東京ビッグサイトで開催されたフォーミュラEのイベントに、長野県白馬村の丸山俊郎村長が登壇。電気自動車で白馬へ訪れてもらうことが、自然を守る第一歩になるというメッセージを世界に向けて発信した。白馬村観光局では「電気自動車で白馬へ!」キャンペーンを展開中。EV充電インフラも充実している。
観光地だからこそ移動によるCO2排出と向き合う
2026年7月24日、東京ビッグサイトで開催されたフォーミュラEのサミットイベント「Change. Accelerated. Live Tokyo」に、長野県白馬村の丸山俊郎(まるやま・としろう)村長が登壇した。世界最高峰の電気自動車レースが開催される東京で、人口およそ8000人(インバウンドの隆盛で冬季は人口も増えるという)の山岳リゾートが発信したのは、単なるEV導入事例ではない。
観光で人を呼びながら、地域の自然をどう守るのか。雪国でEVをどう使い、充電環境をどう育てるのか。そして、訪れる人を「環境を守る仲間」に変えることができるのか。村長の言葉から見えてきたのは、EVを単なる移動手段ではなく、自然、観光、地域経済をつなぐ存在として捉える「白馬ならではの電動化の未来」だった。
白馬村が本格的に環境政策に取り組み始めたのは、丸山村長の就任以前にさかのぼる。2019年に「気候非常事態宣言」を行い、翌2020年には2050年までに二酸化炭素排出量の実質ゼロを目指すゼロカーボンシティを表明した。
背景にあるのは、白馬が北アルプスの自然と雪から恩恵を受けて成り立ってきた村であるという、切実な実感だ。
「白馬村は、自然環境の恩恵によって産業も暮らしも成り立っています。その環境に対する取り組みは、当然のこととして必要です」(丸山村長)
一方で、白馬の基幹産業である観光は、多くの人が地域の外から移動することで成立する。人が訪れれば、交通によるCO2排出や廃棄物などの環境負荷も増える。観光をやめることはできない。しかし、従来どおりの観光を続けているだけでは、持続可能な産業とはいえない。
そこで丸山村長が可能性を感じているのが、来訪者の移動モビリティをエンジン車からEVへと転換することだ。
「人の移動を維持しながら、効果の高い脱炭素の取り組みができる手段のひとつがEVです。白馬の自然が好きだから、一緒に守っていこうと思ってくださる方を歓迎したいと思います」(丸山村長)
環境への配慮を、観光客に我慢として求めるのではない。静かで力強いEVを運転し、美しい風景や温泉、食を楽しむ。その旅自体が、地域の自然を守ることへつながっていく。白馬村が目指しているのは、そんな観光のかたちだ。
「EV歴は約4年」村長の愛車は中古で買った日産リーフ
丸山村長自身も、日常的にEVを利用するオーナーだ。現在の愛車は、2代目の日産リーフ(ZE1)。以前に旧型リーフを借りて乗ったことをきっかけにEVの良さを実感し、村長就任後に中古車を購入。「今のリーフが2台目で、EVに乗り始めて4年くらいになります」という。
主な用途は、旅館を営む自宅から村役場までの移動だ。EVに乗って感じるメリットを尋ねると、まず挙がったのは静粛性。そして、燃料価格の変動をあまり気にせずに済む安心感だった。
「ガソリン価格が高騰しても、EVならそれほど心配しなくていい。環境に大きな負荷をかけていない、という気持ちで乗れるのもいいですね」(丸山村長)
白馬のような寒冷地では、乗車前にスマートフォンからあらかじめ空調を作動させられることも大きな利点だという。出発前に車内を暖めても、アイドリングは不要で排気ガスを出すことはない。日々の快適性と環境負荷の低減が、無理なく両立している。
一方、雪国ならではの課題もある。
丸山村長のリーフは前輪駆動の2WDモデル。除雪が行き届いている白馬村の道路自体には大きな問題がないものの、降雪直後の駐車場などではスタックしやすいことがあるという。
「役場へ乗っていくのに、あまりいかつい4WDの車種だと目立つかなと思って2WDにしたんですけど(笑)。雪の多い駐車場では、やはり4WDが欲しいですね」(丸山村長)
