受注開始! ヒョンデ『IONIQ 5』で焼肉食べに松阪弾丸ドライブ〜充電スポット「緊急事態宣言」

5月2日、ついにオンラインでの受注が開始された話題の電気自動車、ヒョンデ『IONIQ 5』で、東京から三重県松阪市まで、焼肉を食べるためだけの弾丸ドライブを試してきました。高速道路SAPAの急速充電スポットが、いよいよ困ったことになりそうです。

日産リーフe+で目指した焼肉の名店へ!

私としては、2021年10月のセグ欠け30kWhリーフで東京=名古屋日帰り往復以来、久しぶりの電気自動車ロングドライブレポートです。今回、試乗したのは Hyundai(ヒョンデ)の『IONIQ 5』。バッテリー容量72.6kWhで四輪駆動の「Lounge AWD」です。

東京都世田谷区の自宅を出発し、目指したのは三重県松阪市。2019年10月に、日産リーフe+での東京=名古屋日帰り試乗でも「目的地」とした、松阪牛焼肉の名店、『一升びん本店』です。この店には20数年前に取材で訪れたことがあり、コストパフォーマンスの高さと生レバーの美味さに感動、「一生のうちに、絶対にまた行きたい」と願っていました。

e+で目指した際には東名で渋滞に遭遇したこともあり、手前の四日市店で断念。でも、今回は無事に予約を入れた時間までに松阪市内の本店に到着し、期待通り、抜群に美味しい焼肉を堪能することができました。「絶対にまた行きたい」という長年の願いを果たすことはできたけど、再び「もう一度、絶対にまた来たい」という新しい願いを抱くことになりました。

当初は日帰りを予定して、運転交替要員としてEVsmartブログ執筆陣のひとりでもある木野さんをおびき出したのですが、「焼肉にはビールでしょ!」の誘惑に抗うことはできず、急遽、普通充電器がある『ホテルルートイン松阪駅東』に宿泊予約。翌日は午後から別件仕事があったので、朝4時起きで帰ってくるという、それなりの弾丸ドライブになりました。

もうメニューにレバ刺しや生レバーはないですけど。焼レバーやハツ、抜群でした。ホルモンも、もちろんフレッシュな松阪牛!

レポートのテーマは「充電インフラを考える」です

さて、一升びん本店に再訪できたことを自慢しても、読者のみなさんには何の役にも立ちません。今回のレポートでは、72.6kWhの大容量バッテリーと、最大90kW対応の優れた急速充電性能をもつ IONIQ 5でのロングドライブを敢行しつつ、日本の電気自動車用充電インフラを考えてみました。

まずは、東京=松阪往復における、全充電記録を紹介します。

日時スポット充電器出力
(メーカー)
充電時間充電前
SOC
充電後
SOC
電力量
充電器
出力率
4月8日
15:33新東名
長篠設楽原PA 下り
90kW
新電元
30分33%70%約28.2kWh
約63%
18:13ホテルルートイン
松阪駅東
3.2kW
新電元
約11時間21%67%約33.4kWh---
4月9日
7:24新東名
遠州森町PA 上り
90kW
新電元
約20分6%29%約17kWh
※2台同時
約56%
7:55新東名
遠州森町PA 上り
90kW
新電元
約15分30%49%約15kWh約67%
10:13東名
海老名SA 上り
90kW
新電元
30分7%59%約40kWh約89%
【参考】日産リーフe+(2019年10月の検証データ)
日産プリンス三重販売
四日市本店
90kW
新電元
30分5%52%約27.3kWh約60%
日産自動車
グローバル本社
90kW
新電元
30分20%77%約29.2kWh約65%

往路は新東名長篠設楽原の90kW器で30分の充電1回だけで松阪まで、途中、伊勢自動車道に入り損ねて、新名神の亀山西JCTを回り道した約440kmを、SOC20%以上残して余裕の完走。午前中の仕事が押して出発が予定より1時間近く遅れた13時前になったのですが、一升びん本店へは無事に予約した18時半に入店することができました。新東名120km制限区間も快走し、エンジン車と利便は変わりません。

復路はホテルで充電できたとはいえ、早朝出発で充電時間がやや足りなかったこともあり、新東名遠州森町PAと、東名海老名SAでの2回充電。残量約50%で東京に帰着となりました。IONIQ 5 のグランドツアラー性能。乗り心地や静粛性、走りの魅力や運転支援の安心感、さらには、とても大事な「急速充電性能」まで含めて、とても満足できる出来映えであることが実感できました。

一方で、これはもう「緊急事態宣言級のピンチかも」と感じたのが、日本の電気自動車用充電インフラの現状です。充電結果の表を参考にしながら、2つのポイントを挙げておきます。

ブーストモードなしの90kW器複数台設置をお願いします!

