日産 アリア B6 公道試乗会レポート〜開発に必要な公道テストに規制緩和を!

2020年7月15日に、日産が新型クロスオーバーEV(電気自動車)の『ARIYA(アリア)』を発表してから待つこと1年9ヶ月、ようやく公道試乗会が開催されました。モーターエヴァンジェリスト、宇野智氏のレポートです。

日産 アリア B6 公道試乗会レポート〜開発に必要な公道テストに規制緩和を!

やっと乗れたアリアは『B6』2WDモデル

通常、日産は新型車をデビューさせるとき、先にクローズドコースで先行試乗会を開催するのですが、今回は最初に公道試乗会の開催となりました。この背景には、新型コロナの影響、半導体不足などの諸問題が関係していますが、ともあれ待望のアリアの試乗ができたのはうれしいことです。

今回の試乗車は、バッテリー容量66kWhの『B6』2WDモデルです。バッテリー容量91kWhの『B9』『B9 e-4ORCE』、また『B6 e-4ORCE』(e-4ORCEは4WD)は2022年夏以降の発売計画であることも、今回の試乗会のプレゼンテーションで明示されました。

手のこんだ導管埋め込みの木目調パネル。未点灯時はインジケーターランプが目立たない。ノート オーラにも採用されているが、製造工程は異なるアリア専用のものという。スイッチは静電容量式で、操作時には指にフィードバックを感じさせる仕様。画像左奥の和テイストの文様は、行灯タイプのアンビエントライトで、前席足元にも備える。

ファーストインプレッションは、高い静粛性

試乗会のプレゼン資料末尾に「走り出しから300mでわかるアリアの魅力。ぜひ試乗でご体験ください」と書いてありました。

アリアは、全く新しいEV専用プラットフォームとパワートレインに、新しいデザイン言語をまとって登場しました(アリアの発表後、同じデザイン言語で開発された『ノート オーラ』が先に発売されてしまったので、新鮮さは薄れてしまっていますが……)。真の新型車のファーストインプレッションを体験することは、クルマ好きにとってはこの上ない歓びです。

いざ出発! 走り出しは駐車場内。300mも走らずにすぐに気が付いたのは、とても静かな室内。試乗日は夏日だったため、駐車場内での走行音はエアコンの風の音が大きく感じました。フロント・リアともに合わせガラスを採用し、アリア専用に開発された軽量タイヤ(ブリヂストン『ALENZA』と、ダンロップ『SP SPORT MAXX 050』の2ブランドをラインナップ。筆者の試乗車はダンロップを装着)を採用しています。静粛性の高さは、乗ってすぐにわかるアリアの魅力でした。

駐車場から歩道をまたいで車道に出るときの段差越えでは、アリアのボディ剛性の高さを感じることができました。筆者は、乗り出しの100mと最初の段差越えでボディ剛性の良し悪しを感じるタイプです。

センターコンソールは前後に15cmスライドする。電制シフト下のドライブモード切り替えスイッチも、インパネと同じ導管埋め込み式だが、こちらは物理スイッチで誤操作を防止している。

セカンドインプレッションは、足まわりが……

試乗時間が短く、あらゆる道路状況でのインプレッションが取れませんでしたので、筆者は狭い道幅の生活道路と、信号が少なく60km/hで巡航できる複数車線道路(試乗会場は羽田空港周辺)という、日常生活での利用シーンを想定して走ってみました。

アリアのボディサイズは、全長4,595・全幅1,850・全高1,655(mm)。エクストレイルと比較すると、全長-95・全幅+30・全高-65(mm)となる。

アリアの特長のひとつは、ミドルクラスのSUVで19インチという大径タイヤを履いていながら、最小回転半径5.4mを達成(ちなみに、エクストレイルの最小回転半径は5.6m)していること。ボンネットが短く両サイドが盛り上がっており、運転席からは見切りが良くて車両感覚がつかみやすく、狭い道でも気楽に走れる取り回し性の良さを感じました。