これはEV特有というよりも、雪国における駆動方式や最低地上高、タイヤ選びの問題でもある。とはいえ、寒冷地でEVを普及させるには、手頃な価格で選べる4WDモデルの充実が重要であることを、村長の実体験が示唆している。
充電インフラは豊富だが充電器にも「雪かき」が必要
EVオーナーにとって、冬の白馬で気になるのが充電環境だ。
白馬村では道の駅や温泉施設などに急速充電器が設置されているほか、多くの宿泊施設が普通充電設備を備えている。人口8000人程度の村内に、約100口の普通充電器、そして6口の急速充電器(まだ増加中)が設置されているのは、日本屈指の「EVリゾート」と呼んでいいだろう。丸山村長が経営する旅館にも普通充電器とEV用200Vコンセントがあり、宿泊者が滞在中に利用できる。
ただし、雪国の充電器には、都市部にはない維持管理が必要になる。
「雪が降れば、充電器の前も雪かきをしなくてはいけません。何日か放っておくと雪が積もって、クルマを寄せることも、ケーブルを扱うことも難しくなります」(丸山村長)
充電器は、設置すれば終わりではない。除雪、故障時の対応、駐車スペースの確保、表示の分かりやすさなど、実際に使い続けるための運用が欠かせない。豪雪地帯の充電インフラを考えるうえで、「充電器の前を誰が雪かきするのか」は、地味だが非常に重要な論点だ。
丸山村長は、急速充電器についても「もう少し増えるといい」と話す。ただ、EVで白馬を旅する際は、急速充電だけに頼る必要はない。宿泊施設で一晩かけて充電する「目的地充電」を活用すれば、観光や食事、温泉をゆったり楽しんでいる間に翌日の電力を補うことができる。
滞在時間が長い観光地だからこそ、白馬と普通充電の相性はいい。
「いざ、白馬!」から13年〜EVオーナーが育てた土壌
白馬村とEVの関係を語るうえで欠かせないのが、日本EVクラブと白馬EVクラブが開催してきた「ジャパンEVラリー白馬」だ。市販EVのバッテリー容量がまだ小さく、長距離移動や充電に今以上の計画性が必要だった2010年代のはじめから、EVオーナーたちは「いざ、白馬!」を合言葉に全国各地から村を目指してきた。
2026年の今年は13回目を迎え、約100台のEVが白馬ジャンプ競技場に集結した(関連記事)。
EVで白馬へ訪れること自体が冒険だった時代から、EVオーナー同士が再会し、試乗やパレードを楽しむ祝祭へ。継続して訪れるオーナーの存在は、宿泊施設への充電器設置や、地域住民のEVへの理解を後押ししてきた。
行政が一方的にインフラを整備したのではない。EVで訪れる人がいて、充電を受け入れる宿が増え、イベントを支える地域の人々がいる。その積み重ねによって、白馬は「EVで行きやすい観光地」へと育ってきた。
EV普及は、車両の販売台数や充電器の基数だけでは測れない。使う人、迎える人、地域で支える人の関係をどうつくるか。その答えのひとつが、白馬で十数年をかけて育まれている。
EVで走りたい白馬の絶景ルート
では、実際にEVで白馬を訪れたら、どこを走るべきだろうか。
丸山村長が薦めるのは、標高約1500mの黒菱平へ向かう黒菱スカイラインだ。夏でも標高が上がるほど空気が涼しくなり、北アルプスの山々を間近に感じられる。エンジン音のないEVなら、窓を開け、風や鳥の声を聞きながら山を上ることができる。
北アルプスの山々を東側から眺めるルートもまた絶景という。
「白馬は西側に山脈がそびえているので、東側の高台から見る景色が素晴らしいんです。野平、青鬼、大出のあたりをEVで巡るのは、本当におすすめです」(丸山村長)
青鬼地区には棚田と伝統的な集落景観が残り、大出地区では姫川の流れと吊橋、北アルプスを一度に望むことができる。
どちらも、目的地へ急いで通り過ぎるには、あまりにもったいない。EVを止め、窓を開け、水の音や風の匂いを感じながらゆっくり巡りたい場所だ。
八方の湯や道の駅周辺では、温泉や食事と充電を組み合わせることもできる。そばやおやき、そば粉のガレット、紫米、白馬豚、信州サーモンなど、山と水が育んだ食も白馬の魅力である。
