長野県が宿泊施設などに充電設備設置を進める条例を制定

長野県は電気自動車(EV)の普及拡大を目指し、宿泊施設や集合住宅などに充電設備を設置することを努力義務とする条例を制定しました。今後は2030年までに「未設置区間ゼロ、電池切れゼロ」を実現する充電インフラの整備を目指します。長野県に条例制定の狙いなどを聞きました。

長野県が宿泊施設などに充電設備設置を進める条例を制定

県をあげて充電インフラの拡充を進める

観光が県の主要な産業になっている長野県は2013年に『長野県次世代自動車インフラ整備ビジョン』を策定し、観光地や幹線道路とそれ以外の場所も含めて、急速充電器や普通充電器などの整備を進めています。

加えて昨年(2021年)6月に、持続可能な脱炭素社会具栗に関する総合的な施策を実施していくために設置した長野県ゼロカーボン戦略推進本部で、『長野県ゼロカーボン戦略』を決定し、2030年までに「未設置区間ゼロ、電気切れゼロの充電インフラ」を整備する目標を掲げました。資料によれば国道19号、141号、406号などに未設置区間が残っているそうです。

なお2030年以降は、2050年までの目標として「自動車はすべてEVまたはFCEV」にするとともに、車の走行距離を減らして「歩いて楽しめる町」を作ることも目指すそうです。

こうした大目標を実現するため、長野県は今年(2022年)4月1日に、長野県地球温暖化対策条例の一部を改正。新たに宿泊施設や集合住宅など多数の人が利用する施設に対して、EVなどの充電設備の設置に努力義務を課しました。

努力義務なので罰則はありませんが、条例をもとに長野県では関係者に周知を進め、充電インフラの拡充を加速する考えです。

道の駅白馬村の急速充電器。出力25kWと非力なのが今となっては悩ましいところ。

条例は充電器の設置を促す効果がある

今回の改正で追加されたのは、長野県地球温暖化対策条例の17条の2で、「多数の者が利用する駐車場のうち規則で定めるものの設置又は管理をする者は、当該駐車場に充電設備を設置するよう努めなければならない」としています。

ここでいう「規則で定める」駐車場は、次の場所です。

・ホテル又は旅館
・共同住宅、長屋又は寄宿舎
・図書館、博物館又は美術館
・文化会館又はこれに類する施設
・公園、遊園地、動物園又は植物園
・体育館その他のスポーツ施設又はキャンプ場
・大規模小売店舗

大規模な駐車場はほとんど含まれると考えてよさそうです。

ただし今回の改正で追加された内容は、罰則のある拘束力の強いものではありません。あくまでも努力義務で、設置は施設の管理者の意識に委ねられています。

それでも条文を追加した狙いについて長野県のゼロカーボン推進室は、電話取材に対しこう説明してくれました。

「規定として掲げることでアナウンス効果があり、設置が意識づけられることに意味があると思っている。EVの利用者も増えていて、お店や施設の管理者にとっても充電設備を持つことは営業効果のある話だと思う。大きな設備にはつき始めているので、その流れのなかで違和感なくやってもらえるのではないか」

急速充電器に長野県が独自の補助金

長野県の資料によれば、県内の充電インフラは2013年時点で普通充電器が119カ所、急速充電器が34カ所だったのが、2019年時点で普通充電器が647基、急速充電器が183カ所まで増えています。

また充電スタンド情報検索サイト『EVsmart』で検索すると、2022年5月24日時点での長野県の急速充電スタンドは525件がヒットします。複数基設置のスタンドがあるので長野県資料の数との違いがありますが、面的に充電スタンドが整備できればEV利用時の不便さが減り、普及に弾みがつきます。

そして、今回の条例改正に合わせたわけではないと長野県の担当課は話していますが、県は今年度(2022年度)当初予算に、初めて急速充電器の設置に対する補助金を盛り込みました。予算で設置を支援する急速充電器の数は20基を想定していて、予算規模は約3000万円になります。