しかし、低中速域での乗り心地は固めでした。特にサスペンションへの入力に対する衝撃吸収が弱く、上下動を感じました。筆者の試乗前のアリアの印象は、リビングをテーマにした上質な車内空間と、突出したスペックを誇らないモーターから、乗り心地はソフトではないかと予想をしていましたが、これはちょっと気になるポイントでした。

路面のうねりに対しての乗り心地は悪くなかったのですが、段差などの上方向の衝撃の吸収の足りなさと大径タイヤを履きこなしていない印象がマイナスポイント。この点について、試乗後の開発担当との意見交換の場でフィードバックしたところ、「アリアは、最も軽量な『B6(2WD)』と最も重たい『B9 e-4ORCE』の車重の差は約300kgある。サスペンションのセッティングは、その中間に合わせた」とのことでした。そうすると、全4グレードあるうち、最もおいしい乗り心地となるのは、『B9』になりそうです。

乗り心地が気になったものの、全体的にマイルドで扱いやすいモーター制御、驚くほどの静粛性の高さは、リーフを50万台以上販売した日産の実力を感じることができました。

最高出力160kW(218PS)・最大トルク300N・mを発生。0-100km/h加速7.5秒、最高速度160km、WLTC航続距離470km(EPA換算推計=約376km)、交流電力消費率166Wh/km(6.0km/kWh)。試乗時の電費表示は4.3km/kWh。アクセル全開加速を何度もするような試乗会での電費でこの数値。

新車の開発がしやすい法規制の緩和が必要か

特に新しいプラットフォームを採用した新型国産車のデリバリー直後は、公道で走ると足まわりの固さやセッティングの悪さが露呈してしまうことがしばしばあります。発売前の新型車の試乗会は、クローズドコースで開催することがよくあり(日産では、追浜工場横にあるテストコース『グランドライブ』でよく開催しています)、筆者も幾度となく参加しています。その中で、クローズドコースでの印象は良かったのですが、発売後に公道で試乗すると「あれ?」と違和感を覚えたことが何回かありました。最近でも、新設計プラットフォーム採用モデルのマイナーチェンジで、足まわりが改善されたモデルがありました。まったくの新型車が、リアルワールドの乗り味がイマイチで、後に改善されることは珍しくありません。

その背景には、日本の法規制が影響している可能性大だと筆者は考えています。新型車の開発では、仮ナンバーを取得して公道でテスト走行を行いますが(カモフラージュ柄で覆われたテスト車両がスクープされていますね)、法規制により期間や走行経路が限定されます。もちろん各メーカーはさまざまな道路環境を再現した自社のテストコースで走行を重ねますが、リアルワールドの多彩な路面状況に比べると限定的にならざるを得ません。

対して、欧州などでは新型車の開発時の公道テストが非常にしやすい環境にあり、発売前にしっかりと仕上げることができます。また輸入車では年間販売予定台数5000台以下の車種という条件に当てはまれば手続きなどが簡略化された「輸入自動車特別取扱制度」によって日本発売前でも正式ナンバーを取得しやすく、デリバリー前にセッティングを調整することが可能です。

先日試乗した、ヒョンデ『IONIQ 5』は、「日本の道を知り尽くした」感がある足まわりの良さをインプレッションとしてお伝えしていますが、実際に日本市場発売前に公道をテスト走行するIONIQ 5の目撃情報がSNS上で散見されるほど(筆者も実際に、熱海でテスト走行中のIONIQ 5とすれ違ったことがあります)、しっかりとテスト走行をして仕上げてきました。

特にEVシフトの最中にあっては、どの自動車メーカーもプラットフォームやパワートレインなどの新開発をしている状況ですので、日本の自動車メーカーより他国の自動車メーカーのほうにアドバンテージがあるといえるでしょう。日本では、新車の開発がしやすい法規制の緩和が必要ではないか、と筆者は考えます。

ただ、国産車メーカーの販売の大部分が海外市場であることを考慮すると、規制緩和したところで、公道走行テストにコストがどれほどかけられるか、といった難しい問題も出てきますね。国産新型車が、欧州・北米から先に発売される理由もこのあたりの問題にあるのかもしれません。