「白馬は、とにかく水がおいしい」と丸山村長。その水が米や野菜を育て、川や湿原の生態系を支えている。温暖化は雪だけでなく、水温や農業、生物多様性にも影響を及ぼす。EVで静かに景色を巡ることは、白馬が守ろうとしているものを、五感で理解する旅でもある。
「モータースポーツ」と「自然」〜EVなら共存できるか
この日、丸山村長はこの日初めてフォーミュラEの走行を目の当たりにした。
「静かさと迫力が両立していることに驚きました。観光や自然環境と、クルマは相反する部分があると思っていましたが、EVによって共生できる可能性を感じました」(丸山村長)
もちろん、EVであれば環境への影響がゼロになるわけではない。車両やバッテリーの製造、発電、タイヤや道路、移動そのものが生む負荷について、継続的に検証していく必要がある。
それでも、排気ガスを出さず、騒音を大幅に抑えながら、移動の楽しさやモータースポーツの迫力を保てることは、自然観光地にとって大きな可能性だ。
フォーミュラEのマシンと、白馬を走る一台のリーフは、性能も使われ方もまったく異なる。しかし、電気で走ることによって「クルマがある未来」と「自然を守る未来」を重ね合わせようとしている点では、同じ方向を向いている。
観光客も自然を守る「当事者」に
2026年6月、白馬村では宿泊税の課税が始まった。美しい山岳景観や生活文化を守り、村民の暮らしと調和した持続可能な観光を進めるための財源だ。
丸山村長は、友好都市であるオーストリア・レッヒ村など海外の事例にも学びながら、観光によって生じる環境負荷を、地域だけに負わせない仕組みが必要だと話す。
「観光客が増えれば、ごみも増え、環境への負荷も増大します。そのための財源を確保しなければ、持続可能な観光地として成り立ちません。これは白馬だけでなく、日本が観光立国を目指すのであれば、本気で考えなければいけないことだと思います」(丸山村長)
目指しているのは、訪れる人にも自然を守る役割を少しずつ担ってもらい、その土地を次の世代へ残すための「仲間」になってもらうことだ。これからは、EVで白馬を訪れることはたんなる観光ではなく「私は自然を守る一員である」というひとつの意思表示になっていくのかもしれない。
会議室を飛び出す「白馬版環境サミット」構想
登壇後のインタビューで、丸山村長は将来、白馬で環境をテーマにした国際会議を開催したいという構想も語ってくれた。ただし、参加者が会議室に集まり、講演を聞いて帰るだけのサミットではない。
山や森、湿原、農地へ実際に出向き、自然環境を体験し、保全活動にも加わる。地域の住民、研究者、事業者、行政、アスリート、来訪者が同じ風景を見ながら議論する。そんな「白馬でなければできない環境サミット」を思い描いている。
「ここに暮らしていると、カエルの声や雪解け水の音などが常に生活の傍らにある」と、白馬村GX統括監の白濱雄太(しらはまゆうだい)氏は語る。そんな生態系を間近に感じられる白馬だからこそ、地に足のついた環境論議ができる。
「都会にいると、生態系という言葉を実感するのは難しいかもしれません。でも白馬では、命の息吹が足元にある。それを実際に来て、感じてほしいですね」(白濱氏)
EVは、白馬の環境問題を一台で解決する魔法の道具ではない。しかし、自然を壊さずに移動したいと考える人を白馬へ運び、地域の人と出会わせ、課題を知るきっかけをつくることはできる。
最後に、丸山村長はEVsmartブログの読者へ、こう呼びかけた。
「白馬は、EVを愛する皆さんと非常に相性のいい村です。EVで来ていただくことで、この自然を守る一員にもなっていただける。ぜひ、白馬へ遊びに来てください」(丸山村長)
充電器を検索してルートを組み、宿でゆっくり充電する。翌朝、満充電に近いクルマで走り出し、窓を開けて山の空気を吸う。エンジン音や排気ガスに遮られず、鳥の声や水の流れを聞く。
白馬へのEV旅行は、電気自動車の実用性を確かめる旅であると同時に、その電気で何を守り、どんな未来へ向かうのかを考える旅になるはずだ。
【関連サイト】
電気自動車で白馬へ!キャンペーン 公式サイト
取材・文/三代(みよ)やよい








