欧州を代表するEV国際会議「Nordic EV Summit」報告/サミット登壇から見る欧州のEV論点

ノルウェーのオスロ近郊で「Nordic EV Summit 2026」が開催されました。このカンファレンスに、EVsmartブログの著者である前田謙一郎氏が登壇。現地でのセッションなどを通じて確認できた、欧州におけるEV普及の現状に関するレポートです。

EV先進国ノルウェーが主導するサミット

2026年5月6~7日、ノルウェー・オスロ近郊リレストロム(Lillestrøm)のNOVA Spektrumで「Nordic EV Summit 2026」が開催された。ノルウェーEV協会(Norsk elbilforening)とNOVA Spektrumが共催する欧州最大級のEV国際会議だ。今年は50カ国から約1,200名が参加、政策立案者、自動車メーカー、充電インフラ事業者、研究機関が一堂に会した。

「ゼロエミッション交通の加速」をテーマに、政策・技術・市場の最前線を二日間にわたり議論する場である。今回は私自身も2つのセッションに登壇したので、その内容とサミットについてお届けする。

このサミットは2017年から毎年開催され、今年で10回目を迎えた。ノルウェーは同じ2017年に、2025年に販売されるすべての新車乗用車およびライトバンをゼロエミッション車両とする国家目標を打ち立てた。そして2025年通年の新車販売では全体の97%以上(BEV 95.9%/PHEV 1.5%)に達し、この目標を事実上達成している。サミットはこうした実例とベストプラクティスをもとに、欧州の電動化において重要な役割を果たしてきた。

会場のNOVA Spektrumはオスロ中央駅から電車で15分ほど。充電器メーカーやソフトウェア企業に加え、NIO、Xpeng、MG、テスラといったメーカーは試乗車を展示している。ネットワーキングのため、商談スペースやノルウェーの伝統料理を楽しめるブースも用意されていた。ステージはメインとサブの2つで、欧州ならではの水準の高い講演やパネルディスカッションを聞けると同時に、欧州が直面する課題を間近に感じることができた。

伝統メーカーが直面する「カーマゲドン」

私が登壇した初日のメインステージのプログラムが「Are we facing Carmageddon?」だ。"car"と"Armageddon(ハルマゲドン)"を組み合わせた造語で、伝統的メーカーは破滅の危機に直面しているのか? というのがテーマである。

欧州交通環境連盟(T&E)、英シンクタンクCarbon Tracker、カナダのEV・自動運転推進機構の幹部らとともに議論した。モデレーターは、英国でEVインフルエンサーとして著名なRoger Atkins氏(セッション風景は冒頭写真)。

いま欧州では中国メーカーが躍進し、その価格競争力と先進性の高さから、伝統メーカーは技術革新の波に乗り遅れ、「Kodak Moment(コダック・モーメント)」を目の当たりにしているのではないか、という危機感が共有された。

T&EのJulia Poliscanova氏は、環境規制・グリーンモビリティ推進の立場から、欧州メーカーの遅れと規制の弱体化への懸念を挙げた。中国メーカーが技術的にリードするなか、EUが2035年の完全ゼロエミッション目標についてe-fuelを認めるなどやや後退させたことを問題視。欧州メーカーが生き残るにはバッテリーサプライチェーンの強化、ソフトウェア投資の加速、規制の明確化が不可欠であり、緩い規制はむしろ投資リスクを高めると的確に指摘した。

Carbon TrackerのBen Scott氏は、金融・気候リスクの観点から分析する。内燃機関中心のビジネスモデルを続ければ投資家が資金を引き揚げ、株価・財務に深刻な打撃を与えかねないと述べ、適応策としてSDVへの移行や新興メーカーとの戦略的提携を挙げた。

私からは、世界的に見てもユニークな日本市場の状況と課題を提示した。トヨタをはじめ世界大手を抱えながら、BEV比率はわずか2%程度で、ハイブリッドが多くを占める。国全体が内燃機関のエコシステムで成り立ち、米国では収益を上げてきた一方、中国や東南アジアではシェアを落としている。中長期的に早期の移行が必要であることを論じた。

モデレーターのAtkins氏は、35年以上にわたり自動車業界の変遷を見つめ、欧州を中心にメーカーのトップ経営陣へのインタビュー経験も豊富な人物である。短いセッションのなかでも各パネリストの発言を素早く捉え、「伝統メーカー対中国勢」「規制対市場の現実」という対立軸を整理し、参加者に危機感と希望の双方を喚起する見事なファシリテーションだった。

セッションを通じて得られた共通の方向性は伝統メーカーが単独で、あるいは同じ従来型メーカーとの協業だけで新たな市場を勝ち抜くことは難しく、中国メーカーとの戦略的パートナーシップを強め、ソフトウェアや自動化の領域を補う必要があるということ。EUの規制緩和は一時の猶予に過ぎず、メーカーは電動化と自動化を急ぐべきということだった。この共通課題を、欧州・北米・日本のパネリストが短時間で確認できたのはサミットならではの収穫だ。

EVは「エモーショナル」になれるか?