往路の長篠設楽原PA(下り)での充電。90kW器30分間で28.2kW。充電器最大出力に対してどのくらい充電できたかを示す「充電器出力率」は63%となっています。これは、IONIQ 5 が本来持っている急速充電性能をフルに発揮できていない結果です。

長篠設楽原PAでの充電器液晶表示。30分間ほぼずっと「405V141A」が継続しました。

少しややこしい話になりますが、EV普及にとって大事なポイントでもあるので、きちんと説明しておきましょう。

首都高大黒PAに設置された6口器もそうですが、長篠設楽原PAに設置されている新電元の90kW器もケーブルが2本出し。CHAdeMO規格で定められている「ダイナミックコントロール」という仕組みを利用して、充電器側からの制御で充電中に出力を変えられるようになっています。実は、広報車でお借りした IONIQ 5は、このダイナミックコントロールにまだ対応できていませんでした。そのため、充電器の最大出力であれば「200A」流れるはずの電流は、30分間、ずっと「141A」のままでした。つまり、ダイナミックコントロールに対応できないために、最初から最後まで、充電器から制限された出力が割り当てられているのです。

デリバリーモデルはダイナミックコントロールにちゃんと対応

ただし、7月ごろからを予定しているIONIQ 5のデリバリーモデルでは、ダイナミックコントロールに対応し、充電器性能をきちんと引き出せるようになります。このあたりの迅速な対応にも、ヒョンデがIONIQ 5に賭ける意気込みを感じます。世界中の、とくに日本のEVメーカーにはぜひ見習ってほしいくらいです。

e-Mobility Power(eMP)がニュースリリースを出しているように、おそらくはこのダイナミックコントロールへの対応の問題で、大黒PAの新型器では不具合(充電できなかったり十分な出力が出ない)が続出しています。ダイナミックコントロールは、高出力器、そして複数口設置を促進するためのアイデアだとは思いますし、不具合の原因はいろいろあるのでしょうが。ユーザーにとってはただただ「不便」でしかありません。関係各所には、ぜひ「早くなんとかしてください」とお願いしたい思いです。

復路、海老名SAでは「405V200A」が継続。気持ちよく充電できました。

それはさておき、復路、海老名SA(上り)の充電データを見てください。ここに設置されているのは同じ新電元の最大90kW器ですが、ケーブル1本出しなのでダイナミックコントロールは関係ありません。その結果、IONIQ 5は30分間で約40kWh、出力率にして約89%も充電できています。

この「充電器出力率」というのは、たとえば「最大90kWの急速充電器で30分充電した場合の最大充電量となる45kWhに対して、実際にどのくらい充電できたのか」を示す、EVsmartブログ独自の指標です。急速充電時には若干の熱損失などがあるので、出力率が80%を超えれば「ほぼ充電器のフル出力を引き出している」と評価できます。2019年に行った日産リーフe+(最大70kW程度に対応)の結果と比較してもその差は歴然。IONIQ 5のCHAdeMO急速充電性能は、日本で市販されているEVとしてトップレベルです。

デリバリーが始まったばかりの日産アリアで「90kW器でもそんなに入らない?」問題への注目度が高まりつつ(詳細を日産に問い合わせ中です)あるように、カタログスペックと実用の充電性能が「ぜんぜん違うやんけ!」というのも「新型電気自動車あるある」になってしまいそうな現状です。一充電航続距離を含めて、EVの性能についてのカタログスペック表記は、もっとユーザーに寄り添って欲しいな、とも感じます。そんな中、IONIQ 5のカタログスペックを裏切らない急速充電性能は、素晴らしいです。

ブーストモードの必要性も、ユーザーには謎

まあ、たしかに、90kWのケーブルを片付けるのは大変ですけど。

今回の検証ドライブでは使いませんでしたが、大黒PAのeMP新型器が採用している「ブーストモード」というCHAdeMO独特の仕様も、ユーザーにとっては悩ましい仕組みです。簡単に説明しようとしても「最大90kW出力の充電器に50kW仕様のケーブルを搭載し、フルに使うと発熱して危険なので、最初の15分だけ最大出力を出し、あとは50kWに落とす」という、ややこしいレギュレーションです。

メルセデスベンツEQAで検証した際には、一本出しの90kW器30分で約38kWh充電できたのが、ブーストモードの大黒PAでは30分で約29kWhしか充電できませんでした。

ブーストモードを採用する理由は「90kW用のケーブルが太くて重いから」ですが、大黒のeMP新型器のケーブルは吊り下げ式で楽ちんです。電源容量をシェアするために複数台が並んだ時に出力制御されるのは納得するとしても、せっかく90kW器があっても出力が勝手に制限されてしまうのは、ユーザーにとっては「謎仕様」です。

今後数年で、eMP新型器は全国の主要SAPAに拡充されることを期待しています。だからこそ、ぜひ、ブーストモードという謎仕様なしで、気持ちよく充電できる環境の構築を、e-Mobility Power には重ねてお願いしたい思いです。

宿泊施設の普通充電器は、やっぱりとてもありがたい!

