピングセンターなどであれば、何かのついでに充電する機会は少なくないかも知れません。でも、たまにしか用事がないような施設に、わざわざ普通充電のために足を運ぶことはしないよね、というのが個人的な印象です。

では、ぜひとも拡充を急いで欲しい目的地充電場所は、どんなところでしょう。

●宿泊施設
宿泊を伴うドライブの多くは長距離の移動をしているはず。宿泊施設で充電できれば、わざわざどこかで急速充電をしなくても、翌朝は満充電(もしくはたっぷりと電気を補給した状態)で出発できて便利です。

●遠距離ドライブを伴う長時間滞在施設
ゴルフ場など、都市部から距離があって(県外からの訪問者が一定割合以上とかの条件を付してもいいかな)、長時間滞在を伴うレジャー施設などの駐車場も、ぜひ目的地充電設備を拡充していただきたいポイントです。個人的な状況を説明すると、私はゴルフが趣味で、マイカーのセグ欠け30kWhリーフでは千葉や山梨など割と近場のゴルフ場でも無充電往復は難しいことが多く、途中、どこかで1回急速充電を行うことがほとんどです。たまに、充電できるゴルフ場があると「また来よう!」と思います。

あと、補助金(血税)で整備するのにふさわしい場所としては、外来客が多い観光地などの駐車場、空港や新幹線駅などMaaSの拠点となるべき施設とか、でしょうか。

そんなわけで、もし「予備分」を活用して今年度の目的地充電用の補助枠を拡大するのであれば、ぜひ「設置場所」に関する制限を設けるべきではないでしょうか。ことに、宿泊施設への設置拡大の流れは、なんとか止めないよう経済産業省のご担当部署にもお願いしたいところです。

以上、ちょっと心配しつつの速報でした。

※冒頭写真は、2022年5月に宿泊&充電したルートイン松阪駅東の普通充電器。

取材・文/寄本 好則

この記事のコメント(新着順)2件

  1. ENECHANGEのアプリから確認するとコンビニに設置してある例がありました
    普通充電器なら数時間は停めておくのが前提だと思いますがコンビニの駐車場に何時間も停めといても大丈夫なんですかね笑
    事業者側も普通充電器が適さないところは断るモラルが必要では?

    1. haladd さま、コメントありがとうございます。

      コンビニに普通充電器、ご指摘の通り一般的には適した設置場所ではないですね。

      設置者の要望があって一定の条件を満たせば充電サービス事業者として断るべき理由はないでしょうが、補助金の有効活用という観点からも、各事業者が普通充電インフラ整備に対するビジョンを示し、設置者に適切なアドバイスを行っていくことが大事だと共感します。

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					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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