2日目のオープニングセッションは「The Future of Electric Vehicle」。冒頭はLucid Motors Europe社長のLawrence Hamilton氏とNordic EV SummitのLars Godbolt氏によるカジュアルな対談形式で始まり、続いてインダストリアルデザイナーのBror Alwin氏と私が参加するパネルディスカッションへと広がった。「デザイン・電動化・自動車への愛着」を軸に、イノベーションと感情をどう繋げるかを論じる構成である。

Lucid Motorsは日本では馴染みが薄いが、カリフォルニア州ニューアークに本拠を置く高級EVメーカーで、テスラの有力なライバルとして注目されてきた。Hamilton氏は、Lucidの最高峰の電動技術を実現しつつ、運転する喜びと美しさを一切妥協しないという方向性を強調していた。また、主力のAirとGravityを通じて業界トップクラスの航続距離・効率・ラグジュアリーを追求しており、車は単なる移動手段ではなく、感情を揺さぶる存在であり続けるべきだと説明。業界で30年以上の経験を持つ同氏の「EVの未来は技術だけでなく、人々が車を愛する気持ちをどう活かすかにかかっている」という言葉には私も共感した。

続いて登壇したAlwin氏は、ノルウェーの工業デザイナーで、テスラのチューニング・デザイン分野で注目される人物だ。アメリカのUnplugged Performanceと協力し、テスラベースのレーシング車両などのデザインを手がけてきた。学生時代に制作したコンセプトがイーロン・マスク本人に公に認められたことがキャリアの転機となり、その後もイーロンが彼のプロジェクトにコメントするなど注目を集めている。サミットでも彼のモデル3が展示され、来場者の関心を引いていた。

私からは、かつてポルシェとテスラで電動化を推し進めた経験や、モデル3を日常使いしながらポルシェも所有する立場から論点を提示した。EVが航続距離やコネクティビティといった「便利な道具」にとどまらず、たとえば2シーターの電動スポーツのように、よりエキサイティングなボディシェイプで運転を楽しむモデルが登場すれば、より感情に訴える存在になり得るのではないか。

現状の電動市場を牽引するのは中国メーカーであるが、すべてが同じ方向に進む必要はなく、伝統的なメーカーがどう差別化を図るか、そこに新しいブランドを定義する余地があることを提示した。欧州でも同じ課題を共有でき、有意義なセッションとなった。

注目のセッションが目白押し

両日を通じ、EV移行のテーマを掘り下げた以下のセッションも注目を集めた。

EU政策の現状と影響(EU policy in the electric era)では、EUの規制緩和(2035年ゼロエミッション目標の後退)と、その欧州メーカーへの影響を分析。中国メーカーとの競争激化や投資意欲の低下など、政策変更が業界にもたらす現実的なリスクと対応策が議論されていた。

EVが政治化する理由(Why are EVs so politicized?)では、EVが単なる環境技術ではなく、雇用・エネルギー安全保障・国民的アイデンティティ・政府の役割といった社会対立の象徴になっている背景を考察。欧州社会におけるEV議論の政治的・感情的な側面を浮き彫りにしていたが、日本での議論にも通じるところがあり非常に興味深いセッションであった。

大型トラック輸送の電動化(Electrifying heavy duty transport)では、Volvo TrucksのMarie Carlsson氏や、WindroseのWen Han氏らが登壇。電動トラック・バスの大規模実用化に向けた最新プロジェクト、充電インフラ・バッテリー課題・運用コストなどを議論し、乗用車に次ぐ成長領域としての可能性を述べていた。

Nordic EV Summitが示すもの

サミットは、欧州各国、北米、そしてアフリカまで、産業・政策・研究と幅広い分野の参加者が集い議論を交わす素晴らしい国際会議だった。

こうしたイニシアチブがあったからこそ、ノルウェーはほぼ100%という電動化を実現できたのであり、世界もそのベストプラクティスを取り入れようとしている。このような政策と産業を結ぶ包括的な視点こそ、いまの日本にも必要な議論ではないだろうか。

文/前田謙一郎x.com

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