今回宿泊したホテルルートイン松阪駅東には、2基の普通充電器が設置してありました。もともと日帰りの計画だったのですが、名古屋が近づいてくるあたりから「どっちがビールを我慢するか問題」で木野さんと議論。「一升びんで焼肉食べながらビール飲むのを我慢するより、ホテルで仮眠してから帰る」という案で合意して、さっそく「松阪ならルートインあるでしょ」と、ホテルをググって電話。素泊まりでシングル2部屋の予約を入れたのでした。

ルートインチェーンでは充電器区画に「電気自動車優先駐車スペース」のパイロンを立ててくれています。到着すると2区画とも空いていて、無事に充電することができました。

ホテルの近くには複数の急速充電スポットもありました。でも、今回、ホテル駐車場に停めていた約11時間の充電電力量は約33kWh。これを、最大50kW出力の急速充電器で入れるには、30分では足りず、お替わりして合計1時間程度は掛かります。

美味しい焼肉食べてビールを飲んで、朝4時まで寝ている間にたっぷり充電できるのは、心の底からありがたいと思います。

全国チェーンのホテルのなかでも、ルートインは早くから電気自動車用充電器設置を進めてくれていました。最近、一部メーカー製充電器がスマホ3G回線の廃止で認証課金システムが使えなくなって、撤去されているところもあるなんて話もありますが、目的地充電、ことにホテルや旅館など宿泊施設の充電設備普及は、ますます車種が増える本格的EV普及の時代を前に、一日も早く進めるべき課題です。

おかげで、復路の遠州森町PAまで、急速充電を注ぎ足すことなく到着できました。遠州森町PAでは、90kW2本出しでの「同時充電」を初体験。出力がシェアされるので、どのくらい充電できるか少し心配しましたが、先客のリーフe+が十数分で充電を終了してくれたので、海老名にたどり着けるだけの電力を充電することができました。

結果の表で2回充電してるのは、シェアした時と1台で充電する場合の出力に違いがないかどうかを確かめるため。2台シェアで始まった時の電流値は105A程度。先客が終わってからも変わる様子がなかったので、再接続してお替わりすると、140Aほどになりました。

再接続直後の表示。

ちなみに、2台同時充電時の液晶表示がこちら。残り21分のリーフが「371V 106A」に対して、後から充電を始めた IONIQ 5は残り30分で「404V 105A」となっています。この充電器でシェアする場合、おおむね105A程度の電流を分け合うことになるようですが、総電圧を掛けた出力を計算すると、リーフが「約39.3kW」なのに、電圧が高い IONIQ 5は「約42.4kW」と、より大きな出力で充電できていたのも発見でした。このあたり、語り始めると長くなるので割愛しますが、電圧やバッテリー温度管理を含めた充電制御性能、大事です。

エンジン車と同じようにEVを使う人が増えてくるけど……

トヨタbZ4Xやスバルソルテラも、急速充電は最大150kW対応とされています。アリアは130kW。ちょっと前までは「CHAdeMOは50kW」だった輸入EVも、続々と最大80〜150kW級の急速充電性能を打ち出しています。

大容量バッテリーを搭載して、高出力急速充電性能を備えていれば、EVはエンジン車と同等、いや、それ以上に快適な乗り物であることは、すでにテスラが具現しています。ということは、これから全国の高速道路SAPAには、エンジン車と同じように移動するのが当たり前と考えるEVユーザーが続々と詰めかけることになるのです。

そもそも、今の日本に張り巡らされたCHAdeMO急速充電ネットワークの出力や課金の仕組みは、バッテリー容量24kWhの初代リーフや16kWhの三菱アイミーブを前提として構築されたもの。10年以上経って、切ないほど時代遅れになっています。

最大90kW(ブーストモードなら150kW)の高出力急速充電器の複数台設置(車種による受け入れ能力差が大きくなるので従量課金システムの導入も)、そして宿泊施設への普通充電設備拡充はまさに緊急事態、待ったなしの課題です。

おりしも、GWまっただ中。渋滞覚悟でロングドライブに出かける方も多いことでしょう。EVでお出かけの方、悲しい充電渋滞に巻き込まれることなく、スムーズな休日を楽しめますように!