なお長野県では急速充電器への補助金と併せて公用車のEV化、松本合同庁舎への普通充電器設置などに合計3億4000万円の予算を付けています。公用車は、現在の23台を56台にまで増やす予定です。一気に33台はなかなかすごいですね。ちなみに車種は、入札になるのでまだ未定です。

それに急速充電器1基当たり150万円の補助は、けっこう大きな額です。次世代自動車振興センター(NeV)の『充電インフラ整備事業採算性等調査』によれば、急速充電器のイニシャルコストは数百万円~1000万円超です。設置コストのうち機器、工事費は国の補助金もあるので、プラスアルファが県から出れば設置が進むことも期待できます。

一方で、条例で努力義務とした施設は目的地充電を担うと考えられるものの、普通充電器に対する追加の補助はありません。これについて担当課は、基本的には国の補助金を使ってもらうことを考えているとし、「普通充電器への補助がまったく考えられないということではないが、まずはより負担の大きい急速充電器に補助をしていくということ」だと述べています。

ちょっと歯がゆい部分はありますが、価格差を考えると仕方ないというところでしょうか。

普通充電器を増やしてほしい!

宿泊施設で普通充電できるのがありがたい。(白馬村のあぜくら山荘にて)

以上のようなことを長野県に聞いてから少し時間が経過する間に、なんと『インフラ整備ビジョン』が改訂されていました。5月中旬の取材時には、改訂内容を検討しているところで、出す時期は未定と言われていて、充電器の数値目標は出ていなかったのですが、今度は出ています。

ということで、2022年5月27日に改訂された『充電インフラ整備ビジョン』(PDFにリンク)で示された目標などを見てみます。

充電器の設置目標のベースは、前述したように「電池切れゼロ」の充電インフラです。これに加えて『充電インフラ整備ビジョン』では、自宅や事業所などでの充電を基礎に、充電インフラで補完していくとしています。また、EVの利用形態に応じた適切配置や、充電にかける時間に応じた充電方法も考慮していきます。

そして目標とする数は、2030年に急速充電器を700基、普通充電器を3200基としています。現在は、急速充電器が約200基、普通充電器が約600基の、合計約800基です。

設置する場所は、急速充電器については高速道路のSAやPA、道の駅など交通の拠点、観光地の拠点、自動車ディーラーやコンビニ、ガソリンスタンドなどを想定しています。ちなみに長野県内の高速道路のSAとPA、道の駅を合わせると86カ所あるそうです。

普通充電器は、基本的には条例で定めている場所に設置することを想定しています。県内の施設数は、宿泊施設(ホテル、旅館、キャンプ場)が約200カ所、文化施設や公園、大規模小売店舗などが約4000カ所あるそうで、これらに3200基の普通充電器を設置してもらうことを目指します。

また普通充電器は、原則有料での利用を想定しているほか、同じ場所に複数台設置することを進めるとしています。とにもかくにも、長野県は充電インフラ整備のために前に進んでいることがわかります。

普通充電器の課金については議論もあります。従量制にするのかか、一律にするのかは悩みどころかもしれません。個人的には、課金は、宿泊施設であれば一泊1000円とかの定額にしてもいいと思うんです。数万円の課金設備を付けるのもたいへんそうです。

それに、安いとはいえ長野県が目指すように1カ所に複数の普通充電器を付けるとなると、それなりにコストはかかります。そこに、国の補助金プラスアルファがあれば、ハードルがもう一段階、下がるのではないでしょうか。

急速充電器の口数を増やすのは絶対的に必要ですが、目的地充電ができる普通充電器の整備も同時並行で進めた方が、EVユーザーを定着させることができるように思います。

ちなみに長野県内でも有数の観光地になっている白馬村は、200Vの普通充電器の設置に対して4万円を上限とする補助金を設定しています。現在までに約30軒の宿泊施設などがEV充電用200Vコンセントや普通充電器を1~2口設置しています。