試乗車はオプションのブルーグレーのナッパレザーシートを装備。上質でさわやか。筆者は非常に好みの色合いだ。
リアシートは2段階調節のリクライニングを備える。できればリアシートも前後スライドと十分に倒れるリクライニングを装備してほしいと開発陣を伝えた。

ワイパーの重要性

2020年7月15日にアリアが初披露されたとき「かっこいい!」という評価がSNS上でも多数あがり、筆者も好みのデザインという印象を持ちました。横浜の日産グローバル本社に展示されているアリアは何度も見ていたのですが、試乗会で見た“野生の”アリアも、改めてかっこよさを感じました。日産のデザイン担当が「スリーク(なめらかな・スマートな・小ぎれいな)」と伝えているとおりです。無駄のない、クリーンな印象で、インテリアもすっきりと広々としています。

ひとつだけ気になったのは、リアワイパー。

クリーンでスリークなデザインでまとめられているのに、リアエンドにそこそこの存在感があるリアワイパーは、ミニマルデザインが好きな筆者には「ないほうがいい」と思いました。ハッチバックのIONIQ 5、SUVのジャガー i-PACE はリアワイパーがありません。リアスポイラーで整えられた空気の流れで、リアウィンドウに付いた水滴を吹き飛ばすようにしています。アリアもそうしてほしかった。

この点を、試乗後の意見交換会で伝えたところ、日産の総合的なEV開発担当者から、

「雪が降る地域では、リアスポイラーではウィンドウに付いた汚れを吹き飛ばせないんですよ。そして、先進予防安全システムのカメラもリアウィンドウの内側にあるため、ワイパーが必要なんです」

との説明がありました。筆者はすぐに膝を打ちましたが、「リアワイパーはオプションで付けるか、外すかできませんかね?」とちょっと食い下がってみました。やはり、予防安全システムの安定稼働のためには、外せない装備になるのでしょう。

フロントフェンダー右側に普通充電ポートを備える。
フロント左側の急速充電ポート。駐車スペースと充電器の位置によって、停め方に工夫が必要だ。

今回の試乗会では、アリアの静粛性の高さとモーター制御のすばらしさを体感し、改めてデザインの良さを確認することができました。ミドルクラスSUVでは最大級となるバッテリー容量を誇る『B9』と、新開発の四輪独立制御の『e-4ORCE』は期待大ですね。

アリアのご先祖さま『たま電気自動車』1947年5月発売。御歳75歳。全228台を販売。床下バッテリー(約6.5kWhの鉛蓄電池)の構造はリーフの開発時のヒントになったとのこと。たまの充電は24時間以上かかったことから、タクシーとして運用していたこの個体のバッテリーは着脱式になっている。

次は、アリアで1,000km試乗を予定しています。リアルワールドでの充電性能や電費、多彩な道路環境と長距離走行のレポートをお届けしたいと思います。お楽しみに!

【動画レポートはこちら】


(宇野智チャンネル on YouTube)

(撮影・取材・文/宇野 智)

この記事のコメント(新着順)1件

  1. レポートご苦労さまです。
    発売前のテストがなかなか出来ないとのことですが、去年の半ばくらいから横浜の日産本社周りででアリアが走ってるのをよく見かけましたよ。
    アリアの乗り心地はタイヤの選択にあるような気がします。
    テスラを始めとする大容量バッテリーを積んだEVはほとんどミシュランを採用していますが、アリアはブリジストンですよね。
    タイヤを交換して試乗テストができればいいのですが。

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この記事の著者


					宇野 智

宇野 智

エヴァンジェリストとは「伝道者」のこと。クルマ好きでない人にもクルマ楽しさを伝えたい、がコンセプト。元「MOBY」編集長で現在は編集プロダクション「撮る書く編む株式会社」を主宰、ライター/フォトグラファー/エディターとしていくつかの自動車メディアへの寄稿も行う。

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