日産『アリア』試乗レポート〜ハンズオフした両手をどうする?【諸星陽一】

日産のフラッグシップ電気自動車となる『ARIYA B6』の試乗会が開催されました。モータージャーナリストの諸星陽一氏が、高速道路でプロパイロット2.0を使ったハンズオフ走行も検証。そのインプレッションをレポートします。

日産『アリア』試乗レポート〜ハンズオフした両手をどうする?【諸星陽一】

4タイプの「グレード」に上下はなし

2019年の第46回東京モーターショーで「ニッサン アリア コンセプト」として発表されて以来、市販が待たれていた新型EV『日産 ARIYA(アリア)』。正式に発表となったのは2020年7月、そして2021年6月にはファーストエディションとなる特別限定車のリミテッドの予約が開始されました。当ブログの運営会社であるアユダンテでも、B6リミテッドを予約、すでに納車されているのは既報のとおりです。

アリアはバッテリーのサイズ(容量)によって2つの基本モデルに分けられます。66kWhバッテリーを積むモデルが『B6』、91kWhバッテリーを積むモデルが『B9』となります。それぞれにFWDと4WDが存在し、FWDはB6とB9、4WDは『B6 e-4ORCE(イーフォース)』と『B9 e-4ORCE』の計4タイプ。グレードの差異はユーザーの使い方に合わせた選択肢であり、基本的に「上下はない」と説明されました。

最初に予約が始まったB6リミテッドは予約受け付け終了、現在は残りの3種のリミテッド(特別仕様車)がウェブでの予約を受付中。標準モデルではB6が注文受付中となっています。

ワンペダルで停止はしない

今回の試乗会では、その標準モデルのB6に試乗することができました。標準モデルではあったのですが、特別仕様のリミテッドとほぼ同等のオプションがプラスされた車両で、リミテッドとの違いはキッキングプレートの有無、ホイールキャップの色程度でしかありませんでした。リミテッドはレザーシート、試乗車はファブリックシートでしたが、標準車でもレザーシートをチョイスすることが可能です。

システム起動時にブレーキを踏むと、しっかりしたフィーリングを感じることができます。リーフのブレーキとは違っていて、踏み慣れた感触を持っています。システムを起動して、アクセルを踏み込むとスッとクルマが前に出ていきます。走り出しの感覚は穏やかで上手にチューニングされています。全幅が1850mmでSUVのためシートポジションも高めとなるので、左前タイヤの位置関係がちょっとつかみづらく、駐車場内の縁石に引っかけないかと心配になります。

世界中でSUVが人気となっていますが、そのわけはいろいろあります。セダンといういかにもフォーマルなものに飽きてきた、荷物も積める実用性がほしい、車高が高いと視界が広くて運転しやすいなどといったことが理由として挙げられています。これらはユーザー目線でSUVの魅力を語った際の理由ですが、じつはメーカー側もSUVのほうが都合がいいことが多くあります。

ひとつはEVにしたときにバッテリーを床下に収めやすいという理由です。また、SUVの場合はデザインとしてボンネットを高くでき、ノーズの先端を垂直配置することができます。フロントセクションをこの形状にすることで、歩行者と衝突した際の安全性を向上することができるのです。ユーザーが求めているものと、メーカーがやりやすいことが合致しているのも今SUVが流行っているひとつの理由でもあります。

アリアにはe-ペダルが装備されていて、ワンペダル操作が可能です。しかし、停止までは行えません。この動きはエンジン車のATやCVTと同じです(減速度はアリアのワンペダルのほうがずっと大きいです)。ワンペダルで停止するか否か? には賛否が分かれます。私はワンペダルで停止しないほうがいいと思います。つまりクリープ現象が使えたほうが便利という考え方です。かつてCVTが登場した際に、クリープ現象がなくて便利とか安全などと言われましたが、市場はクリープ現象を求めました。微低速をアクセルの踏み込み量で調整するよりも、ブレーキの踏み加減で調整するほうがはるかに簡単だからです。

とはいえ、完全停止するワンペダルが欲しい人もいます。CVTにクリープ現象をプラスするにはトルクコンバーターの追加が必要でしたが、EVに完全停止のワンペダルを追加するのはプログラムの変更とスイッチの付け足しで可能なので、選べるようになっているのがベターではないかと思います。

回生ブレーキの強度調節が欲しかった

この日の試乗会場には電気自動車「たま」もお目見え。編集長のマイカーリーフとともに、日産三世代のEVを並べてみた。

今回の試乗会は羽田空港の近くにある施設で行われたので、駐車場を出てしまうと一般道といえどもかなり道幅は広く、クルマの大きさを気にすることなく運転ができます。筆者は都内でも有数の道の狭い地域に住んでいるので、1800mmを超える全幅のクルマにはかなり違和感を覚えるのですが、郊外の広い道幅の地域などであればこのサイズでもあまり気にならないかも知れません。

とくにアリアの場合はモーターユニットを小型化できたことで、前輪の切れ角を大きくすることが可能となっています。日産のエクストレイルと比べるとホイールベースが70mmも延長されているのに、最小回転半径は0.2mも短くなっているのです。一見、使いやすいようなイメージですが、ホイールベースが長くなるのも、ハンドルの切れ角が大きくなるのも、どちらも内輪差を大きくする要因です。今後、電動キックスケーターなどが街にあふれるようになると、乗用車の内輪差問題がクローズアップされるかもしれません。