課金は、宿泊客は無料のケースがほとんどです。500円くらいとってもいいようには思うのですが、なかなか難しいのかもしれません。

私たちがよく泊まる「あぜくら山荘」には200Vコンセント2口で宿泊者は無料。そろそろ増設を検討中とのこと。

なにはともあれ、長野県は前に進み続けているようです。条例で充電器設置の努力義務を定めるという、ちょっとアクロバチックなやり方はとても興味深いです。「未設置区間ゼロ、電池切れゼロ」の充電インフラ網を1日も早く完成して、県内外のEVユーザーに、長野県ここにあり的なところをみせられるといいなあと思うのです。

(文/木野 龍逸)
※冒頭写真は軽井沢町役場の急速充電器。
※文中、一泊で100円〜200円程度の電気料金になると記載していましたが、実際には料金はもっと高いとコメントで指摘がありました。筆者の意識に20年前のバッテリー容量だった頃の電気料金があったのですが、今のEVは容量が大きいので電気料金も上がります。お詫びして訂正します。

この記事のコメント(新着順)10件

  1. 中部電力管内で宿やってると、今1kwあたり33円ぐらいですから、
    1時間3kw充電とすると100円かかるので、10時間で1000円なのでは?
    宿の規模によって多少違うと思いますが。
    お客さんがたくさん使用すれば基本料金が上がるので、
    もっとかかると思います。

    1. まさ 様、コメントありがとうございます。おっしゃるように、もっとかかるケースもあると思います。別の方にもコメントいたしましたが、中部電力低圧受電の場合、
      https://miraiz.chuden.co.jp/business/electric/menu/smallscale/light/tokutoku/index.html
      27.03円ですね。
      高圧受電の場合は
      https://miraiz.chuden.co.jp/business/electric/menu/office/hi_under/fr/index.html
      17円前後です。

      燃料費調整単価2.7円前後/kWh
      再エネ賦課金3.45円

      低圧受電では仰るくらいの金額になると思いますが、高圧受電のケースのほうが多いと思います。
      例えば15室の宿の場合、1室あたり2kVA程度は最低見る必要があります。これだけで30kVAです。これ以外に全館空調が入るとすぐ高圧になると思います。
      そのため、当サイトでは、平均的な旅館での受電単価は約20円くらいで見ています。すると、1時間で60円、10時間ですと600円くらいになると思います。実際には10時間充電すると30kWh充電される(車両にはおおよそ27kWh)わけで、途中で満タンになる車両もあると思います。

  2. 普通充電器の課金については議論もあります。従量制にするのかか、一律にするのかは悩みどころかもしれません。ただ個人的には、課金は、宿泊施設であれば一泊500円とか700円とか、1000円に届かない程度の定額にしてもいいと思うんです。一泊でせいぜい100円とか200百円程度の電気料金のために、数万円の課金設備を付けるのもたいへんそうです。

    いつも楽しく読んでいますが、今回電気についての基礎知識が不足していると感じましたので意見を書かせて頂きます。

    宿泊施設も慈善事業ではないですし、200V普通充電を複数設置したり契約アンペアが低い場合などは電気の基本料金があがります。
    また電気料金以外に、燃料調整費や再エネ賦課金や消費税が付加され25~30円/kWhになりますので、6時間とか充電したら100円とか200円では済みません。

    1. ダル 様、コメントありがとうございます!

      >6時間とか充電したら100円とか200円では済みません

      おっしゃる通りですね。高圧受電の宿が多いと思いますが、仮に20円くらいとして、6時間だと120円。でも実際には14時間くらいになりますので、280円くらいになるかと思います。14×3=42kWhとなりますので、満タンになっちゃう車両もあると思いますが。。

      >200V普通充電を複数設置したり契約アンペアが低い場合などは電気の基本料金があがります。

      トヨタやパナソニックの充電器だとそうなってしまうのですが、例えばテスラのウォールコネクター+変換アダプターであれば、9.6kW=48Aまで対応可能で、リーフやサクラ/EKも充電可能で、かつ仮に3.2kW=16Aであっても4台まで3.2kWを超えないように電気を分け合って充電させることが可能です。1基61800円ですので価格も他社の製品より圧倒的に低価格です。
      https://www.tesla.com/jp/support/home-charging-installation/wall-connector?redirect=no

