欧州で初解禁となったオランダのテスラFSDを日本未導入の「モデルY スタンダード」で体験【前田謙一郎】

Nordic EV Summitへの参加を終え、ノルウェーのオスロからオランダのアムステルダムへ向かった。テスラのヨーロッパ本社を訪れ、欧州で初めて解禁になったFSD(フル・セルフ・ドライビング)を体験するためだ。日本未導入のモデルYスタンダードモデルとFSD走行、そしてEVの取り組みで欧州をリードするオランダの自動車風景をレポートする。

SDVとしての価値を実感/モデルY スタンダードに初試乗

テスラのヨーロッパ本社は、アムステルダムのビジネスエリアにあり、ストアとサービスセンターも兼ねている。EMEA(Europe, Middle East and Africa)地域全体の統括拠点として機能しており、販売、マーケティング、ソフトウェア開発などを管轄している。私自身、テスラ在籍時代の2018年に出張で訪れたことがある拠点だ。現在は販売部門が新たに拡張されたオフィスへ移転していた。

サービスセンターのロビーで待っていると、今回試乗するモデルYスタンダードが用意された。昨年アメリカで廉価モデルとして投入されたこのグレードは、日本には導入されていない。アメリカのギガ・テキサス工場で目にした際にはちょうど立ち上げ時期で乗ることができなかったので、今回は良い機会となった。

モデルYスタンダード(欧州仕様)の概要

欧州仕様のモデルYスタンダードは2025年10月からデリバリーが開始され、価格は€40,990(約762万円)からとなっている。スペックは以下の通りだ。

●航続距離(WLTP):534km
●最高出力:220kW(299hp)
●0-100km/h加速:7.2秒

上位プレミアムグレードとの主な違いとしては、ファブリックシートの採用、リアモニターなし、フロントのLEDライトバーなし、センターコンソールの形状変更、ステアリングコラムの手動調整、スピーカーが7個(上位グレードより少ない)、パノラマルーフなし、といったポイントが挙げられる。一方、AI4コンピューターは搭載しており、FSDへの対応は上位モデルと変わらない。

ミニマルなインテリアは好印象

私は普段モデル3に乗っているが、モデルYスタンダードに実際に乗ってみると、インテリアの印象はミニマルで、とても好印象だった。ファブリックシートについては、全く悪くなく、むしろ、合皮のプラスチック感が苦手な人にはおすすめできる。

一点、シートの位置調整がスクリーン上でしかできないのは少し面倒に感じた。ただ、実際に所有することを考えれば、一度設定してしまえば滅多に変更することはないので、問題ではないはずだ。廉価モデルになるとハードウェアのボタンが省かれ、代わりにソフトウェアで制御するというのはいかにもテスラらしい。従来の車であれば手動調整レバーに相当する部分が、テスラではソフトウェア化されているわけで、開発思想の根本的な違いを感じる一面だ。

リアモニターがないこと、センターコンソールの形状が異なること、こうした差異はあるが、エクステリアも十分にスッキリしており、今後のFSDをはじめとするソフトウェア基盤として機能しているSDV(Software Defined Vehicle)だ。ハードウェアとしての価値だけでなく、ソフトウェアが進化し続けるプラットフォームであることを重視する思想がみて取れる。

スムーズかつ精密なFSD走行

FSD走行のルートは、アムステルダム市内から高速道路を使い郊外の街を通過して、アムステルダム中心部のダム広場周辺をドライブして戻るというものだった。スタート直後には、車両が新車でまだカメラのキャリブレーション(初期調整)が完了していないハプニングがあったが、30分ほど通常走行を続けてキャリブレーションを終わらせてからFSDを起動した。

これまでアメリカで2,000km以上FSDを使ってドライブしてきたし、今年の初めには韓国でも体験(関連記事)している。おおよその予想はできていたが、ヨーロッパ特有の石畳の道やラウンドアバウト(環状交差点)をいかにスムーズにこなすか、という点は実際に見てみたかった。

アムステルダム市内へ向かう途中の高速での走行から、これはアメリカと同じように全く問題ないと実感できた。その後市内に入るが、アムステルダムを訪れた方はご存知の通り、街中は中世の街並みがそのまま残り、細い一方通行の道や複雑に入り組んだ運河が交錯している。人混みで歩くだけでもひと苦労するほど混雑した場所もある。

ダム広場は、まさにその中心にある。現在は周囲に王宮、新教会、戦没者慰霊塔が立ち並ぶ街の心臓部で、観光客と地元民で溢れかえっている。日本で言えば、新宿や渋谷に相当するような繁華街だ。FSDがこのダム広場の裏手の路地へ入っていくのには驚いた。歩行者専用エリアに近い極めて狭い道で、ゆっくりと確実に進んでいく。Xにポストした動画で確認してみてほしい。

私は以前アムステルダムに住んでいたことがあるので、道の勝手はわかっているが、運転に慣れたドライバーでもここを通るのは神経を使う場所だし、初めて訪れたドライバーであれば、そもそもここを車で通っていいのかさえわからないだろう。FSDの素晴らしさを改めて実感した瞬間だ。

その後は市内を一周したが、信号のない場所で突然道路を横断する歩行者への対応も素晴らしく、アムステルダム特有の複雑な交通環境でのFSDの完成度の高さが十分に確認できた。

オランダはEV先進国のひとつ

オランダのEVに対する姿勢は、ノルウェーと同様に欧州の中でも際立って先進的だ。2010年代初頭にモデルSをタクシーとして採用するなど、EV先進国としての歩みは長い。2025年、オランダの新規乗用車登録におけるBEVのシェアはおよそ40.2%に達した。登録台数は15万6,139台で、前年比18.1%増だ。欧州全体のBEVシェアが約20%であることを考えると、その高さが際立つ。ヨーロッパ全体で見ると、2025年のBEV比率はノルウェーの97%、デンマークの68%に次ぐ水準となっている。

2026年1月から5月の販売ランキングも興味深い。1位と3位はトヨタとKiaのハイブリッド小型車であるが、それ以外はモデルYやKIAのEV3、KonaなどBEVモデルがランクインしている。

1. トヨタ Aygo X — 3,345台
2. テスラ Model Y — 2,699台
3. Kia Picanto — 2,637台
4. Kia EV3 — 2,328台
5. ヒョンデ Kona — 2,271台
※出典:オランダ自動車販売店・整備業協会(BOVAG)データ

街中を走る車を見ていると、そのデータを肌で感じるし、NIO、Zeekrといった中国メーカーのEVも至るところで走っている。滞在中に移動で使ったUberもEVが多かった。アムステルダムやロッテルダムなどオランダの大都市で2025年以降に登録されるタクシーやレンタカーはゼロエミッションのみに制限されているのが後押ししている。街中や一般的な駐車場に充電器が豊富に設置されているのも印象的だった。

今回あらためてFSDの国や地域を跨いだスケーラビリティの高さを感じた。そしてその実装をオランダが最初に受け入れたのも、まずはこの国のEV先進国としての素地があってこそだと考える。今後の欧州展開と、日本でのFSD解禁についても注目していきたい。

文/前田謙一郎x.com

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