復路、新清水ICあたりの富士山がビューティフルでした。

(取材・文/寄本 好則)

この記事のコメント(新着順)4件

  1. 貴ブログを読みこむことで、良い示唆を得ています。
    自家用車の動力減が何であるにせよ、個人用の自家用車は「走行距離をいかに減らすか」が二酸化炭素削減には最も効果があるのだな、というのが私の見解です。

    東京から松坂であれば、高速バスも電車も使えて、自動運転どころか完全ハンズオフで読書も携帯電話もおやつも自由自在。現地でつかう荷物があるなら事前に送っておけば、宅配業者さんの効率的な輸送網で届けてくれる。当然現地での充電に頭をひねる必要もないし、二酸化炭素排出量も少ない。(高速バスや電車については、一個人が乗ろうと乗るまいと運行をするわけですので、ある意味排出量「0」とすら言えます)

    近所の足なら(天候問題はありますが)電動アシスト自転車(航続距離は一般的な運用でも100キロ超で、家庭のコンセントで容易に充電できる、まさに理想のBEVの形かと)や原付があるし、規制緩和される見込みの電動キックボードも様々な課題はあるにせよ、こと二酸化炭素削減という意味では有効な手段の一つ。

    「どうしても他ではカバーできない領域」はどうしても自動車頼りというシチュエーションは絶対に残りますが、走行距離の削減を皆が心がけるようになりさえすれば、自動車型のBEVの普及はもう「レッセフェール」で良いのではないかなと。

    燃料代も上がってますし、この状態が継続すればBEVも用途によってはよい選択肢の一つとして上がってくると思われます。

    1. たんざ さま、コメントありがとうございます。

      > 自家用車の動力減が何であるにせよ、個人用の自家用車は「走行距離をいかに減らすか」が二酸化炭素削減には最も効果がある

      ご指摘の通りだと思います。私が、以前の愛車であったエンジン車を売り払ったのも、東京でマイカーなんてなくていいじゃん、という思いが理由のひとつでした。

      一方で、私がそもそもEVに興味を抱いたのは「モータースポーツ存続のためにEVを」という舘内端さんの説に深く共感できたからでした。つまり、今回のように無駄な長距離ドライブをやらかしても、発電がゼロエミッションであれば環境への負担は最小限に抑えられる、ということでもあります。

      これからも、ご愛読ください!

  2. いつもためになる記事をありがとうございます。
    1点、お願いです。

    東名上り海老名SAで、新電元の90kWを30分利用されています。復路は、この海老名SAで充電したことにより、残量約50%で帰着とのこと。海老名SAでは「405V200A」が継続したとの記述がありますから、新電元90kWの性能を確認される意味で30分間利用されたのだと想像します。

    見逃しているのかもしれませんが、そのあたりの理由に触れられていないため、EV利用初心者には「30分間利用」が原則かのように読まれてしまうかもしれません。

    寄本さんには釈迦に説法ですが、EVの利点の一つは自宅でも充電できることです。自宅までの距離がわかっている復路は、帰着時に残量数%でよければ、その分5分とか10分とかというふうに充電時間を短くすることができます。
    そのあたりにも触れていただけるとよかったです。

    1. Eddy さま、いつもコメントありがとうございます。

      海老名で30分。ご指摘の通りです。90kW1口器単独での充電量検証、でした。

      あと、記事が長くなるので触れませんでしたが、原宿でお借りしていた広報車をこの日返却することになっていて、ご担当者から「できるだけ満充電近くで返却を」と言われていたので、30分間充電した次第です。原宿帰着時は50%程度で満充電にはほど遠かったですけど、予定より数時間早く返却できたので、海老名からお電話して「問題ないです」という回答をいただいての対処でした。

      ホテルで朝8〜9時くらいまでゆっくりして満充電近くで復路スタートできていれば、QC1回で帰着! を目指したかもしれません。

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この記事の著者


					寄本 好則

寄本 好則

兵庫県但馬地方出身。旅雑誌などを経て『週刊SPA!』や『日経エンタテインメント!』の連載などライターとして活動しつつ編集プロダクションを主宰。近年はウェブメディアを中心に電気自動車と環境&社会課題を中心とした取材と情報発信を展開している。剣道四段。著書に『電気自動車で幸せになる』『EV時代の夜明け』(Kindle)『旬紀行―「とびきり」を味わうためだけの旅』(扶桑社)などがある。日本EVクラブのメンバーとして、2013年にはEVスーパーセブンで日本一周急速充電の旅を達成した。

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