アクセルを踏み込むと、とくに違和感のない普通の加速感を味わえます。もちろん、アクセルをより強く踏み込むとEVらしい強力なトルク感を持っての加速が可能ですが、自分でクルマを所有して乗っているなら、その行為がエネルギーの無駄使いであり、一時の快楽でしかないことに気付くでしょうから、そこはあまり重要ではないと思います。

アリアにはエコ、ノーマル、スポーツの3つのモードがあり、順番に加速力が強くなります。減速力に関しても同じように順番に強くなりますがそれはe-ペダルをオフにした状態でのこと。e-ペダルがオンの場合はいずれも減速力が最大に維持されます。つまり、減速力を調整するにはステアリングから左手を離して、フロアコンソールにあるスイッチを操作してモードを切り替える必要があるのです。これは極めて非効率的で、モードに関係なくパドルスイッチなどで単純に減速力、つまり回生力の調整ができたほうが使い勝手がいいでしょう。

都市高速でのハンズオフ走行は難しい

アリアには日産ご自慢の自動運転(レベル2)であるプロパイロット2.0がオプションで装備できます。試乗車にも装備されていたので使ってみました。

最初に試したのは首都高湾岸線で空港中央から横浜に向かう道で、制限速度は80km/h、3車線があります。プロパイロット2.0のハンズオフ機能は制限速度+10km/hまでが使えるので、一番左側の車線を走っていればどうにか走っていられますが、復路の1号線上りは2車線で制限速度が60km/hとなり、大型車にも煽られてしまうほど。制限速度が低い路線でのハンズオフ機能の使用は事実上不可能。プロパイロット2.0のハンズオフ機能を首都高速などの都市高速で使える場面は少ないでしょう。

ハンズオフ機能が使えるのはすいているときの東名高速や中央高速などの高速道路ということになります。機会を得て、新東名の120km/h制限区間での走りを確かめてみたいと思います。とはいえ、ハンズオフして、その両手をどうするか? という根本的な話もあります。私自身は手持ち無沙汰で、まだ慣れません。

プロパイロット2.0はオプションなのですが、車庫入れや縦列駐車を自動で行うプロパイロットパーキングは標準で装備されます。クルマが大型化しているだけにこうした自動駐車機構は歓迎できるものです。さらに、オプションとしてリモートパーキングという機構も用意されています。こちらは車外からの操作でクルマを前後させることができるもので、車庫入れ後に降車が難しい狭い駐車場などへも楽々と駐車できるほか、駐車後に運転席側に別のクルマが寄せて駐められてしまったときなどにも助かる装備といえます。

アリアにはコミュニケーション機能としてGoogleアシスタントを使ったスマートデバイス連動が搭載されます。この機能を使うことによって、音声操作によるリモート充電や、乗車前のエアコン作動などが可能となっています。ナビ関連の音声操作は日産コネクトをつかっていて、音声操作系が2系統搭載されていますが、この機能のチェックまでには至りませんでした。

今回の試乗は充電や航続距離のチェックにはもの足りないものでしたが、クルマとして十分によくできていることが確認できたことは間違いありません。もっとも日産は62kWhのリーフで十分な航続距離を実現していますし、今回のアリアではバッテリーの温度管理機能がプラスされているので、充電性能に関してもかなり期待されています。そのあたりの実力については、アユダンテ号でしっかりと検証し、レポートされるのを待ちたいと思います。

撮影のため大黒PAの新型器に立ち寄ると……。偶然、居合わせたアリアは納車されたばかりのアユダンテ号でした。前向きに入れないと、ケーブルは届きません。

(取材・文/諸星 陽一)

この記事のコメント(新着順)2件

  1. テスラはアクセルペダル放したとき
    ・クリープ
    ・ローリング:惰行
    ・ホールド:停止
    3種類から選べます。これが正解でしょう。

    アクアのプロパイロット2状態で両手離してもスマホいじれません。両手ばなしは話になりません。

  2.  個人的には回生ブレーキで止まれる方が自然と思います。クリープ現象はトルコンATの構造上発生していたもので、ブレーキをリリースすると走り出すのは本来不自然です。
     アクセルを軽く踏んで減速するのはある程度以上の速度域では自然な事で、これを停止まで行うと考えれば自然と思います。
     利便性としても、停止間際にブレーキを緩めて優しく止まろうとするとクリープ現象で不自然な動きになりやすいし、無駄なエネルギーを必要とするので不便と思います。
     クリープ現象に慣れている人のために選べるのが1番良く、次が両ペダルを離すと停止と思います。

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					諸星 陽一

諸星 陽一

自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。国産自動車メーカーの安全インストラクターも務めた。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。自動車一般を幅広く取材、執筆。メカニズム、メンテナンスなどにも明るい。評価の基準には基本的に価格などを含めたコストを重視する。ただし、あまりに高価なモデルは価格など関係ない層のクルマのため、その部分を排除することもある。趣味は料理。

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