レンタカー利用で実感したノルウェーの現地EV事情/国全体の徹底したEVシフトと快適な充電環境

Nordic EV Summitを終えた翌日、オスロで1日の時間を確保し、レンタカーで市内から郊外を走りながら充電インフラ環境と実際の使い勝手を検証した。データや報道でおなじみのノルウェーのEV事情も、現地でハンドルを握って初めて実感できることがある。今回はその体験をレポートしたい。

レンタカーもすべてEVが「当たり前」の世界

今回はHertzでレンタカーを手配し、VW ID.3と同等クラスを指定したところ、ID.4が割り当てられた。同社のウェブサイトを見ても、ラインアップはEVのみで内燃機関車の選択肢はない。その後訪れたベルリンでもレンタカーを利用したが、EVは1車種程度でプレミアム価格が設定されており、対照的だ。

受け渡しはオスロー中央駅の駐車場で行われ、スタッフからの車両説明もほぼなく、バッテリー残量85%程度のまま出発するよう促され、残量60%くらいまでならそのまま返却して良いとのこと。ガソリン車であれば満タン返しが原則となるが、電気代の安さを背景にこうした運用が成立している。ノルウェーでは、乗用車は基本EVであることが社会インフラの前提となっており、そこに特別感はまったくないようだ。

象徴的なガソリンスタンドの充電ステーション転換

最初に向かったのが「St1 Marienlyst」の充電ステーションだ。1960年代からオスロー市内で稼働してきたこのガソリンスタンドは2025年、ノルウェー初(北欧初)の「完全無化石燃料型エネルギーステーション」へと転換した。60年以上にわたって燃料を供給してきた施設がEV充電専用に生まれ変わった、電動化の進展を象徴する場所だ。

ここに設置されているのが、フィンランド発のDC急速充電メーカー、Kempowerの充電器だ。Kempowerは欧州を中心に急速な成長を遂げ、2025年のFinancial Times「FT1000」で欧州8位の成長企業に選出。2030年までにグローバルDC急速充電市場でトップ3入りを目指す戦略を掲げており、充電インフラ業界で存在感を増している企業。昨年フィンランドを訪れた際も充電器はほとんどがKempowerのものであった。

充電器の操作はシンプルに徹している。認証もアプリも不要で、プラグを接続してクレジットカードをタッチするだけだ。デポジットが一時請求され、充電終了後に実際の使用量のみが課金される仕組みで、充電中はQRコードからリアルタイムで残量と金額を確認できる。一連の操作に迷う要素はなく、EVに不慣れなユーザーでも直感的に使いこなせる設計だ。

以前、韓国の充電スタンドで認証や住民IDが必要なために充電できなかった経験があるだけに、このユーザー体験の洗練度には改めて感銘を受けた。ハードウェアの性能だけでなく、ソフトウェアとユーザー体験の設計こそがEV普及の鍵であることを、ここでも実感した。周りでは複数のタクシーが充電する様子からも、インフラが業務利用レベルで日常に溶け込んでいることが伝わってくる。

続いて高速道路沿いのサークルKに立ち寄った。欧州各地で展開するこのチェーンでは、敷地の大半を充電エリアが占め、給油スペースはごくわずかだ。CCSに加えてCHAdeMOケーブルも設置されていたが、実際に利用されている様子はなく、充電規格の移行が着実に進んでいることを示していた。

Bygdøy半島の駐車場からみるEV優遇の思想

市内観光を兼ねてBygdøy(ビグドイ)半島へ向かった。オスロー西部に突き出したこの半島は、ノルウェー海洋博物館など世界的な博物館が点在する、オスローを代表する観光エリアだ。オスローフィヨルドを望む緑豊かな環境で、国内外から多くの観光客が訪れる。半島内には閑静な住宅街が並び、海岸へアクセスするためには手前の公園で駐車する。

公園の駐車場で精算機を操作すると、ナンバープレートの入力後に「EVかガソリン車か」の選択画面が表示された。ノルウェーは2017年頃より本格的なEV優遇政策を推進してきた。購入時の登録税・VAT免除を筆頭に、有料道路やフェリー料金の割引、公共駐車場の料金優遇など、日常生活のあらゆる接点でEVを優遇する仕組みが整備されている。

これらはバラバラの個別施策ではなく、「EVであることが経済的に合理的」という状況を社会全体で作り出すための包括的な設計と言える。駐車場の精算機というありふれた場面にも、その思想が一貫して反映されている。

IONITY〜欧州を網羅する急速充電ネットワーク

夕食の買い出しに立ち寄った商業施設エリアには、IONITYの充電スポットが設置されていた。IONITYはBMW、フォード、ヒョンデ、メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲングループが共同出資するEVインフラ企業で、欧州24カ国に866以上のステーション、6,000基以上の充電ポイントを展開する欧州最大級の急速充電ネットワークだ。

最大400kWの高出力充電に対応し、10〜15分で約300km分の航続距離を回復できる。ここでも充電器に表示されたQRコードから多言語対応の詳細画面にアクセスでき、言語の壁を感じさせないUIが整備されている。テスラのモデルXやBMWが次々とプラグインする光景は、EV充電がすでに給油と同格の日常行為として定着していることが見て取れる。

ちなみに、ドイツのアウトバーン沿いで訪れたIONITYのステーションも、充電待ちが出るほどの混雑ぶりだった。充電中のKIAオーナーと会話したところ「燃料費の高騰でディーゼル車は現実的ではなくなった。IONITYの充電プランなら急速充電でも1kWhあたり39セント(約60円)程度、自宅充電ならさらに安く抑えられる」とのことだった。ドイツのガソリンは1リッターが390円程度であり、エネルギーコストの観点から、欧州全体でEVへの移行が加速していることを改めて実感した。

世界最先端のノルウェーEV普及

ノルウェーにおける2025年の新車販売に占めるEV比率は97%以上に達した。人気モデルはテスラ モデルY、VW ID.4、ボルボEX30、最近はトヨタ bZ4Xが躍進している。

エネルギーコストの面でも優位性は明確であり、公共急速充電でも1kWhあたり約86〜110円程度で、1リットル約400円のガソリン代と比較して走行コストは大幅に低い。電力の約90%を水力発電でまかなうノルウェーでは、EVを走らせることがそのまま脱炭素の実践となる。

充電インフラについても、今回、1日のドライブで複数の急速充電スポットを通過した。都市部から郊外、高速道路沿いまで途切れなく充電網が整備されており、俗に言われる航続距離不安を感じる局面は全くなかった。

政策の一貫性が生み出した成熟したEV社会

オスローの街を走ると、日本では見かけない多彩なメーカーのEVが行き交い、充電器は市内のいたるところに点在している。これはノルウェー政府が長期にわたって推進してきた包括的なEVシフト戦略の成果であり、化石燃料に依存しないモビリティの将来像を具体的に示していると言える。

水力発電を軸とする豊かな再生可能エネルギーなど、ノルウェー固有の条件があることは事実だが、「インフラ整備・税制優遇・ユーザー体験の最適化」を一体として推進するアプローチは、多くの国の電動化政策に示唆を与えるものだろう。日本のさらなる電動化を考える上でも、オスローでの1日は多くの視点を提供してくれた。

文/前田謙一郎(x.com