    2. 安川様

      返信ありがとうございます。
      書き方がへたくそで上手く伝わらなかったようです。

      >おっしゃる通りですね。高圧受電の宿が多いと思いますが、仮に20円
      >くらいとして、6時間だと120円。でも実際には14時間くらいになりますので、
      >280円くらいになるかと思います。
      >14×3=42kWhとなりますので、満タンになっちゃう車両もあると思いますが。。

      1時間で1kWh消費だと20円です。6時間だと120円ですが、
      200V普通充電での場合は3kW充電のため、3kWで充電できロスを考えない場合は、
      1時間60円になり、6時間だと360円。14時間だと840円です。
      だから100円、200円とは違いますと言いたいのです。

    3. ダル様、訂正ありがとうございます!あ、急いで書いていたら計算間違えてしまいましたね!ダル様の計算で合っています。明日、記事の方は訂正を入れるように指示しておきますね。

    4. 宿泊施設の充電課金方法にコインタイマーの活用を考えています。自身岐阜県飛騨地方の炭酸泉旅館を贔屓してますがそこは10室以下で低圧受電なんで仮にEV充電コンセントをつけたら電気代だけで33円/kWhとして1時間100円/3kWhですよ。当然工事費もかかるため、安価かつ確実に入金するにはコインタイマーで90分200円とかに設定しなければ割に合いませんよ。
      高圧受電の場合基本料金3kWアップで5000円増額なんで、ピーク時間帯には充電器を稼動させない設定にするかもしれません。それがうまくいけば20円/kWhだとしても工事費を含めれば1時間100円は可能。それもコインタイマーをピーク時間帯以外に稼動させるなど工夫が必要です。ひなびた宿が好きな僕は10室以下の小さな宿ばかり泊まってるから宿泊充電はあまり縁がないかもしれませんが。
      しかし長野県みたいに条例で縛ると小さな民宿は苦慮するかもしれませんね…もっとも例外規定はあるかもしれませんが。

  3. 長野県というと今までは「急速充電器が少ないなー」というイメージがありますが、これで解消されるといいですね。
    ところで、ホテルで普通充電をさせてもらう時いつも思うのは「出力がもっとあったら・・」ということです。特に遅着き早出の場合は必要な充電量が得られないので、到着前に急速充電器を探して”基礎“充電をしたりします。「これではEVで仕事は無理」と思う人がいても不思議ではありません。
    貴ブログによれば、テスラのウオールコネクターにアダプターを付ければ3kWを超える充電が可能なようですから、長野県に情報提供して普及を促進して頂いたらどうでしょうか?(もちろん他の6kW器でも大歓迎です)

    1. 日本の大半の普通充電は相変わらず3kWですが、もうこんな低速設備(コンセント)に補助金出すのはやめるべきだし6kWを標準にして欲しいです。
      実際に役人も政治家も電気自動車に乗っていないから使い物にならないのが分からないのでしょう。
      50kW未満の(自称)急速充電もですが、これらの時代遅れ設備のせいで日本では電気自動車が使い物にならないと言われる元凶になっていると思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


この記事の著者


					木野 龍逸

木野 龍逸

編集プロダクション、オーストラリアの邦人向けフリーペーパー編集部などを経て独立。1990年代半ばから自動車に関する環境、エネルギー問題を中心に取材し、カーグラフィックや日経トレンディ他に寄稿。技術的、文化的、経済的、環境的側面から自動車社会を俯瞰してきた。福島の原発事故発生以後は、事故収束作業や避難者の状況のほか、社会問題全般を取材。Yahoo!ニュースやスローニュースなどに記事を寄稿中。原発事故については廃棄物問題、自治体や避難者、福島第一原発の現状などについてニコニコチャンネルなどでメルマガを配信。著作に、プリウスの開発経緯をルポした「ハイブリッド」(文春新書)の他、「検証 福島原発事故・記者会見3~欺瞞の連鎖」(岩波書店)など。

執筆した記事